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第三章 クロレシアの思惑
第二十八話 復讐
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クロレシアの王を追っている俺の真横から騎士が剣を突き出してきた。それを間一髪のところで体をひねって避ける。
危なかった……。もう少し遅ければ腹を貫かれていたことだろう。今まで出会った兵士とは違いさすがに技量も並じゃない。油断していたらすぐにこの世を去らなければならなくなってしまうだろう。
「くそっ……次から次へと湧いてきやがるっ……!」
徐々に小さくなっていくクロレシア王の背中を目で追いながら、再び襲い掛かってきた剣を自分の魔法で作り上げた土の剣ではじいた。ズシリと腕に重い振動が伝わる。それと同時に軽いめまいが起こった。この感覚は以前味わったアレだ。魔力切れってやつ。回復した分がそろそろ尽きてきたらしい。
それも相まって息を切らせながら階段を上っている俺に向かって、またしても騎士が襲い掛かってきた。踏ん張って避けようとした膝がガクリと折れ、そのまま後ろに体がかしぐ。
やばいっ……! 何かに掴まろうとした手はそのまま空を切った。落ちるっ……。
焦るのは気ばかりで倒れていく体をどうすることもできなかった。そこにさらに騎士の剣が襲う。
「ニーズヘッグ!」
声と同時に俺の目の前にいた騎士をニーズヘッグが弾き飛ばした。倒れそうになっていた体はナナセに腕を掴まれかろうじてその場に留まる。
「ナナセ、お前……」
「あの人には僕も恨みがあるんだ。君だけに復讐させるわけにはいかないよ。僕も行く」
そのままナナセは右から来ていた騎士を持っていた杖で殴打すると蹴り落として先へと進んでいった。
「頼もしい限りだな。……けど、向こうは三人じゃねーか。あのコタロウ相手だぞ……、大丈夫なのかよ」
テンもちょこちょこ魔法を使っていたし、回復量も俺と大して変わりないはずだ。ちらりと階下を見て一瞬戻ろうかとも思ったが、魔力切れ状態の今の俺じゃ逆に足手まといになるかもしれないと判断し、急いでナナセの後を追った。それに俺だってあいつに任せきりなんて冗談じゃないって思ったしな。今まで苦しんできた分を全部返さなきゃ気が済まない。
階段を上っていく途中再び何度か騎士には襲われたが、ナナセのおかげで俺は魔法を使うことなく王が逃げ込んだらしい部屋の前までたどり着くことができた。そのまま怒りと憎しみを抱きつつ勢いよくその扉を開く。
扉の先は玉座がある場所だったらしく一番奥に巨大な窓があり、入り口付近の薄暗さとは打って変わって光が室内にさんさんと照り付けていた。玉座の前から王がこちらをゆっくりと振り返って見てくる。逆光で顔に影がかかり表情は全く見えなかった。見えたのはうっすらと笑んでいる口元だけだ。
この野郎、まさか楽しんでやがるのか……? 俺の怒りがさらに爆発した。
――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
「ククク、まさかお前がボクの前に立ちはだかるとはねぇ、TK86」
「違う! あたしはタケル、タケルなの!!」
タケルは剣を強く握りしめ、コタロウを睨みつけた。カタカタと震える指先が視線の強さに反して心の不安を知らせている。そんなタケルにヴェリアが歩み寄っていった。
「コタロウ様にその口の利き方は何だ? たかが開発中の兵器風情が!」
ぐいとタケルの顎を持ち上げ、剣を持っている方の手首を掴んでひねる。タケルが小さく悲鳴を上げて剣を取り落とした。痛みで顔を歪めつつ、それでも睨みつける視線はそのままヴェリアを射抜いている。
「その目、ムカつくね。また記憶を消してやろうか」
そう言って着ていた白衣のポケットに突っ込もうとしていたヴェリアの手首を小さな手が掴んで止めた。タケルとヴェリアが同時にそちらを見る。
「せっかく自己紹介したばっかなんだからさー、忘れられちゃったら困るんだよねー。それにぼく今のタケルの方が明るくて好きなの。だからおねぃさん、ぼくと遊んでよ」
にっこり笑うテンを見たヴェリアは視線をテンの背中に移し、そこにある本を見てくつくつと笑った。
