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第一部
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広場の上に浮かぶそれは、ドラゴンを思わせる、逞しい尾と、脚を持ち、足先には、黒い長靴を履いていた。
真昼の太陽を背負っているため、顔は、影になって、よく見えないが、4本のツノが生えているらしき、頭の造形は確認できる。
「私は、魔王フルグラ! 小賢しい人間どもめ。サイクロプスで、町の出入り口を塞ぐという作戦が、そこの、ミキモトという勇者のおかげで、台無しだ!」
フルグラは、身振り手振りを交えながら、情感たっぷりに言った。
広場の人間達は、状況が把握できずに、口を開けたまま、ただ、フルグラを見上げるだけだった。
「かくなる上は! いでよ、マサムネ!」
フルグラが、左腕を、ストラリア城のほうへと振りながら言うと、重低音が、地を震わせ、城の陰から、マサムネが現れた。
マサムネは、町の外壁沿いに、ゆっくりと西へ進んだかと思うと、ぐるりと、身体を、広場のほうへ回し、そこに集まっている人間達に向けて、咆哮した。
ここへ来て、広場の人々は、ようやく現状を認識し始めた。
「おい! サイクロプスだぞ!」
「ひぃぃぃぃぃ」
「あれがマサムネか!」
「あいつが、レイジィに股間を見られたやつだ!」
「クックックッ。人間どもよ、怯えるがよい。さあ、マサムネよ。遊びは終わりだ。この町の人間を、皆殺しにせよ!」
フルグラが、大げさな動きで、右腕を振り下ろしながら言い、3本しかない指の1本で、広場を指差した。
しかし、マサムネは動かない。
広場の人々は、パニックに陥り、口々に、好き勝手な言葉を並べ立てる。
「ミキモト! あんた、あいつと仲良くなったんだろ! なんとかしてくれよ」
「早く、追い返してくれ!」
「俺にも、白涙とやらを飲ませろ!」
「腰ミノをはげー!」
ミキモトは、やや遠方に佇む、マサムネの目を、真っ直ぐに見据えた。
「駄目だ、マサムネ! 森に帰ってくれ!」
人々の喧騒にかき消され、ミキモトの声が、マサムネの耳に届いたとは思えなかった。
何より、マサムネが居るところまでは、だいぶ距離がある。声が、聞こえるはずがなかった。
しかし、マサムネは、少しの間、広場を見つめたかと思うと、ゆっくりと踵を返し、北の森へと帰っていった。
それを見たフルグラが、上体をのけ反らせた。
「バ、バカなー! マサムネが、私の命令を無視しただと!? ミキモト! 貴様、マサムネに、一体、何をした!」
「え、何をって言われ――」
「ははははははは! 面白い! ミキモトよ。貴様は、何か特別な力を持っているらしいな。だが! 私の軍勢に、その力、どこまで通用するかな。魔王城で、貴様と相まみえる日を、楽しみにしているぞ!」
そう言って、フルグラは、町の上空から飛び去った――かと思いきや、ぐるりと方向転換をして、戻ってきた。
「そうそう、ストラリア王よ! 貴様の娘――アキナは、我が魔王城で、厚くもてなしている。数多の魔物に囲まれ、毎日、楽しそうにしているぞ! 安心するがよい」
「ほう……」
王は、無表情なまま、静かに、それだけ言った。
「では、さらばだ!」
そう言って、今度こそ、フルグラは、飛び去った。人々が、行き先を目で追うと、町の外に出た辺りの上空で、ふっ、とその姿が消えた。
いつの間にか、広場は、静寂に包まれていた。
少しして、人々が、口々に、何かを囁き合い、それは、少しずつ音量を増し、どよめきとなった。
「ミキモトの力が、魔王の支配力を上回ったのか?」
「あれが魔王だって? 本当か?」
「あいつが魔王である確証はあるのか」
不意に、大音声が、群衆のどよめきを貫いた。
