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16.何で嫌だって答えなかったんだ
しおりを挟む会長に部屋の前まで送ってもらえるなんて、夢みたいだ。自分の部屋までの道のりが、急に短くなったような気がする。
僕を送る間、会長はずっと、僕を抱き寄せてくれていた。その間、みんな僕らを見ていた。
なんだか照れるけど、嬉しい。僕、本当に会長の恋人なんだ……
たまに「なんであんな奴が……」って言うのも聞こえたけど……僕も、会長にふさわしいって思ってもらえるように頑張らなきゃ。
そして会長に振り向く人が少しでも減れば……
いやいやいやいや。落ち着け。こんなドロドロした気持ちで、会長のそばにいちゃダメだ。会長の重荷になりたいわけじゃない。
会長は僕のって分かったら、もう手を出さないよな……
じゃないじゃない。違う違う違う。そんなんじゃなくて、ここまで送ってもらったくせに、嫉妬にまみれてる場合じゃない!! せっかく、会長がそばにいてくれるんだから!
僕は、嫉妬を押し殺して、会長に振り向いた。
「あ、ありがとうございました! 会長!!」
「え? 何が?」
「お、送ってもらったので……う、嬉しかったです……」
「そんなの、気にしなくていいのに」
そう言って、会長は僕の頬にちゅってキスしてくれた。会長のキスはいつも優しくて、くすぐられているみたいだ。
だけどそれを、ずっと後ろにいたマモネークが、見咎めたように言う。
「会長ー。そろそろ、いい加減にしたほうがいいです。ちょっと見せつけすぎです!」
ヴィユザまで、背後から会長を睨んで言った。
「……ディトルスティを傷つけたら、ただじゃおかないからな……」
「分かってる。そっちこそ、俺の恋人に、あんまり近づかないように」
言い返す会長に、ヴィユザも負けじと凄んだ。
「あ? また嫉妬か? 生徒会長さまが、そんなに自信ねー野郎だったとは、知らなかったな」
「嫉妬くらい、当然だろ? 俺はディトルスティのこと、大好きなんだから」
二人が睨み合っている。
止めるはずが、会長に「大好き」なんて言われて、僕はもうドキドキしすぎて、他のことなんて考えられない。
するとマモネークが、ぱんぱんと手を打って、僕らを宥めた。
「みんなー。やめてくださーい。ヴィユザも。落ち着いてください」
言われて、ヴィユザは会長から離れて、会長も「俺は落ち着いてるよ」と言って、ヴィユザから目をそらす。
「俺だって、騒ぎが大きくなるのは困るんだ。マモネーク、今日はお疲れ様。ヴィユザも……今日は早く休んだ方がいい」
「余計なお世話だ!」
怒鳴ったヴィユザは僕に振り向く。
「ディトルスティ、会長に何かされたら、すぐに俺に言えよ!」
「……だ、大丈夫……会長は、僕の嫌がることはしないから」
ヴィユザにも困ったな……会長が僕を傷つけると思ってる。会長はそんなことしないし、僕だって、会長が好き。それなのに、完全に誤解してる。ちゃんと話しておいた方がいい。僕の心配なんか、しなくていいんだから。
「あの……ヴィユザ。僕、本当に大丈夫だから」
「じゃあ、また明日な」
「え……?」
「なんかされたら、俺に言えよ? 俺が会長ぶん殴るから!」
「だめだって! 会長は、僕に酷いことなんかしない!」
「されるかもしれないだろ! 遠慮すんな!」
そう言って、彼は僕の頭を撫でてくる。会長以外に触れられても、落ち着かないだけなのに。
「じゃあなー。ディトルスティ! 会長、そいつに変なことすんなよ!!」
念を押して、ヴィユザは僕に手を振って去っていく。
困った奴。全部、誤解なのに。正直、会長にいちいち喧嘩売られるのも迷惑。僕の話も聞いてないし……
それなのに……なんで僕、「嫌か?」って聞かれた時、嫌だって答えなかったんだ……
僕は、ヴィユザに駆け寄った。
「ヴィユザ!」
「……? どうしたんだ?」
「会長は、僕を傷つけたりしないから、失礼なこと言わないで」
「ディトルスティ……」
「……それと…………心配して、送ってくれて……あ、ありが、と……」
何照れてるんだ。僕。
どうかしてるだろ。こんなの……
だけど、こんな風にされて、なんだか嬉しいと思ってしまってる……本当に、どうかしてる。
そしたら、ヴィユザは僕に笑って言った。
「気にすんな! 俺ら、仲間だろ!」
そう言って、ヴィユザは僕に手を振って、マモネークと一緒に、自分の部屋に戻って行った。
ダチから仲間に変わってる……だけど、やっぱり嫌じゃない。なんだか嬉しかった。
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