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6.そんなことにすら言い訳が必要で
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僕は確かに、結界の魔法の道具を管理していたけど、それはこの辺りだけだったし、他にも結界の魔法が得意な奴はいる。特に、王都や魔法の研究が盛んな都市に行けば、僕より腕が良くて名が通った奴がたくさんいるはずだ。
それなのに、わざわざ僕のところに来るなんて、一体、どういうことだ?
そう思ったけど、その頃の殿下は、王都の貴族たちには嫌気が差していて、彼らと古くから付き合いのある貴族の魔法使いのことも、信用しないようになっていたらしい。
それでわざわざ王都からはずっと離れた国の外れにぽつんとある屋敷に住む僕のところに来たようだ。
そんな話を聞いたら、協力しないとは言えなかった。
何しろ、僕も王都の魔法使いと揉め事を起こしてつまみ出されたからなーー…………
だけど、殿下はとにかく無愛想。たまに口を開いたかと思えば、恐ろしいことしか言わない王子だった。
それでも、僕らを馬鹿にするようなことは言わなかったし、結界の魔法の道具に対する扱いも丁寧で、僕はなんとなく、悪い奴ではないんだろうと思った。
僕らの屋敷には、他にも貴族たちが結界の魔法のことで訪れることがあったけど、どいつもこいつも、王都から追い出された公爵家の役立たずの僕を馬鹿にしていく。
そんなんだから、僕も普通に言い返し、無礼な奴だ! なんて、しょっちゅう言われてた。
無礼で悪いか! そっちがまず無礼だろう!!
そんなわけで、僕だって初対面で無礼なことするから、殿下が少しくらい僕を無視しても、あんまり気にならなかった。
侮蔑や敵意を向けられているのではないことは、分かっていたから。
だから、彼が来る時はいつも、僕が一方的に挨拶をして、殿下に無視されて、仕事を命じられて、従者の方から細かい説明を受ける。
殿下から返事が返ってくることはずーっとなかった。
さすがにちょっと寂しい…………
ちょっとくらい返事してくれてもいいだろ。ただの挨拶なんだし。
最初はたまに、なんなんだ、こいつはって思ってたけど、よーく考えてみたら、相手は王族! 僕にいちいち挨拶をする義務もないか。
それに、僕にしてみれば、僕を馬鹿にして蔑まないだけで、いい奴だ。僕と一緒に結界の魔法の道具を管理していた使用人たちも、殿下を悪く言うことはなかった。
そしてある日、あいつは僕らの屋敷に土産を持って来た。
「代金の代わり」
そう一言だけ言われて、逃げるようにそいつは僕の屋敷を出て行った。
何言ってるんだって思った。
だって、必要な代金ならすでにもらっている。
箱を開けてみたら、中には高価な魔法の薬が並んでいた。
そんなものもらえるか!!
びっくりした僕だけど、僕が箱を開けてびっくりしてる間に、殿下はすでに魔法で飛んで行ってしまっていた。
逃げ足が早すぎるんだ、殿下は。
だから、殿下の従者の方に返した。こんな貴重なものいただけません、そもそも、代金ならすでにいただけませんと言って。
だけど、従者の方はそれを受け取ってくれなかった。「それは代金などではなく、ここのおかげで結界を維持できているので、お礼として持ってきたものです。殿下がお一人で必死に悩んで決められたものですので、どうかお納めください」と言われてしまった。
それならそうと言ってくれればいいのに。びっくりして、お礼を言えなかったじゃないか。
なんでそんなこと言うんだと思ったけど、たぶん、僕らのところに土産を持ってくる言い訳だったんだろう。
きっと、僕らに対するただのお礼を持ってくるのにも言い訳をしてしまいたくなるんだ。
そう思ったら、渡されたものが、ひどく有難いものに感じた。
それから、殿下はいつも、お土産を持ってきてくれるようになった。大体はここでは手に入らない魔法の薬や道具で、パンや菓子、果物なんかがついていることもあった。
ありがとうございます! って言ったら、初めて僕に振り向いた。
殿下がそんな風に僕に振り向くことは初めてで、それに僕はドキッとした。初めて殿下が僕の方を見て緊張したのと、これまで一切返事が返ってこなかった人がこっちを見てくれて嬉しいのと、いろんな感情が混じって、王子の前に立ってそれだけ緊張したのは初めてだった。
けれど、何か言ってくれるのかと思えば、殿下がすぐに、「君らに渡そうなんて思ってない!」って言って僕に背を向けるから、噴き出してしまいそうになった。
だって、どれだけ下手くそな言い訳だよ。
僕らにじゃないなら、なんでここにあるんですか? ……そんな風に言い返す寸前で口を閉じた。
だって、そんなことを聞いたところで、なんの意味もない。きっと殿下は、知らないって言うんだろう。もしかしたら、もう二度と僕とは話してくれなくなってしまうかもしれない。
だから、とりあえずお礼だけ言うことにした。
殿下は王子なんだし、きっとやりたくてもできないことは多いはずだ。ここにお土産を持ってくることだって、簡単なことのように思えて、難しいことだったんだろう。
僕、王都でめちゃくちゃ嫌われてるしなーー……
それなのに、ここにそんなものを持ってきてくれたんだ。
魔法の薬をもらって、こんなに嬉しいのは初めてで、しばらくそれを見下ろしてニヤニヤしていたら、屋敷のみんなに変な顔をされた。何してるんですかーって。そんなに魔法の薬、好きでしたかって言われて、慌てて「なんでもない!」って答えた。
それなのに、わざわざ僕のところに来るなんて、一体、どういうことだ?
