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37.俺だって
しおりを挟むそれから、城の使い魔は、俺とあの暗殺者でほとんど片付けて、すぐに城は静けさを取り戻した。
あの暗殺者、思った通りすごく腕が良くて、俺が捕まえた使い魔の処分は、ほとんどあいつがやってくれた。
破壊した数では、暗殺者の方がずっと多くて、多く取り押さえた方が勝ちって条件じゃなかったら、俺の方が絶対に負けていた。
使い魔を取り押さえる勝負が終わり、暗殺者は、アンガゲルに言われてベルブラテスを狙ったことを話してくれた。アンガゲルが、コンフィクルや他の協力者たちのことも話して、日が暮れる頃には、彼らは王都で断罪されることが決まった。
ベルブラテスは、この争いにもすぐに決着をつけるって言ってたけど、本当にこんなに早く終わるなんて、思っていなかった。
それから数日、俺はデトリットたちと一緒に、街の結界を張ったりして忙しくて、ベルブラテスに会うこともなかった。
婚約のこと、考えておけって言われたけど……
何の返事もできないままだ。
本当は、ベルブラテスに会いに行きたかったけど、会ってもなんて言えばいいのか分からないから、出来るだけ考えないようにしていた。
そしたら、それが悪かったらしく、ベルブラテスは、城の庭で結界を張っていた俺のところに突然やってきて、俺を連れて行った。
「お、おいっ……! 離せよ!!」
ベルブラテスに手を繋がれて、そいつの部屋に通された俺は、早速ベルブラテスに、ベッドに押し倒されていた。何かと思えば、俺から「婚約する」の一言が欲しいらしい。
だけど、部屋に入るなりいきなり押し倒されて、俺はそれどころじゃない。好きなやつにこんなことされたら、もう何も考えられない。
「な、何すんだよ!!」
「何? イノゲズが約束を守らないからだろう?」
「俺は守っただろ!!」
もがくけど、こいつに押し倒された時点で、すでに勝敗は決している。だってこいつに見下ろされたら、もう力なんか入らない。久しぶりにこうやって見上げることができて、嬉しくて仕方ないんだから。
「やっ……約束ならっ……ちゃんと守っただろ!! 暗殺者との勝負には勝ったじゃないか!」
こいつとの約束なら守った。コンフィクルもアンガゲルも拘束された。
暗殺者のウォロンテズことは、キユルトが気に入ってしまい、ブローデスの反対を押し退けて連れて行ってしまった。従者にするって言ってたから、少し不安だったけど、ウォロンテズの方も、少し嬉しそうに見えたから、多分大丈夫だろう。
むしろ、心配なのはガレイウディスの方で、「ベルブラテス様の命を狙った暗殺者をいつまでも城に置いておくなんて!」と腹を立てていた。
だけど、ウォロンテズの方には、もう殺意はない。俺だってベルブラテスのそばにいて守る気でいるし、心配いらないだろう。
だから、俺はちゃんと約束を守ったんだ。なのになんで、いきなりベッドに押し倒されなきゃならないんだよ!!
「は、離せって……俺は…………」
言いかけて、ベルブラテスを見上げる。そしたらすぐに心臓が高鳴って、おかしくなりそうだった。
俺だって、もう婚約したいと思ってるのにっ……!!
無防備に見上げていた俺は、いきなり強く抱き寄せられて、口付けられた。
何すんだよっ……
叫ぼうとしても、キスされてたらそれもできない。
前にした、掠めるようなキスじゃない。唇を咥えられたかと思えば、何度も甘噛みされて、驚いて力が抜けたところに、そいつの舌が奥まで入ってくる。中まで舌を押し込まれて、苦しいくらいだ。振り払おうとするのに、相手の力の方が圧倒的に強くて、びくともしない。
何なんだよっ……! 何でいきなりこんなことするんだ!? 俺が何かしたか!? つーか苦しいっっ!!
「……んっ……っ!!」
抵抗しようと暴れても、唇の奥まで無理矢理舌を入れられて、息ができない。だけど、抵抗しようとすればするほど俺はベッドに押さえつけられた。俺を組み敷く男に強く握られた手首まで熱くなりそうだ。
こいつ……力強すぎだ。そんなことしなくたって、俺は逃げたりしないのに。
やっとそいつの唇が離れたかと思えば、そいつは、俺をじっと見下ろして言った。
「婚約すると言うまでやめないからな」
「は!?? な、なんだよそれっ……お、お前っ……俺のこと、好きなのかよ!?」
「好きだ」
「はあ!!??」
慌てた俺は、すでに体に力が入らなくなっていて、されるがままに、また口付けられてしまう。
「うっ……!」
あんまり連続でキスされても困るんだが……だって、さっき息ができなくなったばかりだ。
それなのに、そいつはそんなことお構いなしに、何度も俺の口の奥まで、自らの舌で触れてくる。
そんなことすら嬉しい俺は、どうかしてる。
くすぐったいような気もするのに、中を丁寧に舌で弄られて、背筋がゾクゾクしてきた。
なんなんだ……無理矢理組み敷かれて、悔しいのに、痺れるように力が抜ける。口内に触れられて、もっとされたくなってきた。
口元から、ひどくいやらしい音がする。唇も丁寧に味わわれて、力の抜けた俺の口の端から、ダラダラと唾液が流れていく。もう、体が麻痺したみたいに動かなくなっていた。
ぐったりしている俺を、ベルブラテスがニヤリと笑って見下ろしている。
「婚約……するか?」
「うっ…………」
こんな奴の言いなりになってたまるかっ……!! 俺だって、いつかこいつのところに行って、俺からもう一回婚約したいって言いたかったのに。
それなのに、ベルブラテスは、ずっと俺を見下ろしていて、目が合うだけで言いなりになってしまいそう。
せめてもの抵抗で、俺はずっと、そいつから顔を背けていた。
「馬鹿っ……!! なんなんだよっ……お、俺だって、お前に告白したかったんだからな!!」
「……告白?」
「そうだよ!! 好きだって言いたかったんだ! バーカ! そ、それなのに…………」
苦しくて、潤んだ目で、俺は、ベルブラテスを見上げた。
そしたら、そいつはひどく驚いた顔で、俺を見下ろしている。
こいつ、こんなことしておきながら、俺が好きなことにも全然気づいてなかったのか!!?? ふざけんなよ!!