「そうか、お前あの時の……禁書の精霊か! それならば……」
そこまで言ったところでいきなりヴェリアが燃え盛った。とっさにタケルとテンは飛び退って難を逃れたが、ヴェリアは悲鳴を上げてその場に転がっている。何事かと二人は視線を巡らせた。
「くだらないおしゃべりは嫌いなんだよ。その本以外は必要なくなったんだから残りのゴミは廃棄だ」
言葉と同時にコタロウの周りに炎が燃え盛り始めた。入り口付近に居た人々を巻き込みながら周囲を焼き尽くしていく。コタロウにとっては周りにいる人々もゴミという事らしい。
「入り口がっ……!」
焦るテンの横に桔梗が歩み寄った。口元に笑みを浮かべてはいるが危険を了承しているのだろう、冷や汗が額を伝っている。桔梗は不安げに上階をちらりと見上げた。
「あの二人を置いて逃げるわけにもいかないしな……、今は時間を稼ぐしかない」
そこで何かを思いついたのか桔梗は先程とは違う怪しい笑みを浮かべた。視線をタケルの方へと送る。
「タケル、生還したらきっとうっしーからご褒美のちゅーがもらえるぞ。全力でいけ」
「えっ! ほんと!? やる! やっつけちゃうんだから!!」
タケルの顔から一瞬で不安という文字が消し飛んだ。勢いよく地面を蹴ると、ヴェリアの横に落ちていたままの剣を拾いコタロウに向かって踊りかかっていく。炎の風圧で吹き飛ばされ焼かれてはいたものの怯むことはなかった。頼もしい限りだ。
「テン、お前には私からご褒美をやろう」
「えええ!!! マジで!!?? おおお、おねぃさんからのちゅうぅぅ!!!! いやいや、もしかしたらさらにその先の……うふ、うふふ……。ぼくやっちゃう~❤」
テンもいきなり元気になると、タケルに向かっていたコタロウの炎を水の魔法ですぐに打ち消した。桔梗の口元からは心の底からこみあげてくる笑みが消えない。そのままようやく痛みから解放されたらしく、ムクリと起き上がったヴェリアに向き直った。
「さっきやられた分を返す時が来たみたいだな、偽乳女」
桔梗は立ち上がろうとしていたヴェリアに向かって呪文を唱え始めた。
――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
王は玉座の後ろから豪華そうな長剣を取り出すと、怒りのまま斬りかかっていった俺の剣を受けた。そのままなぎ倒される。こいつ、結構力が強い。魔力切れで息が上がっている状態じゃ一太刀浴びせるのもやっとだ。
「ニーズヘッグ!!」
ナナセが召喚したニーズヘッグは王の足元から勢いよく飛び出したものの、後ろに軽く避けられて空振りに終わった。ナナセも避けられることは予測していたのか、杖を頭上に掲げたままさらに魔力を注いでいる。
何をするつもりだと見ていたら、ニーズヘッグが炎を吹き出した。そう言えば俺と戦ってた時も火を吹いていたっけ。
王はそれでも焦ることなく軽く踊るようにその炎を避けていた。俺、クロレシアの王を甘く見ていたみたいだ。もっと簡単に復讐を終えられるだろうと思ってたけど、それは難しい事だと悟った。けどここで引き下がるわけにはいかないんだよ!! こいつが居なくなれば俺達”紋章持ち”は救われるはずなんだから。
俺はナナセの攻撃に便乗して、王が炎を避けた隙を狙って斬りかかった。
「ふん、その程度か”紋章持ち”が」
王がニーズヘッグの炎を避けつつ俺の剣をはじき、それどころか斬りかかってきた。とっさに魔法で石のつぶてを飛ばして後ずさる。
「王! あなただけは許さない!!」
ナナセが再びニーズヘッグを召喚しようと杖を掲げたところで、扉が開く音と同時に部屋中に大きな声が響いた。
「そこまでだ! ナナセ=スティンリー」
「お兄ちゃまっ……!」
兵士に拘束されて抱えられながら部屋に入ってきたのは紛れもない、ナナセの妹ヤエだ。首筋には兵士の剣が今にも切り裂きそうな位置で止められている。
どうしてこんな所に居るのか……なんて思ったのは一瞬で、今の状況を考えれば一目瞭然だ。あの子、人質にされてる……。
「ヤエ……どう……して……」
ナナセが混乱しているのかヤエと王の方を交互に見ながら上げていた手を下ろした。兵士の剣がヤエの喉を今にも切り裂きそうなんだ、下手に動いたら即殺されかねない。俺の額にも冷や汗が伝った。
「貴様の裏切りはすでに連絡を受けている。助けてやった恩も忘れたか、ナナセ=スティンリー」
