嫌われ続け虐げられた僕、敵対する人達と仲間になって反撃する! 人は苦手だけど……仲間なんてできるのか!? 溺愛も怖いし逃してくださいー……

迷路を跳ぶ狐

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24.まだ分からない

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 紹介。

 こんなに恐ろしいものが、この世にあるだろうか。そもそも、何で人って紹介するのか。それは、それに、紹介するべきところがあるからだ。紹介したいと思えるところがあるからだ。

 では、それがない場合はどうしたらいいのか。まるきり紹介したいと思えるところがなくて、紹介するべきところもなくて、できる限り知られたくないと思うところしかない時、何をどう紹介すればいいのか。

 答えは、まだ分からない。きっと答えがあるとすれば、そもそも紹介しない、だろう。

 そんな僕のことは、いつのまにか住み着いてしまった野生生物、くらいに言っといてください、と繰り返したが、ヴァルファトフィヴィス様はまるで聞いてない。

 何でこうなるんだ!!!!

 それに、城にはあまり人がいないと聞いていた。追放された少人数の魔法使いや騎士が、魔物との戦いを繰り広げていると。

 僕は、あまり人がいないと聞いて、多分ヴァルファトフィヴィス様と、あと数人くらいだといいなーーと思ってた。

 だけど、廊下を歩いてみれば、いっぱいいる!!

 廊下を掃除していた人が振り返り、大きな籠に洗濯物を入れていた人が振り返り、いくつもの魔法の武器を持った人が歩いている。

 こんなの聞いてない。

 ヴァルファトフィヴィス様と歩き出した僕は、すぐに後悔した。

「おはようございます!! 隊長! …………なんですか? それ」
「おはようございます! ヴァルファトフィヴィス様!! 今日も早いですね! …………あの……そちらの方は?」
「おはよーございますーーーー。きょーは変なの連れてますねーー。あ、隠れちゃった?」
「城主様! なんですか? それ?」

 城にいた人たちが、みんなヴァルファトフィヴィス様に挨拶をしてくる。そして、その背後をコソコソ歩く、怪しげなものに注目してくる。そのたびにいちいち隠れたいけど、僕は一応、彼の従者だ。勝手に一人だけ隠れるなんてできない。

 仕方なく、彼について背中を丸めて歩く。そうしたところで、廊下の真ん中を歩くこの人について歩けば、僕の姿は丸見え。なので、結局ますます怪しい人にしかならない。

 ろ、廊下の真ん中を歩くめちゃくちゃ目立つ人の後ろについて歩くなんて…………ひ、引き回しにされている気分。

 ……もう、泣きそう。

 だけどヴァルファトフィヴィス様は、僕の手を握り、みんなの前に突き出した。

「昨日街から連れてきた、ディストリウフィスだ。裏路地のゴミ箱の影で人を地下に引き摺り込んでいるところを連れてきた」

 それを聞いて、みんな驚いていた。「連れて来ないでください!! そんなものっっ!!」と言う人もいた。僕もそう思う。

 集まった人のうちの一人が「街から連れ去ってきたんですかー? ダメですよー?」なんて言っているけど、大丈夫なのか?
 それは、大きな魔法の杖を握った人で、多分竜族。背中に小さな羽がある、綺麗な人だ。長い金色の髪で、踊り子のような服を着ていた。彼に向かって、ヴァルファトフィヴィス様が、「ドルリギラルティ、連れ去っては来ていない」って言ってた。

「じゃあ、なんで連れてきたんですか?」

 聞かれて、ヴァルファトフィヴィス様は、わざわざ僕の肩を抱いた。

「俺の従者にする」
「え……? 従者?」

 みんなびっくりしてる。そして再び集まるみんなの視線。

 みんなが、じーーっと僕を見ている。

 ……なにこれ。こんなの、怖すぎる。

「あ、あ、あにょっっ…………!!」

 焦ったら変な声が出た……よろしくって言うはずだったのに。

「ほら、自己紹介しろ」

 ヴァルファトフィヴィス様に言われて、僕はますます真っ青。

「じっ…………こお!??」

 また変な声が出た。事故なら起こせますが、自己紹介は無理です。

 しかし、みんなが集まり僕を見つめるこの状況。嫌だとも言えずに前に出る。

「あっ……の!! ぼきゅっ…………!」

 落ち着け。

 自己紹介なら、ちゃんと考えていたじゃないか。そうだ。ちゃんと、考えていた。

 なんなら、この自己紹介で、もしかして打ち解けたりできないかなーーーー、なーーんて、微かな希望も持っていた!!

 今こそその時だ!!

「あの……ディストリウフィスです…………し、城では……城壁作ってました…………」

 すると、集まった人の一人が言った。

「城壁!? 何で城壁?」
「え、えっと……あの城の防御は、僕がやってきました……ぼっ……防御なら……できます……」

 あ、あれ……? だいぶ考えていた自己紹介と違う。王城を防御する仕事をしていましたって言うはずだったのに!!

 焦っても、もう遅い。

 みんなが僕に注目してしまっている。

 ど、どど、どうしよう……て、訂正しなくては!!

 焦る僕に、集まったうちの一人が言った。

「……え? そんな奴が、なんでここに……」

 その途端、ざわざわするみんな。

 しまった……

 そして、今度は別の一人が言う。

「王城の中でそんな仕事を任されるなんて……お前まさかっ……リークディーズト派の使者!??」
「ち、ちが!」

 焦ったけど、こんな時にばかり冷静になる僕の頭。

 違うって、本当にそう言えるのか? 本当に、違うのか? だって、確かにリークディーズト派に言われてきたし、利用されてるし、使者みたいなものじゃ……

「あ、あの…………リークディーズト派では……ありましぇえん…………」







 殺してください。

 頭を抱えたくなる。

 あの後ヴァルファトフィヴィス様が、リークディーズト派じゃないし、城壁を作る仕事をしていただけで、逃げてきたようなものだって説明してくれたけど、そもそも僕をここに送り込んだのは、リークディーズト派の貴族。それだけで、僕に向けられる視線は狂気の沙汰と言っていいほど冷たーーーーい。

 リークディーズトの間諜だ、ヴァルファトフィヴィス様を騙しているんだ、みたいに思われていそうだ。

 だから嫌いなんだよーー!! 自己紹介!! 成功した覚えがないんだから!!

 もう泣きそうだよ。僕。

 そうして、なんとか自己紹介を終えた僕は、一人で城壁の調査を始めた。ヴァルファトフィヴィス様は、昼まで仕事があるらしい。

 城の外に出た僕は、城壁の調査から始めたけど、城壁はボロボロ。城の前以外、ほとんど壊れている。なんだこれ。最初から作り直すか? それとも、違う方法をとるか……

 そんなことを考えながら、とにかく自己紹介の件を忘れようとした。
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