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第三章 クロレシアの思惑
第二十四話 腐敗
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燃え盛る炎の中、防御壁を張ってくれていたテンが地に膝をついた。額からはかなりの汗が流れ出し、もうびしょびしょだ。すまないとは思いつつも力を貸せない自分が歯がゆくて仕方がない。ナナセも同じ思いなのか、テンが作り上げた防御壁の中でただ炎を生み出しているコタロウの方を睨みつけていた。
「もう……ダメ……。これ以上は本の封印が解けちゃうっ……!」
テンにしては珍しく焦って裏返った声でそう訴えかけてきた。そのまま世界の破滅と自分の犠牲を天秤にかけたのかもしれない、俺達を包んでいた防御壁が消えていく。助かることはできない……。一気に俺たちに熱風が襲い掛かってきた。
「くく……。終わりだ」
コタロウがさらに火力を強めてくる。
もうダメだ……!
俺のすぐ真横で何かが弾け爆音が鳴り響いた。俺も覚悟を決めて強く目を閉じる。少しでも守ってやりたくて気を失ったままのタケルの体を抱き寄せた。ごめん、助けてやれなかったな……。
だがまるで今の俺の感情を表すかのように、いきなりゴゴゴゴゴッという轟音とともに地響きが起こった。グラグラと地面が揺れ始める。
「な、地震!?」
閉じていた目を開き辺りをきょろきょろと見まわす。コタロウも何が起こったのか訳が分かっていなかったらしく、今の地震に驚き俺達を襲っていた魔法が鎮まっていった。ありがたいことに部屋中を燃やしていた炎も消えていく。
けど今の地震、誰かが魔法を使ったってわけでもないみたいだ。いったい何が起こったって言うんだ? ここにいる全員、呆然とただ辺りを見回していた。
『コタロウ様!! 大地がっ……、大地がっ……!!』
いきなり機械音がしたかと思えば部屋中に響き渡る音声で誰かが叫んだ。焦ったような声は聞こえてきたが姿は見えない。上方の網みたいなところから聞こえてきてるみたいだ。これもクロレシアの技術か? 分からなかったが危険な何かではないみたいだと少しほっとした。
それにしてもこの声……聞き覚えがある。これは恐らくヴェリアだろう。こいつが話しているということは、まさか桔梗は……。嫌な予感がして胸騒ぎがした。
不安に駆られている俺とは別に、コタロウは何が起こっているかを早く理解したいらしく舌打ちをしながらヴェリアの声に答えている。そしてついでと言わんばかりに再び俺たちの周りを炎で包み込んでいった。
くそ、今の隙を突いて逃げればよかったぜ。そう思ってももう遅い、コタロウの生み出した炎は先ほどより弱まってはいたが、突破するにはヤバそうな程だ。入り口はコタロウの背後にあるし、俺たちは再び身動きが取れなくなった。
「あの程度の仕置きでは足りなかったかヴェリア。今度は腕の一つでも千切ってやらないといけないみたいだな。で、大地がどうしたというんだ。簡潔に説明しろ」
「!!!! ああぁん、コタロウ様のお・し・お・き!! はぁ! もっと痛ぶって! 踏みつけて! 抉り取ってぇぇん! ああん、素敵ぃ!」
……すまない。こんな時に何だけど……あいつ変態か……? コタロウの舌打ちでヴェリアは我に返ったのか、裏返って興奮していた声音を戻して話を続けた。
「コホン、ではなく……。大地の腐敗が進行を始めた模様です!! クロレシア北部の山がほぼ腐り落ちました!!」
ヴェリアの報告を聞いた途端、コタロウの表情が一変した。俺も一気に青ざめる。
なん……だって……? 大地の腐敗が……進みだした……? 直すどころかどうして!?
