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14.冷静に冷静に

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 戸惑う僕の手を強く握って、ヴィユザはボロボロ涙を流している。どうやらかなり涙脆い人らしい。

「感動した! こんな酷い目に遭いながら、お前を傷つけた俺を庇って……口汚く罵られても仕方ないのに……」
「べ、別に僕、ひどい目になんてあってない……だ、だからお願い。気に病まないで……それに、え、えっと……間違いは誰にでもあるし……多分、僕の方がひどいし……」
「俺はお前の心に惚れた!!」
「へ!?? あ、あの! 僕、本当にそんなつもりなかったんだ! 会長に会いたかっただけで……」
「俺は、お前のおかげで助かった!! 俺、多分一つでも問題起こしたら退学だった……本当に、助かったよ……」
「う、うん……あ、あんまり、感謝しないで……は、恥ずかしいし、僕にはそんな気なくて……」
「なんだよ! 照れんなよ!! 今日からダチだ!!」
「へっ!?? だ、だちって……ともだち??」
「もちろんだ!! 嫌か!? 俺と友達になるのは!」
「えっと……嫌じゃないけど……」
「じゃあ、よろしくな! 俺はヴィユザだ!」
「うん……知ってる。さっきから僕もそう呼んでるし……あ、えっと……僕は、ディトルスティ。よろしく……」
「ああ! よろしくな!」

 ヴィユザは、僕の手を握ってブンブン振り回してる。痛い……

 だけど、初めて友達ができてしまった。い、いいのかな? 多分ヴィユザ、またなんか誤解してるけど……心に惚れたって、なんなんだろう……

 そしたら、会長が僕を引き寄せて、僕らの握る手を離してしまう。

「彼と俺は、付き合ってるから。気安く触らないでくれる?」

 するとヴィユザが、会長にも負けない勢いで、彼にすごむ。

「聞いてますよ。生徒会長。だけど、それなら、こいつに味方するべきだろ。風紀委員と一緒になってこいつ追い詰めて、それでも会長っすか? それどころか、状況を利用して公私混同でこいつを束縛して、恥ずかしくないんすか?」
「君には分からないかもしれないけど、学園で問題が起こったのに、付き合ってるからなんて理由で、彼に味方することはできない。そんなことをすれば、彼だって責められる。公私混同だと言われる筋合いもないね。学園と風紀委員からの要望には答えている。貴族たちの方にも、ちゃんと手は回すから」
「……なんでも狡賢く渡り歩く伯爵家らしい発想だな……どうせてめえも貴族贔屓なんだろ? 伯爵令息様。貴族の機嫌だけとって、そいつを生徒会の管理下になんて、よく言えたな。処分が重すぎるだろ!」
「公爵令息に手を出して、しかも、君の周りにいた連中も、公爵の息のかかった御令息たちだ。無罪にすれば、風紀委員という組織が疑われるんだよ。それに、彼のことは、学園を取り巻く貴族が既に目をつけている。放っておけば、彼はもっと危ない目に遭うんだ」
「だったらこいつを守ることに力入れるべきだろ! 監視だの拘束だの、俺が許さねえからな! こいつは俺のダチだ!」

 ヴィユザが言って、僕は慌てて、彼を止めた。会長は僕を守ってくれたのに、それじゃ一方的に会長が悪いみたいじゃないか!!

「ヴィユザ! やめろ……! 会長は悪くない!! 僕ら付き合ってるんだから……!!」

 だけど二人とも、もう僕の話を聞いてない。背の高い二人は、僕の頭の上で睨み合っていた。

「風紀委員から任されたのは、そいつの監視だけだろ……余計な真似したら、俺が許さねえからな」
「君に何ができるの? だいたい、惚れたってなに? 惚れたって。ディトルスティに近づかないでくれる? 彼は俺と付き合ってるんだから」
「こまけえこと気にしてんなあ? そんなに自信がねえのか? 俺はただ、人としてそいつがすげえって言ってるだけだ。それをなんだ? 難癖つけて束縛か? 付き合ってるなら恋人の嫌がることすんな!」

 ヴィユザが叫んだ言葉が、僕の胸に深き突き刺さる。

 言葉だけなのに、む、胸が痛い……

 すみません会長……盗み聞きと覗き見はもうしませんっ……って、毎回した後に思うのに………………会長のそばにいたいし、会長にどこへも行って欲しくないし、僕だけのものであってほしいし、他の人と僕の知らない場所にいるって思っただけで…………変に怖くて、恐怖を拭いたくて、同じことを繰り返している。

 眩しすぎる言葉で胸が痛いよ……僕は屑です。

 ズキズキする胸を抑える僕の前で、ヴィユザはますます、会長に詰め寄っていった。

「俺は一度、そいつを誤解で傷つけたんだ。だからそいつを守るのが、俺の償いだ。好きにはさせねえぞ。生徒会長」
「鬱陶しい男だな……とりあえず消えろよ。目障りなんだよ」
「ああ? そっちこそ、平民のそいつを見下しているくせに!」
「ディトルスティの前で薄汚い憶測はやめてくれる? 彼が傷つくだろ。身分は関係なく、お前には教養と配慮が足りない」
「なんだと!! 気取ってんじゃねえぞ!」

 二人が睨み合う中、僕は二人を止めたけど、どっちも全然聞いてくれない。

 マモネークも、二人を止める気は全くないらしく、彼は僕の前に屈んで、僕と目を合わせてきた。

「僕も、生徒会長がスキャンダルで失脚なんて嫌だし、生徒会のせいで学生が苦しむのは、本意じゃないんです。僕もそばいるから、困ったことがあれば、相談してください」
「え、えっと……」
「君も、問題になるのは嫌なんですよね?」
「はい!! 会長には……もう迷惑かけたくない……です……」
「じゃあ、約束です」

 そう言って、彼は自分の小指を僕の小指に絡めて微笑む。即座にそれも、会長が引っ張って離したけど。

「俺の恋人に触らないでくれる?」
「会長……狭量だとモテませんよ? 冷静に冷静に。あと、カッとなってスキャンダルなんて、起こさないように。そろそろ帰りましょう。寮の夕飯の時間です」
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