誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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37.気持ち悪いくらい優しくて爽やかすぎる朝

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 何度も、優しい鳥の声が聞こえる。遠くでトントンと、包丁がまな板を叩く音がした。そのそばでは、グツグツとスープが煮えているようだ。

 窓からは、朝日が差し込んでいる。

 気持ち悪いくらい爽やかな朝、目を覚ました僕は、初めて見る少し大きなパジャマを着て、ベッドに横たわっていた。

「ふあ……?」

 まだ眠い。
 目を擦りながら起き上がる。
 なんだか体が重い。
 まだ疲れているのかな。

 起きた僕がいるのは、僕の部屋じゃない。

 ここはどこだ? 知らない部屋だ。だだっ広い部屋に、僕が寝ている大きなベッドがあって、窓からは珍しく、快晴の空が見える。いつも砂嵐ばかり起こっているのに。

 なんで僕、こんなところにいるんだ?

 ああ、そうか。悪い夢を見たんだ。

 きっとここは仮眠室で、僕はいつの間にか、ベッドで寝てしまっただけなんだ。

 無理矢理思い込もうとしたのに、キッチンからこっちの様子に気付いて近づいてくる男が、僕の拙い努力を台無しにする。

「トーラシュ。おはよう」

 にっこり笑いながら、朝食らしきものが乗ったトレイを持って近づいてくるのは、やっぱりフュイアルさん。
 その顔を見たら、昨日あったことの全てが、頭に蘇ってきた。

「朝ごはん……」

 そいつが言い終わる前に、僕は、魔法で巨大な剣を作り出し、そいつの顔目掛けて斬りかかった。

 けれどそいつは、僕の天井まで届きそうな剣の一撃を、魔法で作り出した小さな短剣一本で、あっさり受け止める。しかも、片手に持ったトレイの上のものを、一つも落とさずに。

「朝からどうしたのー? 寝ぼけた?」
「寝ぼけてるのはお前だ!! これ外せ!!」

 何度も剣を振りかぶり斬りかかる。僕の首には、まだ昨日の首輪がつけられたままだ。

 僕らの剣は何度も火花を散らし、僕の剣は全て受け止められ、挙句床から伸びてきた鎖に弾き飛ばされ、僕は、壁まで吹っ飛ばされた。

 倒れる僕に向かって、フュイアルさんの魔法の鎖が飛んでくる。

 今だ。

 練り続けた対策が、ついに役に立つ時が来たんだ。

 痛みに耐えて、僕は剣を握り直し、それに魔力を注いだ。すると剣はどろりと溶けて、飛んできた鎖を絡めとる。

 フュイアルさんが、珍しく動揺した顔を見せた。

 僕は、溶けた剣を爆発させ、短剣くらいの長さになった剣を握り、切り掛かった。

 勝った。

 今日こそ勝った。

 この男に。

 そう思ったのに、僕は背後から飛んできた鎖に捕まり、また壁に叩きつけられてしまう。

「いった……」

 口と頭から血が出ている。頭を打ったらしく、目がチカチカして、動けそうにない。

 僕が生み出した剣は、溶けた鎖と一緒に消え去り、部屋は何事もなかったかのように元に戻った。

 くっそ……また負けた。

 肩を落とす僕に、フュイアルさんは近づいてきて、手を差し出す。

「……朝から元気だね……よかったよかった」
「からかわないでください」

 そいつの手を弾いて、起き上がる。回復の魔法をかけられたのか、傷はすぐに塞がった。

 だけど、まだ体はフラフラ。起きた時から体がひどくだるかったし、まだ回復しきっていないんだ。
 そんなことも忘れるくらいの感情だけで切り掛かったけど、本当は、フュイアルさんと戦えるような状態じゃない。

 こんな奴の前で、弱みは見せたくないのに、まともに立てもしない。

 フラフラと床に膝をついていたら、フュイアルさんに抱き上げられてしまう。

「……やりすぎた?」
「……」
「……まだきついんだろ? もう少し、ベッドにいた方がいいよ」
「うるさい……余計な……お世話…………」

 ダメだ。もうまともに動けそうにない。

 ついに抵抗する力すら失い、僕はそのままフュイアルさんに抱っこされて、ベッドまで戻された。

「……ちょっとは勝ってました? 僕」
「……魔力回復してないのに、勇み足。元気になってからやり直しな」
「……全然ダメってことですか?」
「そんなことない。疲れ切った体で向かってきたにしては、よくやれてたよ」
「……」
「はい。コーヒー」
「……」

 警戒しながら、差し出されたマグカップを受け取る。フワッと優しい香りが湯気と一緒に頬にかかる。

 フュイアルさんは、いつもの笑顔に戻っていた。昨日見せた、寒気がするような恐ろしい雰囲気は消えている。

 じーっと、そいつから目を離さないようにしながら、コーヒーに口をつける。

 すると、フュイアルさんは嬉しそうに僕に聞いてきた。

「美味しい?」
「……まあ……少しは…………」

 なんでそんなこと聞くんだ? やけに嬉しそうだし、なんだか変だ。

 飲んでいたコーヒーを見下ろすと、ゾッとした。

「ま、まさか、またなんか入れたのか!?」
「入れてません。ていうか、入れたことない。ほら、俺も飲んでるだろ?」

 フュイアルさんは自分のマグカップを掲げて見せてくる。

 確かに……フュイアルさんも飲んでるなら、大丈夫か……
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