不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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終章:自由/不自由

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 ロスはこの場所に来てからずっと残っている仕事をしているのだと言った。それらをこなすには自宅にある設備の一部が必要だったから、最初から車に最低限必要な物は積み込んで来ていたという。そしてハチがセーフハウスに構築してあった設備を間借りして仕事をしているのだという。
 あの日から三日ほど寝ていたと聞かされた。驚きはなかった。起きてからもまだ倦怠感はあり痛みもある。自分でも結構血が出ていたという認識はあった。医者曰く薬を飲み切る頃にはどちらもなくなるという。それまでは絶対安静とのことだった。セーフハウスの一室にユーマを寝かせると、そこでロスは仕事をし始めて今日に至るという。それにはハチも賛成しているのだという。
「だから、起きたって伝えてくるよ」
 そういってロスは部屋を出ていく。今自分がどの部屋にいるのかユーマは正直さっぱりわからなかった。外観からも元はモーテルだった場所だし、それなりに改築はしているようだったし、広いから三人が滞在するのも全く問題は無いだろうとは思った。そう考えているうちにハチはやってきて、そこにロスはいなかったので首を傾げた。
「いやー、よかったよ、死んじゃったかと思っちゃった」
 ケラケラと笑いながらいうハチの言葉は現状に全くそぐわない。だがそれこそが彼らしさな気もして、ユーマは脱力した。
「ロスは?」
「ちょっと休憩するってさ。いやー、俺のセーフハウス超役立ってんじゃん。二人とも俺に感謝してよ? 別料金くれてもいいよ?」
「感謝はしてるし、何か礼はするよ。とにかく……あれから、どうなってるんだ?」
 ハチはベッドの端に腰を下ろすと、ユーマが聞きたかったことを話始めた。
 
 ミナトとシュンは案の定、組織の人間によって保護されていた。もちろんロスが運転する車が走り去った後であり、この車の情報は追跡されていない。様々なカメラに映り込んでいる情報はロスが先周りして仕込んであったデータを展開することで、別の車体に書き換わっていた。そしてカメラの切り換えに応じてそれはその都度変更されるようになっていた。
 ロス曰く、一定の区間を走り抜けると次の車体に変わる。謂わば暗号化のようなものであるという。もちろんこれも専門家がモニタに齧り付いてキーボードを叩き続ければその内突破されるだろう。
 だがそれも大丈夫だとハチは言う。どうしてか、と問えばミナト自身がそれを望んでいないことは既に報道されているから、だという。
 それは少し驚いた。ミナトならばどうにかして追跡しようと考えそうだというのがユーマの印象だった。だが彼はおそらく今の組織を弱体化させてしまうような行動を取ることは嫌だったのだろう。
 そしてなにより、もう一つの理由は明白であって、シュンは緊急搬送された先で亡くなったのだという。果たしてその報道も正しいのか、は分からない。寧ろそうしておくことで、シュンという存在を動かしやすくなるのも確かだ。報道をみた自分達が気を緩める可能性だってなくはない。
 疑心暗鬼なことは理解しながらハチが語る言葉の全てをそのまま信じられないでいた。

「まぁそれは俺も同じよ。でもどのみち今すぐには追ってこないのは確か。それにいい起爆剤だと思ってる節もあるしね」
「起爆剤?」
「そ。ニュースじゃ、二人を攻撃したのは身元不明、犯人不明、現在調査中。ってなってるけど、情勢からして利権争いによる外部からの奇襲じゃないかってのが大筋のシナリオになってる。ある意味俺たちを良いように使ったってこと」
 そういうとハチは立ち上がった。黒いシャツにジーンズというラフな格好のハチは、のんびりとした口調で言った。
「とりあえずもう一度寝ときなよ。薬飲んだなら眠くなるっしょ? また次起きたら、三人で会議よ、会議」
「会議?」
「そう。どこに行くか考えないとね、街の外っていうか、国外?」
「あー……そうか。そっか」
「なに、今さら止める? だとしたらまた別の場所探さないと駄目だけど。郊外で」
「いや、行くよ。そっちの方が早いだろう? ずっとここに居るわけにもいかないし。お前にも……他の人にも迷惑かかるじゃん」
 このあたり一帯は流浪者たちが多く暮らしている。もしもシュンが生きていてこの場所へと再び向かおうとしたなら。もしくはミナトがシュンの行動履歴を見て、この土地に向かって他の誰かを送り込んできたら。そんな不安があった。
 それらをまるで理解しているようで、だが軽くハチは肩を竦めて「大丈夫でしょ」と言った。
「とりあえず今は眠いから寝させてくれ。まだ考える時間はいっぱいあるだろ?」
「あるよ。夢の中でも考えてよ」
 再び横になりベッドに潜り込む。確かに痛みはひいたが代わりに眠気が襲ってくる。腹が減った気もしたが、今は眠気の方が強い。
 それを見越したようにハチは次に起きたら食事を準備すると言った。
 そして身を屈めるとユーマの額に唇をよせる。
「おやすみ」
 嫌な気はしなかったが、そんなことをされる筋合いもないと文句を言いたかったが、微睡みの中に沈んでいく意識は溶けて、何も言えずに再び眠りに就いた。
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