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第一部
反証
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「モヘジ。お前……」
ミキモトは、驚いた顔で言った。
「それでは、モヘジよ。君の考えを聞かせてもらえるかね」
小太りが、目を細めながら、モヘジにたずねた。
「ああ。まず、ミキモトが、サイクロプスと戦わなかった原因の一部は、俺にある。俺が、こいつに、『お前は戦うな。引っ込んでろ』って言ったんだ」
「なぜかね?」
「まるで勝ち目がないと思ったからさ。この、ミキモトって勇者は、あのとき、初期装備のままだった。おそらく、レベルも1のままだっただろう」
「正解!」
突然、口をはさんだミキモトを、小太りが、不機嫌そうに睨みつける。
「質問されたとき以外、余計な発言をしないよう」
「こんなやつがサイクロプスと戦っても、どうにもならない、と考えたんだ。結局、俺も含め、他の勇者でも、どうにもならなかったんだけどな」
「しかし、だからと言って、その後、まったく戦わなくていい理由にはならないだろう」
「それに関しては、おそらくなんだが、ミキモトが、サイクロプスの前に、突っ立ったまんまだったからだろうな」
「どういう意味かね?」
「俺ら勇者ってのは、町の人間から『助けてくれ』『サイクロプスを倒してくれ』と言われれば、それをせずにはいられないもんなんだ。だが、ミキモトは、サイクロプスが現れて以降、町の人間と話をしてないんじゃないか」
「しかし、あの状況で、戦いもせず、町の人間と話もせずに、サイクロプスの前で、突っ立ってる勇者というのは、どうなのかね。人々を救ってこその、勇者だろう」
「まあ、それに関しては同感だが、人々を救うって点においては、ミキモトは立派に仕事をしただろう」
「……分かるように話してくれるかね」
「昨日、ミキモトが話しかけたら、サイクロプスは、町から去ったんだろう? それなら、結局、人々を救ったのは、ミキモトだったということなんじゃないか」
「しかし、それは、元々、ミキモトが、サイクロプスと共謀しており、何かの時期を見計らって、サイクロプスを撤退させただけだろう。そもそも、町の出入り口を、サイクロプスで塞いだのが、ミキモトなのだ」
「その可能性は低いだろう」
「なぜかね?」
「ミキモトがやったと考えると、不自然な点が多すぎる」
「ほう。どのようなところかね」
モヘジは、ミキモトを一瞥して、続ける。
「まず、ミキモトは、勇者になってから、サイクロプスが現れるまでの間、ほとんど、町の外に出ていないと思われる。ちょっと町の人間に聞けば、こいつが、サイクロプスが現れる前に、どれだけ、町の中でだらだらしていたか、分かるはずだぜ」
広場の周囲を取り囲む、観衆から、口々に声が上がる。
「ああ、あいつか! 買いもしないのに、何回も、うちの店に来て、武器を、ずっとジロジロ見てやがったんだ」
「泊まりもせずに、客室を物色したり、ベッドの上に乗ったりするから、迷惑してたのよ」
「芝生の上で、半日以上、寝転んでたのを見たぞ!」
「よかったな。俺達、覚えられてるぞ」
ミキモトは、小声でパーティメンバーに言った。
「こ、これは、喜んでよいのでしょうか」
「静粛に!」
小太りが手を叩き、騒ぎ出した観衆を制し、続ける。
「で、それが、なんだと言うのかね?」
「ずっと、町の中に居たのに、いつ、魔物とやり取りをする暇があったのかね?」
「1度も町の外に出ていないと、断言できるのかね?」
「まあ、そう言われると弱いんだが。じゃあ、数回、町の外に出てたとしてだ、それで、どうやってサイクロプスを呼ぶんだ? サイクロプスだぜ? 普通、この辺には居ない魔物だ」
「その辺の魔物に、伝言を頼んだり、どこかにサイクロプスを隠していたのではないか?」
「サイクロプスを隠してただって? それは、さすがに無理があるだろ。サイクロプスが現れるまで、多くの勇者達が、この近辺をくまなく歩き回ってるはずだ。サイクロプスが居たなんて、報告があったか?」
「いや」
「そして、ここが一番重要なところなんだが、仮に、ミキモトが魔物と内通していたとしてだ、ミキモトの役割は一体、なんだ?」
「なんだとは?」
「普通、内通者ってのは、内部の人間にしかできないことをやって、敵方に協力するものだろう。たとえば、内部の人間しか知らない情報を流したり、内部からしか開かない城門を開けたり。じゃあ、ミキモトは、何をしたんだ」
