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四章:愛情/執着
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「なんて?」
「IDは二人分準備してくれるって」
そして街から、国から出る時には、必要な偽造情報だけを残して、今の情報は全て消去するということも伝えた。
もちろん、組織に残っている情報まではロスにでも難しいだろう。だが彼ならそこまでやるかもしれない。いや、できなくても十分である。自分たちの今までがなくなってしまえば、それで問題はない。
「そこまでして貰えるなら、街出るだけでもいいんじゃない?」
「お前が国出ようつったんだろ? それに、ほんとに自由になりたいなら、街より国出る方が確かだと俺も思うから良いよ」
ふぅん、と納得したのかしてないのか、曖昧な相槌を漏らしてハチはハンドルを切った。
そろそろ街に入る。ここからは全く考えていないが、既にシュンは追跡しているだろう。街に入れば否が応でも監視カメラに姿は記録される。もちろん車に乗っているから視認はしにくいだろうが、できない訳では無い。それに組織の力を使えば簡単だ。
「言い忘れてるけど、出たら戻れないと思うよ?」
「別に今更。思い残すことはないよ」
車の流れが早くなり、多くなる。窓の外を眺めてユーマは今度こそ立ちされるかもしれない街について思いを馳せる。
この街は巨大だ。国の中枢であり、ほとんどが集約されている。人口が減った世界において、一都市への一極集中はどの国も同じだった。だから街は実質国である。
その街で生きてきた。どん底から、それなりにいい生活をした。だがその過程で様々な普通とは縁遠くなった。だがそもそも最初から普通ではない。普通ではないから、普通に憧れたけど、多分普通にはなれない。
ロスに話したように、自分は殺すことしか知らない。殺さないで食い扶持を稼げ、と言われたら今はもう何をしたらいいのか分からない。普通に仕事をしろ、と言われても無理だ。時間と対価。関係と感情。すべてが割に合わない。身体を売るというのは殺しとは違う、ひとつの手段だが。
「シュンは俺が殺したいけど、ミナトは来るの?」
ハチの言葉に思考が現在に戻される。
「さあ。あんまアイツは表に出るイメージないから、シュンにまかせてるんじゃないかな。それにアイツは殺しとか出来ないし」
ミナトの専門はそもそもネット犯罪だ。そこから組織に入り込んできた男なのでハチやユーマとはまったく違う。
「とりあえず、街についたら腹ごしらえする?」
「そうだな。そうこうしてたら、見つかんだろ」
見つかるために、ハチのセーフハウス周辺を守るためにも街に戻ったのだ。見つけてくれなければ意味もない。
「なんか囮作戦って感じ? ちょっと楽しい」
ハチが言った言葉に、ユーマは少し呆れたように笑って、否定はしなかった。
幹線道路を行きハチは適当な駐車場に車を停めると、雑居ビルの方へと向かって歩いていく。先を歩くハチの後をユーマはついていきながら、あまり来たことのない街並みを見上げていた。
「この辺、一回ぐらいしか来たことないかも」
「街も広いからねぇ。この辺りは食べるとこたくさんあるよ」
「へぇ」
慣れた足取りで歩いていくハチについていきながら、ふと後を振り返って誰かついてきていないかユーマは確認していた。だが視覚端子をつけているわけでもない。それにシュンが追って来ていたとしても簡単に見つかるような追跡はしないだろう。さっきのはおそらくシュンにとっても想定外だったはずだ。
「そーんな気にしなくても、来るときは来るでしょ?」
ハチの言葉にユーマは再び前を向く。
「まぁ、そうだな。それで、何食うんだ?」
「んー、何か食べたいものある?」
人混みの中を歩いていく。人々は笑いながら怒りながら、ただ雑談を交わしながら生活している。喧騒は街の生命を感じさせるものであり、どこか落ち着く。ハチが歩いていく道沿いには雑貨や飲食店、食材店などが乱雑に軒を連ねている。様々な匂いが混じっているが、嫌な感じはしなく、その奥に美味そうな匂いを感じる。
