6 / 33
6.そんなことにすら言い訳が必要で
しおりを挟む
僕は確かに、結界の魔法の道具を管理していたけど、それはこの辺りだけだったし、他にも結界の魔法が得意な奴はいる。特に、王都や魔法の研究が盛んな都市に行けば、僕より腕が良くて名が通った奴がたくさんいるはずだ。
それなのに、わざわざ僕のところに来るなんて、一体、どういうことだ?
そう思ったけど、その頃の殿下は、王都の貴族たちには嫌気が差していて、彼らと古くから付き合いのある貴族の魔法使いのことも、信用しないようになっていたらしい。
それでわざわざ王都からはずっと離れた国の外れにぽつんとある屋敷に住む僕のところに来たようだ。
そんな話を聞いたら、協力しないとは言えなかった。
何しろ、僕も王都の魔法使いと揉め事を起こしてつまみ出されたからなーー…………
だけど、殿下はとにかく無愛想。たまに口を開いたかと思えば、恐ろしいことしか言わない王子だった。
それでも、僕らを馬鹿にするようなことは言わなかったし、結界の魔法の道具に対する扱いも丁寧で、僕はなんとなく、悪い奴ではないんだろうと思った。
僕らの屋敷には、他にも貴族たちが結界の魔法のことで訪れることがあったけど、どいつもこいつも、王都から追い出された公爵家の役立たずの僕を馬鹿にしていく。
そんなんだから、僕も普通に言い返し、無礼な奴だ! なんて、しょっちゅう言われてた。
無礼で悪いか! そっちがまず無礼だろう!!
そんなわけで、僕だって初対面で無礼なことするから、殿下が少しくらい僕を無視しても、あんまり気にならなかった。
侮蔑や敵意を向けられているのではないことは、分かっていたから。
だから、彼が来る時はいつも、僕が一方的に挨拶をして、殿下に無視されて、仕事を命じられて、従者の方から細かい説明を受ける。
殿下から返事が返ってくることはずーっとなかった。
さすがにちょっと寂しい…………
ちょっとくらい返事してくれてもいいだろ。ただの挨拶なんだし。
最初はたまに、なんなんだ、こいつはって思ってたけど、よーく考えてみたら、相手は王族! 僕にいちいち挨拶をする義務もないか。
それに、僕にしてみれば、僕を馬鹿にして蔑まないだけで、いい奴だ。僕と一緒に結界の魔法の道具を管理していた使用人たちも、殿下を悪く言うことはなかった。
そしてある日、あいつは僕らの屋敷に土産を持って来た。
「代金の代わり」
そう一言だけ言われて、逃げるようにそいつは僕の屋敷を出て行った。
何言ってるんだって思った。
だって、必要な代金ならすでにもらっている。
箱を開けてみたら、中には高価な魔法の薬が並んでいた。
そんなものもらえるか!!
びっくりした僕だけど、僕が箱を開けてびっくりしてる間に、殿下はすでに魔法で飛んで行ってしまっていた。
逃げ足が早すぎるんだ、殿下は。
だから、殿下の従者の方に返した。こんな貴重なものいただけません、そもそも、代金ならすでにいただけませんと言って。
だけど、従者の方はそれを受け取ってくれなかった。「それは代金などではなく、ここのおかげで結界を維持できているので、お礼として持ってきたものです。殿下がお一人で必死に悩んで決められたものですので、どうかお納めください」と言われてしまった。
それならそうと言ってくれればいいのに。びっくりして、お礼を言えなかったじゃないか。
なんでそんなこと言うんだと思ったけど、たぶん、僕らのところに土産を持ってくる言い訳だったんだろう。
きっと、僕らに対するただのお礼を持ってくるのにも言い訳をしてしまいたくなるんだ。
そう思ったら、渡されたものが、ひどく有難いものに感じた。
それから、殿下はいつも、お土産を持ってきてくれるようになった。大体はここでは手に入らない魔法の薬や道具で、パンや菓子、果物なんかがついていることもあった。
ありがとうございます! って言ったら、初めて僕に振り向いた。
殿下がそんな風に僕に振り向くことは初めてで、それに僕はドキッとした。初めて殿下が僕の方を見て緊張したのと、これまで一切返事が返ってこなかった人がこっちを見てくれて嬉しいのと、いろんな感情が混じって、王子の前に立ってそれだけ緊張したのは初めてだった。
けれど、何か言ってくれるのかと思えば、殿下がすぐに、「君らに渡そうなんて思ってない!」って言って僕に背を向けるから、噴き出してしまいそうになった。
だって、どれだけ下手くそな言い訳だよ。
僕らにじゃないなら、なんでここにあるんですか? ……そんな風に言い返す寸前で口を閉じた。
だって、そんなことを聞いたところで、なんの意味もない。きっと殿下は、知らないって言うんだろう。もしかしたら、もう二度と僕とは話してくれなくなってしまうかもしれない。
だから、とりあえずお礼だけ言うことにした。
殿下は王子なんだし、きっとやりたくてもできないことは多いはずだ。ここにお土産を持ってくることだって、簡単なことのように思えて、難しいことだったんだろう。
僕、王都でめちゃくちゃ嫌われてるしなーー……
それなのに、ここにそんなものを持ってきてくれたんだ。
魔法の薬をもらって、こんなに嬉しいのは初めてで、しばらくそれを見下ろしてニヤニヤしていたら、屋敷のみんなに変な顔をされた。何してるんですかーって。そんなに魔法の薬、好きでしたかって言われて、慌てて「なんでもない!」って答えた。
それなのに、わざわざ僕のところに来るなんて、一体、どういうことだ?
