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43.そんなこと、僕、言いましたか?
しおりを挟むヴァルファトフィヴィス様は「会わせない」って言ってくれたけど、会わせないと言ったところで、公爵は納得しない。ヴァルファトフィヴィス様だって、多分引き下がらない。
なんとかしなきゃ……
公爵に何を言われるかは分かっている。余計なことをするな、これは反逆だ、だろう。
それからヴァルファトフィヴィス様には、しばらく謹慎か、リュジスエト様の城に顔を出さないように命令が下って、僕には、しばらく城から出るな、もしくは……ヴァルファトフィヴィス様の城には返してもらえずに、幽閉先を変えられてしまうか……最悪、拘束されてしまうかもしれない。もしもそうなったら今度は処刑だろう。
僕はヴァルファトフィヴィス様のそばにいたいし、ヴァルファトフィヴィス様が、そんな目に遭うのも、我慢できない。
……そもそも……
なんで僕らがそんな目に遭わなきゃならないんだ?
あの公爵が権勢をふるう限り、こんなことが起こる。これ以上我慢する必要なんて、もうないはずだっ……!
だけど……あの公爵を止められる人なんて、いるのか? 自分以外は全部見下しているような、恐ろしい人だからな……
公爵に意見できて、しかもその意見を公爵が聞き入れる可能性がある人って言ったら……王族くらいか? リークディーズト殿下とか……
「あ、あのっ…………リュジスエト様……」
「どうした? ディストリウフィス」
「…………その夜会……リークディーズト殿下は、いらっしゃるんですか?」
「ああ……公爵と一緒に……」
……それなら、殿下に接触するチャンスはあるかも。
だけど……リークディーズト殿下が、僕の言うことなんか、聞くかーー? ……絶対聞かない。
そもそも、ずっとヴァルファトフィヴィス様の城にいて忘れそうになってたけど、王都にいる時、僕の言うことなんて、誰も聞いてくれなかったからなー……
公爵よりは殿下の方が聞いてくれそうだけど……いや、ダメだ。とても聞いてくれるとは思えない。
だけど、今この事態をなんとかできるとしたら、それはリークディーズト殿下くらいだろう。
リークディーズト殿下が帰るといえば、みんな王都に帰るはず……
夜会まで、もう時間がない。このまま公爵の思い通りになるくらいなら、できることは全部やる!!
「あ、あのっ……ヴァルファトフィヴィス様!」
「どうした?」
「あのっ……! そのっ……す、少し、聞いていただきたいことがあるんですっ…………」
「作戦か?」
「え!? えっと…………は、はい……あ、えっと…………う、うまくいくか……わからないのですが……」
「話してみろ」
言われて微笑んでもらえると、僕の緊張も解けていく。
話して……いいんだっ……!
「あ、あのっ……! 公爵と一緒に、リークディーズト殿下もいらっしゃるんですよね?! だっ……だったら、殿下に話を聞いていただくのはどうでしょう?」
「…………リークディーズトに?」
「は、はいっっ!! 殿下も、ここが国の魔物討伐にとって重要な場所であることをっ……よく理解しておられるはずっ……です!! ここの魔物を、自分たちだけでなんとかできるとも思わないはずだし……ここは、確かに良質の素材も多く取れますが、どっ……同時に恐ろしい数の魔物がいますっ……! ヴァルファトフィヴィス様や領主様が抑えて来たから、これまでやってこれたんです!!!! それならっ……話し方によっては、今のこの状態を維持することに賛成してくれるかもしれません!! ここは……ヴァルファトフィヴィス様たちが守らなくなったら、きっと…………きっと魔物で溢れてしまいます!!」
「なるほどな……」
そう言って、ヴァルファトフィヴィス様は頷いてくれた。
賛成してもらえたっ…………!?
だけど、そう思ったのも束の間、ヴァルファトフィヴィス様は、なんだかゾッとするような顔でニヤリと笑う。
「つまり、リークディーズトを人質にとって脅し、公爵を追い返そうということか」
「…………へ??」
そんなこと……僕、言ったかなーー……??
な……なんだか、僕が話したことと、かけ離れているような気がするんだけどー…………脅す? 冗談だよね??
気が立ってるから怖いこと言っちゃっただけだよね!!??
それでも、ヴァルファトフィヴィス様は楽しそう。なんだか最近、こんな顔をしているヴァルファトフィヴィス様のことを怖いと思うようになってきた……
「いいアイデアだ。ディストリウフィス」
「え!?? えっと…………あの、でも……ま、待ってください……ぼ、僕の言ったことと、な、なんか……違うような気がしてーー…………お、脅すなんて……僕、そんなこと言ってません……よね?」
「少し変えただけだ」
「かっ……変えないでください!! あ、ああああの!! あ、相手は王子殿下でっ……それを拘束して脅迫なんて、絶対にダメです!!」
「拘束か。それもいいな」
「よくないです!! だ、ダメです! 相手は王族でっ…………ダメです!!」
クレットウォーテも領主様も真っ青になっていった。
「ヴァルファトフィヴィス!! ど、どう言うつもりですか!! こ、ここで王族を拘束などっ……!」
「クレットウォーテの言うとおりだ。ヴァルファトフィヴィス……この城でそんなことはやめてくれ……王家の方々を迎えるだけでも何日も前から準備をするほどなのに……脅迫だなんて……」
けれど、ヴァルファトフィヴィス様はどちらの言うことも、聞く気はないみたいだ。
「少し怖い思いでもすれば、もう来なくなるんじゃないか?」
「冗談じゃないっ……!!」
ついに怒鳴る領主様。
「お、おいっ……! 本気で王子を手にかける気ではないだろうな!!」
「手にかけるとは言っていない」
「今にもかけそうだ!! 大事な従者を狙われて腹を立てる気持ちは分かるっ……しかし……」
彼が話している間にも、ヴァルファトフィヴィス様は、僕を引き寄せる。
「放っておけば、あの連中はこれに手を出す。今のうちに食い殺しておこう…………な?」
そう言って、彼は僕の頬に舌を這わす。それが僕の頬をずるりと舐めて、僕はビクッと震えた。
「ひっ……!!」
「これは……俺の獲物だ…………図々しく後から近づいて来た奴らになど、くれてやるものか…………おい、クレットウォーテ、キャラトイッジを呼んでこい」
言われて、クレットウォーテは真っ青になって答える。
「き、来ません……領主様!! やはりこの男は捕縛するべきです!! 領主様の城で、お、王族の拘束などっ……ヴァルファトフィヴィス! 考え直せ!! 考え直すんだ!!」
クレットウォーテが叫ぶけど、ヴァルファトフィヴィス様はどこ吹く風。
「お前たちも、あの連中には嫌気が差していただろう? ちょうどいい機会だ。二度と、ここには来たくないと思わせてやろう」
……ヴァルファトフィヴィス様が怖い顔をしている……このままだと、本当に王子の首をとってしまいかねない。
僕は、恐る恐る口を開いた。
「あ、あのっ……ま、待ってください。ヴァルファトフィヴィス様…………ぼ、僕がっ……リークディーズト殿下と話をします」
「俺がする」
「し、しないでください!! じゃなくて、あの……ヴァルファトフィヴィス様は、公爵閣下とお話をしていただけますか?」
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