「……分かった。ゴミを始末したらすぐに陛下の元へ向かう。お前は先に報告に行け」
「は……」
ヴェリアの言葉が中途半端に途切れて切れた。相当慌ててでもいるのか……。コタロウもニヤついた表情を見せることなく、指先で宙に呪文を書きこちらを襲う火力をさらに強めてきた。
「聞いての通りだ。こちらも貴様らと戯れている暇がなくなった。すぐに終わらせてやろう」
そのまま俺達を再び強い火力が襲う。くそ、何から何までダメダメじゃねーか……! 少しずつ迫りくる炎をどうすることもできず、ただ眺めるしか出来なかった。
「風よ!!」
「!!?」
声と同時にコタロウの腕を風が切り刻んだ。おかげで一気に辺りを包んでいた熱気が引いていく。術を使った人物を見て俺たちは目を見開いた。全員が声をあげる。
「「桔梗!!」」
「おねぃさん!!」
桔梗はこちらをちらりと見て苦笑した。
「はは、お前達ずいぶんとズタボロじゃないか。新しい遊びか?」
からかうようにそう言ってくる。けどよく見てみれば桔梗の服もあちらこちらが際どい所まで破れているじゃないか。人の事言えるかよ。
ついでに色々な意味で危ない気がするぞ、とは思ったがそれは今は言わないでおく。大人の分別ってやつだ。テンはさっきの力尽きた顔はどこへやら、にへにへと怪しい笑いを漏らし始めた。残念だな、コタロウの生み出した炎があれば今すぐくべてやったところだ。
「クソが……。ゴミがどれだけ増えようと同じ事だというのに」
「それはどうだろうな?」
桔梗はそのまま呪文を唱え始めた。
「土よ!!」
桔梗の声と同時にコタロウの足元から砂煙が巻き上がった。
「全員走れ!!」
桔梗が叫ぶよりも早くテンが駆けた。ナナセがその後に続き、俺はタケルを背負って剣を持ち桔梗の元へと急ぐ。途中テンとの契約の証でもある鍵も落ちてたからあわてて回収した。そういやアイツ、契約中に鍵に触ると激痛走るんだっけ……。あの時はそんな事考えても居なかったから忘れてたぜ……。ついつい苦笑が漏れる。
しかも笑ったせいか治し切れていない傷が痛んでふらついてしまった。そこにすかさずナナセが俺から剣を奪い取り肩を貸してくれる。タケルには遠慮してんのか? なぜか彼女に触れようとはしなかった。
そんな事をしているうちに、いきなりコタロウが持っていたリボンを一振りして砂煙を払いながらこちらに襲い掛かってくる。それは桔梗が水の魔法で止めてくれたが。やるじゃねーかと俺の口元がついつい笑みを作り上げ、そのまま俺達は無事桔梗の元へ集合する事ができた。
「水よ!!」
声と同時に霧が生み出され目くらましをする。けどすぐにコタロウが炎で打ち消してきた。逃げられる訳がないと思い知らせるかのように、とめどなく襲う炎に桔梗もどんどん追い詰められていく。このままじゃ結局ここを出る前に俺達全滅だ。
「元気百倍!!!! ぼくやるよ!!」
限界だって言ってなかったか? どこにそんな力を隠し持ってたんだ? っていうぐらい素晴らしい防御壁をテンが繰り出し、俺達は無事外に向かって駆け出した。
「地よ!!」
部屋から出た途端、止めと言わんばかりに桔梗が入り口を破壊する。地響きとともに壁が壊れ、上に上にと瓦礫が積み重なっていった。
「これで奴もしばらくそこから出てこられないだろう。今のうちに脱出するぞ」
その言葉にほっとしたのも束の間、全員がハッとして呆然とした。そして俺は力の限り叫ぶ。
「お前……脱出経路まで塞がってんじゃねーかぁ!」
そんな俺の叫びなどお構いなく桔梗は淡々と答えた。
「ああ、本当だ。どうしようか」
「どうしようかじゃねーだろ!! あいつが出てきたら今度こそマジで俺達サヨナラじゃねーか!!」
船の時といい、こいつの詰めの甘さはヤバいとつくづく思う。どうしてくれると焦って桔梗に迫る俺の肩をナナセが掴んできた。
「通れるかどうかは分からないけれど……、もう一つ思い当る脱出経路があるからそっちへ行こう。……それより、良くここへ入って来られたね、桔梗。助かったよ」
ナナセの言葉に桔梗がニヤリと笑って答えた。
「あの偽乳女の目玉をもう一つ奪ってやっただけさ。色々されて腹が立ってたから遠慮なく奪えたしな」
桔梗の言葉になぜかテンがフフフっと笑っている。いったいヴァリアに何をされたんだ……と気にならなくもなかったが、あまりにも怪しいテンの視線の方がさらに気になり、遮るように俺は桔梗とテンの間に割って入った。今はテンの方が桔梗に何をしでかすか分からない。邪魔ーっと叫ばれたがわざとだよ、諦めろ。
「とにかく、こんなことしている間にコタロウ様がそこから出て来るといけないから、早く行くよ!!」
ナナセの言葉をきっかけに俺達は第二の脱出経路へと向かって駆け出した。
「もう……ダメ……。これ以上は本の封印が解けちゃうっ……!」
テンにしては珍しく焦って裏返った声でそう訴えかけてきた。そのまま世界の破滅と自分の犠牲を天秤にかけたのかもしれない、俺達を包んでいた防御壁が消えていく。助かることはできない……。一気に俺たちに熱風が襲い掛かってきた。
「くく……。終わりだ」
コタロウがさらに火力を強めてくる。
もうダメだ……!
