13 / 53
日常で始まった、非日常
5
しおりを挟む
休憩室に戻った悠人はため息を吐いた。
すでにラストオーダーを終えたところで、キッチンの従業員たちは手早く片付けを終わらせて颯爽と帰っていた。
残るは純一だけになったところで、冬真は上がり準備をしていいと悠人に告げていた。
片付けがまだあると言ったものの、それも殆ど終わっている。
あとはレジ締めだけだからと冬真は悠人にワザと耳打ちした。
「彼を待たせるのはダメでしょう?」
「待たせるって……別に、そんな長時間じゃ、ないし……」
「いいからいいから。お前が連絡しないのがダメなんだから」
そう言って押し込まれ、結局上がりの準備をすることになってしまった。
所在なさげに立っていると、冬真はアイスティーを持って来て手渡すと去っていく。
刺さっているストローを咥えて立ったままアイスティーを飲んで、諦めることにした。
着替え終わってから、少し迷ったがそのままカウンターの方を覗き込んだ。
しかし、居るはずの冬真は見当たらない。
「あれ?」
一歩踏み込むと、角の席の隣りに座って純一と話している冬真が見えた。
テーブルの上にはお冷やのピッチャーまで用意されている。
「ちょ、冬真さん!」
「あー、着替えたぁ? お前遅いよ。あ、グラスはその辺おいといて。洗っとくから」
「ありがとうございます……じゃなくて!」
ばっと入口をみると、すでにクローズの看板を下げている。
そして純一も食事が終わったらしく、グラスの水を飲んでいた。
「準備できたの?」
「あー……うん」
純一は確認すると冬真の方を見て軽く頭を下げた。
伝票を掴んで冬真は立ち上がると、金額を口頭で伝えてレジの方へと向かって行く。
「あーそうそう。休日出勤で仕事するんだったら、全然いつでも電話でも悠人にでも連絡してくれたら、テイクアウト準備しときますよ。取りに来ても良いし、そいつに運ばせてもいいし」
「店長ぉ?」
「おお、お前から店長と言われるなんて久々な気がする」
「あーそれはありがたいかも」
純一はそう呟いて立ち上がった。椅子の音がして悠人はそちらを振り向く。
立ち上がった純一はスマホと財布を手に、眉尻を下げて笑った。
「今日、昼食ってないんだ」
「もしかして、今まで何も食べてなかったのか?」
「買い置きのプロテインバーとかはあるっちゃあるけど。アレじゃ腹膨れないし。行こう?」
純一は軽く悠人の肩に触れた。
びくり、と身体を跳ねさせて悠人は慌てて歩き始める。
「大体、この辺の仕事人間はそういうのばっかなんで、ウチのテイクアウトが案外重宝されてるんですよ。安いし、美味いし」
「今度はパスタ以外も食べに来ます。ドリアとか、美味しそうだし」
「美味いよ~。この手の店のディナーにしちゃ、ちゃんと米も麺もがっつり食えるのは、貴方みたいな人がいるからなんで、是非ごひいきに」
冬真は言いながらレジを打つ。
言っていることは正しくその通りだ。だが相手が純一であるために悠人はため息が思わず漏れてしまう。
純一が財布からカードを取り出し支払う姿を見ていると、冬真は悠人を見て片眉を上げていった。
「お前、ため息ばっかで辛気くさいぞ。飲んで気分転換してきな」
「……はぁ、そうですねぇ」
誰のせいで、何のせいか。全て分かっている男は分からない芝居で言う。
レシートを受け取って純一は「ごちそうさまです」と言うと、悠人を見やった。
「行きがけ、俺の事務所寄ってイイ? 荷物取ってこないと」
「てっきり、荷物それだけかと思った」
「まさか。ラストオーダー間に合わないと、食いっぱぐれると思って」
純一の言葉に笑ったのは冬真だった。
「別にちょっとぐらい大丈夫ですよ。むしろ、ラストオーダーまでに入らないと悠人を誘えないと思ったからでしょう?」
「それはその通りッスね」
「はぁ?」
思わず声を上げて悠人は呆れた顔で純一を見上げた。
同じぐらいの背格好だった少年は、少しだけ見上げる位置に今はいる。
それでも、自分に向けて微笑む表情はあの頃とあまり変わりがないように思えるから不思議だ。
「だーから、お前が連絡しなかったのが悪いんだって」
冬真の嫌味を聞きながら、悠人は舌打ちをしてショルダーバッグを背負い直した。
「行こう」
「あ……俺のバイク、とりあえず、置いて帰っていいですか」
出勤時に使っているクロスバイクのことを冬真に聞いた。
頷いてもちろんと答えると、休憩室に入れておくと付け加えられる。
次の出勤時は久々に歩くしかない。クロスバイクを持って飲みに行くのは何かと面倒だ。
そんなやり取りをして外に出ると、冬真は笑顔で手を振っていた。
振り返った時、いっそ中指を立ててやろうかと思ったが、そこまでではないと思い至る。代わりに、しかめっ面を向けて立ち去った。
すでにラストオーダーを終えたところで、キッチンの従業員たちは手早く片付けを終わらせて颯爽と帰っていた。
残るは純一だけになったところで、冬真は上がり準備をしていいと悠人に告げていた。