「そ、それは……」
「サイクロプスは、ただ、町の出入り口を塞いだだけだ。それだけのことに、ミキモトの協力が必要なのか」
「陽動作戦ということはないかね? サイクロプス騒動の騒ぎに紛れて、なにか、別の目的を果たそうとしたということは」
「そうであるなら、その、別の目的とやらを明らかにして、そこにミキモトが関与していたことを証明するべきだろう」
「くっ……。しかし、先ほど、君も言ったであろう。サイクロプスは、この辺に居る魔物ではない、と。ミキモトの協力のもと、こちらに移動してきたのではないかね」
「無理があるな。あんた、ミキモトを反逆罪にしたい理由でもあるのか?」
「何を、バカな! 私は、真実を追求しているだけだ」
「へえ。まあ、いいが。情けないことに、サイクロプスが、普段、どこに出現する魔物なのか、俺は分からない。だが、出現地が、ここと地続きなら、歩いてやってくりゃいいだけの話だ。ミキモトの協力は不要だろ。地続きじゃないとしたら、それこそ、ミキモトに、何ができるんだ? サイクロプスを乗せる、巨大船でも貸し出したってのか?」
「……」
「しかし、俺も、サイクロプスが単体で、今回の行動を取ったとは考えていない。サイクロプスに詳しくない俺が言っても、説得力がないと思うが、突然やってきて、町の出入り口を塞ぐってのは、普通の魔物の行動とは異なる」
「どういうことだ?」
「俺の考えはこうだ。サイクロプスに指示を出したやつが居る。そいつの指示で、サイクロプスが、町の出入り口を塞いだ。しかし、ミキモトが、サイクロプスを説得して、町から引き上げさせたんだ」
「な、なんだと!」
観衆が、大きくどよめく。
「ミキモトは、戦わずして、魔物を無力化することに成功したんだ。今までの勇者には、できなかったことだろ?」
ミキモトの目には、その言葉を聞いた王様が、少しだけ目を細めたように見えた。
「で、では、この、レイジィという女の行動は、どう説明する? サイクロプスの腰ミノに入り、いかがわしい行為をした疑いがあるのだぞ。ミキモトが説得したという、その日の夜にだぞ」
この質問に、モヘジの顔が、引き締まる。
「サイクロプスの貞操観念について、俺は詳しくないが、場合によっては、ミキモトは、それを条件に、サイクロプスを引き上げさせたのかもしれないぜ?」
「な、なんと」
小太りが、目を見開いて、レイジィのほうへと向き直った。
「レイジィ。まさか、そなた、ストラリアのために、その身を呈して……」
「あの、発言してもよろしいでしょうか」
レイジィが許可を求めた。
「もちろんだ」
レイジィは、1歩、前に出て、語りだした。
「少し、誤解があると言いますか、わたくし、決して、いかがわしい行為をしていたわけではないのです」
「しかし、腰ミノに潜り込んだという証言があるのだぞ」
「たしかに、腰ミノには潜り込みました」
「では、一体、そこで何をやっていたのかね」
レイジィは、少し目を伏せてから、口を開いた。
「実は、サイクロプスの、第2の目を見ていたのです」
「第2の目? それは何かね」
「サイクロプスは、股の間に、第2の目を持っているのです。第2の目は、視力はほとんどないのですが、感情を、非常によく表すと言われています。サイクロプスは、感情を読まれることを嫌い、普段は、腰ミノで第2の目を隠しているのです」
「ほ、ほう……」
突然、押し寄せた、新情報の波に、小太りも、動揺を隠せないようだ。それと対照的に、得意分野を話し始めたレイジィは、どんどん調子に乗っている。
「雄サイクロプスの第2の目から流れた涙を、雌サイクロプスがトックリに入れて、醗酵させると、白涙、というお酒になるのです。あの晩、わたくし達が、いただいていたのは、それです。その味わい、喉越しは、とても素晴らしく――」
観衆がどよめく。
ミキモト達は、青ざめる。
「あ、あの酒、マサムネの体液だったのか」
「体液って言うの、やめて。まだ、涙のほうが、響きがいい」
「げええ。まあ、美味かったからなんでもいいや」
レイジィの後ろで、ミキモト達も、どよめいた。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ。今、話している内容は、この裁判と、何か関係があるのかね?」
レイジィは、はっとした表情を浮かべる。
「申し訳ありません。わたくし、魔物のこととなると、つい、止まらなくなってしまって。ええと、何でしたっけ」
「なぜ、そなたが、腰ミノに潜ったのか、という話だったが」
