魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

文字の大きさ
16 / 43
第一部

反証

しおりを挟む
「モヘジ。お前……」

 ミキモトは、驚いた顔で言った。

「それでは、モヘジよ。君の考えを聞かせてもらえるかね」

 小太りが、目を細めながら、モヘジにたずねた。

「ああ。まず、ミキモトが、サイクロプスと戦わなかった原因の一部は、俺にある。俺が、こいつに、『お前は戦うな。引っ込んでろ』って言ったんだ」
「なぜかね?」

「まるで勝ち目がないと思ったからさ。この、ミキモトって勇者は、あのとき、初期装備のままだった。おそらく、レベルも1のままだっただろう」

「正解!」

 突然、口をはさんだミキモトを、小太りが、不機嫌そうににらみつける。

「質問されたとき以外、余計な発言をしないよう」

「こんなやつがサイクロプスと戦っても、どうにもならない、と考えたんだ。結局、俺も含め、他の勇者でも、どうにもならなかったんだけどな」
「しかし、だからと言って、その後、まったく戦わなくていい理由にはならないだろう」

「それに関しては、おそらくなんだが、ミキモトが、サイクロプスの前に、突っ立ったまんまだったからだろうな」
「どういう意味かね?」

「俺ら勇者ってのは、町の人間から『助けてくれ』『サイクロプスを倒してくれ』と言われれば、それをせずにはいられないもんなんだ。だが、ミキモトは、サイクロプスが現れて以降、町の人間と話をしてないんじゃないか」
「しかし、あの状況で、戦いもせず、町の人間と話もせずに、サイクロプスの前で、突っ立ってる勇者というのは、どうなのかね。人々を救ってこその、勇者だろう」

「まあ、それに関しては同感だが、人々を救うって点においては、ミキモトは立派に仕事をしただろう」
「……分かるように話してくれるかね」

「昨日、ミキモトが話しかけたら、サイクロプスは、町から去ったんだろう? それなら、結局、人々を救ったのは、ミキモトだったということなんじゃないか」
「しかし、それは、元々、ミキモトが、サイクロプスと共謀しており、何かの時期を見計らって、サイクロプスを撤退させただけだろう。そもそも、町の出入り口を、サイクロプスでふさいだのが、ミキモトなのだ」

「その可能性は低いだろう」
「なぜかね?」

「ミキモトがやったと考えると、不自然な点が多すぎる」
「ほう。どのようなところかね」

 モヘジは、ミキモトを一瞥いちべつして、続ける。

「まず、ミキモトは、勇者になってから、サイクロプスが現れるまでの間、ほとんど、町の外に出ていないと思われる。ちょっと町の人間に聞けば、こいつが、サイクロプスが現れる前に、どれだけ、町の中でだらだらしていたか、分かるはずだぜ」

 広場の周囲を取り囲む、観衆から、口々に声が上がる。

「ああ、あいつか! 買いもしないのに、何回も、うちの店に来て、武器を、ずっとジロジロ見てやがったんだ」
「泊まりもせずに、客室を物色したり、ベッドの上に乗ったりするから、迷惑してたのよ」
「芝生の上で、半日以上、寝転んでたのを見たぞ!」

「よかったな。俺達、覚えられてるぞ」

 ミキモトは、小声でパーティメンバーに言った。

「こ、これは、喜んでよいのでしょうか」

「静粛に!」

 小太りが手を叩き、騒ぎ出した観衆を制し、続ける。

「で、それが、なんだと言うのかね?」

「ずっと、町の中に居たのに、いつ、魔物とやり取りをする暇があったのかね?」
「1度も町の外に出ていないと、断言できるのかね?」

「まあ、そう言われると弱いんだが。じゃあ、数回、町の外に出てたとしてだ、それで、どうやってサイクロプスを呼ぶんだ? サイクロプスだぜ? 普通、この辺には居ない魔物だ」
「その辺の魔物に、伝言を頼んだり、どこかにサイクロプスを隠していたのではないか?」