王はそのままナナセに歩み寄ると、その足を剣で貫いた。
「うぁっ!」
「ナナセッ!!」
叫んで駆け寄ろうとしたが、兵士の剣がヤエの喉元に食い込むのを見てすぐに動きを止めた。あのまま少しでも横に滑らせられてしまえば小さな命は即絶たれるだろう。魔法で攻撃するか……、けどヤエを助けている間にナナセが王に殺されるかもしれない。俺はただ、今の状況を見守るしかなかった。
「この私の前で頭が高いぞナナセ。また拷問してやらねば気が済まぬか」
「っ……!」
突き刺さっていた剣を引き抜かれた痛みで膝を折ったナナセを見下しながら、王が剣を振り上げた。あいつ、ナナセを斬るつもりか!? ヤエとナナセ、二人を交互に見ていた俺に向かって、ヤエが叫んだ。
「私は大丈夫!! お願い、お兄ちゃまを助けて!!」
ヤエの言葉に背を押されるように、俺はとっさに魔法を発動した。王に向かって岩を突き出す。
「くっ……貴様っ……!」
王が怯んだ隙にナナセに駆け寄り、すぐに回復魔法を発動した。兵士はなぜかヤエの首を斬るのを戸惑っている。
「この、ガキっ……!!」
「きゃっ」
兵士はヤエの首ではなくなぜか腕を切った。
なぜ殺さないんだ? 不思議に思っていたらヤエが斬られた腕を押さえつつ答えてくれた。
「私にはまだ利用価値がある……そうでしょ? 王様」
ヤエの言葉に答える声はなかった。その代わりに王が剣を突き出す。
「貴様の紋章を必要とするのもサレジスト帝国を手に入れるまでだ。……おい、裏切り者の妹だ。牢に連れて行け」
王の命により兵士に引きずられていくヤエを見て、ナナセは小刻みに体を震わせた。一瞬恐怖で震えているのかとも思ったが、違う。こいつ本気で怒ってるんだ。地の底から響くような低い声でナナセは呟いた。
「ニーズヘッグ、王を殺せ」
いきなり目の前に飛び出してきたニーズヘッグは近くに居た俺すらをも弾き飛ばし、王に向かって行った。
俺、こんなナナセを初めて見る……。復讐だけじゃない、ナナセはヤエが利用されてたことに対しても怒ってるんだ。それだけ大事な妹……どうにか助けてやりたい。俺もとっさに動くと、兵士に向かって魔法を発動した。直後、何が起こったのか見てなかったから分からない。いきなりニーズヘッグの悲鳴がこだました。
危なかった……。もう少し遅ければ腹を貫かれていたことだろう。今まで出会った兵士とは違いさすがに技量も並じゃない。油断していたらすぐにこの世を去らなければならなくなってしまうだろう。
「くそっ……次から次へと湧いてきやがるっ……!」
徐々に小さくなっていくクロレシア王の背中を目で追いながら、再び襲い掛かってきた剣を自分の魔法で作り上げた土の剣ではじいた。ズシリと腕に重い振動が伝わる。それと同時に軽いめまいが起こった。この感覚は以前味わったアレだ。魔力切れってやつ。回復した分がそろそろ尽きてきたらしい。
それも相まって息を切らせながら階段を上っている俺に向かって、またしても騎士が襲い掛かってきた。踏ん張って避けようとした膝がガクリと折れ、そのまま後ろに体がかしぐ。
やばいっ……! 何かに掴まろうとした手はそのまま空を切った。落ちるっ……。
焦るのは気ばかりで倒れていく体をどうすることもできなかった。そこにさらに騎士の剣が襲う。
「ニーズヘッグ!」
声と同時に俺の目の前にいた騎士をニーズヘッグが弾き飛ばした。倒れそうになっていた体はナナセに腕を掴まれかろうじてその場に留まる。
「ナナセ、お前……」
「あの人には僕も恨みがあるんだ。君だけに復讐させるわけにはいかないよ。僕も行く」
そのままナナセは右から来ていた騎士を持っていた杖で殴打すると蹴り落として先へと進んでいった。
「頼もしい限りだな。……けど、向こうは三人じゃねーか。あのコタロウ相手だぞ……、大丈夫なのかよ」
テンもちょこちょこ魔法を使っていたし、回復量も俺と大して変わりないはずだ。ちらりと階下を見て一瞬戻ろうかとも思ったが、魔力切れ状態の今の俺じゃ逆に足手まといになるかもしれないと判断し、急いでナナセの後を追った。それに俺だってあいつに任せきりなんて冗談じゃないって思ったしな。今まで苦しんできた分を全部返さなきゃ気が済まない。
