冷遇された僕、思いが募るばかりなので遠ざかったら嫉妬心を見せつけた隊長が襲いかかってくる。僕じゃなくても良い、邪魔するなって言ってたのに……

迷路を跳ぶ狐

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60*ヴァンフィルイト視点*過保護め!

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 一体、ここをどこだと思っているんだ。俺の城だぞ。

 そんな苛立ちを抑えて、俺は、城の奥にある、常に結界で守られた部屋のドアを開けた。普段は魔物が多く現れた時に戦えない者たちを守るために使う部屋だが、今はその床に、何人もの魔法使いたちが倒れている。倒れているのは全員、伯爵家の隊長、テトルマズの部隊の連中だ。

 そして、部屋の奥にある窓辺にはブレロブルが立っていて、外の様子を眺めていた。

 窓は開いていて、外からあのうるさい王子殿下の声がしたような気がした。

 急いで俺も窓に駆け寄り、外を眺める。

 すると、その窓から見える塔の窓の向こうに、デフィトリュウィクと王子、俺の部隊の男たちがいるのが見えた。

 隣のブレロブルは、俺に振り向く。

「こんなところに来たの? 探しているんじゃない? 君の部隊の可愛い子たちが」

 ブレロブルは平然と聞いているが、ここは普段、侯爵家の者しか入れない。そんなところに勝手に入り込んでおいて、普段と全く変わらない様子でいるのがこの男だ。どうせ、倒れた魔法使いたちもこの男の仕業だろう。

 何が可愛いだ。俺の部隊の奴らを勝手に覗き見るな。近づくな。全員、俺の可愛い部下だぞ。

「……俺の城で勝手な真似をするな」
「勝手だなんて……俺はただ、親友が侯爵になったって言うのに、その城で勝手なことをしようとした馬鹿どもを捕まえていただけだよ」
「…………よく言えたな……」

 感情は抑えて呟いたが、苛立ちを隠すことは不可能なようだ。ひどく、腹立たしい。

 せっかくデフィトリュウィクと二人でいたのに、なぜこんな男と二人でこんな狭い部屋にいなければならないのか。

 しかも、周囲には動かない魔法使いたちが倒れている。この男の仕業だ。人の頭の中に干渉して、目を覚さないようにしているのだろう。一族の得意技らしい。こいつの一族の魔法にかかると、誰でもたちまち言いなりになるようだ。傀儡だの毒だの、他にも魔力を奪ったりといった面倒な魔法が得意な連中だが、そんな奴らの魔法でも、強力な魔力を持つ者には効かないし、魔法で相手の魔法を防ぐ方法はある。
 しかし、油断しているところを後ろから狙われれば、太刀打ちできない。例えば、本来手を貸してくれていると思っている有力貴族に、後ろから狙われた時だ。だが、俺はこいつのことをまるで信頼していない。だからまるで心配はいらない。

 そいつの隣で、窓の方に向き直る。ここからなら、反対側にある塔の窓がよく見える。

 あいつがいる。デフィトリュウィクだ。どうやら廊下を走っていて、目の前に現れた敵を魔法で撃ち倒したところらしい。

 可愛い…………本当に可愛い。そして勇敢だ。

 彼のことは、最初は、ただの下っ端だと思っていた。それも、敵対勢力から来た男だ。俺も最初は警戒していた。

 しかし、言いつけた任務には忠実だし、彼を俺の部隊に送った伯爵の方は、厄介払いをしたかったらしいと、一族の奴らから聞いた。

 だが、彼が厄介払いなんて理由で俺のところに送られるような実力には見えなかったし、部隊に入れてみたいと思った。だから誘った。

 だが、あっさりと断られた。

 断られるとは思っていなかった。

 部隊でも一生懸命やっているように見えていたし、伯爵と共にいて、邪魔者扱いされるよりはいいだろうと思った。

 だから断られるとは思っていなかったのに、とてもあっさり、断りますと言われた。

 それを聞いて、ひどく苛立った。そんなことを言われるとは思っていなかったからだ。

 それからは、二度とあいつを呼ぶものかと意地になってしまった。せっかく誘ったのに、なぜ断るんだと思ってしまった。今思えば、あまりに馬鹿らしい意地を張ってしまっていた。

 そうして彼と会わない日々が続けば続くほど、苛立ちが増していった。その時はまだ、あいつが断ったのは何かの間違いだと思っていたんだ。断る理由がないだろう。俺の部隊にいる時は、伯爵の前にいる時よりは嬉しそうに見えていたのに。

 それなのに、あっさり断られた。

 きっと、返事を間違えたのだと思った。俺も急に話したし、きっと、緊張か何かが原因で断ってしまったのだろう。後ですぐに後悔して、やっぱり部隊に入ると言ってくる。そう思ったのに、待てど暮らせど、あいつは来ない。

 俺から会いに行って、この前のあれは間違いだろうと聞いてやればよかったのだが、なぜか俺からは絶対に会いに行きたくなかった。

 絶対に行かない。そう決めて、あいつが泣きついてくるのを待っていた。

 しかし、あいつは来なかった。

 こっちは待ち続けているというのに、たまに廊下で見かけたかと思えば、伯爵の部隊の後ろにいる。そんなふうに扱われても、そいつの部隊がいいのか。

 ………………なぜ、そっちがいいんだ?

