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3.違う!
しおりを挟む城に侵入し、会議に突っ込んだ挙句、修復途中だった貴族たちの魔法の道具まで破壊した俺は、拘束されて地下牢に連れてこられた。
壁に取り付けられた枷で手首を拘束されて、足も鎖で壁に繋がれて、もう絶望するしかない。
なんでこうなるんだ……! 城に侵入するつもりなんてなかったのに……!!
城に許可なく侵入したなんて、ただじゃ済まない。
これから俺、どうなるんだろう……みんなは無事に逃げたかな……
このままだと、俺は多分死刑だ。あの時のベルブラテス、すっげー怒ってたからな……
くっそ……面倒なことになった……ここから逃げたら脱獄犯になる。こんなつもりじゃなかったのに……
だが、仲間のことは解放してもらわなきゃ困る。俺は、あいつらに約束しているんだ。
これからどうするか、ずっと考えていたら、鉄格子の方から、声がした。
「何を考えている? そこのクズ」
顔を上げると、ベルブラテスが牢の前に立っている。よりにもよってこいつが来るとは……
あの会議の場で、俺は、こいつが長年修復してきた魔法の道具を踏んで台無しにしたらしいし、絶対俺を一番殺したいと思っているはずだ。
ベルブラテスの背後には、さっきあの会議室にいたガレイウディスと、他に数人の魔法使いたちが控えていた。
どいつもこいつも、ひどくキレているみたいだ。
相手は次期領主とも言われている男。俺が魔法の失敗で突っ込んだのは領主の城で、俺は奴隷。
……死んだな。俺。
ベルブラテスは、俺を睨んで言った。
「……早速脱獄を企んでいるのか?」
「…………違います!」
「領主の城の重要な会議の場に現れて、一体なんの真似だ?」
…………重要な会議……? それでこんなに警戒されているのか……
ますます最悪だ……
集まった貴族たちは、みんなゾッとしそうな目で俺を睨んでいるし、中には、すでに杖の先に魔法の光を灯している奴もいる。いつでも俺の頭を吹っ飛ばせるようにだろう。
自分の置かれた状況を思い知って、ますます頭を抱えたくなる。
落ち着かないと……下手なことを言ったら何をされるか分からない。
「あ、あのっ……! ベルブラテス様! お……俺は、悪いことなんか考えていません! 会議に突っ込んだのも、ただの事故です!」
「そんな話を誰が信じる? 城の結界を破って、限られた者しか出席できない会議の場に突っ込んできた賊の言うことを」
「それはその……申し訳ございませんでした……でも……ほ、本当に、侵入するつもりはなかったんです!」
「この城の結界を破れる者は、城でも、俺と一部の魔法使いだけだ。それなのに、たった一人で無謀に飛び込んできた男に、なぜ結界が破ることができた?」
「それは俺に言われても…………あの時は本当に夢中だったから……」
「……夢中だからといって破れる結界ではないはずだが…………それで? 貴様はわざわざ、城の結界の脆弱性を身をもって指摘しにきてくれたのか?」
「違います……俺は、アンガゲル様の従者です」
「アンガゲル……? 勇者、アンガゲルか?」
「……」
こいつも、アンガゲルを勇者って呼ぶんだな……人を売って、なぶりものにするあのクズを。
アンガゲルは、王都でも名高い貴族の魔法使いの家系で、以前、この辺りが魔物や魔獣で溢れていた時に、ここに援軍としてきてくれた魔法使いだ。アンガゲルの援軍がなかったら、街は魔獣に奪われていたかもしれない。
領主はアンガゲルにいたく感謝して、今も街を守るための魔法使いとして特別な地位を与えているらしい。だから今でもあいつは勇者って呼ばれているんだ。
ベルブラテスは、俺を睨んで言った。
「なぜあれの従者がここにいる? 魔法の道具を盗みにきたのか?」
「違う!! 俺は……」
言いかけたところで、地下牢に別の男が入ってきて、俺の言葉を遮った。
「ベルブラテス様のおっしゃる通りですよ。その男は罪人です。ベルブラテス様」
そう言って部屋に入ってきたのは、煌びやかな姿をした男で、美しい杖を握っていた。
なんでここにこいつがいるんだよ…………
それは、俺が知っている男だった。
だが、二度と会いたくなかった男でもある。
俺と一緒に魔法を学んだことがある貴族の男、コンフィクルだ。
俺も一応、男爵家の生まれで、優秀な魔法使いだった一族のもとには、何人もの魔法使いが魔法を学びにきた。コンフィクルはそのうちの一人。俺も魔法を学んでいたが、いつまで経っても結界の魔法以外は苦手で、毎日無能と罵られた挙句、勘当され売られた。
金貨と引き換えに俺を売った家のことなんか、俺はもう忘れたし、コンフィクルのことだって、もう頭から消えていた。
そのままでいたかったのに……
なんでこんなところで会うんだよっ……
ずっと俺を役立たずだと嘲っていたコンフィクルは、今は、魔物から街を守るために設けられた砦で、隊長をしているはずだ。二度と会うこともなかったはずなのにっ……!!
集まった貴族たちが、コンフィクルに道を開ける。誰もが、彼を恐れているように見えた。砦の隊長といえば、かなりの地位だからな……
コンフィクルは、繋がれた俺を眺めて、不気味な顔をして笑う。
「……まさか、こんなところで会えるなんて思わなかったぞ……イノゲズ」
「……」
そんなの、俺だってそうだよ……
俺は、そいつから顔を背けて俯いた。
こいつとは、出来るだけ話したくない。魔法を学んでいる間、散々馬鹿にされていたし、こいつの顔を見ると、あのクソみてーな家のことまで思い出す。
けれど、俺のそんな思いなんてお構いなしに、コンフィクルはニヤニヤ笑いながら話し出す。
「……お前、アンガゲルのところで結界を張っていたんじゃなかったのか?」
「……」
「やはり、そこでもやっていけていなかったのか……お前だもんな。分かるよ」
「それはっ……!」
枷をされた手首が痛んで、顔を歪める俺を、そいつはニヤリと笑って見つめていた。
「所詮、お前は無能なんだよ」
そうコンフィクルは俺を嘲笑して、ベルブラテスに振り向いた。
「ベルブラテス様。この男は、昔から訳の分からない役立たずだったのです。以前にも、私の屋敷に使い魔を放って、屋敷を破壊しようとしたことがある下衆です。今回もどうせ、あなたの魔法の道具を盗みにきたのでしょう」
「違うっ……!」
叫ぶけど、誰も俺の話は聞いてくれない。
だけど、本当に違う。こいつの屋敷で使い魔が暴れた時、コンフィクルは、俺が魔法に失敗したせいだと言って騒いだ。だけど俺はそんなことしてない。それでも、普段から無能扱いされていた俺の言うことなんて誰も聞いてくれずに、俺はコンフィクルの屋敷に使い魔を放って屋敷を襲った犯人にされた。あの時は、仕置きと称してひどい目に遭わされたんだ。
そんなことがあったせいで、俺は貴族も、貴族が集まる場所も、苦手なんだ。
けれど、ベルブラテスは、じっと俺を見つめて口を開いた。
「せっかく突っ込んできたんだ。言い残したことがあるなら、聞いてやろう」
「…………え?」
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