冷遇された僕、思いが募るばかりなので遠ざかったら嫉妬心を見せつけた隊長が襲いかかってくる。僕じゃなくても良い、邪魔するなって言ってたのに……

迷路を跳ぶ狐

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48.怖かったはずだ

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「あ、あの…………ヴァンフィルイト様……こ、侯爵様っ……!! あのっ…………こ、婚約って…………」
「俺と、デフィトリュウィクの婚約だ」

 それはさっき聞きました……そうじゃない!
 そうじゃなくて、なんでいきなり、僕がヴァンフィルイト様と婚約なんて話になるんだ!?

 しかも、抱っこされて廊下を歩いている。

 彼が歩くごとに、僕の体が揺れて、それが怖くて彼にしがみつきそうになる。

 だけど……

 手を伸ばそうとして、慌てて引っ込めた。

 何してるんだ……なんで、ただの下っ端の僕が、ヴァンフィルイト様にずっと抱っこなんてされてるんだっ……!

 慌てていたら、背後から、足音が聞こえたような気がした。慌てて振り向けば、廊下の奥の方は丁字になっていて、そこを誰かが横切って行く。

 どうしよう……もしかして、見られた?!

 僕を抱っこしているのは、部隊の隊長で、侯爵様だ。
 抱っこされている僕は、王家派で、出発と任務の時に、色々問題を起こしまくった下っ端。そんな僕を抱っこしているところなんて見られたら、侯爵様だって困るだろ! 夜会で恥をかくかもしれない。

 僕は、慌てて魔法で飛んで、彼の手から逃れた。

「あ、あのっ……ヴァンフィルイト様っ…………僕っ……」

 彼から少し離れて、廊下に降りる。けれど、せっかく離れたのに、ヴァンフィルイト様は僕にすぐに迫ってくる。しかも、何だか目が据わってないか!??

「また、俺から離れるのか? やれるものならしてみろ。すぐに手に入れに行く」
「へっ……!? あ、あのっ……」

 威圧感のあるその声を聞いたら、僕は腰が引けてしまう。
 だって、今のヴァンフィルイト様は、怒っているようには見えない。むしろ、ほんの少しだけ笑って見えるのに、ゾッとするくらい、迫力がある。
 これまでずっと、ヴァンフィルイト様の部隊にいた。いつも冷淡な彼の態度を、怖いと思ったことだってある。だけど、今のこれはそれとは違う。まるで、命すら狙われているような気になる。本当に、背を向けて逃げたら、串刺しにされてしまいそう。

 そんな恐怖に負けたのか、全身が何かで冷やされてしまったかのようだ。それなのに、見上げたら体ごとその目に括り付けられてしまいそう。それが恐ろしくて、背後に下がる僕。これじゃ、ヴァンフィルイト様の言う通り、逃げているみたいだ。彼から逃げるなんて、そんなつもり……ないのに……

「あ、あ、あのっ…………ヴァンフィルイト様…………あのっ……お、落ち着いて…………お、お話しされていることの意味が……僕には分からなくてっっ……」

 彼から、離れたつもりだった。僕は大した魔法は使えないし、もちろんヴァンフィルイト様に敵うはずもないけど、逃げることだけに集中すれば、少しの間くらい逃げ回れる。僕だって魔法使いだ。
 そんなつもりでいたのに、つい、恐怖に負けたらしく微かに背を向けてしまった。そうしてしまったら、あっさり捕まってしまいそうって、そう自分に警告したはずなのに。すぐにそんな警告すら、忘れてしまっていたらしい。

 背後から手を掴まれた。自分の体がビクッと震えるのが分かった。
 後ろから彼の手が僕の体を捕まえて、僕はひどく震えた。

「ひっ…………!」

 簡単に背後を取られて、反射的に魔法を使って振り払ってしまう。多分、怖かったんだろう。けれど、彼から逃げることなんて到底できなくて、後退りでも逃げようとした足がもつれて、背中に壁が当たった。

「やっ………………」

 簡単に追い詰められた僕の手を、ヴァンフィルイト様が握る。ぎゅっと強く握られて、ゾクっとした。

「今度は簡単に捕まったな……」
「え……あ、あのっ…………」

 彼の言う通りだ。なんでこんなに早く捕まるんだ。逃げられる……はずなのに。
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