不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

文字の大きさ
52 / 61
四章:愛情/執着

10

しおりを挟む
 風を切って現れた小さな飛行物体、ドローンを前に動きたのはハチだった。
 素早く銃をシュンに向かって数発撃ちながら間合いを詰める。
 シュンは焦る様子もなくそれを躱わして、次の攻撃に出ようとした。
 だが動きが重い。
 その異変にシュンはすぐに気がついて、はっと視線を空に一瞬向ける。
「よそ見してる場合かよ」
 ハチは笑って呟いて、銃を捨てる。そして勢いよくシュンの顎下を狙い拳を振り上げた。
 見事に決まったアッパーの勢いで、シュンは後へと倒れる。だが持ち前の身体能力を総動員して体制を立て直す。
 転がりながら邪魔になったのか、頭部につけていた強化外骨格の一部を投げ捨てる。

 その様子を見ていたユーマは、ホッとして身体の力を抜くと地面に身体を完全に横たわらせて目を閉じた。じくじくと足が痛む。早くどうにかしないと、と思うが今はシュンの始末が先だ。
「あれか」
 ミナトの声がした。ふと目を開けて顔を上げると、ミナトは銃をドローンに向けていた。
 だがドローンはその銃口から逃げるようにランダムな動きをしながら離れていく。ハチとシュンからは離れすぎないように、一定の距離を保って。その間にもミナトはドローンを狙う。だが数発打った銃弾は空に飲み込まれて当たらない。
「……お前の仕込みか、ユーマ」
「そうだよ。ちょっとした知り合いがいて、とにかく、ジャミングというか妨害? できるようにお願いしたんだよ」

 ロスに頼んだのは強化外骨格の機能を短時間でも良いから落とせないか、というものだった。
 別料金を徴収すると言われたものは、然るべき時に間に合った。
 だが会話のあとハチにスマートフォンを奪われた。あの時彼がが何を話していたのかわからない。ただあの時の会話でハチも、ユーマが何を準備したのかは理解していたはずだ。だからあのタイミングで、ユーマの言葉に動けた。
「間に合わないかと思ったけど」
「あれで勝てると?」
「さぁ、分かんないけど。ただ何もできない状態は結果的に打破できたし、なんとかなるんじゃないのって、思ってる
「あの強化外骨格は効率性重視のために、確かに電気、電源を必要としている。故に無線充電さえ途絶えさせれば使い物にならない。だが、シュンだって弱くはない」
「もちろん、知ってるさ」

 強化外骨格がほとんど機能停止した瞬間、シュンは最善の策を取るべく思考を一気にフル回転させたのだろう。結果的に彼は緊急時の解除ボタンを押すと、まとっていた強化外骨格を、胴体を除いて全て取り外した。
 衣服の上から纏っていた強化外骨格は、プロテクターのように肘や膝、肩を覆っていて、そこを支店に他の部分を覆っていた。動きな合わせてガラガラと落ちたナノカーボン製の部位を見てハチは納得したように唸った。
「見た目はゴツそうだけど、軽そうな音だし。確かに防御性能もあるようだし、便利そうね」
「別に無くなったところで、何も変わりませんよ」
「なぁに、むしろアレ? ソレが重りになってたから、身軽になったとか?」
 楽しげなハチの声にシュンは少しだけ笑う。
「そうとも言えます」
 そう言うと、シュンは背面に隠し持っていた小型のナイフを両手で引き抜く。身を低くして、ハチに駆け寄る。
 確かに強化外骨格がなくとも彼の動きは素早かった。むしろ、あった時の方が重たかったのではないかと思う滑らかさと俊敏さだ。
「はっ、いいじゃん?」
 ハチの挑発的な声がした。

 ユーマは深く息を吐いた。気を保とうとしなければ、どんどん世界が白く塗りつぶされ、真っ黒に転換しそうになる。
 必死の意識のつなぎ止めの中、ミナトの足が軽くユーマの足を踏んだ。
「ぐっ……ぁ」
「今、君が命乞いをするならすぐに助けてあげるよ」
「っ……、それは、いやだ」
 傷口へと、押し付けた靴の裏を滑らせ、ぎりぎりと踏みつける。痛みに耐えかねた声をあげると、ハチの視線が一瞬ユーマに向いた。
 素早く駆け出してユーマに、否、ミナトに向かってハチは拾い上げた銃で発砲した。
 逃げるほとんど照準はデタラメだった。だが運良く一発はミナトの肩にあたり、よろめいてユーマの痛みは遠ざかる。
「はっ……あ、ハチ」
「大丈夫? あと少し我慢して」
 特にそれ以上気に止める様子もなくハチはすぐに駆け出す。
 同時にシュンの投げたナイフがハチの脇に刺さり、呻き声を上げながらその場に倒れそうになる。それでもギリギリで持ち直すと、ハチはナイフを抜いて握り直した。
 血は流れている。徐々にその量は少なくなり、すぐに止まる。
「いい?」
 そのセリフの意味をユーマはすぐには理解できなかった。だが、視線の意味に気がついて、ユーマは頷く。
 そして、ハチは素早く身を翻した。
 それまでの怪我も出血もものともせずに、彼はまるで舞うように、自らの脇に刺さって傷を残したナイフを手に回る。
 そして、その一刀をミナトにむかって投げた。
 ハチの手を離れたナイフはミナトの腹に刺さる。

「ミナト様!」
 シュンの叫び声がした。
 すぐにハチに向かって飛びかかる。
 力の限り、技の限りを尽くして、息の根を止めるためにシュンはハチに襲いかかる。
 ハチはよろめいた。殴り、刺されながらも、それらに反撃する一撃一撃を与えていく。
 二人の殺り合う声と音を聞きながら、ユーマは腕を使って這うとミナトの傍に寄った。 
 ナイフは深く刺さってた。だがまだ呼吸はしていて、恐らく彼の異常を察知した組織の人間が助けにくるだろうことは容易に想像できた。
「……トドメは、刺さないのか?」
「刺したい気持ちもある。でも、今の俺にはやっぱり殺す理由は無いんだ」 
「この期に、及んで?」
 はっ、とミナトが笑う気配がした。
 ユーマは同じように、それでも少し力無く笑った。
「ないよ。俺は自由にはなりたいし、お前から離れたいけど。別に殺したいわけじゃないし、死んでほしいわけでもない。たぶんこれも……お前には理解できないもんだよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...