誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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29.居心地の良い場所


 フュイアルさんとオーイレールに遊ばれながらオフィスに戻った僕は、もやもやした気持ちを持て余しながら、その日の仕事を終えた。

 あの盗賊たちのことは、フュイアルさんが警備隊に連絡し、全員拘束されたらしい。

 夜は宴会だ。

 誰も使ったことがない会議室で、わざわざシェフを呼んで、豪華な立食パーティーが始まる。

 みんな楽しそう。

 僕は、彼らの輪から離れて、部屋の隅でジュースのコップだけを持って椅子に座り、窓の外を眺めていた。

 こういう場は苦手。だけどフュイアルさんに無理矢理連れてこられちゃったし、隙を見て、仮眠室まで逃げよう。

 ボーッと夜空の星を眺めていたら、いきなり頭の上から、湯気を上げるお好み焼きの乗った皿が、鼻先まで降りてきた。

 見上げると、皿を持ったオーイレールが、包帯を巻いた顔で、こっちを見下ろしている。

「よう。トラシュ」
「…………傷は?」
「もう平気だ」
「寝てれば?」
「……俺のこと、心配してくれるのか?」
「してない……別に……い、いきなり倒れたりしたら……めんどくさいだけ」
「ふーん」
「な、なんだよっ……」
「本当にもう大丈夫だ! お前のおかげで命拾いした。ありがとな……」
「……別に……な、何度もお礼言うな!! キモいんだよっ……! 寄り道していたらお前がいたから、ついでで助けただけだし……放っておくつもりだったし、おまえの生死なんかどうでも……頭撫でるな!!」
「いい子いい子ー」

 くっそ!! そもそもこの頭を撫でるのも、フュイアルさんがするから、みんなが真似するんだ!!

 オーイレールは笑いながら、撫でるのをやめずに僕に皿を渡してくる。

「ほら、お好み焼き。お礼だ!! 食えっ!!」
「…………」

 苛立ちながらも、それを受け取ってしまう。きっと腹が減っているからだ。昼もフュイアルさんに追いかけ回されたから、何も食べていない。

 何度かやめろって言ったら、オーイレールは、僕の頭を撫でるのやめた。

 お腹すいたし……食べてもいいか。

 あつあつのお好み焼きの皿を受け取って立ち上がった僕を見て、オーイレールは首を傾げる。

「どこ行くんだ?」
「マヨネーズ、かけてくる」

 僕はあれが好きなんだ。

 だけど、それをとりにいく前に、立ち上がった僕の頭の上から、にゅっと、マヨネーズが降りてくる。

「ほら」
「ヴァルアテア…………」

 差し出されたそれを受け取って椅子に座ると、ヴァルアテアも、僕の隣に座ってくる。

「こんなところにいないで、向こうに行ってもっと食べろ。昼間もフューアに追い回されて食ってないだろう」
「…………いい。僕はここで。賑やかなの、苦手だから」
「それならとって来てやる。好きなものを言え」
「……お好み焼き、食べてからでいい……」

 なんでこいつら、僕に構うんだろう。フュイアルさんみたいだ。
 こんなふうに構ったって、何か得することがあるわけじゃないはずなのに。

 そして僕も、早く仮眠室に逃げればいいのに、なぜかここに残ってしまう。

 自分のことが分からなくなりそう。

 落ち着かないような気持ちのまま、お好み焼きにいっぱいマヨネーズをかけていたら、オーイレールが、今度は焼き鳥とフライドポテトを持ってくる。

「トーラシュー。鳥と芋、どっちがいい?」
「……鳥……っていうか、そんなに食べられない……」

 戸惑う僕に、ヴァルアテアは割り箸を渡してくる。

「トラシュ、ほら、箸」
「……ありがと……」
「嬉しいならもう少し嬉しそうにしろ」
「は!? う、嬉しくない!! 食べたくないけど食べるだけ!!」
「……食べたくないなら、食べなくていいんだぞ……」
「……お、お腹すいたから……食べる……」

 ……一体、何してるんだろう。僕。

 訳がわからないけど、最近、ここにいるのを心地いいって感じる。
 フュイアルさんがいるけど、あれと関わりさえしなければ、穏やかでいられる。

 僕はどうしちゃったんだ……

 不意に生まれた疑問を持て余し、お好み焼きを見つめていたら、隣に座ったヴァルアテアが、不思議そうに皿を覗き込んでくる。

「美味いのか? それは」
「うん……食べる?」
「いや。俺はいい」

 あっさり断ったそいつの後ろから、オーイレールが顔を出す。

「俺は食う! 半分くれよ!!」
「……やだ」
「なんでだよ!? ヴァルアテアはいいのに!」
「だって、全部食べられちゃいそうだから……」

 皿を遠ざけて、早速食べようとしたのに、僕の食欲を著しく削ぐ男が、パンパン手を叩きながら近づいてきた。

「はーい。俺のトラシュに勝手に手を出すなー」

 何が俺のトラシュだ!!

 笑顔で近づいて来たフュイアルさんに、オーイレールは「礼言ってただけだよー」と言って逃げていき、ヴァルアテアはため息をつく。

「あまり虐めるなよ」
「これは俺のだから」

 おかしな返事に、もう一度ため息をついて、ヴァルアテアはオーイレールの後について行ってしまう。

 フュイアルさんは、僕の隣に座った。なんなんだ、この男は。

「なんですか? 食欲なくなるんで、消えてください」
「トラシュ、寮できたよ」
「え……本当に!?」
「はい。鍵」

 フュイアルさんは、鍵を二つ取り出して、僕にそのうちの一つを渡してくる。

 で、残った鍵は自分のシャツのポケットに入れる。

 何やってるんだ、この人。

「あの、そっちの鍵もください」
「なんで?」
「それは僕の部屋の合鍵だからです」
「俺が持っておく」
「なんでですか!? 僕の部屋です!! 渡してください!!」
「だって俺、管理人だし、俺の部屋でもあるから」
「フュイアルさん、マンション住んでますよね? 寮、いらないですよね?」
「いるよ。ペットを飼うための、ペット部屋」
「ペットって何だよ!! フュイアルさんの部屋で、ペットなんか見たことない!!」
「えー。ほら、あー、猫とか? 犬? 子犬?」
「なんで僕見ながら言うんですか……フュイアルさんみたいな最低ドS魔族に生き物を飼うなんてできるもんか!! もういいから鍵よこせ!! キモい変態!!」
「もう決まったから。荷物も運ぶから。勝手に」
「勝手なことすんな!!! 絶対嫌だからな!! それなら寮いかない!!」
「じゃあずっと仮眠室住む? ここにも俺、四六時中いるけど」

 こいつ!!

 キレた僕が放った魔法の光が、フュイアルさんの持っている鍵に伸びる。

 またあっさり避けられて、フュイアルさんは鍵を持ったまま走って行く。

「せめてその合鍵だけでも破壊させろ! おい!!」

 フュイアルさんを追って、会議室の外に飛び出すと、後ろから魔法の光が僕を包んだ。

 しまった!!

 振り向いた時にはもう遅い。扉の影に隠れたフュイアルさんに、後ろから不意打ちをくらい、僕は、そのまま気絶してしまった。

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