「わたくし、魔物の研究をするのが大好きなのです。サイクロプスは、本来、夫婦の間でしか、第2の目を見せないのですが、あの晩は、酔った勢いもありまして、どうしても、この目で、第2の目を見たくなり、つい、腰ミノに潜り込んでしまったのです」
「そ、その、夫婦間でしか見せないはずの、第2の目を、どうして、そなたは、見ることができたのかね?」
「それは、きっと、ミキモト様が、あの、マサムネ様ご家族と、仲良くなったからだと思います」
「マ、マサムネというのは?」
「あ、町の出入り口を塞いでいた、サイクロプスのお名前が、マサムネ様です。奥様がマサミ様、お子様がマサオ様。マサミ様が、わたくしに、第2の目を見ることを、許してくださったのです」
「な、なんと」
小太りは、しばしの間、驚きのためか、固まっていたが、ミキモトのほうへ、向き直った。
「では、ミキモト、改めて問おう。そなたが、魔物と通じ合える能力があるとして、町の出入り口に、サイクロプスを呼んだのは、そなたではないのか?」
「俺は呼んでない」
「では、そなたが説得して、町の出入り口から、引き上げさせたというのは、事実なのか?」
「うーん。事実は、ちょっと違うんだよね」
「どういうことかね」
「たしかに、俺は、マサムネに言ったんだ。奥さんと子どもが待ってるみたいだから、そろそろ、戻ったらどうかって。でも、マサムネは、これは仕事だからとか言って、断ったんだ」
「ほう。では、なぜ、その、マサムネは町から去ったのかね」
「マサムネの横に、モヤモヤした影みたいなのが出てきて、そいつが、マサムネに、もう戻っていいって言ったんだ。ああ、ちょうど、そのときだったかな。そこの勇者が、マサムネに返り討ちにあってたのは。それで、戦闘が終わったマサムネは、引き上げていったんだ。俺は、そのときに、マサムネに誘われて、一緒に、メルボン北東の森までついていって、宴をしてた、という経緯 で」
「ううむ。しかし、そのような話、にわかには信じられん。どう思われますか」
小太りが、王に意見を求めた。
「論外じゃ。ミキモトの発言は、荒唐無稽に過ぎる。証拠もなしに、このような発言を信じることはできぬ。残念じゃが――」
その瞬間、広場が、瞬時にして暗くなった。何か、巨大なものが、上空を覆い、影を落としたのだ。
人々が、空を見上げると、銅色の鱗を纏った存在が、中空から、広場を見下ろしていた。
ミキモトは、驚いた顔で言った。
「それでは、モヘジよ。君の考えを聞かせてもらえるかね」
小太りが、目を細めながら、モヘジにたずねた。
「ああ。まず、ミキモトが、サイクロプスと戦わなかった原因の一部は、俺にある。俺が、こいつに、『お前は戦うな。引っ込んでろ』って言ったんだ」
「なぜかね?」
「まるで勝ち目がないと思ったからさ。この、ミキモトって勇者は、あのとき、初期装備のままだった。おそらく、レベルも1のままだっただろう」
「正解!」
突然、口をはさんだミキモトを、小太りが、不機嫌そうに睨みつける。
「質問されたとき以外、余計な発言をしないよう」
「こんなやつがサイクロプスと戦っても、どうにもならない、と考えたんだ。結局、俺も含め、他の勇者でも、どうにもならなかったんだけどな」
「しかし、だからと言って、その後、まったく戦わなくていい理由にはならないだろう」
「それに関しては、おそらくなんだが、ミキモトが、サイクロプスの前に、突っ立ったまんまだったからだろうな」
「どういう意味かね?」
「俺ら勇者ってのは、町の人間から『助けてくれ』『サイクロプスを倒してくれ』と言われれば、それをせずにはいられないもんなんだ。だが、ミキモトは、サイクロプスが現れて以降、町の人間と話をしてないんじゃないか」
「しかし、あの状況で、戦いもせず、町の人間と話もせずに、サイクロプスの前で、突っ立ってる勇者というのは、どうなのかね。人々を救ってこその、勇者だろう」
「まあ、それに関しては同感だが、人々を救うって点においては、ミキモトは立派に仕事をしただろう」
「……分かるように話してくれるかね」
「昨日、ミキモトが話しかけたら、サイクロプスは、町から去ったんだろう? それなら、結局、人々を救ったのは、ミキモトだったということなんじゃないか」
「しかし、それは、元々、ミキモトが、サイクロプスと共謀しており、何かの時期を見計らって、サイクロプスを撤退させただけだろう。そもそも、町の出入り口を、サイクロプスで塞いだのが、ミキモトなのだ」
「その可能性は低いだろう」
「なぜかね?」