俺のすぐ真横で何かが弾け爆音が鳴り響いた。俺も覚悟を決めて強く目を閉じる。少しでも守ってやりたくて気を失ったままのタケルの体を抱き寄せた。ごめん、助けてやれなかったな……。
だがまるで今の俺の感情を表すかのように、いきなりゴゴゴゴゴッという轟音とともに地響きが起こった。グラグラと地面が揺れ始める。
「な、地震!?」
閉じていた目を開き辺りをきょろきょろと見まわす。コタロウも何が起こったのか訳が分かっていなかったらしく、今の地震に驚き俺達を襲っていた魔法が鎮まっていった。ありがたいことに部屋中を燃やしていた炎も消えていく。
けど今の地震、誰かが魔法を使ったってわけでもないみたいだ。いったい何が起こったって言うんだ? ここにいる全員、呆然とただ辺りを見回していた。
『コタロウ様!! 大地がっ……、大地がっ……!!』
いきなり機械音がしたかと思えば部屋中に響き渡る音声で誰かが叫んだ。焦ったような声は聞こえてきたが姿は見えない。上方の網みたいなところから聞こえてきてるみたいだ。これもクロレシアの技術か? 分からなかったが危険な何かではないみたいだと少しほっとした。
それにしてもこの声……聞き覚えがある。これは恐らくヴェリアだろう。こいつが話しているということは、まさか桔梗は……。嫌な予感がして胸騒ぎがした。
不安に駆られている俺とは別に、コタロウは何が起こっているかを早く理解したいらしく舌打ちをしながらヴェリアの声に答えている。そしてついでと言わんばかりに再び俺たちの周りを炎で包み込んでいった。
くそ、今の隙を突いて逃げればよかったぜ。そう思ってももう遅い、コタロウの生み出した炎は先ほどより弱まってはいたが、突破するにはヤバそうな程だ。入り口はコタロウの背後にあるし、俺たちは再び身動きが取れなくなった。
「あの程度の仕置きでは足りなかったかヴェリア。今度は腕の一つでも千切ってやらないといけないみたいだな。で、大地がどうしたというんだ。簡潔に説明しろ」
「!!!! ああぁん、コタロウ様のお・し・お・き!! はぁ! もっと痛ぶって! 踏みつけて! 抉り取ってぇぇん! ああん、素敵ぃ!」
……すまない。こんな時に何だけど……あいつ変態か……? コタロウの舌打ちでヴェリアは我に返ったのか、裏返って興奮していた声音を戻して話を続けた。
「コホン、ではなく……。大地の腐敗が進行を始めた模様です!! クロレシア北部の山がほぼ腐り落ちました!!」
ヴェリアの報告を聞いた途端、コタロウの表情が一変した。俺も一気に青ざめる。
なん……だって……? 大地の腐敗が……進みだした……? 直すどころかどうして!?