「サイクロプスを隠してただって? それは、さすがに無理があるだろ。サイクロプスが現れるまで、多くの勇者達が、この近辺をくまなく歩き回ってるはずだ。サイクロプスが居たなんて、報告があったか?」
「いや」

「そして、ここが一番重要なところなんだが、仮に、ミキモトが魔物と内通していたとしてだ、ミキモトの役割は一体、なんだ?」
「なんだとは?」

「普通、内通者ってのは、内部の人間にしかできないことをやって、敵方に協力するものだろう。たとえば、内部の人間しか知らない情報を流したり、内部からしか開かない城門を開けたり。じゃあ、ミキモトは、何をしたんだ」
「そ、それは……」

「サイクロプスは、ただ、町の出入り口をふさいだだけだ。それだけのことに、ミキモトの協力が必要なのか」
「陽動作戦ということはないかね? サイクロプス騒動の騒ぎにまぎれて、なにか、別の目的を果たそうとしたということは」

「そうであるなら、その、別の目的とやらを明らかにして、そこにミキモトが関与していたことを証明するべきだろう」
「くっ……。しかし、先ほど、君も言ったであろう。サイクロプスは、この辺に居る魔物ではない、と。ミキモトの協力のもと、こちらに移動してきたのではないかね」

「無理があるな。あんた、ミキモトを反逆罪にしたい理由でもあるのか?」
「何を、バカな! 私は、真実を追求しているだけだ」

「へえ。まあ、いいが。情けないことに、サイクロプスが、普段、どこに出現する魔物なのか、俺は分からない。だが、出現地が、ここと地続きなら、歩いてやってくりゃいいだけの話だ。ミキモトの協力は不要だろ。地続きじゃないとしたら、それこそ、ミキモトに、何ができるんだ? サイクロプスを乗せる、巨大船でも貸し出したってのか?」
「……」

「しかし、俺も、サイクロプスが単体で、今回の行動を取ったとは考えていない。サイクロプスに詳しくない俺が言っても、説得力がないと思うが、突然やってきて、町の出入り口をふさぐってのは、普通の魔物の行動とは異なる」
「どういうことだ?」

「俺の考えはこうだ。サイクロプスに指示を出したやつが居る。そいつの指示で、サイクロプスが、町の出入り口をふさいだ。しかし、ミキモトが、サイクロプスを説得して、町から引き上げさせたんだ」
「な、なんだと!」

 観衆が、大きくどよめく。

「ミキモトは、戦わずして、魔物を無力化することに成功したんだ。今までの勇者には、できなかったことだろ?」

 ミキモトの目には、その言葉を聞いた王様が、少しだけ目を細めたように見えた。

「で、では、この、レイジィという女の行動は、どう説明する? サイクロプスの腰ミノに入り、いかがわしい行為をした疑いがあるのだぞ。ミキモトが説得したという、その日の夜にだぞ」

 この質問に、モヘジの顔が、引き締まる。

「サイクロプスの貞操観念について、俺は詳しくないが、場合によっては、ミキモトは、それを条件に、サイクロプスを引き上げさせたのかもしれないぜ?」
「な、なんと」

 小太りが、目を見開いて、レイジィのほうへと向き直った。

「レイジィ。まさか、そなた、ストラリアのために、その身をていして……」
「あの、発言してもよろしいでしょうか」

 レイジィが許可を求めた。

「もちろんだ」

 レイジィは、1歩、前に出て、語りだした。

「少し、誤解があると言いますか、わたくし、決して、いかがわしい行為をしていたわけではないのです」
「しかし、腰ミノに潜り込んだという証言があるのだぞ」

「たしかに、腰ミノには潜り込みました」
「では、一体、そこで何をやっていたのかね」

 レイジィは、少し目を伏せてから、口を開いた。

「実は、サイクロプスの、第2の目を見ていたのです」
「第2の目? それは何かね」

「サイクロプスは、股の間に、第2の目を持っているのです。第2の目は、視力はほとんどないのですが、感情を、非常によく表すと言われています。サイクロプスは、感情を読まれることを嫌い、普段は、腰ミノで第2の目を隠しているのです」
「ほ、ほう……」