階段を上っていく途中再び何度か騎士には襲われたが、ナナセのおかげで俺は魔法を使うことなく王が逃げ込んだらしい部屋の前までたどり着くことができた。そのまま怒りと憎しみを抱きつつ勢いよくその扉を開く。
扉の先は玉座がある場所だったらしく一番奥に巨大な窓があり、入り口付近の薄暗さとは打って変わって光が室内にさんさんと照り付けていた。玉座の前から王がこちらをゆっくりと振り返って見てくる。逆光で顔に影がかかり表情は全く見えなかった。見えたのはうっすらと笑んでいる口元だけだ。
この野郎、まさか楽しんでやがるのか……? 俺の怒りがさらに爆発した。
――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
「ククク、まさかお前がボクの前に立ちはだかるとはねぇ、TK86」
「違う! あたしはタケル、タケルなの!!」
タケルは剣を強く握りしめ、コタロウを睨みつけた。カタカタと震える指先が視線の強さに反して心の不安を知らせている。そんなタケルにヴェリアが歩み寄っていった。
「コタロウ様にその口の利き方は何だ? たかが開発中の兵器風情が!」
ぐいとタケルの顎を持ち上げ、剣を持っている方の手首を掴んでひねる。タケルが小さく悲鳴を上げて剣を取り落とした。痛みで顔を歪めつつ、それでも睨みつける視線はそのままヴェリアを射抜いている。
「その目、ムカつくね。また記憶を消してやろうか」
そう言って着ていた白衣のポケットに突っ込もうとしていたヴェリアの手首を小さな手が掴んで止めた。タケルとヴェリアが同時にそちらを見る。
「せっかく自己紹介したばっかなんだからさー、忘れられちゃったら困るんだよねー。それにぼく今のタケルの方が明るくて好きなの。だからおねぃさん、ぼくと遊んでよ」
にっこり笑うテンを見たヴェリアは視線をテンの背中に移し、そこにある本を見てくつくつと笑った。
「そうか、お前あの時の……禁書の精霊か! それならば……」
そこまで言ったところでいきなりヴェリアが燃え盛った。とっさにタケルとテンは飛び退って難を逃れたが、ヴェリアは悲鳴を上げてその場に転がっている。何事かと二人は視線を巡らせた。
「くだらないおしゃべりは嫌いなんだよ。その本以外は必要なくなったんだから残りのゴミは廃棄だ」
言葉と同時にコタロウの周りに炎が燃え盛り始めた。入り口付近に居た人々を巻き込みながら周囲を焼き尽くしていく。コタロウにとっては周りにいる人々もゴミという事らしい。
「入り口がっ……!」
焦るテンの横に桔梗が歩み寄った。口元に笑みを浮かべてはいるが危険を了承しているのだろう、冷や汗が額を伝っている。桔梗は不安げに上階をちらりと見上げた。
「あの二人を置いて逃げるわけにもいかないしな……、今は時間を稼ぐしかない」
そこで何かを思いついたのか桔梗は先程とは違う怪しい笑みを浮かべた。視線をタケルの方へと送る。
「タケル、生還したらきっとうっしーからご褒美のちゅーがもらえるぞ。全力でいけ」
「えっ! ほんと!? やる! やっつけちゃうんだから!!」
タケルの顔から一瞬で不安という文字が消し飛んだ。勢いよく地面を蹴ると、ヴェリアの横に落ちていたままの剣を拾いコタロウに向かって踊りかかっていく。炎の風圧で吹き飛ばされ焼かれてはいたものの怯むことはなかった。頼もしい限りだ。
「テン、お前には私からご褒美をやろう」
「えええ!!! マジで!!?? おおお、おねぃさんからのちゅうぅぅ!!!! いやいや、もしかしたらさらにその先の……うふ、うふふ……。ぼくやっちゃう~❤」
テンもいきなり元気になると、タケルに向かっていたコタロウの炎を水の魔法ですぐに打ち消した。桔梗の口元からは心の底からこみあげてくる笑みが消えない。そのままようやく痛みから解放されたらしく、ムクリと起き上がったヴェリアに向き直った。
「さっきやられた分を返す時が来たみたいだな、偽乳女」
桔梗は立ち上がろうとしていたヴェリアに向かって呪文を唱え始めた。
――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
王は玉座の後ろから豪華そうな長剣を取り出すと、怒りのまま斬りかかっていった俺の剣を受けた。そのままなぎ倒される。こいつ、結構力が強い。魔力切れで息が上がっている状態じゃ一太刀浴びせるのもやっとだ。
