【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
56 / 96

56.それは隠蔽というものです

しおりを挟む

 回収した短剣を、すぐに使者の方にお渡ししたいのだけど、一部始終を聞いてますます顔色が悪くなっているジレスフォーズ様が、私に近づいてくる。

「リリヴァリルフィラン……その短剣をどうするつもりだ……」
「使者の方々にお渡しします。エウィトモート様が封印の魔法の杖を探しておられるので」
「や、やめろっ……やめてくれ……り、リリヴァリルフィランっ……あなたは分かっていない! それがここにあったことが、どれだけ問題なことなのかっ……! と、とりあえず……そうだ! しまおう! 見つからないところにしまい込むんだ!!」
「……ジレスフォーズ様……何をおっしゃっていますの……?」
「そ、それがあることがバレたら、ますます騒ぎが大きくなるっ……! その時に責任を追求されるのは私だっ……分かるだろ? リリヴァリルフィラン……」
「……しまい込んだとしても、ここにこれがあることに変わりはありません……」
「イールヴィルイ様にどう説明するんだ!! そもそもそれは、アクルーニズ家とも、国王陛下を狙った封印の魔法の杖とも関係ないのだろう? だったらなかったことにして何が悪い? そうだ! 見なかったことにしよう。ここにそんなものはない!」
「ジレスフォーズ様……それは、隠蔽というものですわ……」
「いっ……隠蔽!? わ、私がいつ隠蔽した!? 私はそんなものがあると争いが起こるから、こう言っているだけだ! そんなものがここから出てきた理由を、私はどう説明すればいい?」
「……ありのままをご説明なさればいいのではないでしょうか……」
「ありのまま!?? 王家にはそれでいいかもしれないが、その後どうする!? アクルーニズ家にどう説明する? フォーフィイ家には……ロネリーヤ家にどう話せと言うんだ……」

 それも、そのまま話せばいいと思いますが……彼らにそんなことを言えば、そんなものは知らない、うちは関係ないと言い合いになることは、火を見るより明らか。
 アクルーニズ家には魔物退治を支援してもらっているし、それと手を組むフォーフィイ家や、彼らとは対立していても次期領主の婚約者でもあるロネリーヤ家にも気を使わなければならない……その心労は分かるけど、隠蔽なんてすれば、今度は王家に反逆を疑われてしまう。

「ジレスフォーズ様……落ち着いてください。あの……使者の方々は、どちらに?」
「…………イールヴィルイ様とトルティールス様は、デシリーに呼ばれて、向こうの応接室に行かれた。し、しかし、立ち入らないように言われている! ドアには使者の方々が魔法の鍵をかけているし、だ、誰も中には入れないっ……い、行ってはならないぞっ……!」

 そう言って、ジレスフォーズ様は私を睨みつける。そんなお顔をなさらずとも、私に魔法の鍵は開けられない。短剣と、トレイトライル様が持っていたもののことを、急いで報告したいのに。

「でしたら、エウィトモート様はどちらに?」
「リリヴァリルフィラン!」

 まるで屍のような顔をして近づいてくるジレスフォーズ様から、私はさっと遠ざかった。また押さえ込まれるのはごめんです。

 けれど彼は構わずに続ける。

「そ、それは、なかったことにしよう!! 誰もそんなものは見ていない。こんなことは、起こらなかったんだ。そうすれば、揉めることもない。頼むよ……リリヴァリルフィラン……そうだ! あなたが王城に連れて行かれても、厳罰なんてことにならないように配慮するよう嘆願しておくから」
「早速私に罪をなすりつけるおつもりではありませんか!! まだ私のせいであの封印の魔法の杖が作られたと言い張るおつもりですか!?」
「そ、それが一番波風立たないかなーって……」

 ……それだと私は王城で断罪されるのですが、そのことを波風立たない、と言いましたね……

 私はジレスフォーズ様に、にっこり微笑んだ。

「……分かりましたわ……ジレスフォーズ様。では私は、王城に行ったら、短剣は隠蔽するように言われた、隠蔽はジレスフォーズ様が主導したと、素直に吐かせていただきます!」
「そ、そんなっ……リリヴァリルフィランっ……! あんまりだ!」
「それはあなたの方です!! あなたが権力に目が眩んで私を押さえ込むところを、キディックも見ていましたからね!」

 逆にこちらから迫りながら言うと、ジレスフォーズ様は私を止めるのをやめてくれた。

 そんな顔をなさらなくても、少し脅しただけで、隠蔽の話をするつもりなんてない。今も、小さなキディックに飛び掛かられて驚いているジレスフォーズ様に、封印の魔法を隠し通すようなことができるとも思えないから。

「キディック! ジレスフォーズ様をからかわないでください!!」

 私が声をかけると、キディックは不満そうに振り返る。

「えー。ついさっきこの男に押さえ込まれてたのに?」
「ついさっき私を見捨てた方が、何を言っているのです?」
「助けてほしいかって聞いたじゃん」
「あれは聞くとは言いません! だいたい、あなたに部屋から出るなと命じたのは私です。それなのに、あなたに助けを求めるのは筋違いではありませんか!」
「…………ふーーん……強情だなー。そんなんだと、あの怖い男に振られるよ?」
「余計なお世話ですっっっっ!!!!」

 つい、声を荒らげてしまった。その場にいた皆様が、私に振り向いてポカンとするくらい。

 なぜこんなにむきになっているのかしら……恥ずかしい……

「と、とにかく、私はこれで失礼します! エウィトモート様を探さなくては……」
「待ってよ。リリヴァリルフィラン! 僕も行く!」
「……止めてもお部屋には帰ってくださらないのですよね?」
「うん!」
「……城の中で暴れられても困ります。どうぞ一緒にいらしてください」
「え? いいの?」
「もちろんですわ。代わりに、悪戯はやめてくださいね」
「僕、そんなことしないよ? しないしない。それで? エウィトモートがどこにいるのかわかるの?」
「エウィトモート様は封印の魔法の杖を探していますわ。けれど、それが隠せそうな場所は、もう探しているはず………………」

 少し考えて、私はキディックを連れて、急ぎ歩き出した。

「行きましょう! キディック!! エウィトモート様を探しに!」
「うんっ!!」

 そう元気に答えた彼は、馬くらいの大きさになって私を背中に乗せてくれた。

「き、キディック??」
「いいじゃん。乗って行ってよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...