「ミキモトがやったと考えると、不自然な点が多すぎる」
「ほう。どのようなところかね」
モヘジは、ミキモトを一瞥して、続ける。
「まず、ミキモトは、勇者になってから、サイクロプスが現れるまでの間、ほとんど、町の外に出ていないと思われる。ちょっと町の人間に聞けば、こいつが、サイクロプスが現れる前に、どれだけ、町の中でだらだらしていたか、分かるはずだぜ」
広場の周囲を取り囲む、観衆から、口々に声が上がる。
「ああ、あいつか! 買いもしないのに、何回も、うちの店に来て、武器を、ずっとジロジロ見てやがったんだ」
「泊まりもせずに、客室を物色したり、ベッドの上に乗ったりするから、迷惑してたのよ」
「芝生の上で、半日以上、寝転んでたのを見たぞ!」
「よかったな。俺達、覚えられてるぞ」
ミキモトは、小声でパーティメンバーに言った。
「こ、これは、喜んでよいのでしょうか」
「静粛に!」
小太りが手を叩き、騒ぎ出した観衆を制し、続ける。
「で、それが、なんだと言うのかね?」
「ずっと、町の中に居たのに、いつ、魔物とやり取りをする暇があったのかね?」
「1度も町の外に出ていないと、断言できるのかね?」
「まあ、そう言われると弱いんだが。じゃあ、数回、町の外に出てたとしてだ、それで、どうやってサイクロプスを呼ぶんだ? サイクロプスだぜ? 普通、この辺には居ない魔物だ」
「その辺の魔物に、伝言を頼んだり、どこかにサイクロプスを隠していたのではないか?」
「サイクロプスを隠してただって? それは、さすがに無理があるだろ。サイクロプスが現れるまで、多くの勇者達が、この近辺をくまなく歩き回ってるはずだ。サイクロプスが居たなんて、報告があったか?」
「いや」
「そして、ここが一番重要なところなんだが、仮に、ミキモトが魔物と内通していたとしてだ、ミキモトの役割は一体、なんだ?」
「なんだとは?」
「普通、内通者ってのは、内部の人間にしかできないことをやって、敵方に協力するものだろう。たとえば、内部の人間しか知らない情報を流したり、内部からしか開かない城門を開けたり。じゃあ、ミキモトは、何をしたんだ」
「そ、それは……」
「サイクロプスは、ただ、町の出入り口を塞いだだけだ。それだけのことに、ミキモトの協力が必要なのか」
「陽動作戦ということはないかね? サイクロプス騒動の騒ぎに紛れて、なにか、別の目的を果たそうとしたということは」
「そうであるなら、その、別の目的とやらを明らかにして、そこにミキモトが関与していたことを証明するべきだろう」
「くっ……。しかし、先ほど、君も言ったであろう。サイクロプスは、この辺に居る魔物ではない、と。ミキモトの協力のもと、こちらに移動してきたのではないかね」
「無理があるな。あんた、ミキモトを反逆罪にしたい理由でもあるのか?」
「何を、バカな! 私は、真実を追求しているだけだ」
「へえ。まあ、いいが。情けないことに、サイクロプスが、普段、どこに出現する魔物なのか、俺は分からない。だが、出現地が、ここと地続きなら、歩いてやってくりゃいいだけの話だ。ミキモトの協力は不要だろ。地続きじゃないとしたら、それこそ、ミキモトに、何ができるんだ? サイクロプスを乗せる、巨大船でも貸し出したってのか?」
「……」
「しかし、俺も、サイクロプスが単体で、今回の行動を取ったとは考えていない。サイクロプスに詳しくない俺が言っても、説得力がないと思うが、突然やってきて、町の出入り口を塞ぐってのは、普通の魔物の行動とは異なる」
「どういうことだ?」
「俺の考えはこうだ。サイクロプスに指示を出したやつが居る。そいつの指示で、サイクロプスが、町の出入り口を塞いだ。しかし、ミキモトが、サイクロプスを説得して、町から引き上げさせたんだ」
「な、なんだと!」
観衆が、大きくどよめく。
「ミキモトは、戦わずして、魔物を無力化することに成功したんだ。今までの勇者には、できなかったことだろ?」
ミキモトの目には、その言葉を聞いた王様が、少しだけ目を細めたように見えた。
「で、では、この、レイジィという女の行動は、どう説明する? サイクロプスの腰ミノに入り、いかがわしい行為をした疑いがあるのだぞ。ミキモトが説得したという、その日の夜にだぞ」
この質問に、モヘジの顔が、引き締まる。
「サイクロプスの貞操観念について、俺は詳しくないが、場合によっては、ミキモトは、それを条件に、サイクロプスを引き上げさせたのかもしれないぜ?」
「な、なんと」
小太りが、目を見開いて、レイジィのほうへと向き直った。
