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8.先に話しておけば
しおりを挟む陛下を傷つけようとした封印の魔法の話は、陛下の腹心とも言われるイールヴィルイ様の前で軽はずみにするべきではない。
けれど、フィレスレア様のことですから、わざとやっているのでしょう。彼女はこう見えて策略家だ。
カッとなってしまいたいところですが、ぐっと抑えなければ。感情的になって怒鳴れば、使者たちの信頼を得ることはできなくなってしまう。
「……閣下。私はそんなつもり、毛頭ございません。どうか信じていただけませんか?」
怒りと恐怖を抑えて言うが、今度はダイティーイ様が口を挟む。
「陛下に刃を向けるようなものの言うことを、信じることなどできるものか!」
「あら……ダイティーイ様……その理論ですと……一番最初に刃を向けたのは私ではなくフィレスレア様、さらにそれを用意したのは貴方ということになりますが……よろしいのですか?」
「な、なんだとっ……!!?? 私に責任があるというのか!! な、な、なんて無礼なっ……!」
早速うろたえ始めるダイティーイ様。彼はとても単純で扱いやすいのですが……
私の物言いは、今度はデシリー様の神経を逆撫でしてしまったよう。
この城で一番恐ろしいデシリー様とは衝突したくないのですが、彼女は私を刺し殺してしまいそうな目をして口を開いた。
「リリヴァリルフィラン……あなたが全ての元凶なのに、城の中を自由に動き回ろうと言うのかしら?」
「はい。デシリー様」
「……本当に図々しい……」
「そんなに反対するなんて、デシリー様には、私が封印の魔法の杖を探すと困ることでもあるのでしょうか?」
「…………」
ふわりと冷たい風が吹いた。デシリー様の魔力でしょう。
優秀な魔法使いとして名高いデシリー様は、その有り余る魔力で、こうして脅しの代わりに魔法を纏うことがよくある。
まずい……怒らせすぎてしまったかしら……
そして、醜い水掛論を始めてしまったことは大きなミスだったらしい。閣下の私たちに向けられる目が、ひどく冷たくなってしまっている。
もう色々失敗している……このままでは、やはり私が元凶ということに!? 最悪断罪!? それは嫌っ……!
肝を冷やす私に、閣下は振り向く。
「リリヴァリルフィラン……俺と……ともに来たいのか?」
「え? ええ……使者の方々に、ぜひ協力させていただきたいのです」
「……そうか……」
「……」
「……」
閣下は黙ってしまう。やっぱりよほど私に不信感を持っているのでしょう。
シーンと静まり返る中、デシリー様が口を開く。
「イールヴィルイ様……その女が今、なぜそんなことを言うか、お分かりにならないわけではないでしょう? その女は、陛下のお命を狙っているのです。その女の横暴な振る舞いが、フィレスレアとトレイトライルを追い詰めたのです。それは周知の事実であり、その女のその態度を見れば、あなたにもお分かりになるはずです」
ニヤリと笑いながら、閣下に近づいていくデシリー様。
するとついに閣下は、デシリー様を突き飛ばしてしまった。
「寄るな。奸臣め」
「奸臣!? 私が!? なぜ私が!? 陛下の周りにいる魔法使いは、私が送って差し上げたのに……恩知らずめっ!」
……ますます事態が悪化していく……
デシリー様は、この城では最も恐ろしい方。
城に来てすぐに敵に回しては、城内で動きにくくなるのに。先に話しておけばよかった。
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