不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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終章:自由/不自由

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「一つ、聞いてみたかったんだけどさ」
 ハチが淹れてくれたコーヒーを手に向かい合って座り、先に口を開いたのはロスだった。一口コーヒーを飲んでみる。ハチも同じように一口飲んで言葉を待っていた。
「どこに行きたいの? 行く場所が決まってるなら、その国に応じて滞在許可も申請しなきゃいけないから、それも作らないとダメだし」
「あ~そっか、そういうのもあるのか」
 そもそもロスは時々個人のIDを依頼されたとき、そういった書類の準備もすることがあった。それらは作ったIDのクオリティを証明できるものでもあるので、合わせて準備することを提案すればほとんどの場合、それもオプションとして料金が上乗せできる。それもロスにとってはおいしいので、いつもこちらから提案していた。
「正直考えてないんだよねぇ、どこに行くとか。そもそも思いつきだしなぁ、俺の」
「俺のって、ハチが言い出したってこと?」
「そそ。街を出るだけなんて面白くないじゃんって思って。逃げるならとことん遠く行った方が良くない?」
「それはまぁそうだけど。よくユーマもそれに乗ったなぁ」
 ちょっと意外な気がして、ロスは口にだしてからコーヒーを一口飲んだ。だが同時に自分はどれだけユーマのことを知っているだろうか、と少し考える。考えてみれば彼のことは知っているようで知らないことも多い。だがほとんどはロスが個人的に調べたから知っているので、ユーマがいちいち口に出さない、というだけな気もした。
「まあ、勢いって大事じゃん?」
 そう言って笑うので、釣られてロスも小さく笑った。

「でもまぁ別に街の外でも最初はいいと思うんだよね。それに金はいるじゃん? だから街を出て、違う街で仕事をしながら街を移動して、その先で国を飛び出すっていうのもいいと思うのよ」
「じゃあ何で国を出ようなんて言い出したんだ?」
 その問いにハチは少し黙って、唇をゆがめて悩んでみせた。そして視線を上に向けて何か思い出すようにした。
「そもそも、俺はユーマのことを少しは知ってたわけよ。調べてたから。それでコイツに近づけば、俺が殺したい奴にも繋がるって思ったから近づこうと思ったのは確か。だから襲われた時に、これはチャンスとも思った。けどそれでトントン拍子っていうか、俺のことを雇うっていう形で俺たちは協力関係になったわけだけど。なんかそうなると、ユーマって根っこは多分俺とは違うなって思って」
「根っこ?」
 ハチの言葉に首を傾げた。
「俺も組織で育ったところあるけどさ、組織をでて暮らしてた。ってのは、調べてどうせ知ってんでしょ?」
 その言葉にロスは頷く。組織を出られた、というのは確かに幼少期においては大きな転換点となるだろう。ユーマは幼い頃に組織に拾われてからは、ずっと組織で生きている。それに本人曰く、外で暮らしていた頃も碌でもなかったという話だから、記憶にあっても今と何も変わらないのかもしれない。
「だから俺は結構自由だったと思うよ。だから考え方も自由。でもユーマって、結構固まってない? 不自由なのを自分で受け入れてて、別に自由になろうとはしてないっつか。でも組織から出たいって思ったっていうのは、多分一歩前進ってやつなんだろうね」
「自由になろうとしてないって、意識がってこと? だけどユーマが組織を出たいって話はずっとしてたよ、俺たちが出会った頃ぐらいからは」
「なんつーか、でもまだ洗脳されてるって感じ? みたいな。だから街を出て、国も出て、だからといって何がしたいってこともない。ただとにかく今は組織を出て、この街から離れたい。そんな感じだったんだろうね。それに自分を低く見積もってる。自分にできるのは殺ししかない。あとは場合によっては身体を使うか。そういやあの想起催眠って解除できたりすんの?」
 唐突な話題の転換だったが、ロスは眉根を寄せて答えた。
「できる、とは思う。でもあれはちょっと特殊だろう? 本来は自己啓発の類みたいな感じで使われるのが多い。例えば自分の決めた動作をしたら、指定した状態に入ることができる、とかさ。でもあれは外的刺激が他人だから」
 分かってはいたが、今向かい合ってコーヒーを飲んでいる男もユーマを抱いたことがあるのだ。仕事の為、ともいうし想起催眠のこともあるので、今更嫉妬するような感情が湧き上がるわけではない。わけではないが、目の前にそういった相手がいる、という状況は初めてだったのでロスは少しだけ自分の感情が揺さぶられる気がした。
「解除はできると思うけど、そのためには技術の要項を理解して、解除しなきゃいけない」
「データはあんの?」
 その言葉にロスはニヤリと笑みを浮かべる。
「お宅の情報をとりに行く時と、ナノボットの情報をとりに行く時と。そのあたりは抜かりなく一緒に拝借しましたとも。つってもまだ全然目は通せてないけど。足がつかないようにデータはちゃんと管理してあるし。まぁ、そのうち落ち着いたら勉強するよ」
「頼もしい~」

