冷遇された僕、思いが募るばかりなので遠ざかったら嫉妬心を見せつけた隊長が襲いかかってくる。僕じゃなくても良い、邪魔するなって言ってたのに……

迷路を跳ぶ狐

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20.すでに計画には失敗しているらしい

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 感情がコントロールできればいいのに……今、心から、そう思う。

 もしも感情がコントロールできたら、僕は今の感情を全部殺して、ただの護衛として、ヴァンフィルイト様を陰ながらお守りすることだけに、この身を捧げられたのに。

 それなのに…………

 ……さっきからずっと、ヴァンフィルイト様のことばかり考えてしまっている……!

 むしろ、もう彼のことで頭がいっぱいだ。

 だって、出発前にあんなことがあったんだぞ! 冷静でなんかいられない。

 ヴァンフィルイト様だって、どうしちゃったんだろう……最後に僕が部隊に同行した日には、あんなにそっけなかったのに。

 それなのに……みんなの前であんなに抱きしめられて、僕に護衛になってほしいなんて……

 もう、彼のことばかり考えて、陰ながら彼を守る作戦がすでに壊れかけている。

 みんなの前であんな風に抱き寄せられて、もうみんな、僕のことをいつもとは違う目で見てる。僕のこっそりヴァンフィルイト様の力になる作戦が……

 頭を抱えたくなるけど、これから、ヴァンフィルイト様を守って領地に向かうんだ。困ってる場合じゃない。

 部隊は、これから森を歩いて進んで、新しく領地となった地へ向かうことになっている。空を飛ばないのは、まだ空には魔物が多くて危険だからだ。

 だから、ヴァンフィルイト様の護衛の僕は、ずっと彼の隣にいることになるんだろうけど…………そばにヴァンフィルイト様がいるんだと思うと緊張して、しかも、ヴァンフィルイト様のことばかり考えてしまいそう。

 さっきから抱きしめられた時のことばかり考えてるし……
 こんな風に夢中になっている場合じゃないのに…………
 ヴァンフィルイト様のことを守らなきゃならないのに。

 ヴァンフィルイト様は、何であんなことしたのかな……?? 護衛になる人を、あんなに熱烈に誘う人だったかな……彼がそうしているところを、僕は見たことないけど……もしかしたら、僕が知らないだけで、本当は、すごく情熱的に、部隊に入ってほしい人を口説く人なのかも……

 ……それはそれで……嫌だなぁ…………ヴァンフィルイト様が、他の人のことも、あんな風に誘うなんて。

 いや……何考えてるんだ! ただの護衛のくせに!!
 ヴァンフィルイト様が誰をどう誘おうと、彼の勝手だろ! 何で僕が嫌だなんて思ってるんだ、図々しい!

 思い悩んでいる間にも、準備は着々と進んでいく。
 ヴァンフィルイト様の部隊の人たちは、次々に使い魔を作り出していた。どれも美しい竜の姿をした使い魔だ。

 すごい……さすが、ヴァンフィルイト様の部隊の方々。

 ヴァンフィルイト様も、大きな竜の使い魔を作って、それに乗り込む。

 特に危険なこともないだろうが、使い魔を連れていくのは、魔獣たちを牽制して進むためだ。余計な争いは避けたいからな。

 ヴァンフィルイト様の使い魔……久しぶりに見た…………こんなことなら、使い魔の魔法、練習しておけばよかった。

 ヴァンフィルイト様が、僕に振り向く。

「使い魔はどうした?」

 彼に聞かれて、僕は頭を下げた。

「あ、あのっ……僕は、体を魔力で強化して行きます……! 遅れないようについていくので、ご安心ください」
「……使い魔の魔法は使えないのか?」
「……え、えっと…………は、はい……えっと…………そ、そんなところです」