 俺の方がいいだろう。それなのに、そんな男の後ろを歩いて。

 なんの真似だ……

 そいつがいいのか?

 苛立ちを捻り潰すように、俺は魔物討伐を続けた。部隊の奴らにも「最近、隊長イライラしてないか?」と言われる始末だった。魔物退治には成功し、強力な魔物を倒すことにも成功するようになったが、思いは募っていく。

 そしてだんだん、我慢できなくなってきた。

 何しろ、魔物退治を繰り返すたびに、あいつがいないことを思い知る。あいつは俺の部隊で、俺が思っていたよりずっと多くのことをしてくれていたらしい。正確に周囲の状況を伝え、部隊を後方から支援して、周りの小さな魔物を追い払い、強力な魔物を倒す手助けをしてくれていた。

 それなのに、俺は…………

 あんな言い方をしなければよかった、そう後悔するようになった。

 しかし、そのころには、意地になってあいつを呼ばなくなってからしばらくが経っていて、今更言えなくなった。

 悪かったと、心からそう伝えたかった。だが、そんな理由で呼び出して、もしも拒絶されたら、もう話すこともできなくなりそうで怖い。
 それに俺は隊長で侯爵家だ。俺が悪かったと言えば、あいつならきっと構わないと言う。俺はあいつから許しをもらいたいわけじゃない。ただ、謝罪がしたいんだ。

 魔物に支配されていた地域の討伐をやってのけた時は、我ながらよくやったと思った。あの地を脅かしていた魔物を倒すことができたことも嬉しかったが、デフィトリュウィクに謝りに行く口実と、再びあいつを誘う理由ができた気がした。

 だが、俺にはまだ、やるべきことがあった。
 あいつはずっと、自分が伯爵家からきた敵対勢力であることを気にしていた。俺の部隊に動揺を与えているのではないかと、ひどく思い悩んでいたようだった。

 貴族同士のあの争いは、俺も鬱陶しいと思っていた。こんなものを早く終わらせたいと、王家や公爵家も考えていた。俺も同じ意見だ。あいつを苦しめるなら、なおさらだ。
 それなら、今こそ行動を起こせばいい。多少強引であったとしても。

 俺は、公爵家と王家に、この馬鹿らしい争いを終わらせようと声をかけた。殿下も公爵家も乗ってきたし、俺の一族もブレロブルも力を貸すと言った。

 すでにその時には何度も魔物に支配されていた地域に向かい魔物退治に成功していた俺は、最後の魔物退治に向かうことにした。

 王子と手を組み、馬鹿な真似をしてしまった苛立ちを全部ぶつけて、討伐は成功。
 森の中はいい。周囲に人がいない。暴走寸前の殺戮の魔法でも、遠慮なくどんどん撃てる。

 魔物が蔓延っていた地域は俺のものになり、俺は侯爵だ。魔物ばかりだったあの森も、静かになった。
 俺は、あいつを誘うのに相応しい男になったんだ。

 貴族たちの争いを終わらせるための作戦の準備も整った。これで、あいつがずっと気にしていた争いは終わる。手を出そうとする連中は、俺がその体を砕いて黙らせればいい。これまでそうしてきたように。

 最高の舞台を用意した。そこで行われるのは、貴族たちが手を取り合うための作戦だが、危険はほとんどない。迷惑な争いは終わり、あいつを苦しめていたものもなくなる。今度は、功績をあげた侯爵として、あいつを誘うことができる。

 きっと、あいつも喜ぶ。あの時は断られたが、きっと今度は「光栄です!」と言って、笑顔で俺の手をとってくれる。

 そう、信じていたのに。

 あいつに会いに行った俺が聞いたのは、全力の拒否だった。

 それを思い出して、俺は肩を落としていると言うのに、隣のブレロブルは、まるで気にしていないように、それどころか馬鹿にしたような様子で言う。

「また、デフィトリュウィクのことばっかり見てるの? ああ、ちょうど向こうの塔にいるね」
「うるさい。お前はあいつを見るな」
「重いねーー…………君のために言ってあげるけど、彼、本気で部隊に入る気はなかったみたいだよ?」
「うるさい……分かっている」
「ここまで来た経緯も、彼に言っちゃダメだよ? 引かれるから」
「なぜ引くんだ? 一度は断られた。あいつを傷つけてしまったことも分かっていた。だからこそ、謝罪の意味も込めて、二度とあいつが断らなくていいように、最高の舞台を用意した。あいつを誘うことの邪魔なるものは、全て俺が排除した。それなのに、何がだめなんだ?」
「……そういうことを、本気で言っちゃうところかなーー?」
「黙れ! 過保護め!」
「誰が過保護だよ!! 君の方こそ、あんな風に王族と貴族に囲まれて、断れない状況を作られてから部隊に入れなんて言われたら誰だって怖いし、ますます気持ちが離れるに決まってるだろ!!」
「うるさいぞ!」
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