誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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38.一体この人はどういうつもりなんだ


 フュイアルさんは、ベッドのわきのテーブルに置いたトレイから、一つのマグカップを取って言った。

「こっちにあのミルクもあるけど、飲む?」
「いらない。死んでください」

 僕が断ると、フュイアルさんは残念そうにそれを下ろす。

 変態め。朝から何考えてるんだ。

 僕も、なんで毎回、こんな人の入れたコーヒーとか、なんだかんだ言って飲んじゃうんだろう。
 もしかして、何か変な魔法でもかけてあるんじゃないか?

 じーっとコーヒーを見下ろしていたら、フュイアルさんは、微笑んで言った。

「何もかけてないよ」
「え……?」
「また変な魔法かけたって思ってただろ?」
「な、なんでわかるんだよっ……!! さては、また魔法かけたな!!」
「だから、かけてないって。トラシュのこと、魔法で押さえつけるつもりだったら、とっくにしてる」
「……」

 確かに、悔しいけど、フュイアルさんの魔力は、僕を圧倒している。この人が本気になれば、僕に抵抗する手立てはない。

 フュイアルさんが本気なら、いつだって僕を犯せるし殺せる。だけど僕は生きているし、抱かれたことも、一応まだない。

 でも、昨日無理矢理フェラさせられたし、何度も口と手でイカされたし、こんなのやられたのと同じだ!!!

 いつか必ず勝つ。こんな奴、僕の前から消してやる!

「今日は、このベッドで寝てればいい。仕事も休んでいいよ」
「……そこまでは必要ないです……もう少し、休んだら……行きます…………」

 なに言ってるんだろう……僕。あんなところ行ったって、僕を監視してるフュイアルさんの手下がいるだけなのに。

「……あの…………」
「ん? なに?」
「……職場の奴ら……みんなフュイアルさんの犬なんですか?」
「……トラシュはどう思う?」
「僕は…………」
「……後で自分で聞きな」
「……」
「はい。あーん」

 そいつは、ベッドのわきに座って、スプーンですくったスープを、わざわざ僕の鼻先に持ってくる。

 一体、何なんだ。なんで、僕の世話なんか焼くんだ。

「やめてください。自分で食べます」
「強がらないの。本当は腕を上げるだけでも辛いくせに」
「……」

 お見通しか……くそ……悔しいけどその通りだ。

 昨日お好み焼き食べ損なったし、もう腹ぺこだ。

 だからって、こんな奴の出すものなんか……

 僕は、スプーンから顔を背けた。

 こんな奴の出すものなんか、口にしたくない。だけど、お腹は空いた。それに、いい匂いがする。
 何で毎回、こうなるんだ。
 この男の手を振り払って、スプーンを床に落としてやればいい。それなのに、僕はこいつから離れられない。

 じーっと耐えていたら、お腹が鳴る。

 ……スープくらい、いいか……

 腹が減ってたら、こいつに襲われても抵抗できない。

 僕は、スプーンを咥えた。

 よく煮込まれた、甘くて温かくて優しい味が口に広がっていく。

 陥落した僕に、その男は微笑んだ。

「美味しい?」
「……死にたくなるくらいまずいです」
「可愛くないねー。食べるくせに」
「嫌々です」

 そんなことを言いながら、僕の口は、二口目をもとめてねだるように開く。

 やれやれ、なんて言いながら、フュイアルさんはスープをすくった。

 その肩越しに、窓の外で砂嵐が起こっているのが見える。

 さっきまで晴れてたのに、また砂が吹き荒れてる。今日は職場に行くのも大変そう。

 ここは砂に囲まれた、しょっちゅう砂嵐が起こる荒れた土地。
 少し離れたところにある都には、美しい街並みが広がり、たくさんの人が豊かに暮らしている。
 そこから逃げてきた僕は、もうどこへも行きたくない。

「あの……フュイアルさん」
「ん? なに?」
「やっぱり自分で食べます……」

 スプーンを渡してもらおうと手を伸ばすけど、フュイアルさんは、それを引っ込めてしまう。

「だめ。トラシュは俺にあーんされてなさい」
「キモいです嫌です。スプーンよこせ!!」
「そんなに怒らないでよ。あーんくらいされてろ」
「嫌です!! 昨日散々僕を弄んだくせに……首輪も外せ!!」
「嫌。トラシュ、永遠に俺の性奴隷になったんだろ?」
「ざけんな!! 鞭で打って媚薬で脅して言わせただけじゃないか!! 誰がお前なんかっ!!」
「ふーん」

 笑ったフュイアルさんの周りに、光の粒が現れる。
 昨日の拷問を思い出した僕は、反射的に震え上がってしまう。

「ひっ!」
「トラシュって、気持ちいいもので虐めると、大人しくなるんだね」
「う、うるさい!! それしまえ!!」
「いいよ。トラシュの弱いところ、もういっぱい知ってるし、いい子でご飯食べるなら、しまってあげる」
「だ、誰がっ……!!」

 絶対にやだって言ってやろうとしたのに、光る粒がこっちに飛んでくると、恐怖で震え上がってしまう。

 媚薬が目の前でチラチラ揺れて、僕はベッドの上を這って逃げた。

 昨日、散々な目にあったんだ。もう二度と、あんなのごめんだ。

 逃げる僕の肌に、冷たい光がほんの少しだけ触れる。それだけで、怖くてたまらない。

「ひっ……や、やだっ……! 嫌だっ……わ、分かった!! や、やめろ……わ、わかったからっ……」
「それと、今日から、ここに住んでくれるんだろ?」
「す、住む!! 住みます!! 何でもするから!! しまって!」

 涙目になりながら頼み込むと、そいつは「いい子」と言って、やっと光る粒を消してくれた。

 くっそ……結局言いなりだ……いつか殺す!!

 決意する僕の前で、フュイアルさんは微笑んでスープをすくっている。

 一体この人、なんなんだ。僕をどうしたいんだ。
 この人からいつまで経っても離れられない自分のことまで分からなくなってきた。
 なんだか気持ち悪い。

 そこで、玄関の方からコンコンと音がした。誰かが玄関のドアをノックしているんだ。インターホンがあるのに。

「誰だよ……せっかくのご飯の時間を……」

 ぶつぶつ言いながら、フュイアルさんはスープを置いて、部屋を出ていく。

 僕も、ベッドの上にあった上着を羽織って、そいつの後について行った。

 ……別にこの人が何であっても、どういうつもりであっても、どうでもいいんだ。いつか必ず消してやる。

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