「あー……麺とか?」
「麺ね、いいよ」
そう言うとハチはこっち、と指差して歩いていく。たどり着いたのは開けた場所に、いくつかの店が開放的に商売を営んでいるフードコートだった。
「ここでどう?」
ハチは一軒の店の前に着くと言って、ユーマはそれに同意した。
店の前には数人の先客がいて、二人はメニューを眺めながら準場を待っていた。
店のおすすめとして、麺の種類やスープの種類、具材まで決まっている商品もあるし自分で全てを選ぶ手段もある。
腕組みをしてユーマは悩んだが、彼の場合はどのおすすめにするか、で悩んでいた。
「なんかいろんな種類があるんだな」
「どういう組み合わせでも案外いけるよ」
なるほど、と呟きながらもユーマは一番売れ筋のメニューを選ぶことにした。一方でハチは全てを自分でカスタマイズするらしく、店先に並ぶ具材を覗きこみながら自分たちの番を待っていた。
しばらくして二人の番がくると、ハチは麺にスープの種類、そして具材をチョイスして注文していく。具材が多すぎたのか、二つで十分だと言われたが、別添えでもいいからと言って店員のアドバイスを却下していた。一方のユーマはすでに組み上がっているメニューを読み上げて注文する。
「支払いは俺がやるよ」
「いいの?」
「俺が金使ったほうが、見つかりやすいでしょ」
そう言ってユーマはスマートフォンを立ち上げた。一般的に使用されている電子通貨アプリを立ち上げると、瞬時に代金分が店へと送られる。
残高が表示されているそれをひょいと覗き込んで、ハチは少しわざとらしく口笛を吹いた。
「お金もってんじゃん」
「まぁ、あるにはあるけど。だからといってこれで出られるっていうほどの額じゃないだろ?」
ハチはその言葉に肩を竦めた。
「それはそうだけど、ね。色々入り用だし。まぁ、俺たちも仕事をする前と今じゃ、多分桁がちょっとおかしくなってるんだよね。金銭感覚もだし、色々?」
その疑問系の言葉にユーマが今度は肩を竦めた。
「色々、ね」
命の価値も今と昔では変わってしまっていることは、ユーマもよくわかっていた。
「IDは二人分準備してくれるって」
そして街から、国から出る時には、必要な偽造情報だけを残して、今の情報は全て消去するということも伝えた。
もちろん、組織に残っている情報まではロスにでも難しいだろう。だが彼ならそこまでやるかもしれない。いや、できなくても十分である。自分たちの今までがなくなってしまえば、それで問題はない。
「そこまでして貰えるなら、街出るだけでもいいんじゃない?」
「お前が国出ようつったんだろ? それに、ほんとに自由になりたいなら、街より国出る方が確かだと俺も思うから良いよ」
ふぅん、と納得したのかしてないのか、曖昧な相槌を漏らしてハチはハンドルを切った。
そろそろ街に入る。ここからは全く考えていないが、既にシュンは追跡しているだろう。街に入れば否が応でも監視カメラに姿は記録される。もちろん車に乗っているから視認はしにくいだろうが、できない訳では無い。それに組織の力を使えば簡単だ。
「言い忘れてるけど、出たら戻れないと思うよ?」
「別に今更。思い残すことはないよ」
車の流れが早くなり、多くなる。窓の外を眺めてユーマは今度こそ立ちされるかもしれない街について思いを馳せる。
この街は巨大だ。国の中枢であり、ほとんどが集約されている。人口が減った世界において、一都市への一極集中はどの国も同じだった。だから街は実質国である。
その街で生きてきた。どん底から、それなりにいい生活をした。だがその過程で様々な普通とは縁遠くなった。だがそもそも最初から普通ではない。普通ではないから、普通に憧れたけど、多分普通にはなれない。
ロスに話したように、自分は殺すことしか知らない。殺さないで食い扶持を稼げ、と言われたら今はもう何をしたらいいのか分からない。普通に仕事をしろ、と言われても無理だ。時間と対価。関係と感情。すべてが割に合わない。身体を売るというのは殺しとは違う、ひとつの手段だが。
「シュンは俺が殺したいけど、ミナトは来るの?」
