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第六章 紋章の秘密
第五十五話 役目
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血が、体中から噴き出す。このままじゃ全員失血死だ。回復しようにも暴風が酷すぎて追い付かないんだ。テンがとっさに張った水の防壁は、ノワールがすぐさま氷の魔法で突き破ってきた。
「させないから!!」
タケルが全身傷だらけになりながらも自身の指先にキスを落とした。それと同時に辺りに光が満ち溢れる。久しぶりにまともに見た、タケルの力だ。思えば俺、この力に何度も救われてきたんだよな。
「きゃあぁぁ!!」
ノワールの周囲に光が奔っていく。状況を説明したかったんだけど、俺の視界に映ったのはそれだけだったんだ。タケルの動きが早すぎたうえ貧血も相まって、姿を捉えられなかった。
ただ聞こえた悲鳴のあと暴風が止んだから、俺は何より先にみんなを回復するために走る。早くしないとヤバいと思ったからさ。俺たち全員言葉で言い表せない程赤く染まってた。特に桔梗はノワールが女を嫌ってるせいなのかめちゃくちゃ酷かったんだ。俺だって眩暈でフラフラだったけど、桔梗はすでに命すら危ういだろうと感じた。
どうにかテンと協力してようやく回復を終えた頃には、タケルは倒れたノワールの喉元に剣を当てていた。そっか、あいつ止めを刺すつもりなんだ……。
ノワールの事少し気の毒にも感じたけど、同情して放っておけば間違いなく俺達の方が先に殺されてしまうだろう。話すら聞いてもらえないのならもうこうするしかない、ちょっと冷たい気もしなくはなかったが仕方がない事だと俺は固唾をのんで見守った。
「ごめんね、バイバイ」
ぼそりと呟いてタケルは剣を奔らせる。だけどそれはノワールの喉を掻き切ることなく何かに軽く止められ、同時に周囲を溶岩のごとき熱気が包み込んだ。この恐怖に近い炎、覚えがある。いや、ありすぎる。俺は恐る恐るタケルの剣を止めている何か……ではなく、誰かを見た。
「少々遅いと思って来てみれば……。こんな所でゲームのコマを失くされちゃ困るんだよねぇ。お前たちは必ずクロレシアへ来る。その時に楽しいゲームをしようと思ってるんだ。コレはその時のコマだからね」
「コタロウ!!」
白髪に赤い目、ニヤリと口角を上げた久しぶりのその顔に悪寒がはしる。相変わらず恐ろしい男だ。そんな感想を抱いている間に、辺りに広がっていた炎が徐々に距離を縮め、俺達を包み込んできた。しかも奴は指先でつまんでいたタケルの剣を軽く押して彼女を転ばせると、目の前にも炎を展開してきたんだ。
「くそ、コタロウ。テメェ!!」
「クロレシアで待っているよ、クソ共」
コタロウが口角を上げたまま気絶しているらしいノワールを肩に担ぐ。だけどその先は何をしたのか炎が邪魔で分からなかった。気が付いたときには炎ごと奴は消えてた。
ゲームって、何なんだよ。あいつ、ノワールの事をコレなんて言ってた。あいつが何を考えて何をしようとしてるのか、俺には考えても全く分からなかったんだ。
「うっしー、レガルがどうなったのかが気になる。あいつの事はひとまず置いておくとして、先に進もう」
「あ、ああ。そうだな……」
呆然とコタロウが消えた先を見つめていた俺の肩を桔梗が叩いてくれる。おかげで我に返ったよ。一つうなずいてタケルに手を差し伸べた。
「平気か?」
「あ、う、うん! ありがと」
「ノワール……」
うつむいたままぼそりと呟いていたテンの肩は何故かナナセが叩いていた。珍しい組み合わせだなって一瞬思ったけど、分かり合いたい相手とすれ違ったままってのが何処か通じるものがあったのかもしれない。俺は一呼吸置くと二人に声をかけた。
「行こうぜ」
「そうだね」
テンは無言だったけど、それでも俺達の後についてくる。岩の魔物が塞いでいた出口の向こうへと、俺達は進んでいった。
燃えている木々、焦げた臭い、未だ炎が残っている家屋……。光の先はまさに炎と炭と化していた。
「なんて……酷い有様だ」
桔梗がぼそりと呟く。ナナセがガクリと膝をついた。
「そんな……。これじゃ情報が得られないじゃないか。せっかく、ここまで来たのに……」
「嘘だろ……。これもノワールがやったのか? 木々たちが言ってた、まもなく自分たちも消え去るってこの事だったのかよ」