そう思ったけど、その頃の殿下は、王都の貴族たちには嫌気が差していて、彼らと古くから付き合いのある貴族の魔法使いのことも、信用しないようになっていたらしい。
それでわざわざ王都からはずっと離れた国の外れにぽつんとある屋敷に住む僕のところに来たようだ。
そんな話を聞いたら、協力しないとは言えなかった。
何しろ、僕も王都の魔法使いと揉め事を起こしてつまみ出されたからなーー…………
だけど、殿下はとにかく無愛想。たまに口を開いたかと思えば、恐ろしいことしか言わない王子だった。
それでも、僕らを馬鹿にするようなことは言わなかったし、結界の魔法の道具に対する扱いも丁寧で、僕はなんとなく、悪い奴ではないんだろうと思った。
僕らの屋敷には、他にも貴族たちが結界の魔法のことで訪れることがあったけど、どいつもこいつも、王都から追い出された公爵家の役立たずの僕を馬鹿にしていく。
そんなんだから、僕も普通に言い返し、無礼な奴だ! なんて、しょっちゅう言われてた。
無礼で悪いか! そっちがまず無礼だろう!!
そんなわけで、僕だって初対面で無礼なことするから、殿下が少しくらい僕を無視しても、あんまり気にならなかった。
侮蔑や敵意を向けられているのではないことは、分かっていたから。
だから、彼が来る時はいつも、僕が一方的に挨拶をして、殿下に無視されて、仕事を命じられて、従者の方から細かい説明を受ける。
殿下から返事が返ってくることはずーっとなかった。
さすがにちょっと寂しい…………
ちょっとくらい返事してくれてもいいだろ。ただの挨拶なんだし。
最初はたまに、なんなんだ、こいつはって思ってたけど、よーく考えてみたら、相手は王族! 僕にいちいち挨拶をする義務もないか。
それに、僕にしてみれば、僕を馬鹿にして蔑まないだけで、いい奴だ。僕と一緒に結界の魔法の道具を管理していた使用人たちも、殿下を悪く言うことはなかった。
そしてある日、あいつは僕らの屋敷に土産を持って来た。
「代金の代わり」
そう一言だけ言われて、逃げるようにそいつは僕の屋敷を出て行った。
何言ってるんだって思った。
だって、必要な代金ならすでにもらっている。
箱を開けてみたら、中には高価な魔法の薬が並んでいた。
そんなものもらえるか!!
びっくりした僕だけど、僕が箱を開けてびっくりしてる間に、殿下はすでに魔法で飛んで行ってしまっていた。
逃げ足が早すぎるんだ、殿下は。
だから、殿下の従者の方に返した。こんな貴重なものいただけません、そもそも、代金ならすでにいただけませんと言って。
だけど、従者の方はそれを受け取ってくれなかった。「それは代金などではなく、ここのおかげで結界を維持できているので、お礼として持ってきたものです。殿下がお一人で必死に悩んで決められたものですので、どうかお納めください」と言われてしまった。
それならそうと言ってくれればいいのに。びっくりして、お礼を言えなかったじゃないか。
なんでそんなこと言うんだと思ったけど、たぶん、僕らのところに土産を持ってくる言い訳だったんだろう。
きっと、僕らに対するただのお礼を持ってくるのにも言い訳をしてしまいたくなるんだ。
そう思ったら、渡されたものが、ひどく有難いものに感じた。
それから、殿下はいつも、お土産を持ってきてくれるようになった。大体はここでは手に入らない魔法の薬や道具で、パンや菓子、果物なんかがついていることもあった。
ありがとうございます! って言ったら、初めて僕に振り向いた。
殿下がそんな風に僕に振り向くことは初めてで、それに僕はドキッとした。初めて殿下が僕の方を見て緊張したのと、これまで一切返事が返ってこなかった人がこっちを見てくれて嬉しいのと、いろんな感情が混じって、王子の前に立ってそれだけ緊張したのは初めてだった。
けれど、何か言ってくれるのかと思えば、殿下がすぐに、「君らに渡そうなんて思ってない!」って言って僕に背を向けるから、噴き出してしまいそうになった。
だって、どれだけ下手くそな言い訳だよ。
僕らにじゃないなら、なんでここにあるんですか? ……そんな風に言い返す寸前で口を閉じた。
だって、そんなことを聞いたところで、なんの意味もない。きっと殿下は、知らないって言うんだろう。もしかしたら、もう二度と僕とは話してくれなくなってしまうかもしれない。
だから、とりあえずお礼だけ言うことにした。
殿下は王子なんだし、きっとやりたくてもできないことは多いはずだ。ここにお土産を持ってくることだって、簡単なことのように思えて、難しいことだったんだろう。
僕、王都でめちゃくちゃ嫌われてるしなーー……
それなのに、ここにそんなものを持ってきてくれたんだ。
魔法の薬をもらって、こんなに嬉しいのは初めてで、しばらくそれを見下ろしてニヤニヤしていたら、屋敷のみんなに変な顔をされた。何してるんですかーって。そんなに魔法の薬、好きでしたかって言われて、慌てて「なんでもない!」って答えた。
82
あなたにおすすめの小説
ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!
或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」
***
日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。
疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。
彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界!
リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。
しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?!
さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……?
執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人
ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー
※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇♀️
※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです
※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます
隔日更新予定に変更させていただきます。
♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております!
感想も頂けると泣いて喜びます!
第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!
妹の身代りに生け贄にされたんだけどガチでマジ恋しちゃいました~世界にただ1人の男Ωは、邪神の激愛に絆される~
トモモト ヨシユキ
BL
邪神の生け贄になることが決まった妹王女の身代わりになるように命じられた不遇な王子は、Ωになるという秘薬を飲まされて邪神の洞に落とされる。
エブリスタにも掲載しています。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる