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三章:過去/自由
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話し終えた時、ハチは片眉を上げて分からないといった表情でユーマに言った。
「てか、今の話聞く限りだと別に組織から出る必要感じないんだけど」
「話してないところに理由があるんだよ」
「話してないところ……ああ、例えば、想起催眠をかけられたこととか?」
「お前には関係ないだろ。取りあえず寝て、明日には連絡来るはずだから調べよう」
ユーマの提案に対し、こちらが呆気にとられるぐらいすんなりと、ハチは「そうね」と同意して寝る体制になった。
どちらも着の身着のままである。せめて着替えようかと思ったユーマだったが、ぐいっと手を引かれるとそのままベッドに引きずり込まれた。
「な、にすんだよ」
「ん? 寝るんでしょ?」
そう言うとハチはユーマを後ろから抱きしめる。抜け出そうとしたものの、上手く体が動かないように体を固められていて溜息をついた。
「それに、いつ何があってもいいようにこのまま寝る方が正解じゃない?」
「それはまぁ……そうだけど」
ユーマはそう答えながらも、抜け出る事を諦めた。
確かにここはハチのセーフハウスである。セーフハウスはその名の通り、そもそも見つかりにくく、且つ、別名義で借りていたり、誰にも知らせていない住処のことをいう。
「でもここは、それなりに安全なんだろう?」
「安全だよ。基本的には、この周辺一キロ圏内は安全」
耳元で低く落ち着いた声がした。抱きしめられていることもあってか、それが妙に心地良く感じてしまい、ユーマは居心地の悪さを感じる。
「なんで言い切れるんだ?」
「言わなかったっけ? このあたりに住んでる奴らは顔見知りだよ。皆何かしら事情があって流れて来てる人間だから、そういう人間には仲間意識が働く。そうじゃない人間には、敵意しかないからね。ユーマが街に行ってる間、最低限話はつけておいた。だからユーマは安全だよ」
顔を見ようと思って身を捩ったが、上手くハチの表情を伺い見る事は出来なかった。
「さっき話した通り、俺はそのシュンって男を殺したい。だから、そこに行き着くまではユーマは守るよ。雇われてるしね」
「俺を守ろうとすればシュンは絶対現われて、お前にとっても利益はあるってことね」
「いいの? 元同僚みたいなもんでしょ。いざって時、そっちについたりしない?」
少し揶揄いを含んだ色の声が耳朶をくすぐる。ユーマはわざとらしい溜息をついてその言葉に真剣に答える。
「しないよ。それは誓う。それにシュンも俺の事を殺したくて仕方が無い筈だよ。躊躇してたらこっちがやられる」
「何か恨まれてんの?」
「……最初、ミナトは俺の事を嫌ってたし、俺もそんなに興味はなかったって言ったろ? その後、なんだかんだで俺達はお互いに唯一無二の存在になった。少し話せば今までの壁はすぐになくなって、目の前の問題を解決する方がもちろん大事になって、その内に仲は深くなって……。そのあとにシュンがきたけど、シュンは最初からミナトに陶酔してたんだ。だからアイツにとってはいつだって俺は邪魔だったんだ」
「はーん、三角関係ってやつ?」
やはり揶揄う口ぶりだが、そういう風に言われても仕方がないと理解している。それに実際のところ、そうだったと肯定してしまったほうが楽だと思わざるを得ない関係だった、ともいえる。
「ある意味そう。ある意味ね」
「ユーマは今は組織から出たいし、そのミナトから離れたいんでしょう? でも、そうなると昔は好きだったってこと?」
「別に……そういうわけじゃない」
欠伸をかみ殺してユーマは言った。今はこの話はする必要はない気がした。
「もう寝ないか? 後は明日でも、明後日でも出来る」
「まぁ、それもそうか」
言って、ハチは耳元に軽く唇を寄せて、小さくおやすみと囁いた。