 突然、押し寄せた、新情報の波に、小太りも、動揺を隠せないようだ。それと対照的に、得意分野を話し始めたレイジィは、どんどん調子に乗っている。

おすサイクロプスの第2の目から流れた涙を、めすサイクロプスがトックリに入れて、醗酵はっこうさせると、白涙しらなみだ、というお酒になるのです。あの晩、わたくし達が、いただいていたのは、それです。その味わい、喉越しは、とても素晴らしく――」

 観衆がどよめく。
 ミキモト達は、青ざめる。

「あ、あの酒、マサムネの体液だったのか」
「体液って言うの、やめて。まだ、涙のほうが、響きがいい」
「げええ。まあ、美味かったからなんでもいいや」

 レイジィの後ろで、ミキモト達も、どよめいた。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ。今、話している内容は、この裁判と、何か関係があるのかね?」

 レイジィは、はっとした表情を浮かべる。

「申し訳ありません。わたくし、魔物のこととなると、つい、止まらなくなってしまって。ええと、何でしたっけ」
「なぜ、そなたが、腰ミノに潜ったのか、という話だったが」

「わたくし、魔物の研究をするのが大好きなのです。サイクロプスは、本来、夫婦の間でしか、第2の目を見せないのですが、あの晩は、酔った勢いもありまして、どうしても、この目で、第2の目を見たくなり、つい、腰ミノに潜り込んでしまったのです」
「そ、その、夫婦間でしか見せないはずの、第2の目を、どうして、そなたは、見ることができたのかね?」

「それは、きっと、ミキモト様が、あの、マサムネ様ご家族と、仲良くなったからだと思います」
「マ、マサムネというのは?」

「あ、町の出入り口をふさいでいた、サイクロプスのお名前が、マサムネ様です。奥様がマサミ様、お子様がマサオ様。マサミ様が、わたくしに、第2の目を見ることを、許してくださったのです」
「な、なんと」

 小太りは、しばしの間、驚きのためか、固まっていたが、ミキモトのほうへ、向き直った。

「では、ミキモト、改めて問おう。そなたが、魔物と通じ合える能力があるとして、町の出入り口に、サイクロプスを呼んだのは、そなたではないのか?」
「俺は呼んでない」

「では、そなたが説得して、町の出入り口から、引き上げさせたというのは、事実なのか?」
「うーん。事実は、ちょっと違うんだよね」

「どういうことかね」
「たしかに、俺は、マサムネに言ったんだ。奥さんと子どもが待ってるみたいだから、そろそろ、戻ったらどうかって。でも、マサムネは、これは仕事だからとか言って、断ったんだ」
「ほう。では、なぜ、その、マサムネは町から去ったのかね」

「マサムネの横に、モヤモヤした影みたいなのが出てきて、そいつが、マサムネに、もう戻っていいって言ったんだ。ああ、ちょうど、そのときだったかな。そこの勇者が、マサムネに返り討ちにあってたのは。それで、戦闘が終わったマサムネは、引き上げていったんだ。俺は、そのときに、マサムネに誘われて、一緒に、メルボン北東の森までついていって、うたげをしてた、という経緯 いきさつで」
「ううむ。しかし、そのような話、にわかには信じられん。どう思われますか」

 小太りが、王に意見を求めた。

「論外じゃ。ミキモトの発言は、荒唐無稽こうとうむけいに過ぎる。証拠もなしに、このような発言を信じることはできぬ。残念じゃが――」

 その瞬間、広場が、瞬時にして暗くなった。何か、巨大なものが、上空をおおい、影を落としたのだ。
 人々が、空を見上げると、銅色あかがねいろうろこまとった存在が、中空から、広場を見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...