片付けがまだあると言ったものの、それも殆ど終わっている。
あとはレジ締めだけだからと冬真は悠人にワザと耳打ちした。
「彼を待たせるのはダメでしょう?」
「待たせるって……別に、そんな長時間じゃ、ないし……」
「いいからいいから。お前が連絡しないのがダメなんだから」
そう言って押し込まれ、結局上がりの準備をすることになってしまった。
所在なさげに立っていると、冬真はアイスティーを持って来て手渡すと去っていく。
刺さっているストローを咥えて立ったままアイスティーを飲んで、諦めることにした。
着替え終わってから、少し迷ったがそのままカウンターの方を覗き込んだ。
しかし、居るはずの冬真は見当たらない。
「あれ?」
一歩踏み込むと、角の席の隣りに座って純一と話している冬真が見えた。
テーブルの上にはお冷やのピッチャーまで用意されている。
「ちょ、冬真さん!」
「あー、着替えたぁ? お前遅いよ。あ、グラスはその辺おいといて。洗っとくから」
「ありがとうございます……じゃなくて!」
ばっと入口をみると、すでにクローズの看板を下げている。
そして純一も食事が終わったらしく、グラスの水を飲んでいた。
「準備できたの?」
「あー……うん」
純一は確認すると冬真の方を見て軽く頭を下げた。
伝票を掴んで冬真は立ち上がると、金額を口頭で伝えてレジの方へと向かって行く。
「あーそうそう。休日出勤で仕事するんだったら、全然いつでも電話でも悠人にでも連絡してくれたら、テイクアウト準備しときますよ。取りに来ても良いし、そいつに運ばせてもいいし」
「店長ぉ?」
「おお、お前から店長と言われるなんて久々な気がする」
「あーそれはありがたいかも」
純一はそう呟いて立ち上がった。椅子の音がして悠人はそちらを振り向く。
立ち上がった純一はスマホと財布を手に、眉尻を下げて笑った。
「今日、昼食ってないんだ」
「もしかして、今まで何も食べてなかったのか?」
「買い置きのプロテインバーとかはあるっちゃあるけど。アレじゃ腹膨れないし。行こう?」
純一は軽く悠人の肩に触れた。
びくり、と身体を跳ねさせて悠人は慌てて歩き始める。
「大体、この辺の仕事人間はそういうのばっかなんで、ウチのテイクアウトが案外重宝されてるんですよ。安いし、美味いし」
「今度はパスタ以外も食べに来ます。ドリアとか、美味しそうだし」
「美味いよ~。この手の店のディナーにしちゃ、ちゃんと米も麺もがっつり食えるのは、貴方みたいな人がいるからなんで、是非ごひいきに」
冬真は言いながらレジを打つ。
言っていることは正しくその通りだ。だが相手が純一であるために悠人はため息が思わず漏れてしまう。
純一が財布からカードを取り出し支払う姿を見ていると、冬真は悠人を見て片眉を上げていった。
「お前、ため息ばっかで辛気くさいぞ。飲んで気分転換してきな」
「……はぁ、そうですねぇ」
誰のせいで、何のせいか。全て分かっている男は分からない芝居で言う。
レシートを受け取って純一は「ごちそうさまです」と言うと、悠人を見やった。
「行きがけ、俺の事務所寄ってイイ? 荷物取ってこないと」
「てっきり、荷物それだけかと思った」
「まさか。ラストオーダー間に合わないと、食いっぱぐれると思って」
純一の言葉に笑ったのは冬真だった。
「別にちょっとぐらい大丈夫ですよ。むしろ、ラストオーダーまでに入らないと悠人を誘えないと思ったからでしょう?」
「それはその通りッスね」
「はぁ?」
思わず声を上げて悠人は呆れた顔で純一を見上げた。
同じぐらいの背格好だった少年は、少しだけ見上げる位置に今はいる。
それでも、自分に向けて微笑む表情はあの頃とあまり変わりがないように思えるから不思議だ。
「だーから、お前が連絡しなかったのが悪いんだって」
冬真の嫌味を聞きながら、悠人は舌打ちをしてショルダーバッグを背負い直した。
「行こう」
「あ……俺のバイク、とりあえず、置いて帰っていいですか」
出勤時に使っているクロスバイクのことを冬真に聞いた。
頷いてもちろんと答えると、休憩室に入れておくと付け加えられる。
次の出勤時は久々に歩くしかない。クロスバイクを持って飲みに行くのは何かと面倒だ。
そんなやり取りをして外に出ると、冬真は笑顔で手を振っていた。
振り返った時、いっそ中指を立ててやろうかと思ったが、そこまでではないと思い至る。代わりに、しかめっ面を向けて立ち去った。
40
あなたにおすすめの小説
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
ランドセルの王子様(仮)
万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。
ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。
親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる