不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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四章:愛情/執着

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 シュンの意識は乱れている。それは遠目に見ているユーマの目にも明らかであり、向かい合い、殺しあっているハチにも明らかだった。おそらく傍に居なければこれほど乱れなかっただろう。傷つく瞬間を、一瞬でも認識しなければ。
 乱れている集中力をここぞとばかりに狙い定め、ハチは拳を繰り出していく。
 しかし一瞬、動きが鈍る。ハチは眉間に皺を寄せて、思ったよりも速度が落ちた拳をシュンの腹に入れた。
「貴様の相手をしている暇はない!」
 声を荒げるシュンを見て、ハチはふと彼はユーマにどこか似ている、と思った。そんな思考が明後日に飛んだ瞬間に、ハチは横っ面を殴られてよろけた。
「……ってぇ。あー、まさかまだ俺の方に干渉できんの? アンタ」
 しかしその問いに答えずにシュンはハチを睨みつけたまま構える。次の一撃をどう出るか。それを考えながらもその一手を見透かされないように集中して。どの瞬間だったのかは分からないが、シュンの集中は今に少し揺り戻されたようだ。否、ミナトが心配だからこそ、早く終わらせたくてそうなったのだろう。
 ハチは笑いながら、片手を上げた。殴る為でもなく、銃を構えるわけでもない。
 それはただの合図。

 空気を切り裂く音がして、再びドローンが二人の視界に現われる。それをみてシュンはハッと目を丸くして、そして攻撃を繰り出す。
 ハチはそれを受け止めながら、先の一手その先の一手、と攻撃を繰り出す。だがシュンもそれを流して攻撃へと転じる。
 互いに間合いを開けて対峙した。次をどうするか。互いの距離を見ながら考える。
「ドローンは一体誰が用意した」
「んー、ユーマの知り合い? 組織外のね」
「……厄介だ」 
 そう言うとシュンはドローンを先に墜とすことを選ぶ。
 地面に落ちていた自らが纏っていた強化外骨格の一部を拾い上げ、投げる。その一挙手一投足、すべてが彼の計算の上の行動であり寸分の狂いなく放たれた。ドローンに攻撃が当たる。
 その瞬間に、ハチは駆け出してシュンへ攻撃を叩き込む。
 地面に落ちている己の銃を拾い、構え、シュンを撃つ。

 銃弾はシュンの胸を貫いた。衝撃に一瞬身体はよろめいたが、それでもまだ立っていた。
 ぐらりと揺れてシュンはその場に膝をつく。
 ハチは歩いて近づくと、銃口をシュンの頭に向けた。
 シュンがハチを見上げる。
「思ったんだけど、アンタってもしかして、アイツに気に入られるために、ユーマの真似してんの?」
 戦い方や動きが似ているというわけではない。おそらくそこに関しては正反対な気がした。だからこれは単純に見た目の話だった。髪型や色。顔の作り自体は変えることは出来ないから、表情の作り方や、喋る時の声の高低差。
 ずっと一緒にいたからこそ似てしまった、という考えもある。だが直感でハチは似せているのだ、と思った。答えは簡単だ。ミナトに自分を好きになってもらいたいからだろう。

「そこまでして気に入ってもらおうなんて、信じられないけど。アンタはそうまでして気に入られたかったってことでしょ」
「だったら……なんだっていうんだ」
「別に何も。俺が殺したかった奴がなんともつまらない男だったっていう事実だけよ」
「殺し……たかった?」
 口元にも血を滲ませ顔を顰めたシュンが呟いた。
「そ。俺もだけどさ、いちいち殺した相手のことなんてよほどの事じゃなきゃ覚えちゃないでしょ? だからアンタにとってはある日の仕事で、別に記憶にも無くて当たり前の殺しの復讐ってとこ」
「何故……俺、だと? 他にも殺し屋は、いる……」
「ユーマが見張りに居た事を突き止めたんだよ。だからユーマに聞いて、アンタって確定ってこと」
 シュンは視線を泳がせた。考えているようにも見えるが、意識が混濁し始めているようにも見える。そうして視線が再びハチに向かった時、シュンは血に濡れた唇に笑みを浮かべた。
「確かに……覚えて、ませんね」
 その言葉を聞いてハチは銃口を降ろし、足元に目がけて数発打ち込んだ。
「ッ、ぁあああ……」
「さて……弾切れ。どうせほっとけば死ぬでしょ。簡単に死ぬより、苦しむ方がいいでしょ」
 地面にどさりと横たわると、シュンはハチを見ていた瞳をミナトがいるほうへと向けた。それでも首を動かすには力が足りずミナトの姿を視界に収めることは出来ない。

「ユーマ、立てる?」
「……無理」
 ハチはシュンに興味を失ったようにユーマの方へと歩いて行く。
「あちゃー。結構ひどいじゃん。死にそう?」
 笑いながら言って、ハチはユーマの腕を掴んだ。そうして無理矢理立たせると、ユーマはうめき声を上げて立とうとした。だが脚が言うことを聞かず、そして痛みに歩く事はままならない。
「そっちは殺したの?」
 ハチはまだ地面に横たわっているミナトに視線を向けて言った。だがミナトから何か言葉が返ってくることはない。それでもまだ彼は生きて居る気配がする。それを裏付けるようにユーマは首を小さく横に振った。
「もうすぐ……組織の奴らがくるよ。だから、はやく……行こう……ってぇ。マジ痛い」
「喋れるなら大丈夫っしょ。それにこっちももうすぐ迎え来るよ」
「迎え?」
 その時一台の車が猛スピードでやって来た。周りはおそらくミナトの力によって人払いはされていたので、その車の登場はとても異様だった。ブレーキ音が鳴り響くと同時にハチはそちらに歩きだす。
「国外脱出は取りあえず怪我が治ってからって感じだねぇ。ほら、早く歩いて、早く」
「ばっ……かか、お前みたいに……すぐ、治る身体じゃねぇんだよ、俺は……」
 それでも必死に脚を動かして、殆どはハチに担がれるようにしてユーマは車へと向かって行く。だがその途中で意識はふと遠くなって、そのまま手放した。
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