「ニーズヘッグ!!」
ナナセが召喚したニーズヘッグは王の足元から勢いよく飛び出したものの、後ろに軽く避けられて空振りに終わった。ナナセも避けられることは予測していたのか、杖を頭上に掲げたままさらに魔力を注いでいる。
何をするつもりだと見ていたら、ニーズヘッグが炎を吹き出した。そう言えば俺と戦ってた時も火を吹いていたっけ。
王はそれでも焦ることなく軽く踊るようにその炎を避けていた。俺、クロレシアの王を甘く見ていたみたいだ。もっと簡単に復讐を終えられるだろうと思ってたけど、それは難しい事だと悟った。けどここで引き下がるわけにはいかないんだよ!! こいつが居なくなれば俺達”紋章持ち”は救われるはずなんだから。
俺はナナセの攻撃に便乗して、王が炎を避けた隙を狙って斬りかかった。
「ふん、その程度か”紋章持ち”が」
王がニーズヘッグの炎を避けつつ俺の剣をはじき、それどころか斬りかかってきた。とっさに魔法で石のつぶてを飛ばして後ずさる。
「王! あなただけは許さない!!」
ナナセが再びニーズヘッグを召喚しようと杖を掲げたところで、扉が開く音と同時に部屋中に大きな声が響いた。
「そこまでだ! ナナセ=スティンリー」
「お兄ちゃまっ……!」
兵士に拘束されて抱えられながら部屋に入ってきたのは紛れもない、ナナセの妹ヤエだ。首筋には兵士の剣が今にも切り裂きそうな位置で止められている。
どうしてこんな所に居るのか……なんて思ったのは一瞬で、今の状況を考えれば一目瞭然だ。あの子、人質にされてる……。
「ヤエ……どう……して……」
ナナセが混乱しているのかヤエと王の方を交互に見ながら上げていた手を下ろした。兵士の剣がヤエの喉を今にも切り裂きそうなんだ、下手に動いたら即殺されかねない。俺の額にも冷や汗が伝った。
「貴様の裏切りはすでに連絡を受けている。助けてやった恩も忘れたか、ナナセ=スティンリー」
王はそのままナナセに歩み寄ると、その足を剣で貫いた。
「うぁっ!」
「ナナセッ!!」
叫んで駆け寄ろうとしたが、兵士の剣がヤエの喉元に食い込むのを見てすぐに動きを止めた。あのまま少しでも横に滑らせられてしまえば小さな命は即絶たれるだろう。魔法で攻撃するか……、けどヤエを助けている間にナナセが王に殺されるかもしれない。俺はただ、今の状況を見守るしかなかった。
「この私の前で頭が高いぞナナセ。また拷問してやらねば気が済まぬか」
「っ……!」
突き刺さっていた剣を引き抜かれた痛みで膝を折ったナナセを見下しながら、王が剣を振り上げた。あいつ、ナナセを斬るつもりか!? ヤエとナナセ、二人を交互に見ていた俺に向かって、ヤエが叫んだ。
「私は大丈夫!! お願い、お兄ちゃまを助けて!!」
ヤエの言葉に背を押されるように、俺はとっさに魔法を発動した。王に向かって岩を突き出す。
「くっ……貴様っ……!」
王が怯んだ隙にナナセに駆け寄り、すぐに回復魔法を発動した。兵士はなぜかヤエの首を斬るのを戸惑っている。
「この、ガキっ……!!」
「きゃっ」
兵士はヤエの首ではなくなぜか腕を切った。
なぜ殺さないんだ? 不思議に思っていたらヤエが斬られた腕を押さえつつ答えてくれた。
「私にはまだ利用価値がある……そうでしょ? 王様」
ヤエの言葉に答える声はなかった。その代わりに王が剣を突き出す。
「貴様の紋章を必要とするのもサレジスト帝国を手に入れるまでだ。……おい、裏切り者の妹だ。牢に連れて行け」
王の命により兵士に引きずられていくヤエを見て、ナナセは小刻みに体を震わせた。一瞬恐怖で震えているのかとも思ったが、違う。こいつ本気で怒ってるんだ。地の底から響くような低い声でナナセは呟いた。
「ニーズヘッグ、王を殺せ」
いきなり目の前に飛び出してきたニーズヘッグは近くに居た俺すらをも弾き飛ばし、王に向かって行った。
俺、こんなナナセを初めて見る……。復讐だけじゃない、ナナセはヤエが利用されてたことに対しても怒ってるんだ。それだけ大事な妹……どうにか助けてやりたい。俺もとっさに動くと、兵士に向かって魔法を発動した。直後、何が起こったのか見てなかったから分からない。いきなりニーズヘッグの悲鳴がこだました。
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