ようやく解決の糸口が掴めると思ったのに、またふりだしじゃねーか……。どうすりゃいいんだと不安で戸惑ってる俺達の横にタケルが歩み寄ってきた。
「あれ? さっきまでこんなんじゃなかったのに……?」
そんな事を言いながらなぜかきょろきょろとし始める。そういえば今さらだけど、はぐれた時どこ行ってたのか気になって聞いてみた。タケルのこの反応、淡い期待があったんだ。
「んっとね、気が付いたらうっしー達居なくなってたでしょ? どうしようって慌ててたらここの村の前に辿り着いたんだぁ。しかもね、村人達があたしの事刻の子だって言ってちょーろー? だったっけ、おじいちゃんの前に連れてかれて……。うっしー達とはぐれたって言ったんだけど、いきなり軟禁されたうえどうしてここに来たのかまで説明求められちゃって……。えへへ、ナナセか桔梗が居てくれてたら理解してもらえるのもっと早かったんだろーけどね。でもホントおかしいんだよ。ここさっきまで燃えてなかったし、ちゃんとした村だったのに」
「これ……今見えてるのは、幻かもしれないよ」
タケルの言葉に、テンがぼそりと呟いた。なるほど、確かに俺達はあの岩の魔物を倒して入って来た侵入者だ。村と何か関わりがあるらしいタケルでさえ説明を求められるほどの警戒の仕方ならありえなくはないだろう。そうと分かれば……。俺は思いっきり息を吸い込んだ。
「俺達は怪しい奴じゃない! ただ大地の腐敗の理由が知りたいだけなんだ。頼む、知ってるなら教えてくれ!!」
「ちょっとぉ! 叫ぶなら先に言ってよ!! うー、いきなり隣で大声とかさぁ、耳がキンキンするぅ」
ごちゃごちゃ悩んでるより聞いてもらった方が早いと、俺は何もない燃えている木々に向かって叫んだ。文句を言うテンには悪いと思ったけど、俺が考えるのも悩むのも苦手だって知ってんだろ。まぁ俺だって期待はしてなかったんだけどさ。
けどいきなり焼け焦げた景色がカーテンのように開いたかと思えば、その先に腰の曲がった一人の爺さんが杖をついて立っていた。もしかしたらタケルがさっき言っていた長老ってやつだろうか。
「ふむ、その行動……主が単純明快なうっしーと言う男か。確かに刻の子の言う通りじゃ、信じるとしよう。わしはこのレガルを守る長老じゃ。狂気の精霊の襲撃もあり、このような出迎えですまぬな客人よ」
単純明快って……おいタケル、いったい爺さんにどんな説明したんだよ。俺はジト目でタケルの方を見つつ長老の方へと近づいた。
「聞きたいことはたくさんあるんだけど、まずは休ませてくれないか? ここに来る前に色々あってさ、俺は結構元気なんだけど見ての通りみんなへとへとなんだ」
服は血まみれだし見るからにヘロヘロだからすぐに理解してくれたらしい。長老は俺達に背を向けると、ついて来いとだけ言って歩き出した。俺達が中に入ったのと同時に背後でカーテンのように開いていた景色が戻っていく。
「この幻影……すごいな。これも魔力で生み出してるのか?」
「そうじゃ。レガルの長老にのみ受け継がれる力じゃよ。我らも大地が生み出せし”紋章持ち”の一人じゃからの。力は先代長老の死とともに受け継がれるのじゃ」
「大地が、生み出した!?」
いきなりの事実に驚愕の声が漏れる。大地が生み出したのは精霊だけじゃなかったのか!? 俺達”紋章持ち”も精霊と似たようなものなんだろうか? 尋ねようと口を開きかけたところでタケルが悲鳴を上げた。
「タケル!? どうした!?」
振り返って見てみれば腹部を押さえてうずくまっている。また女の事情かよ!? なんて驚いて戸惑ってる間にナナセが慌ててタケルに駆け寄っていた。
あいつ、女の事情にも詳しいのか? 戸惑いながら見ているだけしかできない俺をよそに、ナナセは切羽詰まった感じで長老に話しかけてた。
「ふむ、そうじゃの。どうせ誰にもどうにもできぬことじゃ。ならば多少なら……」
長老は何を聞いたのか意味ありげにそう呟いた。その後俺の方を見ると、一つうなずいて話し出す。
「むやみに公にできる話でもない。精霊も申し訳ないが信用できぬ、お主にだけ話そう。そちらの四人は村人に休める場所まで案内させよう。ここで待っておれ」
長老は俺にだけついて来いと目配せすると、再び歩き出した。
「タケル。大丈夫か……?」
「う、うぅ……」
「彼女は僕が休ませておくよ。君は早く長老から大地の腐敗の理由と直し方を聞いてきて」
「あ、ああ、そうだな。タケルを頼む」