「レイジィ。まさか、そなた、ストラリアのために、その身を呈して……」
「あの、発言してもよろしいでしょうか」
レイジィが許可を求めた。
「もちろんだ」
レイジィは、1歩、前に出て、語りだした。
「少し、誤解があると言いますか、わたくし、決して、いかがわしい行為をしていたわけではないのです」
「しかし、腰ミノに潜り込んだという証言があるのだぞ」
「たしかに、腰ミノには潜り込みました」
「では、一体、そこで何をやっていたのかね」
レイジィは、少し目を伏せてから、口を開いた。
「実は、サイクロプスの、第2の目を見ていたのです」
「第2の目? それは何かね」
「サイクロプスは、股の間に、第2の目を持っているのです。第2の目は、視力はほとんどないのですが、感情を、非常によく表すと言われています。サイクロプスは、感情を読まれることを嫌い、普段は、腰ミノで第2の目を隠しているのです」
「ほ、ほう……」
突然、押し寄せた、新情報の波に、小太りも、動揺を隠せないようだ。それと対照的に、得意分野を話し始めたレイジィは、どんどん調子に乗っている。
「雄サイクロプスの第2の目から流れた涙を、雌サイクロプスがトックリに入れて、醗酵させると、白涙、というお酒になるのです。あの晩、わたくし達が、いただいていたのは、それです。その味わい、喉越しは、とても素晴らしく――」
観衆がどよめく。
ミキモト達は、青ざめる。
「あ、あの酒、マサムネの体液だったのか」
「体液って言うの、やめて。まだ、涙のほうが、響きがいい」
「げええ。まあ、美味かったからなんでもいいや」
レイジィの後ろで、ミキモト達も、どよめいた。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ。今、話している内容は、この裁判と、何か関係があるのかね?」
レイジィは、はっとした表情を浮かべる。
「申し訳ありません。わたくし、魔物のこととなると、つい、止まらなくなってしまって。ええと、何でしたっけ」
「なぜ、そなたが、腰ミノに潜ったのか、という話だったが」
「わたくし、魔物の研究をするのが大好きなのです。サイクロプスは、本来、夫婦の間でしか、第2の目を見せないのですが、あの晩は、酔った勢いもありまして、どうしても、この目で、第2の目を見たくなり、つい、腰ミノに潜り込んでしまったのです」
「そ、その、夫婦間でしか見せないはずの、第2の目を、どうして、そなたは、見ることができたのかね?」
「それは、きっと、ミキモト様が、あの、マサムネ様ご家族と、仲良くなったからだと思います」
「マ、マサムネというのは?」
「あ、町の出入り口を塞いでいた、サイクロプスのお名前が、マサムネ様です。奥様がマサミ様、お子様がマサオ様。マサミ様が、わたくしに、第2の目を見ることを、許してくださったのです」
「な、なんと」
小太りは、しばしの間、驚きのためか、固まっていたが、ミキモトのほうへ、向き直った。
「では、ミキモト、改めて問おう。そなたが、魔物と通じ合える能力があるとして、町の出入り口に、サイクロプスを呼んだのは、そなたではないのか?」
「俺は呼んでない」
「では、そなたが説得して、町の出入り口から、引き上げさせたというのは、事実なのか?」
「うーん。事実は、ちょっと違うんだよね」
「どういうことかね」
「たしかに、俺は、マサムネに言ったんだ。奥さんと子どもが待ってるみたいだから、そろそろ、戻ったらどうかって。でも、マサムネは、これは仕事だからとか言って、断ったんだ」
「ほう。では、なぜ、その、マサムネは町から去ったのかね」
「マサムネの横に、モヤモヤした影みたいなのが出てきて、そいつが、マサムネに、もう戻っていいって言ったんだ。ああ、ちょうど、そのときだったかな。そこの勇者が、マサムネに返り討ちにあってたのは。それで、戦闘が終わったマサムネは、引き上げていったんだ。俺は、そのときに、マサムネに誘われて、一緒に、メルボン北東の森までついていって、宴をしてた、という経緯 で」
「ううむ。しかし、そのような話、にわかには信じられん。どう思われますか」
小太りが、王に意見を求めた。
「論外じゃ。ミキモトの発言は、荒唐無稽に過ぎる。証拠もなしに、このような発言を信じることはできぬ。残念じゃが――」
その瞬間、広場が、瞬時にして暗くなった。何か、巨大なものが、上空を覆い、影を落としたのだ。
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