誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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74.抱き寄せて


 エイリョーゾたちの案内で、僕らは町外れの古いビルについた。廃ビルが並ぶあたりにあって、ぽつんとひとつだけ中から照明が漏れているビルだ。

 怯えたエイリョーゾに、空を飛んでいくと目立つかもと言われて、フュイアルさんは、ビルから少し離れたところに降りた。そして、抱っこしていた僕を、砂まみれの通りに下ろしてくれる。

「はい。到着」

 何が到着だ。僕が下ろせってどれだけ喚いても、下ろしてくれなかったくせに。なんでこんな奴に抱っこされて、ずっと飛んでこなきゃならないんだ。

「余計なことしないでください。僕、一人で飛べます」
「だめ。トラシュはまだ回復してないし、怪我もしてるんだから」
「怪我は治りました。フュイアルさんのせいで……っ!!」

 びっくりした。頬にまた、フュイアルさんが唇を近づけてきたから。
 途端に体が熱くなる。焼けそう。すぐに収まったけど、これ、さっきもされた気がする。

「フュイアルさん……今、何したんですか?」
「魔力を媚薬の魔法と一緒にプレゼントした。気持ちよかった?」
「よくない!! 二度とすんな!! 早く抜けよ!! いらないって言っただろ!!!」
「だめ。せっかくあげたんだから、大事にしなさい」
「いらない!!」

 どれだけ怒鳴っても、フュイアルさんはまるで聞いていない。さっさとエイリョーゾに教えられたビルの方に歩いて行ってしまう。

 逃すもんか!

 僕もフュイアルさんの後について走った。

「フュイアルさん!! 待ってください!」
「どうしたの? やっぱり、向こうまで抱えていこうか?」
「行くなキモい!! お前になんか連れて行かれたくない!! なんでそんなに僕の世話焼くんだよっ……! い、今までだって……ずっと、手加減してたくせに!!」
「俺相手にあそこまでやれるんだから、トラシュはもっと自信持っていいよ」
「なんですかそれ!! やっぱり馬鹿にしてるだろ!!」

 僕がフュイアルさんを追うと、肩に乗っていたエイリョーゾとチイラントもパタパタ羽ばたいてついてくる。

 チイラントが、僕のそばを飛びながら、呆れたように言った。

「ひどい溺愛ぶりだな……少なくとも、お前を殺さなくてよかった……」
「溺愛? あれが? 僕、からかわれてるんだけど?」
「……お前には分からないのか?」
「……何が?」
「いや、なんでもない。そうか……」

 なにが、そうか、なんだ。フュイアルさんは僕を嬲るのが楽しいだけだし、僕は怒っているのに!!

 ビルの前まで来て、フュイアルさんは、僕に振り向いた。

「トラシュは俺のそばにいてね」
「……フュイアルさんはどうするんですか?」

 僕が聞くと、フュイアルさんは、僕のそばを飛んでいたチイラントの羽を摘んで、にっこり笑った。

「これにでも乗っていこうか?」

 そう言って、フュイアルさんが魔法をかけると、チイラントの竜の体が大きくなる。けれどその体には鎖が巻かれていて、自由には動けないようだ。
 もがくチイラントの手綱を、フュイアルさんが握ると、チイラントは大人しくなって僕らの前にしゃがむ。
 その背中に乗ったフュイアルさんは、僕に手を差し出した。

「おいで。トラシュ」
「なんで僕がフュイアルさんと乗らなきゃならないんですか。僕は自分で飛んでいきます」

 僕の肩にしがみついたエイリョーゾが、ガタガタ震えながら頷いている。フュイアルさんの隣になんかいたら、何をされるか分からない。

 だけど、僕が拒否してフュイアルさんがうんって言ったことなんて、ほとんどない。

 フュイアルさんは僕に向かって鎖を飛ばして、僕をぐるぐる巻きにしてしまう。

「ちょっ……フュイアルさん!! 離せっっ!!」

 怒鳴っても、フュイアルさんは全く聞いてくれない。僕を縛る鎖を引いて、自分の隣まで引き寄せて、縛られて怒っている僕の肩を抱いた。

「トラシュは、ちゃんと俺のそばにいなさい」
「いるから……離してください!!」
「だめ」
「なんでですか!? 僕、ちゃんとそばにいるって言ったのに!!」
「だってトラシュ、すぐどこか行っちゃうし、俺がトラシュを縛りたいから」
「はああ!? 死ねよ!! 今すぐ死ねっっ!! 殺してやるから!!」

 本当にこんな奴、死ねばいいのに。

 こんなことされて、僕は腹を立てているんだ。
 それなのに、こんなふうに抱き寄せるところが、この男の嫌なところだ。
 どうしても、フュイアルさんが帰ってきて嬉しいって思っちゃうじゃないか。

 珍しく大人しくなる僕を、フュイアルさんは抱き寄せたまま、やっぱり今日は可愛いって言ってた。

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