魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

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第一部

閑話

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 ストラリアの町から脱出したミキモト達は、木陰で、のんびりと相談をしていた。

「さて、とりあえず、ストラリアの町からは出られたけど、これから、どうしようかね」
「やはり、別の町を目指すのがよろしいかと。武器屋や、宿屋がないと困りますし」

 レイジィは、人差し指をほほに当てながら答えた。

「ストラリア、いろいろ見て回ったけど、結局、何も、買ってないし」

 リージュが、くちびるとがらせて、それに続く。

「あたいら、1ゴールドたりとも持ってねえからな。旅の準備なんて、なんもできてねえぜ」

 アイドラが、自分の胸を、ドン、と叩いて自信ありげに言う。
 ミキモトは、顔を引き締めて言う。

「よし。じゃあ、まずは町を目指そう! で、近くに、別の町ってあるんだっけ?」

 パーティメンバー達が、怪訝けげんな顔になる。

「北に、町があるって……誰か言ってた気がする」
「たしか、メルボンって町だったはずだぜ」

「おおー。みんな、よく覚えてるな」

「町の人の話は、よく覚えておいてください。冒険の基本ですよ。……と町のかたがおっしゃっていたではないですか」

 レイジィに言われたミキモトは、何かを思い出そうと、左斜め上を見ながら言う。

「んー、そんなこと言ってたっけか」
「それも、覚えていらっしゃらないのですか……」

「まあ、みんなが覚えてくれてるからいいじゃん」

「うう……。ぼく、次からは、もっと真剣に聞いておくようにする。不安」
「あたいが、しっかり聞いておくから、任せておきな!」

 ミキモトは、再び、ストラリアの町のほうへと目をやり、上空に影がないことを確認してから、言った。

「ストラリアの、あの出口は、町の西側のはずだから、北は、だいたいこっちだな」

 目見当めけんとうで北を確認し、移動を開始したミキモト達は、間もなく、慌ただしい足音が、南から迫ってくるのを耳にした。

 その足音は、赤茶の虎縞とらじま模様を、うねらせながら疾走する、巨大なネコ、2匹が立てている音であった。

 その姿を捉えたレイジィが、落ち着き払った声で言う。

「あれは、ドラキャットという魔物ですわ。比較的おとなしくて、頭を撫でると、ゴロゴロと音を鳴らしたりするのです」
「なんだ。まるっきり、でかいネコじゃないか。危険はないのか?」

「首にみついて、人間を殺すのを得意としている魔物ですわ」
「そっちの情報を、先に言ってくれ!」

 ドラキャット達は、一目散に、ミキモト達のほうへと走り寄ってくる。

「くっ。戦闘か」

 ミキモトは、腰に指した棒に、手を伸ばしかけたが、結局、棒を抜くことはなかった。ドラキャット達は、襲いかかってくることなく、ミキモト達のそばを通り過ぎ、そのまま北に走り去ってしまったからだ。

 ぽかんとして、ドラキャット達の背中を見送る4人。

「なんだったんだ、今のは」
「不思議ですね。わたくし達が、美味しそうに見えなかったのでしょうか」

「っていうか、レイジィは、なんで、あの魔物の情報を知ってるんだ」

「レイジィ、物知り」
「あたいも、あんなネコ、初めて見たぜ」

「じ、実は、わたくし、多少は、魔物についての知識がございまして」

「いいね。頼りになる」

 言いながら、ミキモトが辺りを見回すと、あちらこちらで、魔物らしきものが、みな、先ほどのドラキャット達と、同じ方角に向けて移動している様子が見えた。

「あれは、何が起きてるんだ?」

 ミキモトがレイジィに問うと、リージュとアイドラも、期待を込めた目でレイジィを見る。

「そ、そんな目で見られても困ります。それほど、詳しいわけではございませんので」

「そっか。俺らは、とりあえず、メルボンの町へ向かおう」


 数時間後、ミキモト達は、無事、メルボンの町に着いていた。

「いやー、着いた着いた」

「びっくりするくらい、何も起こりませんでしたわね」
「結局、1回も、戦闘してない」
「まあ、何も起きないに、こしたことはねえじゃねえか」

 ミキモトは、町の入り口に立っている男性に話しかけてみた。

「あの、すみません」
「ここは、メルボンの町だぜ!」

「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ!」

 ミキモトは、パーティメンバーに向けて言った。

「ちゃんと、メルボンの町であることが確認できた」

「おつとめ、ご苦労様です」

「では、これより、俺の独断により、武器屋に行きたいと思う!」
「な、なぜ武器屋なのでございますか」

「やっぱり、武器は男のロマンじゃん?」

 町の入り口からすぐのところにある、木造の建物の1階に武器屋があった。店内には、武器だけでなく、防具も展示されており、武器屋とはいうものの、装備品全般を扱っているようだ。
 ミキモト達は、武器屋に着くと、店内の装備品を見て回った。
 鉄のつるぎを見ながら、ミキモトが言う。