「お、俺だって……お前に告白したかったんだからな!! 俺だって、お前のことっ……好きなんだからなーーーー!!」
叫んで、そいつのことを振り払おうとしたけど、そいつはもう、俺を離す気はないらしい。
「すぐに、婚約パーティーを開くぞ」
「は!? ひ、開かねーよ!!」
暴れても、簡単に押さえつけられてしまう。その顔を見ていたら、今度は俺の方が我慢できなくなって、今度は俺からキスをした。
そんなことをしていたら、部屋のドアをどんどんと激しく叩く音がする。もう、音だけで分かる。ガレイウディスだろ。
ベルブラテスもそう思ったみたいで、そいつの名前を呼びながら、ドアを開く。
「何の用だ……ガレイウディス」
けれど、彼がドアを開けると、飛び込んできたのは、ウォロンテズだった。
「お前っ……!」
俺は、慌てて跳ね起きて、ベルブラテスに駆け寄った。またベルブラテスを狙ってきたのかと思ったんだ。
だけどそいつは、俺の方に向かって走ってきたかと思えば、俺の背後に隠れてしまう。
「匿え」
「は!??」
「匿え。頭のおかしな男が追ってくる」
「あ、頭のおかしな男?」
俺は訳がわからなくて聞き返すのに、ベルブラテスにはそれが誰なのかすぐに分かったらしく、ため息をついて答えた。
「キユルトか?」
ウォロンテズは、すぐに頷いた。こっちが心配になりそうなくらい、体が震えているが、大丈夫か?
「あいつ、なんなんだ……い、いきなり妙な薬が塗られた短剣を突きつけてきたぞ!」
「それくらい、キユルトはいつもする」
平然と答えるベルブラテス。
ウォロンテズは、「ひっ……!」と、小さな声で悲鳴をあげていた。こいつが怯えるくらいだ。よほど恐ろしいことをされたんだろう。
だが、慣れた様子でベルブラテスは彼を追い出すように、しっしと手を振った。
「キユルトは少なくともお前を殺しはしない。分かったら、あいつのところに帰れ」
「お、おい! 待てよ!!」
俺は、慌ててウォロンテズの前に立って、ベルブラテスを止めた。
「これだけ怯えてるんだ。しばらくここで匿ってもいいじゃないか」
「…………無駄だ。もう来ている」
ベルブラテスは呆れたように言って、俺の方に振り向く。いつのまにか、俺の背後にはキユルトが立っていた。
「うわあっっ!!」
驚いて飛び退く俺とウォロンテズだけど、キユルトはすぐにウォロンテズに飛びついていく。
「見つけた! 心配したよー! いきなりいなくなるから!」
「お前が俺を殺そうとしたんだろ!! 離せ!!」
「えー。その、ずっと切ってなさそうな髪を切ろうとしただけだよ? 君の顔が見えないし」
そう言って、キユルトは笑っているが、ウォロンテズの方は、すっかり怯えてしまっている。
確かに、ウォロンテズの長い髪、ウォロンテズ自身も多分邪魔なんだろう。たまに鬱陶しそうにしていたから。多分、自分のことに構うことを教えられていないし、許可もされていなかったから、自分で髪を切るって言う発想ができないんだ。
キユルトが切ってあげたら、もしかしたら喜ぶかもしれないけど、それでも、いきなり短剣を突きつけられたら、絶対に怖い。
怯えるウォロンテズは、俺の後ろに隠れてしまう。
それを見て、キユルトは俺に近づいてきた。
「……君にばっかり懐いて、ずるいなー」
「……そ、そんなことはない……」
戸惑う俺の前に、ベルブラテスが立って、彼を止めてくれた。
「こいつに近づくな。ウォロンテズのことは、傷つけないと約束するなら返してやる」
「僕は何もしないよ?」
そう言って、キユルトは微笑むけど、ウォロンテズはすっかり怖がってしまっているし……しばらくここで匿った方がいいな。
そう考え始めた時、またドアが激しくノックされた。
「ベルブラテス様!! ご無事ですか!?」
「キユルト様!! どうせこちらでしょう!! ウォロンテズを追い回すのはやめてくださいと申し上げたではありませんか!!」
今度こそ、ガレイウディスと、ブローデスも来たらしい。
叫ぶ彼らの声を聞いて、ベルブラテスは肩をすくめた。
「しょうがないな……これが終わったら、婚約するぞ」
ベルブラテスに言われて、俺も頷いた。
その時は、絶対に今度は俺から婚約してくださいって言う!
ドアに近づいていくベルブラテスに、俺も駆け寄る。するとベルブラテスは俺を見下ろしていて、その顔を見ていたら、またキスしたくなってしまった。
*陥れられ蔑まれた俺は、暴虐な冷酷貴族に拘束された。鎖に繋がれ婚約を迫られたが、断固拒否してやる!*完
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