ナナセの言う通り、俺じゃどうにもできないんだし今は話を聞くのが先だよな。ようやく大地の腐敗を治せるかもしれないんだ。俺は四人に視線を巡らせうなずくと、長老の後に続いた。
「させないから!!」
タケルが全身傷だらけになりながらも自身の指先にキスを落とした。それと同時に辺りに光が満ち溢れる。久しぶりにまともに見た、タケルの力だ。思えば俺、この力に何度も救われてきたんだよな。
「きゃあぁぁ!!」
ノワールの周囲に光が奔っていく。状況を説明したかったんだけど、俺の視界に映ったのはそれだけだったんだ。タケルの動きが早すぎたうえ貧血も相まって、姿を捉えられなかった。
ただ聞こえた悲鳴のあと暴風が止んだから、俺は何より先にみんなを回復するために走る。早くしないとヤバいと思ったからさ。俺たち全員言葉で言い表せない程赤く染まってた。特に桔梗はノワールが女を嫌ってるせいなのかめちゃくちゃ酷かったんだ。俺だって眩暈でフラフラだったけど、桔梗はすでに命すら危ういだろうと感じた。
どうにかテンと協力してようやく回復を終えた頃には、タケルは倒れたノワールの喉元に剣を当てていた。そっか、あいつ止めを刺すつもりなんだ……。
ノワールの事少し気の毒にも感じたけど、同情して放っておけば間違いなく俺達の方が先に殺されてしまうだろう。話すら聞いてもらえないのならもうこうするしかない、ちょっと冷たい気もしなくはなかったが仕方がない事だと俺は固唾をのんで見守った。
「ごめんね、バイバイ」
ぼそりと呟いてタケルは剣を奔らせる。だけどそれはノワールの喉を掻き切ることなく何かに軽く止められ、同時に周囲を溶岩のごとき熱気が包み込んだ。この恐怖に近い炎、覚えがある。いや、ありすぎる。俺は恐る恐るタケルの剣を止めている何か……ではなく、誰かを見た。
「少々遅いと思って来てみれば……。こんな所でゲームのコマを失くされちゃ困るんだよねぇ。お前たちは必ずクロレシアへ来る。その時に楽しいゲームをしようと思ってるんだ。コレはその時のコマだからね」
「コタロウ!!」
白髪に赤い目、ニヤリと口角を上げた久しぶりのその顔に悪寒がはしる。相変わらず恐ろしい男だ。そんな感想を抱いている間に、辺りに広がっていた炎が徐々に距離を縮め、俺達を包み込んできた。しかも奴は指先でつまんでいたタケルの剣を軽く押して彼女を転ばせると、目の前にも炎を展開してきたんだ。
「くそ、コタロウ。テメェ!!」
「クロレシアで待っているよ、クソ共」
コタロウが口角を上げたまま気絶しているらしいノワールを肩に担ぐ。だけどその先は何をしたのか炎が邪魔で分からなかった。気が付いたときには炎ごと奴は消えてた。
ゲームって、何なんだよ。あいつ、ノワールの事をコレなんて言ってた。あいつが何を考えて何をしようとしてるのか、俺には考えても全く分からなかったんだ。
「うっしー、レガルがどうなったのかが気になる。あいつの事はひとまず置いておくとして、先に進もう」
「あ、ああ。そうだな……」
呆然とコタロウが消えた先を見つめていた俺の肩を桔梗が叩いてくれる。おかげで我に返ったよ。一つうなずいてタケルに手を差し伸べた。
「平気か?」
「あ、う、うん! ありがと」
「ノワール……」
うつむいたままぼそりと呟いていたテンの肩は何故かナナセが叩いていた。珍しい組み合わせだなって一瞬思ったけど、分かり合いたい相手とすれ違ったままってのが何処か通じるものがあったのかもしれない。俺は一呼吸置くと二人に声をかけた。
「行こうぜ」
「そうだね」
テンは無言だったけど、それでも俺達の後についてくる。岩の魔物が塞いでいた出口の向こうへと、俺達は進んでいった。
燃えている木々、焦げた臭い、未だ炎が残っている家屋……。光の先はまさに炎と炭と化していた。
「なんて……酷い有様だ」
桔梗がぼそりと呟く。ナナセがガクリと膝をついた。
「そんな……。これじゃ情報が得られないじゃないか。せっかく、ここまで来たのに……」
「嘘だろ……。これもノワールがやったのか? 木々たちが言ってた、まもなく自分たちも消え去るってこの事だったのかよ」
ようやく解決の糸口が掴めると思ったのに、またふりだしじゃねーか……。どうすりゃいいんだと不安で戸惑ってる俺達の横にタケルが歩み寄ってきた。
「あれ? さっきまでこんなんじゃなかったのに……?」