「モヘジが使っていたのは、このつるぎかあ」

 ミキモトは、値札に、ちらりと目をやる。

「うげ。800ゴールドか。モヘジのやつ、頑張って貯めたんだなあ」

 ふと、ミキモトが視線を横にやると、リージュが、つまらなそうにしているのが見えた。

「リージュ、どうした?」
「ぼく、武器防具、あまり使えないから……」

「あ、ごめん。リージュには退屈だったか」

 言いながら、ミキモトは店内の装備品を見回した。

「でも、ほら。あそこにある、拳法着けんぽうぎはリージュ用じゃないか?」
「え……」

 拳法着けんぽうぎを見つけたリージュの目は、みるみる、輝きを増した。

「カッコいい……。あれ、欲しい。着てみたい」

 ミキモトは値札を見る。

「500ゴールドかあ。あれ? 俺ら、今、なんゴールド持って――」
「1ゴールドも持ってねえってば!」

 言いかけたミキモトを、アイドラが鋭く遮った。

「あたい達は、まだ、魔物1匹、倒してねえんだぜ」

 ミキモトは、アゴに手を当てて、少し考えるような仕草をしてから言った。

「よし。じゃあ、ゴールドが貯まったら、最初に、リージュの拳法着けんぽうぎを買おうな」

「……いいの?」
「まあ、ミキモト様が、そうおっしゃるのでしたら」
「あたいの装備は、後回しで良いぜ。主力じゃねえからな」

「約束だ。リージュ」
「忘れちゃ、嫌だよ」

「俺が、約束を忘れるわけないだろう」

 その後、ミキモト達は、町の中をひと通り回ると、ゴールドを稼ぐために、外に出た。

「さて、気は進まないけど、魔物を倒すか」
「気を引き締めてまいりましょう」

「さっきのドラキャットとは、戦いたくないな」
「なぜですか?」

「あんな、かわいい魔物を、棒で殴る気にはなれない。向こうから襲ってくるならともかく、積極的に戦いたくはないなあ」
「……ぼくも」
「おいおい。そんな甘いこと言ってて大丈夫かよ」

 ミキモト達は、数日かけて、メルボンの周りを歩き回った。

「魔物、1匹も出ないけど、どうなってるんだ?」
「わたくしにも、分かりません」

「もう一回、町の人に話を聞いてみるか」

 町の中に入り、ミキモトは、そこら中の人に声をかけて回った。

「最近、町の周りから、魔物がいなくなったんだ」
「平和になって助かったよ」
「これなら、俺らでも、気軽に外に出られるぜ」

 人々は、みな、魔物が居なくなったことを、口々に喜んだ。しかし、武器屋の主人は違った。

「ここ数日、全然、装備が売れねえんだよ」

 荒ぶる主人に、ミキモトは言う。

「魔物が出ないんじゃ、ゴールドも稼げないし、そもそも、装備を買う必要がないもんね」
「そうなんだよ! 武器屋なんて商売上がったりだぜ!」

 怒りの収まらない主人を、レイジィがなだめようと、言う。

「し、しかし、魔物が居なくなったこと自体は、素晴らしいことではないでしょうか。町のみなさまも、平和になった、と喜んでおられましたし」
「おい、お嬢さん。知ったふうな口、くなよ。俺はな、装備が売れれば、なんだっていいんだよ。魔物、大歓迎だね!」

「おお、この人、危険思想の持ち主……」
「おいおい、おっさん。そういうことは、思ってても、口に出さないほうがいいぜ」

 ミキモト達は、武器屋を後にし、道具屋と宿屋を訪ねてみたが、両店とも、武器屋と同じような状況で、同じような文句を言っていた。

「魔物は、居なくなったら居なくなったで、大変なのですね」
「魔物も、役立つ、のかな」
「平和を喜べないってのは、なんだか悲しいねえ」

「アイドラの言う通りだと思う。店の主人達は、なんで、そんなにゴールドがほしいのかね」

 きょとんとするパーティメンバー達に対して、ミキモトは続ける。

「だって、別に、ゴールドなんて、なくたって生きていけるじゃないか。平和よりも、ゴールドを優先する理由ってなんだろう」

「それは、仕入れの際に使ったゴールドを回収する必要があったりですとか、そういった事情があるのではないでしょうか」
拳法着けんぽうぎが、欲しい、とか」
元手もとでを稼いでから、カジノで一発勝負だろ!」

「うーん。そんなもんかね」

 その後も、ミキモト達は、しばらくの間、メルボンの周辺を探索してみたが、やはり、魔物1匹おらず、1ゴールドたりとも稼ぐことができなかった。

 数日ぶりに、メルボンの町へと戻ると、町の人間がこんなことを言っていた。

「北東の森で、すごく大きい人影が動いてるのを見たんだ」
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