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3.全力で頑張りましたが……ダメですか?
しおりを挟む少し静かにして欲しかっただけなのに、腕に縋り付いたことでひどく驚かせてしまったらしく、彼は声を上げるのをやめてくれない。
「なんなんだよっ……!! お前っ……! やんのか!?」
「ち、ち、ちがっ…………違うっ…………そ、そんなんじゃっ…………! あ、あああああのっ……す、すみませんっ……し、し、しずっ……か、にっ……」
「ああっっ!!?? 聞こえねーよっっ!! 何言ってんだっ! てめえっっ!!」
「ひっ……!」
カッとなったのか、その人は僕の胸ぐらを掴み上げる。
もう、今にも殴りつけられそう。
ど……どどど、どうしようっ…………このままじゃ、人が来る。
焦り始めた僕の耳に、大通りの方から不穏な声が聞こえた。
「こっちか? 喧嘩があったと言うのは?」
「領主様に報告しなくていいのか?」
そんなふうに話す、数人の男たちの声だ。
そして、狭い路地裏の向こうの大通りの方に微かに見えたのは、警備隊の制服を着た男たちが歩いていく姿。
まずい……街の警備隊が大通りをうろついている。そんなのがここに来たら、僕は拘束されるしかなくなる!
僕が呼び止めた人は、まだそのことに気づいていないようだ。
「あ、あの……け、警備隊がいますっ……」
「ああ!?? なんだって!!??」
その人はますます腹を立てたのか、僕に掴みかかって来そう。
なんで怒るの!? ど、どうしよう……逃げなきゃっ……! こんなところで捕まるわけにはいかない!
そう思って、大通りがあるのとは逆の方、路地裏の奥に向かう方に振り向くと…………そっちからも人が来た。
「おい……何をしている?」
ますますまずいぃぃーーーー……
警備隊がくるのとは別の方から歩いてくるのは、長身で長い黒色の髪の、真っ黒なローブを着た男。魔法使い風の格好をしていて、腰には剣を下げている。魔法をかけたものだろう。まるで、これから魔物との戦いに出向くかのような装備だ。けれど顔はフードで隠していて、なんだか威圧感がある。ローブの下には、いくつも魔物と戦う時に役に立つ装飾品を身につけているようだ。それも、貴族でないと手に入らないような上等なもの。
……これは、すごくまずい………………
貴族なら、僕の事情を知っている人が多い。バレたら拘束されるかもしれない。
に、逃げなきゃ…………警備隊にも貴族にも見つかる前に逃げなきゃ!
あ、だけど魔力を回復する魔法の薬……あれは欲しい! だって魔力を回復しておかないと、いざという時死ぬ。
それに、僕が話しかけた彼だって、警備隊が来たら困るみたいだ。彼にはまだ話も聞いてもらえてない。盗賊だと誤解されたままだし、落ち着いて後少し話せば、分かってもらえるかもしれない。落ち着いて話せば……それが一番難しいんだよな……
とにかくどこかに隠れなきゃっ……!
僕は、地面に手を当てる。この下に隠れてしまえば、さすがに誰もついてこない。
魔法を使い、結界を張り、地下に空間を作る。真四角の、まるで狭い檻のようなもの。結界の魔法の一つで、あまり長くはもたないけど今はこれで十分だ。
魔法で、その部屋に潜り込む。地下に僕一人分の檻を埋めたかのような部屋だ。そこに僕は、膝を抱えて座った。人が苦手な僕がよく逃げ場にする魔法で、好きな場所に小さな結界を張って、他人には気づかれない狭い空間を作ることができる。
真っ暗な中に小さくて微かな魔法の光を灯す。
まるで牢屋みたいだけど、僕にしてみれば、唯一の安心できる空間だ。
なんで……僕がこんな目にあってるんだろう……
今日も世界が滅亡に近づいているといいなあ……夜のまま世界が闇に包まれないかな……朝日が昇るんじゃなくて降ってこないかな……
だけど、ずっとこうしているわけにもいかない。
だって、いつもは僕しかいない僕だけの場所に、僕じゃない人がいる。
僕が一緒に狭い部屋に引き摺り込んだ人は、驚いて、周りを見渡していた。
「………………な、なんだ? ここは…………」
………………びっくりさせちゃったかな…………当然か……夜にいきなり街で声をかけられて、くらーい空間に引き摺り込まれて閉じ込められたら、大体の人はびっくりする。
……僕は一体何をしているんだ……申し訳なかったな…………こんな風に驚かせるつもりじゃなかったのに。
…………と、いうか…………僕、これ……かなり怪しいんじゃないかな…………
その人は僕に振り向いて、険しい声で言った。
「なんだ……? お前は…………? ど、どういうつもりだ…………!!」
「すみません…………へへっ……へ、へ……」
「だから何笑ってんだよ!! 何企んでんだ!!」
「……」
僕が全力で作り上げた、最高の友好的な笑顔だったのに……ダメだったのかな……
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