ハチの言葉に思考が現在に戻される。
「さあ。あんまアイツは表に出るイメージないから、シュンにまかせてるんじゃないかな。それにアイツは殺しとか出来ないし」
ミナトの専門はそもそもネット犯罪だ。そこから組織に入り込んできた男なのでハチやユーマとはまったく違う。
「とりあえず、街についたら腹ごしらえする?」
「そうだな。そうこうしてたら、見つかんだろ」
見つかるために、ハチのセーフハウス周辺を守るためにも街に戻ったのだ。見つけてくれなければ意味もない。
「なんか囮作戦って感じ? ちょっと楽しい」
ハチが言った言葉に、ユーマは少し呆れたように笑って、否定はしなかった。
幹線道路を行きハチは適当な駐車場に車を停めると、雑居ビルの方へと向かって歩いていく。先を歩くハチの後をユーマはついていきながら、あまり来たことのない街並みを見上げていた。
「この辺、一回ぐらいしか来たことないかも」
「街も広いからねぇ。この辺りは食べるとこたくさんあるよ」
「へぇ」
慣れた足取りで歩いていくハチについていきながら、ふと後を振り返って誰かついてきていないかユーマは確認していた。だが視覚端子をつけているわけでもない。それにシュンが追って来ていたとしても簡単に見つかるような追跡はしないだろう。さっきのはおそらくシュンにとっても想定外だったはずだ。
「そーんな気にしなくても、来るときは来るでしょ?」
ハチの言葉にユーマは再び前を向く。
「まぁ、そうだな。それで、何食うんだ?」
「んー、何か食べたいものある?」
人混みの中を歩いていく。人々は笑いながら怒りながら、ただ雑談を交わしながら生活している。喧騒は街の生命を感じさせるものであり、どこか落ち着く。ハチが歩いていく道沿いには雑貨や飲食店、食材店などが乱雑に軒を連ねている。様々な匂いが混じっているが、嫌な感じはしなく、その奥に美味そうな匂いを感じる。
「あー……麺とか?」
「麺ね、いいよ」
そう言うとハチはこっち、と指差して歩いていく。たどり着いたのは開けた場所に、いくつかの店が開放的に商売を営んでいるフードコートだった。
「ここでどう?」
ハチは一軒の店の前に着くと言って、ユーマはそれに同意した。
店の前には数人の先客がいて、二人はメニューを眺めながら準場を待っていた。
店のおすすめとして、麺の種類やスープの種類、具材まで決まっている商品もあるし自分で全てを選ぶ手段もある。
腕組みをしてユーマは悩んだが、彼の場合はどのおすすめにするか、で悩んでいた。
「なんかいろんな種類があるんだな」
「どういう組み合わせでも案外いけるよ」
なるほど、と呟きながらもユーマは一番売れ筋のメニューを選ぶことにした。一方でハチは全てを自分でカスタマイズするらしく、店先に並ぶ具材を覗きこみながら自分たちの番を待っていた。
しばらくして二人の番がくると、ハチは麺にスープの種類、そして具材をチョイスして注文していく。具材が多すぎたのか、二つで十分だと言われたが、別添えでもいいからと言って店員のアドバイスを却下していた。一方のユーマはすでに組み上がっているメニューを読み上げて注文する。
「支払いは俺がやるよ」
「いいの?」
「俺が金使ったほうが、見つかりやすいでしょ」
そう言ってユーマはスマートフォンを立ち上げた。一般的に使用されている電子通貨アプリを立ち上げると、瞬時に代金分が店へと送られる。
残高が表示されているそれをひょいと覗き込んで、ハチは少しわざとらしく口笛を吹いた。
「お金もってんじゃん」
「まぁ、あるにはあるけど。だからといってこれで出られるっていうほどの額じゃないだろ?」
ハチはその言葉に肩を竦めた。
「それはそうだけど、ね。色々入り用だし。まぁ、俺たちも仕事をする前と今じゃ、多分桁がちょっとおかしくなってるんだよね。金銭感覚もだし、色々?」
その疑問系の言葉にユーマが今度は肩を竦めた。
「色々、ね」
命の価値も今と昔では変わってしまっていることは、ユーマもよくわかっていた。
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