嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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5.最低じゃないか!

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「さあ、行こうか」

 そう言って、王子が僕に手を差し伸べる。

 なんだよ……それ……

 こんな奴、僕の知っているヴェイロクッド王子殿下じゃない。

 王子を押し退け馬車に乗って、急いでドアを閉めた。

 訳の分からない奴めっ……!

 あんな訳の分からない奴だったか!? 口数は少なかったけど、あんな風ではなかったはずだ! 絶対に!!
 初めて出会った頃より、よっぽど訳がわからない!

 魔法の苦手な第六王子。そんな風に言われていた王子が唯一得意としたのが、一度に魔力を破裂させる、凶暴な爆破の魔法だった。その魔法で人々を恐れさせたせいで、彼は王族でありながら、ひどく恐れられていたようだ。社交界でも、あいつは国を滅ぼす気だと、事実無根の噂を囁かれていたらしい。

 国王は、側近たちにいいように使われているような王で、周りにいる貴族たちが好きなように国を動かしていた。一部の貴族を優遇することも多かったらしい。
 それから脱却するために期待されたのが、第一王子の、ヴェステイッジ殿下と第二王子のレーゼダウィクス殿下。彼らは他の兄弟たちと協力して、王城から欲望にまみれた邪な貴族たちを追い出そうとしていたらしい。

 だから、当時の王のもとで甘い汁を吸っていた貴族たちは、なんとかして第一、第二王子たちを後継者争いから外したいと考えた。

 貴族たちの激しい争いから逃れるように、第三王子は魔法の研究所に隠され、第四王子は騎士団に入り、第五王子は第二王子の護衛の騎士になった。

 そこで、貴族たちが次の王にと言い出したのが、第六王子のヴェイロクッド殿下。そのせいで殿下は、賄賂まみれの貴族のよりどころなんて、勝手なことを言われたらしい。

 それが嫌だったのか、彼は「王位など継がない」と宣言してしまった。

 それからは、第一、第二王子の補佐のようなことをしていて、彼に勝手に期待していた貴族たちは、その鬱憤を晴らすように、ヴェイロクッド殿下のことを悪く言い立てた。冷徹な破壊の魔法使いは、王家にふさわしくないと。

 だからだろうか。彼自身、貴族たちには厳しくて、口の利き方はひどく冷徹だし、有力な貴族が相手でも、無礼だと言っては魔法を振りかざす恐ろしい男だったようだ。彼には人の心がない、なんて言う奴までいたくらいだ。

 そんな殿下が、僕の屋敷に初めて来てくれたのが、一年前。

 初めて会った時は、対峙しているだけで僕の方が怖くなりそうだった。

 その頃の殿下は、国の結界を管理していて、魔力が切れて使えなくなったり、魔物に破壊された結界の道具を、ここに持ち込んでいた。

 結界の道具なんて国中にあるし、それをいちいち確認して、全部安全な状態に保つ、それはひどく面倒臭いのに、結界の道具は全部そこにあって当たり前のもので、あまり気にかける人もいない。
 面倒で大変なのに誰にも気づかれない地味な仕事を押し付けられたと、彼を蔑む貴族も多かった。何しろ、王位を継がないと宣言したことで、貴族の敵をたくさん作っていたから。

 王族を馬鹿にしているからだ、目をかけてくれて、世話になったはずの貴族を蔑ろにしたりするからそんな目に会うんだ、情けない腰抜けにはお似合いだ、そんな風に後ろ指を指す奴らが多かったらしい。

 勝手なものだ。

 自分達の欲望のために、殿下を祭り上げておいて!!

 そんな状態から身を守るためだろうか、王城での殿下がひどく攻撃的な態度をとることは知っていた。彼に結界の道具について提案していた貴族を、突き飛ばして死罪だと怒鳴ったこともあるらしい。

 だけど、僕らのところに来た王子は、そんな風に乱暴ではなくて、結界の魔法の道具を丁寧に手入れして去っていく人だった。

 口数は少ない……というか、全くない。

 最初は僕と目があって、僕が挨拶をしても全くの無視だった。もっぱら話をするのは従者で、殿下がするのは、命令。あれを用意しておけ、これを調整しておけ、終わらなかったら罰を与える……

 なんだこいつ。最低じゃないか!

 その時は、なんでこんな奴を僕の屋敷に入れちゃったんだと、心底後悔した。
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