そう思ったけど、その頃の殿下は、王都の貴族たちには嫌気が差していて、彼らと古くから付き合いのある貴族の魔法使いのことも、信用しないようになっていたらしい。
それでわざわざ王都からはずっと離れた国の外れにぽつんとある屋敷に住む僕のところに来たようだ。
そんな話を聞いたら、協力しないとは言えなかった。
何しろ、僕も王都の魔法使いと揉め事を起こしてつまみ出されたからなーー…………
だけど、殿下はとにかく無愛想。たまに口を開いたかと思えば、恐ろしいことしか言わない王子だった。
それでも、僕らを馬鹿にするようなことは言わなかったし、結界の魔法の道具に対する扱いも丁寧で、僕はなんとなく、悪い奴ではないんだろうと思った。
僕らの屋敷には、他にも貴族たちが結界の魔法のことで訪れることがあったけど、どいつもこいつも、王都から追い出された公爵家の役立たずの僕を馬鹿にしていく。
そんなんだから、僕も普通に言い返し、無礼な奴だ! なんて、しょっちゅう言われてた。
無礼で悪いか! そっちがまず無礼だろう!!
そんなわけで、僕だって初対面で無礼なことするから、殿下が少しくらい僕を無視しても、あんまり気にならなかった。
侮蔑や敵意を向けられているのではないことは、分かっていたから。
だから、彼が来る時はいつも、僕が一方的に挨拶をして、殿下に無視されて、仕事を命じられて、従者の方から細かい説明を受ける。
殿下から返事が返ってくることはずーっとなかった。
さすがにちょっと寂しい…………
ちょっとくらい返事してくれてもいいだろ。ただの挨拶なんだし。
最初はたまに、なんなんだ、こいつはって思ってたけど、よーく考えてみたら、相手は王族! 僕にいちいち挨拶をする義務もないか。
それに、僕にしてみれば、僕を馬鹿にして蔑まないだけで、いい奴だ。僕と一緒に結界の魔法の道具を管理していた使用人たちも、殿下を悪く言うことはなかった。
そしてある日、あいつは僕らの屋敷に土産を持って来た。
「代金の代わり」
そう一言だけ言われて、逃げるようにそいつは僕の屋敷を出て行った。
何言ってるんだって思った。
だって、必要な代金ならすでにもらっている。
箱を開けてみたら、中には高価な魔法の薬が並んでいた。
そんなものもらえるか!!
びっくりした僕だけど、僕が箱を開けてびっくりしてる間に、殿下はすでに魔法で飛んで行ってしまっていた。
逃げ足が早すぎるんだ、殿下は。
だから、殿下の従者の方に返した。こんな貴重なものいただけません、そもそも、代金ならすでにいただけませんと言って。
だけど、従者の方はそれを受け取ってくれなかった。「それは代金などではなく、ここのおかげで結界を維持できているので、お礼として持ってきたものです。殿下がお一人で必死に悩んで決められたものですので、どうかお納めください」と言われてしまった。
それならそうと言ってくれればいいのに。びっくりして、お礼を言えなかったじゃないか。
なんでそんなこと言うんだと思ったけど、たぶん、僕らのところに土産を持ってくる言い訳だったんだろう。
きっと、僕らに対するただのお礼を持ってくるのにも言い訳をしてしまいたくなるんだ。
そう思ったら、渡されたものが、ひどく有難いものに感じた。
それから、殿下はいつも、お土産を持ってきてくれるようになった。大体はここでは手に入らない魔法の薬や道具で、パンや菓子、果物なんかがついていることもあった。
ありがとうございます! って言ったら、初めて僕に振り向いた。
殿下がそんな風に僕に振り向くことは初めてで、それに僕はドキッとした。初めて殿下が僕の方を見て緊張したのと、これまで一切返事が返ってこなかった人がこっちを見てくれて嬉しいのと、いろんな感情が混じって、王子の前に立ってそれだけ緊張したのは初めてだった。
けれど、何か言ってくれるのかと思えば、殿下がすぐに、「君らに渡そうなんて思ってない!」って言って僕に背を向けるから、噴き出してしまいそうになった。
だって、どれだけ下手くそな言い訳だよ。
僕らにじゃないなら、なんでここにあるんですか? ……そんな風に言い返す寸前で口を閉じた。
だって、そんなことを聞いたところで、なんの意味もない。きっと殿下は、知らないって言うんだろう。もしかしたら、もう二度と僕とは話してくれなくなってしまうかもしれない。
だから、とりあえずお礼だけ言うことにした。
殿下は王子なんだし、きっとやりたくてもできないことは多いはずだ。ここにお土産を持ってくることだって、簡単なことのように思えて、難しいことだったんだろう。
僕、王都でめちゃくちゃ嫌われてるしなーー……
それなのに、ここにそんなものを持ってきてくれたんだ。
魔法の薬をもらって、こんなに嬉しいのは初めてで、しばらくそれを見下ろしてニヤニヤしていたら、屋敷のみんなに変な顔をされた。何してるんですかーって。そんなに魔法の薬、好きでしたかって言われて、慌てて「なんでもない!」って答えた。
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