不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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四章:愛情/執着

「それで想起催眠を仕込まれたってこと?」
「まぁ、そういうことだな」
 街までの道はまっすぐと続いている。そのため、今回も自動運転に任せて向かっている最中、また少しばかり昔の話をすることになった。
「それでキスして感じたら、催淫効果みたいなやつにしたってわけ? それって、ユーマが仕事をするときに誰かとセックスしても、その催眠のせいってことにするためってこと?」
「そういうこと、だと思う」
「そこまでするぅ?」
 笑いながらハチはハンドルに一応手を添えていた。やはり対向車はおらず、規定速度より少し速い速度で車は進んでいく。
「そこまでして、俺が他の奴と寝ることを正当化しときたかったんだよ。アイツにとっては考えられないこと、だから」
「そのミナトともヤってんでしょ?」
 ハチの言葉にユーマは頷いて答えた。今更照れたり隠すようなことではない。

 ミナトとの始まりについて、きっかけはよく覚えていない。ただおそらくは、ミナトの方はユーマのことが好きだから、キスをしたのだと思う。それが始まりで、ユーマ自身それは不快ではないから、受け入れた。ただそれだけだったと言える。
 ユーマにとってはその行為にさほど大きな意味はない。それに、組織に入る前の劣悪な環境下での生活を思い出せば大概のことは受け入れられる。
 だからその時から二人の中ではボタンのかけ違えが起こっていたのだ。互いに気づくことなくそのまま進んで、気がついた時には、どちらも後戻りできなくなっていた。
 ミナトはユーマを手に入れることへの執着が。ユーマはその執着から自由を得ることへの欲求が。
「本当はユーマのこと、閉じ込めちゃいたいんじゃないの、ミナトって」
「なんでそう思うの?」
 ハチの言葉に少し驚いてユーマは運転席を見た。前を一応見ていた視線がユーマに向けられる。
「そういう奴の依頼は受けたことあるから」
「どういう依頼?」
「殺しはしない。でも自由を奪う程度には怪我をさせてもいいから連れてきてほしいっていうの。その後は監禁して手放さないようにするから、っていう感じの? 別に俺は金がもらえれば、仕事だから何だってするし良いんだけどさぁ。殺さないでって、一番難しいんだよねぇ」
 ため息と共に納得した。
 ミナトは何度もそうしたいとユーマに言ったことがある。だがユーマは有能な殺し屋でもあった。組織内での他の者とのつながりは少なくとも、彼の手を借りたいというものは時々いて、ミナト経由で仕事を請けることがあった。それはミナトにとっては組織のためであり、自分のためにもなる。
 そういった依頼をこなすことで、ミナトの地位はさらに確固たるものになる。もちろんユーマ意外に適材がいる仕事ならば、そちらに振るようにミナトはしていた。だがユーマが行けるならばユーマにやらせる。それは組織のトップとして当たり前のことを当たり前のようにこなしていた。

「まぁ、アイツもそんなこと言ってたかなぁ。それこそ想起催眠の実験した後だけど、これが唯一の譲歩って感じで」
「結構執着するんだねぇ」
 話している内容とはまったく正反対の性質の明るい声で笑われて、ユーマも小さく笑った。 
「でも嫌だつっても、簡単に引き下がってはくれないだろうしな」
「だから今の俺だよ」
 だからこそ、今のようにとにかく組織を出ることを第一に考えて動いていた。
 ふと、その時対向車が一台見えた。
 珍しいと思った。それほど道は人通りがないのが普通なのだ。この辺り、流浪者が暮らしている郊外というのは。
 車とすれ違う寸前。
 ハチはハンドルを握ると、思い切りアクセルを踏み込む。
「わっ」
「あれ、そうじゃない?」
 ハチの視線がバックミラーに向かう。ユーマはすぐに振り返って後をみる。
 さっきまで対向車線にいた車が急停止して方向を転換させる。
「シュン?」
 思わず声を上げた。同時にハチが言う。
「掴まって」
 咄嗟にユーマは上部にあるグリップを掴んだ。
 一気に遠心力に身体が振り回される。
 道から外れ、車は荒地を走りだす。喋ろうとしたものなら、舌を噛みそうなほどの振動が車体を揺らす。
 それでもユーマはもう一度後を確認した。
 車が一台、後をつけて来ている。
「ここ、ギリ、ショートカットできるから」
 そう言ってハチは楽しそうにアクセルを踏み込み、速度メーターを上げ続ける。
 ガン、と揺れが襲ってきて、同時にキューブレーキで身体がドアに叩きつけられる。
 再び車が走りだした道は、舗装されたアスファルトだ。
 そこは郊外から市街地へと続く道。もう少し走れば幹線道路へと接続される。
 周りの車の進行を妨害しないぎりぎりのタイミングで、ハチは進行方向へとハンドルを切り、アクセルを踏み込んだ。
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