「俺は、あいつと戦ったことがある!」
「誰だ、あんたは」
誰かが問うた。
「俺は、勇者 いいいい。俺は、魔王城に攻め込んだとき、あいつと戦ったことがる。惨敗したがな」
「おお! じゃあ、あれは魔王なのか?」
「分からない。魔王は、普通、玉座に座っているものだが、あいつは、魔王城の通路いっぱいに、ぎゅうぎゅうに詰まっていたんだ」
「通路に、詰まっていただって? じゃあ、魔王じゃないんじゃないか? 魔王は、通路に詰まらねえだろ」
「あと、俺が、アキナ姫を返せ、と言ったら、『ここには居ない』と言っていたんだ。それが、今は、アキナ姫を預かっている、と言う。どうにも、あいつは胡散臭い」
「じゃあ、偽魔王じゃないのか!」
どよめきは、大きくなる一方だ。
「しかしだ――」
広場を取り囲む観衆の、外側のほうから、誰かが、大声で言った。
「少なくとも、魔王城内に出現する、極めて魔王に近い魔物であることに間違いはないわけだろ? ミキモトの力が、そいつを上回ったのは確かだぜ」
「おおー! たしかに!」
少しして、誰かが叫んだ。
「ミキモトの力は本物だ!」
堰を切ったように、人々は、大声を発し、広場は、ミキモトを称える声で、満たされた。
人々の、興奮覚めやらぬ中、眉根を寄せた小太りが、王の下へと駆け寄り、何かを耳打ちすると、王は笑みを浮かべ、耳打ちを返した。
小太りは、ミキモト達の前へと駆け戻り、数回、手を叩いた。
「ミキモト達の疑いは晴れた! よって、この場にて、無罪放免とする!」
人々の興奮は、再び、最高潮に達した。
兵士達が駆け寄り、ミキモト達の、手かせ足かせを解錠し、取り外した。
「なんだか分からないけど、助かったな」
「一時は、どうなることかと思いました」
「レイジィの潔白も、証明された」
「ああ、よかったよかった。しかし、レイジィ。お前、ただの変態じゃなかったんだな」
「まあ。どういう意味ですか?」
「魔物好きの、ド変態だ。ミキモトが言ってたぜ。レイジィは、うちのパーティで一番まともだと思ってたのに、実は一番のド変態でショックだって」
「ミキモト様! そ、そんな」
「いや、そうは言ってない。アイドラの言い方には、悪意があるぞ!」
「ニュアンスに、大差なし」
「ニュアンスは、微妙な差が大事なんだよ! でも、あのとき、レイジィは、マサムネの第2の目を見てたんだな。すっかり、誤解してたよ」
「どう、誤解されてたんですか?」
「どうって、そりゃ、腰ミノに潜り込んでんだから、サイクロプスのチ――」
「アイドラ! そこまで!」
めずらしく、リージュが、鋭い声を上げた。
「ミ、ミキモト様達まで、わたくしを、そのような女だと、お思いになっていたなんて」
「でも、まあ、ほら。あのときは酔ってたし、股間に第2の目があるなんて、普通、知らないし、今は、誤解は解けたし。めでたしめでたし」
「うう。わたくしに、なんら、後悔はありません。でも、あの目を見られて、わたくしは、幸せです! 今後も、魔物という魔物を、心ゆくまで、堪能する所存です」
右手で、握り拳を作り、熱く語るレイジィ。
「こ、心ゆくまで、ね」
「こりゃ、魔王の軍勢は、地獄を見るかもしれねえな」
「レイジィ、無双」
「レイジィの読んでた、魔物図鑑に、魔王フルグラは載ってたの?」
「いいえ。載ってませんでしたわ。わたくし、先ほど、初めて見て、感動しました。ああ、あの魔王様も、いつか、わたくしの手で――」
レイジィの目が、狂気に歪み始める。
「そ、そう言えばさ、フルグラの声って、どこかで――」
そう言いかけたミキモトは、自分のところへ、ひとつの足音が近づいて来るのを耳にした。
「おうおう! ずいぶん楽しそうじゃねえか」
振り返ったミキモトの、目の前に立っていたのは、モヘジだった。
