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15.俺も連れて行け!
しおりを挟むベルブラテスは、俺に背を向けて言った。
「そろそろ会議の時間だ。ガレイウディス、後を頼んだぞ」
言われて、ガレイウディスは心配そうに答える。
「……お待ちください……ベルブラテス様。やはり、お一人では危険です。俺も……」
「貴様はそこで、俺の婚約者に仕事を教えてやれ」
「し、しかしっ……そのように毎回置いていかれては、護衛の意味がありません! 俺がなぜいつもベルブラテス様を追い回しているか、ご存じないわけではないですよね!??」
「……」
ガレイウディスに言い返されて、ベルブラテスは、驚いているようだった。
普段ベルブラテスのそばにいられない、みたいなこと言ってたし、こうして反論したのも、初めてなのかもしれない。
俺は、ベルブラテスに振り向いて言った。
「……なんでわざわざ護衛のガレイウディスを置いていくんですか?」
「……貴様はガレイウディスと、街を守る結界を張っていろ」
「……だから、なんでですか? ガレイウディスは、ベルブラテス様の護衛ですよね? だったらベルブラテス様のそばにいるべきじゃないんですか?」
「今日の会議の場に、護衛は連れていけない。そういう決まりになっている」
「なんで護衛すらだめなんですか? そんなに秘密の会議なんですか?」
「魔法の研究に関するものだ。アンガゲルもくる」
「アンガゲルがっ……!?」
嘘だろっ……なんであいつが来るんだよっ!!
その名前を聞いて、ソルディートとデトリットも顔色を変える。
「なぜ……あの男まで……」
「ぼ、僕らのことを連れ戻しにきたんだっ……!」
ほとんど泣き叫ぶように言うデトリットに、ベルブラテスは静かに言った。
「落ち着け。この会議は、以前から決まっていたものだ。アンガゲルの出席も、以前から決まっていた。しかし、そこでは必ず、お前たちの件を口に出すだろう」
だろうな……
俺は、ベルブラテスを睨みつけて言った。
「…………あいつ、俺らを返せって言い出すでしょうね……」
「もちろんこちらは、お前を渡してやる気などないが」
「…………」
「だから、ガレイウディスを置いていく。魔法の使えないお前が無防備でいると、アンガゲルに狙われる」
「待ってください!! か、会議にはアンガゲルも来るんですよね!? あいつ、ベルブラテス様が領主になることに反対してるんじゃないんですか!? そんなのっ……ベルブラテス様だって、危険です!」
「……俺のことが心配なのか?」
「心配です。当たり前ですよね?」
「…………相変わらず、奇妙な心配をする奴だ……」
「なんであなたを心配することが奇妙なんですか!! 俺、ベルブラテス様に感謝してるって言いましたよね!??」
「…………」
しばらく面食らったような顔をしていたベルブラテスは、またなぜか俺の頭を撫で始める。なんなんだよ!
「それ、やめろって言っただろ! 真面目に聞けよ!!」
「……喚くな。まじめに聞いている。俺の心配など不要だ。貴様はここで、街に結界を張れ。アンガゲルはコンフィクルたちと組んで、この領地の実権を握るつもりでいる。だからこそ、領地にとって重要な意味を持つ街の結界を掌握しようとしているんだ。分かったら貴様はここで、結界を張っていろ」
「……お前はどうするんだよ……」
「今日の会議は警備も厳重だ。会議が行われる部屋には、部屋の周囲全体を覆う結界が、何重にも張られることになっている。出席者にのみ配られる鍵がなくては、中に入れない」
「……なんだそれ…………そんなのますます危険だろ!! 結界の中なんて、何より強固な密室だ! 暗殺するなら、こんなチャンス他にないっ……! だいたい、昨日に比べて警備が厳重すぎるだろ!! 何か企んでるんじゃねーのか!?」
「昨日イノゲズが突っ込んできたから、結界を何重にも張ることになったんだ」
「ぐっ…………」
そんなの、俺のせいじゃないか。俺が、あの会議室に結界を張る口実を与えてしまったんだ。ベルブラテスは、それを承知で行くのか?
それならますます、一人では行かせられない。
「じゃあ、俺のせいじゃねーか……」
すると、ガレイウディスは首を横に振って言った。
「いいや。そんなことはない」
「え?」
「結界の中には、呼ばれた貴族しか入れない。そして、部屋の中には魔法を打ち消す結界が張られるはずだ。中にいる連中に襲われることより、外からの攻撃の方が恐ろしい」
「……そうなのか?」
「ああ。あの会議室の警備は、もっと厳重にするべきだと、俺はずっと訴えてきた。あれでは、簡単に暗殺できてしまう。昨日突っ込んできたのはお前だったが、爆弾でも良かったんだ」
「…………」
「爆弾でも、ベルブラテス様なら簡単に弾き飛ばしただろうが。お前でよかった」
「……そうか? 会議、台無しにしたんだぞ」
「あれくらいなら、よくあることだ」
「…………いや……ねーだろ……」
「魔法の道具を踏み潰されたことには困ったがな」
「……だから……それは…………すみませんでした…………つーか、じゃあ結界があるから、その会議中は安全なのか?」
「…………いいや。安全だとは言い難い。あんなものは話し合いじゃない。誰もがベルブラテス様の命を狙っている。ベルブラテス様が領主になることに反対する連中は、領主様がベルブラテス様に領主の座を譲る前に殺したいんだ。だから俺は、会議にベルブラテス様をお一人で行かせるわけにはいかないんだ」
なんだよ……それ……相変わらずあいつら、クズ貴族だ。
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