嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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14.だったら、それより先に

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 なんなんだよ、一体……

 こいつ…………訳が分からないところだけ、昔のままだ!

 なんとか止めたら、殿下は、縛って拘束するだけでやめてくれた。
 だけど、ひどく不満そうで、僕に振り向いて、口を尖らせていた。

 ウィクレンクトたちのことは、砦の奥の部屋に彼の従者も全員集めて、殿下の従者の方に見張っていてもらうことにした。

 一人その部屋を出た僕は、砦の、客間として使われていた部屋にたどり着いて、そこにあった窓から、外を眺めた。少し落ちいた。

 ああ……びっくりした。

 しかし、結界の魔法の道具が奪われていたとは……そして、それに気づくことができなかったなんて。

 ギリっと、歯噛みした口から音がするようだった。

 しばらくして、殿下が部屋に入ってくる。

「ダスフィレト……あいつらのことは、奥の部屋で眠らせてあるよ」
「……そうですか…………」

 ホッとして答えると、殿下は笑い出す。

「あんなに必死に止めることないのに……大丈夫。兄上が、死霊の魔法を試したがっているから。首を切っても、話は聞けるよ」
「…………だったら、切る前に聞けばいいのでは……?」

 くそっ……王家は大丈夫か…………王子殿下も、六人もいて、冷静な奴が一人もいない。

 さっき、あの連中は王家に送られるはずの魔法の道具を盗んでいたと言っていたじゃないか。王国で使用されるべき結界の魔法の道具が奪われたのであれば、もっとも重大な問題は、そこではないのか。

 結界は、魔物からこの地を守るための、大切なものだ。それを維持するための道具がもし、力が弱まった状態で放置されているのなら、すぐに対策を取らなければならない。

「止めるに決まっています……何をしてるんですか……こんなことをして、王家だって困るんじゃないんですか?」
「ははっ……ダスフィレト、そんなことを心配してくれていたの?」
「そんなことって…………」
「心配いらないよ。すでに、彼らは断罪されることが決まっている」
「でも……こんなことをしたら、貴族たちの反感を買うんじゃ…………」

 ボソボソと言う僕の手を、殿下が取る。

 ぎゅっと握られたら、なんだか恐ろしくなりそうだった。

「君が結界のためにしてくれていたことを、俺たちはよく知っている」
「え…………?」
「だから、そんなことは気にしなくていい」
「…………でも……さっき言っていた、僕を虐げた奴らを断罪に行くって…………」
「もちろん、本気だよ? 冗談だと思った?」
「…………」

 思うだろ……そんなの。冗談だと思うに決まっている。だって、そんなこといきなり本気になんか、できるもんか。

 けれど、殿下は真剣な顔で言う。

「……君はずっと、王国の結界を維持することに従事してくれていた。これは、大きな功績だ。その君に手を出されることは、王国にとっても防がなくてはならないことなんだ」
「…………」
「それに彼らは、結界の魔法の道具を奪い去っている。今すぐに拘束して取り戻さないと、国の結界が維持できなくなることは、分かるだろ?」
「…………それが念頭にあるのなら、なによりです……」

 ホッとして、僕は殿下に向き直った。

「殿下。だったらまずは、結界の魔法の道具を取り返すことを考えましょう。優先するべきなのは、結界の回復と、安全の確保です。ウィクレンクト様たちは、おそらく奪われた結界の魔法の道具のありかを知っています」
「彼を使っていた貴族のところだろう?」
「そうとは限りません。もしかしたら、彼らの屋敷にはないかもしれません」
「尋問はするつもりだったけど……」
「それでも、正しい答えが返ってくるとは限りません。彼も所詮、使われている身でしょうから」
「なるほど……」

 ウィクレンクトたちも、おそらくは王都にいる有力貴族たちに使われているだけなんだろう。だとしたら、彼に聞いたところで、その連中のことが怖くて、ろくな返事が返ってこない可能性が高い。もしかしたら、口止めのための魔法をかけられているかもしれない。それなら、何を聞いたところで無駄だ。

「あの…………」
「……どうしたの?」
「僕に、任せてもらえませんか?」
「……君に?」
「僕に任せてください。そもそも、僕が用意した結界の魔法の道具です。必ず全て回収して、殿下の前に並べて見せます」
「…………」

 殿下は少しの間、考え込んでいるようだった。

 けれど、その結界の魔法の道具を用意したのは、僕だ。そしてそれは、この地を守るために用意したのであって、私利私欲で頭がいっぱいの連中の欲望を満たすために用意したものじゃない。

 それなのに、それが奪われていたことにすら気づかなかったことが悔しい。

 それなら、僕が取り返す。そうしないと、この苛立ちは収まってくれそうにない。

 王子殿下は、僕の方に振り向いた。

「俺に、手を貸してくれるの?」
「………………」
「…………その前に………………」
「…………なに?」
「………………僕を……断罪しにきたんじゃ……ないんですよね?」
「もちろんだよ。俺が、そんなことをするわけがないだろ?」

 殿下のその笑顔を見ると、ほっとした。

 殿下の笑顔は、あの時……一年前、僕とあの屋敷で会っていた頃の殿下と、同じだ。

 よかった…………

 初めて再会した時は、あの時のあいつはどこに行ってしまったんだって思って、すごく苦しかった。

 だけど……やっぱり彼のままだったんだ。

 国の結界を大切に思ってくれていることも、不器用でも僕らのことを考えてくれていることも、知っていた。

 こうして再会できて、そばにいることができるようになって、僕は……本当に、嬉しかったんだ。

「ダスフィレト……?」
「……すみません……」

 泣きそうになっていた顔を背ける。弱みを見せるようなことをしたくない。

 だけど、こんなに安心したのは、初めてだった。

「…………なかなか……信用しなくて………………すみませんでした……」

 殿下は、断罪に来たんじゃないって伝えてくれたのに。

 何度言われたって、信じることができなかった。怖かったんだろう。信じたって、彼だって王都の貴族だ。彼にまで、面と向かって「お前は罪人だ、お前の言うことなんか、何一つ信じない」と言われてしまったら……
 そう思うことが、怖かった。

 だからって、あんな態度をとって、僕の方が王子殿下を傷つけていたんだろう。

 けれど、殿下は、ニコッと微笑んだ。

「そんなこと、気にしなくていい」
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