「モヘジ。お前、どうして、俺のことをかばってくれたんだ?」
モヘジは、右手の人差し指で、自分の右頬を、数回、かいた。
真昼の太陽を背負っているため、顔は、影になって、よく見えないが、4本のツノが生えているらしき、頭の造形は確認できる。
「私は、魔王フルグラ! 小賢しい人間どもめ。サイクロプスで、町の出入り口を塞ぐという作戦が、そこの、ミキモトという勇者のおかげで、台無しだ!」
フルグラは、身振り手振りを交えながら、情感たっぷりに言った。
広場の人間達は、状況が把握できずに、口を開けたまま、ただ、フルグラを見上げるだけだった。
「かくなる上は! いでよ、マサムネ!」
フルグラが、左腕を、ストラリア城のほうへと振りながら言うと、重低音が、地を震わせ、城の陰から、マサムネが現れた。
マサムネは、町の外壁沿いに、ゆっくりと西へ進んだかと思うと、ぐるりと、身体を、広場のほうへ回し、そこに集まっている人間達に向けて、咆哮した。
ここへ来て、広場の人々は、ようやく現状を認識し始めた。
「おい! サイクロプスだぞ!」
「ひぃぃぃぃぃ」
「あれがマサムネか!」
「あいつが、レイジィに股間を見られたやつだ!」
「クックックッ。人間どもよ、怯えるがよい。さあ、マサムネよ。遊びは終わりだ。この町の人間を、皆殺しにせよ!」
フルグラが、大げさな動きで、右腕を振り下ろしながら言い、3本しかない指の1本で、広場を指差した。
しかし、マサムネは動かない。
広場の人々は、パニックに陥り、口々に、好き勝手な言葉を並べ立てる。
「ミキモト! あんた、あいつと仲良くなったんだろ! なんとかしてくれよ」
「早く、追い返してくれ!」
「俺にも、白涙とやらを飲ませろ!」
「腰ミノをはげー!」
ミキモトは、やや遠方に佇む、マサムネの目を、真っ直ぐに見据えた。
「駄目だ、マサムネ! 森に帰ってくれ!」
人々の喧騒にかき消され、ミキモトの声が、マサムネの耳に届いたとは思えなかった。
何より、マサムネが居るところまでは、だいぶ距離がある。声が、聞こえるはずがなかった。
しかし、マサムネは、少しの間、広場を見つめたかと思うと、ゆっくりと踵を返し、北の森へと帰っていった。
それを見たフルグラが、上体をのけ反らせた。
「バ、バカなー! マサムネが、私の命令を無視しただと!? ミキモト! 貴様、マサムネに、一体、何をした!」
「え、何をって言われ――」
「ははははははは! 面白い! ミキモトよ。貴様は、何か特別な力を持っているらしいな。だが! 私の軍勢に、その力、どこまで通用するかな。魔王城で、貴様と相まみえる日を、楽しみにしているぞ!」
そう言って、フルグラは、町の上空から飛び去った――かと思いきや、ぐるりと方向転換をして、戻ってきた。
「そうそう、ストラリア王よ! 貴様の娘――アキナは、我が魔王城で、厚くもてなしている。数多の魔物に囲まれ、毎日、楽しそうにしているぞ! 安心するがよい」
「ほう……」
王は、無表情なまま、静かに、それだけ言った。
「では、さらばだ!」
そう言って、今度こそ、フルグラは、飛び去った。人々が、行き先を目で追うと、町の外に出た辺りの上空で、ふっ、とその姿が消えた。
いつの間にか、広場は、静寂に包まれていた。
少しして、人々が、口々に、何かを囁き合い、それは、少しずつ音量を増し、どよめきとなった。
「ミキモトの力が、魔王の支配力を上回ったのか?」
「あれが魔王だって? 本当か?」
「あいつが魔王である確証はあるのか」
不意に、大音声が、群衆のどよめきを貫いた。
「俺は、あいつと戦ったことがある!」
「誰だ、あんたは」
誰かが問うた。
「俺は、勇者 いいいい。俺は、魔王城に攻め込んだとき、あいつと戦ったことがる。惨敗したがな」
「おお! じゃあ、あれは魔王なのか?」