甘ったるい恋人がするような仕草に溜息が漏れて、ユーマもその眠りの挨拶に返事をして目を閉じた。
「てか、今の話聞く限りだと別に組織から出る必要感じないんだけど」
「話してないところに理由があるんだよ」
「話してないところ……ああ、例えば、想起催眠をかけられたこととか?」
「お前には関係ないだろ。取りあえず寝て、明日には連絡来るはずだから調べよう」
ユーマの提案に対し、こちらが呆気にとられるぐらいすんなりと、ハチは「そうね」と同意して寝る体制になった。
どちらも着の身着のままである。せめて着替えようかと思ったユーマだったが、ぐいっと手を引かれるとそのままベッドに引きずり込まれた。
「な、にすんだよ」
「ん? 寝るんでしょ?」
そう言うとハチはユーマを後ろから抱きしめる。抜け出そうとしたものの、上手く体が動かないように体を固められていて溜息をついた。
「それに、いつ何があってもいいようにこのまま寝る方が正解じゃない?」
「それはまぁ……そうだけど」
ユーマはそう答えながらも、抜け出る事を諦めた。
確かにここはハチのセーフハウスである。セーフハウスはその名の通り、そもそも見つかりにくく、且つ、別名義で借りていたり、誰にも知らせていない住処のことをいう。
「でもここは、それなりに安全なんだろう?」
「安全だよ。基本的には、この周辺一キロ圏内は安全」
耳元で低く落ち着いた声がした。抱きしめられていることもあってか、それが妙に心地良く感じてしまい、ユーマは居心地の悪さを感じる。
「なんで言い切れるんだ?」
「言わなかったっけ? このあたりに住んでる奴らは顔見知りだよ。皆何かしら事情があって流れて来てる人間だから、そういう人間には仲間意識が働く。そうじゃない人間には、敵意しかないからね。ユーマが街に行ってる間、最低限話はつけておいた。だからユーマは安全だよ」
顔を見ようと思って身を捩ったが、上手くハチの表情を伺い見る事は出来なかった。
「さっき話した通り、俺はそのシュンって男を殺したい。だから、そこに行き着くまではユーマは守るよ。雇われてるしね」
「俺を守ろうとすればシュンは絶対現われて、お前にとっても利益はあるってことね」
「いいの? 元同僚みたいなもんでしょ。いざって時、そっちについたりしない?」
少し揶揄いを含んだ色の声が耳朶をくすぐる。ユーマはわざとらしい溜息をついてその言葉に真剣に答える。
「しないよ。それは誓う。それにシュンも俺の事を殺したくて仕方が無い筈だよ。躊躇してたらこっちがやられる」
「何か恨まれてんの?」
「……最初、ミナトは俺の事を嫌ってたし、俺もそんなに興味はなかったって言ったろ? その後、なんだかんだで俺達はお互いに唯一無二の存在になった。少し話せば今までの壁はすぐになくなって、目の前の問題を解決する方がもちろん大事になって、その内に仲は深くなって……。そのあとにシュンがきたけど、シュンは最初からミナトに陶酔してたんだ。だからアイツにとってはいつだって俺は邪魔だったんだ」
「はーん、三角関係ってやつ?」
やはり揶揄う口ぶりだが、そういう風に言われても仕方がないと理解している。それに実際のところ、そうだったと肯定してしまったほうが楽だと思わざるを得ない関係だった、ともいえる。
「ある意味そう。ある意味ね」
「ユーマは今は組織から出たいし、そのミナトから離れたいんでしょう? でも、そうなると昔は好きだったってこと?」
「別に……そういうわけじゃない」
欠伸をかみ殺してユーマは言った。今はこの話はする必要はない気がした。
「もう寝ないか? 後は明日でも、明後日でも出来る」
「まぁ、それもそうか」
言って、ハチは耳元に軽く唇を寄せて、小さくおやすみと囁いた。
甘ったるい恋人がするような仕草に溜息が漏れて、ユーマもその眠りの挨拶に返事をして目を閉じた。
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