【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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16*イールヴィルイ視点*可愛い

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 すると、そんな様子を見ていたトルティールスが俺を睨みつける。

「イールヴィルイ。来てすぐにトラブルは困ります。我々は陛下を傷つけた逆賊を排除するために来たことを忘れないでください」
「分かっている……」
「それならなぜ、リリヴァリルフィランをここに連れてきたのです? フォーフィイ家の方を抑えるまでは、決して手を出さないと、これは国王陛下との約束ですよね?」
「あのままではリリヴァリルフィランは殺されていた。任務は必ず果たす」
「そう言いますが、フォーフィイ家もアクルーニズ家も、敵に回せば面倒な一族です。本当に任務を達成できるのですか?」
「人一人を犠牲にして任務を果たせば、陛下の顔に泥を塗る。生贄を黙認して目的を果たしても、それになんの意味がある?」
「……」

 しばらく睨み合う。

 トルティールスの言うことはもっともで、俺の行動は勝手なものだった。

 だが、ここは引けない。

 俺はここに、彼女を迎えに来たのだから。

 息苦しいようなぶつかり合いの中、先に折れたのはトルティールス。

 戦場では剣一つで空に届くほどの魔物を切り倒す彼は、今は驚くほど柔和に微笑んだ。

「その覚悟があるなら、僕は口を出すことはしません」
「トルティールス……すまない…………」
「全くです。むしろ、止めに入るのが遅いんですよ」
「……すまん」

 分かっている。トルティールスは、譲ってくれたのだ。俺のわがままだと知りながら。

「それで、あなたはなぜそんな顔をしているのですか?」
「そんな? どんな顔だ?」
「妙に顔色が悪いですよ?」
「…………」
「何かあったのですか?」
「……」
「リリヴァリルフィランに嫌われましたか?」
「……っ!」

 トルティールスの言うとおりだ。

 リリヴァリルフィランは今にも泣きそうな目で、俺を見上げていた。無理に連れてきた俺に怯えて、腹を立てているのだろう。

 俺に燭台を向けていた時も震えていた。

 俺と話す声も、俺を見上げるその目も、ひどく怯えている。何も言わない俺にこんなところに連れてこられたのだから、当然だろう。

 抱き上げた時も真っ青な顔をしていた。

 あの部屋でなぶりものになるリリヴァリルフィランをすぐに抱き上げたかったのに、俺は何もできなかった。

 激しく後悔するのに、どうやっても先ほどの彼女の様子ばかりを思い出す。

 可愛い。

 陛下は俺をここへ遣る気はなかったようだが、邪魔をする使者候補とやらを次々に黙らせてでもここへ来てよかった。
 俺の前にリリヴァリルフィランがいて、その声が聞けるなんて。
 むしろ、俺以外の男が、あんなリリヴァリルフィランを見たら、焼き尽くしてしまうかもしれない。

 ただそれだけでも腹が立つのに、この城の連中のあれはなんだ。見ているだけで、気が狂いそうだった。

「陛下……」
『どうした?』
「この城に魔物が来たということにして、朝日が昇るまでに殺戮用の使い魔を放ってはどうでしょう?」
『ダメだぞ! 絶対にダメだからな!! さっき俺の顔がどうとか言ってなかったか!??』
「ですが……」
『そんなことを言うより、さっさと竜を見つけろ! そうすれば、思いを伝えることもできる!』

 陛下が言うのを聞いて、背後でトルティールスがため息をつく。

「無理でしょう。拷問男だなんて怖い噂ばかり立つ割に、あなたは酷く奥手ですから」
「奥手? 俺がか?」
「はい。自覚、ないんですか? リリヴァリルフィラン様に対しても、彼女の前に立つと緊張しているのが丸分かりですし、こちら側の内情を話すわけにはいかないにしても、もう少し優しく声をかけてあげればよかったのに。彼女に見ていいと言われて真っ赤になって硬直したあなたなんて、痛々しくて見ていられませんでしたよ」
「見ていたのか!?」
「バルコニーから見えちゃっただけです。嫌なら、リリヴァリルフィランに背を向けてバルコニーの方なんて見てないで、彼女に振り向いてあげればよかったのに」
「……」

 そんなことができるわけがない。彼女は、ひどく怯えていたのに。

 俺が「そんなことはできない」と答えると、どこで話を聞いていたのか、竜の姿のエウィトモートが飛んでくる。

「俺が色々教えてあげようかー?」
「いらん。失せろ」
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