そんな事を言いながらなぜかきょろきょろとし始める。そういえば今さらだけど、はぐれた時どこ行ってたのか気になって聞いてみた。タケルのこの反応、淡い期待があったんだ。
「んっとね、気が付いたらうっしー達居なくなってたでしょ? どうしようって慌ててたらここの村の前に辿り着いたんだぁ。しかもね、村人達があたしの事刻の子だって言ってちょーろー? だったっけ、おじいちゃんの前に連れてかれて……。うっしー達とはぐれたって言ったんだけど、いきなり軟禁されたうえどうしてここに来たのかまで説明求められちゃって……。えへへ、ナナセか桔梗が居てくれてたら理解してもらえるのもっと早かったんだろーけどね。でもホントおかしいんだよ。ここさっきまで燃えてなかったし、ちゃんとした村だったのに」
「これ……今見えてるのは、幻かもしれないよ」
タケルの言葉に、テンがぼそりと呟いた。なるほど、確かに俺達はあの岩の魔物を倒して入って来た侵入者だ。村と何か関わりがあるらしいタケルでさえ説明を求められるほどの警戒の仕方ならありえなくはないだろう。そうと分かれば……。俺は思いっきり息を吸い込んだ。
「俺達は怪しい奴じゃない! ただ大地の腐敗の理由が知りたいだけなんだ。頼む、知ってるなら教えてくれ!!」
「ちょっとぉ! 叫ぶなら先に言ってよ!! うー、いきなり隣で大声とかさぁ、耳がキンキンするぅ」
ごちゃごちゃ悩んでるより聞いてもらった方が早いと、俺は何もない燃えている木々に向かって叫んだ。文句を言うテンには悪いと思ったけど、俺が考えるのも悩むのも苦手だって知ってんだろ。まぁ俺だって期待はしてなかったんだけどさ。
けどいきなり焼け焦げた景色がカーテンのように開いたかと思えば、その先に腰の曲がった一人の爺さんが杖をついて立っていた。もしかしたらタケルがさっき言っていた長老ってやつだろうか。
「ふむ、その行動……主が単純明快なうっしーと言う男か。確かに刻の子の言う通りじゃ、信じるとしよう。わしはこのレガルを守る長老じゃ。狂気の精霊の襲撃もあり、このような出迎えですまぬな客人よ」
単純明快って……おいタケル、いったい爺さんにどんな説明したんだよ。俺はジト目でタケルの方を見つつ長老の方へと近づいた。
「聞きたいことはたくさんあるんだけど、まずは休ませてくれないか? ここに来る前に色々あってさ、俺は結構元気なんだけど見ての通りみんなへとへとなんだ」
服は血まみれだし見るからにヘロヘロだからすぐに理解してくれたらしい。長老は俺達に背を向けると、ついて来いとだけ言って歩き出した。俺達が中に入ったのと同時に背後でカーテンのように開いていた景色が戻っていく。
「この幻影……すごいな。これも魔力で生み出してるのか?」
「そうじゃ。レガルの長老にのみ受け継がれる力じゃよ。我らも大地が生み出せし”紋章持ち”の一人じゃからの。力は先代長老の死とともに受け継がれるのじゃ」
「大地が、生み出した!?」
いきなりの事実に驚愕の声が漏れる。大地が生み出したのは精霊だけじゃなかったのか!? 俺達”紋章持ち”も精霊と似たようなものなんだろうか? 尋ねようと口を開きかけたところでタケルが悲鳴を上げた。
「タケル!? どうした!?」
振り返って見てみれば腹部を押さえてうずくまっている。また女の事情かよ!? なんて驚いて戸惑ってる間にナナセが慌ててタケルに駆け寄っていた。
あいつ、女の事情にも詳しいのか? 戸惑いながら見ているだけしかできない俺をよそに、ナナセは切羽詰まった感じで長老に話しかけてた。
「ふむ、そうじゃの。どうせ誰にもどうにもできぬことじゃ。ならば多少なら……」
長老は何を聞いたのか意味ありげにそう呟いた。その後俺の方を見ると、一つうなずいて話し出す。
「むやみに公にできる話でもない。精霊も申し訳ないが信用できぬ、お主にだけ話そう。そちらの四人は村人に休める場所まで案内させよう。ここで待っておれ」
長老は俺にだけついて来いと目配せすると、再び歩き出した。
「タケル。大丈夫か……?」
「う、うぅ……」
「彼女は僕が休ませておくよ。君は早く長老から大地の腐敗の理由と直し方を聞いてきて」
「あ、ああ、そうだな。タケルを頼む」
ナナセの言う通り、俺じゃどうにもできないんだし今は話を聞くのが先だよな。ようやく大地の腐敗を治せるかもしれないんだ。俺は四人に視線を巡らせうなずくと、長老の後に続いた。
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