「分からない。魔王は、普通、玉座に座っているものだが、あいつは、魔王城の通路いっぱいに、ぎゅうぎゅうに詰まっていたんだ」
「通路に、詰まっていただって? じゃあ、魔王じゃないんじゃないか? 魔王は、通路に詰まらねえだろ」
「あと、俺が、アキナ姫を返せ、と言ったら、『ここには居ない』と言っていたんだ。それが、今は、アキナ姫を預かっている、と言う。どうにも、あいつは胡散臭い」
「じゃあ、偽魔王じゃないのか!」
どよめきは、大きくなる一方だ。
「しかしだ――」
広場を取り囲む観衆の、外側のほうから、誰かが、大声で言った。
「少なくとも、魔王城内に出現する、極めて魔王に近い魔物であることに間違いはないわけだろ? ミキモトの力が、そいつを上回ったのは確かだぜ」
「おおー! たしかに!」
少しして、誰かが叫んだ。
「ミキモトの力は本物だ!」
堰を切ったように、人々は、大声を発し、広場は、ミキモトを称える声で、満たされた。
人々の、興奮覚めやらぬ中、眉根を寄せた小太りが、王の下へと駆け寄り、何かを耳打ちすると、王は笑みを浮かべ、耳打ちを返した。
小太りは、ミキモト達の前へと駆け戻り、数回、手を叩いた。
「ミキモト達の疑いは晴れた! よって、この場にて、無罪放免とする!」
人々の興奮は、再び、最高潮に達した。
兵士達が駆け寄り、ミキモト達の、手かせ足かせを解錠し、取り外した。
「なんだか分からないけど、助かったな」
「一時は、どうなることかと思いました」
「レイジィの潔白も、証明された」
「ああ、よかったよかった。しかし、レイジィ。お前、ただの変態じゃなかったんだな」
「まあ。どういう意味ですか?」
「魔物好きの、ド変態だ。ミキモトが言ってたぜ。レイジィは、うちのパーティで一番まともだと思ってたのに、実は一番のド変態でショックだって」
「ミキモト様! そ、そんな」
「いや、そうは言ってない。アイドラの言い方には、悪意があるぞ!」
「ニュアンスに、大差なし」
「ニュアンスは、微妙な差が大事なんだよ! でも、あのとき、レイジィは、マサムネの第2の目を見てたんだな。すっかり、誤解してたよ」
「どう、誤解されてたんですか?」
「どうって、そりゃ、腰ミノに潜り込んでんだから、サイクロプスのチ――」
「アイドラ! そこまで!」
めずらしく、リージュが、鋭い声を上げた。
「ミ、ミキモト様達まで、わたくしを、そのような女だと、お思いになっていたなんて」
「でも、まあ、ほら。あのときは酔ってたし、股間に第2の目があるなんて、普通、知らないし、今は、誤解は解けたし。めでたしめでたし」
「うう。わたくしに、なんら、後悔はありません。でも、あの目を見られて、わたくしは、幸せです! 今後も、魔物という魔物を、心ゆくまで、堪能する所存です」
右手で、握り拳を作り、熱く語るレイジィ。
「こ、心ゆくまで、ね」
「こりゃ、魔王の軍勢は、地獄を見るかもしれねえな」
「レイジィ、無双」
「レイジィの読んでた、魔物図鑑に、魔王フルグラは載ってたの?」
「いいえ。載ってませんでしたわ。わたくし、先ほど、初めて見て、感動しました。ああ、あの魔王様も、いつか、わたくしの手で――」
レイジィの目が、狂気に歪み始める。
「そ、そう言えばさ、フルグラの声って、どこかで――」
そう言いかけたミキモトは、自分のところへ、ひとつの足音が近づいて来るのを耳にした。
「おうおう! ずいぶん楽しそうじゃねえか」
振り返ったミキモトの、目の前に立っていたのは、モヘジだった。
「モヘジ。お前、どうして、俺のことをかばってくれたんだ?」
モヘジは、右手の人差し指で、自分の右頬を、数回、かいた。
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