 言いづらいけど、そんな風に答えた。僕、あの魔法、極端に苦手なんだ。制御も、手加減も。

 部隊のみんなが、僕にちらちら振り向いている。僕が使い魔の魔法を断ったこと、驚いているみたい。割と使えるのが当たり前な魔法だからな……

 彼らだって知っているはずだ。僕が落ちこぼれって言われてること。伯爵様を敵に回してから、すっかり悪評も広げられちゃってるから、もしかしたらもっと不安に思われているのかもしれない。

 殿下もヴァンフィルイト様も、やけに僕を評価しているように言ってくれていたけど、僕だって、それは過大評価な気がしている。だけど、ヴァンフィルイト様が、そうおっしゃってくれたんだ……彼がそんな風に言ってくれたなら、その言葉を、大切にしたい。使い魔の魔法は使えないし、昨日建てた計画は、出発前からもう壊れちゃったけど……
 絶対に、ヴァンフィルイト様のことを守るって、決めたんだ。

「……僕は……大丈夫です! ちゃんとついて行きますから!」

 そんな話をしていたら、背後から魔法が飛んできた。振り向けば、彼の部隊の魔法使いの一人が、僕を睨んでいる。さっきヴァンフィルイト様に「本当にそれを連れて行く気か?」って聞いていた魔法使いだ。

「悪いな…………魔法の試し撃ちをしていたんだ」
「…………」

 明らかに嘘だ。彼は、僕のことを敵視しているんだろう。
 侯爵家の部隊の方なんだし、ヴァンフィルイト様になんて言われても、王家側から来た僕のことは、そう簡単には信じられないだろうし、僕がヴァンフィルイト様のそばにいたら、不安だろう。

「……あまり、隊長に近づくな」

 そう言う彼は、僕のことをじっと睨んでいる。

 僕には、それは苦しいことだ。僕はヴァンフィルイト様を傷つけたりしないし、そう信じてほしい。

 だけど…………

 同時に、少し…………嬉しい。

 だって、僕のことをそんな風に見てしまうくらい、彼は、ヴァンフィルイト様のことが心配なんだ。

 ……ヴァンフィルイト様……皆さんに、とても慕われているんですね……だからあんな風に僕を警戒しているんだ。

 そう思ったら、腹を立てる気になんてならない。

「……気をつけます……申し訳ございません」
「…………」

 僕は、彼が魔法の弾を撃った地面に手をついた。大切な広場がえぐれてしまっている。ヴァンフィルイト様が、これから歩いていく場所なのに。

 そこに魔法をかけると、魔法は壊れたところを元に戻していく。すぐにすっかり元通りだ。

 それを見ていたみんなが微かに驚く気配がした。

 実はこれは、いつかヴァンフィルイト様に見て欲しくて身に付けたもの。そんなことしてる暇があるなら、使い魔の魔法を使えるようになればいいんだけど……

 以前、魔物退治に行った時に、退却しようとして地面がひどく荒れていて、時間がかかったことがった。

 二度と、あんな思いをさせたくない。だから、そのために頑張って準備したんだ。

 ……ヴァンフィルイト様…………

 …………僕……

 お役に立てましたか……?

 そう思って見上げるけど、ヴァンフィルイト様は、すでに僕を見ていない。僕じゃなくて、さっき僕を撃った奴を見ていた。

 …………彼を驚かせるには、まるで足りなかったのかな……まあ、僕程度の魔法だし……

 そう思って、簡単に諦められるはずだったのに…………なんで……

 ヴァンフィルイト様に見てもらえる、その男のことが羨ましい。

 どうしちゃったんだ。僕……

 そんなこと、気にならないはずなのに。

 いつも何をしても無駄だったのに、初めてあんな風にされて、まだ、心が動揺しているんだ。だから、こんなふうに、心がざわざわするんだ。

 ヴァンフィルイト様に見てもらえるあの男が…………羨ましいなんて……護衛は、僕なのに。首輪だってもらって、護衛になってほしいって、そう言われたのに。何で今は、そいつなんだろう……
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