 コーヒーを飲みながら二人は少しの間言葉を交わさなかった。ロスはすでにハチのことは確かに信頼に足ると評価していた。彼は仕事柄もあるのかも知れないが、相手のことを良く分析できていた。ユーマのことに関して、ロスも同じように思ったことが何度かあったからだ。
 彼は常に自分にできることは少ない、といっていた。だからこそ殺し屋として仕事をするし、その仕事をこなすためなら何だってする。その姿を見るたびに、彼はもっと自由になっていいと思った。だがそれを自分がいう権利はないとおもって、ロスは何も言えなかった。その代わりに口にしたのが、自分の中に沸々と湧き上がってきたユーマへの好意だった。それを嫌がりながらも、実際に本当に嫌そうには見えなかった。それは他でもなく初めて告白した時にユーマは少しだけ嬉しそうな色をみせたからだ。だがすぐにその色は陰り自分には勿体無いと言った。
 自分は人を愛せないから。愛という感情が理解できないから、それを返すことはできないから。その言葉には偽りはないだろう。そしてそれでも良いと言ったのはロスだ。それでも良いから、そばに居たいと思ったから。これからも会ってほしいと言った。
 返すことはできないが、そう言ってもらえるのは嬉しい。そうユーマは答えて、ロスとの関係は今日まで続いてきた。
「例えばさ、街を出ても仕事しないといけないじゃん? 金持ちってわけでもないし。だから何したいつっても、ユーマは殺ししかできないって答えたのよ」
「ユーマらしいな」
「でもさぁ。殺しができるってことは、人を守ることもできるじゃん? だからそういう仕事すりゃ良いんじゃない、って話したのよ。殺し屋を辞めたいなら用心棒でもしてさぁ、基本的には人殺さないように。殺し方を知ってるからこそ、殺さない方法もわからないわけでもないからね。ただ難しい。殺す方が楽なんだよねぇ」
 ハチの言葉にロスは小さく笑った。
 殺しができるなら守ることもできる。それは確かにそうだろう。相手の出方を計算することもできるし、敵の攻撃から依頼人を守ることもできる。それはおそらくユーマにとっても目から鱗だっただろう。そしてハチという存在はユーマにとって大きなウェイトを占めることになったに違いない。
 ミナトという存在が今までのユーマの中で重要な位置を占めていたのであれば、そこにハチが入り込んだ瞬間だろう。
「なんだか、ユーマがお前のこと気に入ってるっぽいの理解したわ」
「なんで?」
「なんとなく。それに俺も気に入った。だからまずは街を出て、それからいう通り用心棒みたいなこととか、何でも屋みたいなことして金を稼ごう。俺も今までみたいな仕事を新しい街でやればいいだけだし。街が変われば牛耳る組織も変わる。組織が変わればやり方も変えなきゃいけない……大変だけど、面白さはあるからねぇ」
「ついてくる気満々なんだ」
「あったりまえだろ? なんの為にあんだけ俺色々準備して来たと思ってんの? 確かに二人とは世界が違うかも知れない。感覚とか、そういうは違うと思うよ。だからこそ街を変えて違う仕事をするなら、そういう視点と考えはある方がいいだろう?」
 ロスの捲し立てる言葉にハチは笑いながら「そりゃそうだ」と答えて、コーヒーを飲み干した。
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