「……分かった。ゴミを始末したらすぐに陛下の元へ向かう。お前は先に報告に行け」
「は……」
ヴェリアの言葉が中途半端に途切れて切れた。相当慌ててでもいるのか……。コタロウもニヤついた表情を見せることなく、指先で宙に呪文を書きこちらを襲う火力をさらに強めてきた。
「聞いての通りだ。こちらも貴様らと戯れている暇がなくなった。すぐに終わらせてやろう」
そのまま俺達を再び強い火力が襲う。くそ、何から何までダメダメじゃねーか……! 少しずつ迫りくる炎をどうすることもできず、ただ眺めるしか出来なかった。
「風よ!!」
「!!?」
声と同時にコタロウの腕を風が切り刻んだ。おかげで一気に辺りを包んでいた熱気が引いていく。術を使った人物を見て俺たちは目を見開いた。全員が声をあげる。
「「桔梗!!」」
「おねぃさん!!」
桔梗はこちらをちらりと見て苦笑した。
「はは、お前達ずいぶんとズタボロじゃないか。新しい遊びか?」
からかうようにそう言ってくる。けどよく見てみれば桔梗の服もあちらこちらが際どい所まで破れているじゃないか。人の事言えるかよ。
ついでに色々な意味で危ない気がするぞ、とは思ったがそれは今は言わないでおく。大人の分別ってやつだ。テンはさっきの力尽きた顔はどこへやら、にへにへと怪しい笑いを漏らし始めた。残念だな、コタロウの生み出した炎があれば今すぐくべてやったところだ。
「クソが……。ゴミがどれだけ増えようと同じ事だというのに」
「それはどうだろうな?」
桔梗はそのまま呪文を唱え始めた。
「土よ!!」
桔梗の声と同時にコタロウの足元から砂煙が巻き上がった。
「全員走れ!!」
桔梗が叫ぶよりも早くテンが駆けた。ナナセがその後に続き、俺はタケルを背負って剣を持ち桔梗の元へと急ぐ。途中テンとの契約の証でもある鍵も落ちてたからあわてて回収した。そういやアイツ、契約中に鍵に触ると激痛走るんだっけ……。あの時はそんな事考えても居なかったから忘れてたぜ……。ついつい苦笑が漏れる。
しかも笑ったせいか治し切れていない傷が痛んでふらついてしまった。そこにすかさずナナセが俺から剣を奪い取り肩を貸してくれる。タケルには遠慮してんのか? なぜか彼女に触れようとはしなかった。
そんな事をしているうちに、いきなりコタロウが持っていたリボンを一振りして砂煙を払いながらこちらに襲い掛かってくる。それは桔梗が水の魔法で止めてくれたが。やるじゃねーかと俺の口元がついつい笑みを作り上げ、そのまま俺達は無事桔梗の元へ集合する事ができた。
「水よ!!」
声と同時に霧が生み出され目くらましをする。けどすぐにコタロウが炎で打ち消してきた。逃げられる訳がないと思い知らせるかのように、とめどなく襲う炎に桔梗もどんどん追い詰められていく。このままじゃ結局ここを出る前に俺達全滅だ。
「元気百倍!!!! ぼくやるよ!!」
限界だって言ってなかったか? どこにそんな力を隠し持ってたんだ? っていうぐらい素晴らしい防御壁をテンが繰り出し、俺達は無事外に向かって駆け出した。
「地よ!!」
部屋から出た途端、止めと言わんばかりに桔梗が入り口を破壊する。地響きとともに壁が壊れ、上に上にと瓦礫が積み重なっていった。
「これで奴もしばらくそこから出てこられないだろう。今のうちに脱出するぞ」
その言葉にほっとしたのも束の間、全員がハッとして呆然とした。そして俺は力の限り叫ぶ。
「お前……脱出経路まで塞がってんじゃねーかぁ!」
そんな俺の叫びなどお構いなく桔梗は淡々と答えた。
「ああ、本当だ。どうしようか」
「どうしようかじゃねーだろ!! あいつが出てきたら今度こそマジで俺達サヨナラじゃねーか!!」
船の時といい、こいつの詰めの甘さはヤバいとつくづく思う。どうしてくれると焦って桔梗に迫る俺の肩をナナセが掴んできた。
「通れるかどうかは分からないけれど……、もう一つ思い当る脱出経路があるからそっちへ行こう。……それより、良くここへ入って来られたね、桔梗。助かったよ」
ナナセの言葉に桔梗がニヤリと笑って答えた。
「あの偽乳女の目玉をもう一つ奪ってやっただけさ。色々されて腹が立ってたから遠慮なく奪えたしな」
桔梗の言葉になぜかテンがフフフっと笑っている。いったいヴァリアに何をされたんだ……と気にならなくもなかったが、あまりにも怪しいテンの視線の方がさらに気になり、遮るように俺は桔梗とテンの間に割って入った。今はテンの方が桔梗に何をしでかすか分からない。邪魔ーっと叫ばれたがわざとだよ、諦めろ。
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