魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

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第一部

収穫

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「ちょっと考えてみてほしいでちゅ。勇者パーティ以外の人間は、死んだら、そこでおしまいなんでちゅよ。それなのに、勇者パーティにも属さず、1人で冒険するやつなんて、その時点で相当不審でちゅ」

「なるほど」
「あと、自己紹介をするときには、ちゃんと職業を言うべきでちゅ。さすらいの戦士とか、旅の武闘家とかのほうが、まだましでちゅね。冒険者 だなんて、自分は不審者だと宣伝してるようなもんでちゅ。フルグラ様も、少しは頭を使ってほしいでちゅ」

 この卵野郎。口調のせいも相まって、なかなかに腹が立つじゃないか。
 礼儀が、まるでなっとらん。歴代の魔王も、こういう魔物を相手に、腹を立てていたんだろうか、などという思いが頭をよぎる。しかし、歴代の魔王は、人間に化けて町に潜り込んだりしないし、ノッペランに助言を求めに来ることもなかったのだ。

 魔物の無礼に腹を立てていても仕方がない。今から教育するにも、手がかかりすぎる。気にしないのが一番だ。そう考えると、ブランは本当にしっかりしているな。

「あと、フルグラ様の、その格好は、綺麗すぎまちゅ。まったく冒険してきた感じがないでちゅね。ちょっと手本を見せてあげまちゅ」

 シロポンの、卵型の身体からだに、縦長のヒビが入ったかと思うと、そのままぱっくりと、ふたつに割れた。

 真っ二つになったシロポンの身体からだの中から、体格の良い、男性が姿を現した。
 男性の足元に落ちていた、文字通り、抜け殻となった卵殻と、手足と尾は、ちゅるん、と男性の足先に吸い込まれ、吸収されていった。

 その男性は、歳は40前後、口の周りには無精髭ぶしょうひげが生え、短く刈り上げた頭髪には、白髪が目立つ。

 薄汚れた、袖なしの革鎧かわよろいは、だいぶ年季が入っており、見ているだけで、こちらまで臭ってきそうだ。

 むき出しになった上腕には、刀傷のようなあとが、数箇所あり、これまでの戦いの歴史をうかがわせた。

 ごつごつした手には、無数の傷痕きずあとがあり、手の平には、長年、つるぎを振るってきたことを思わせる、マメがあった。

 圧倒的リアリティだ。
 たしかに、この圧倒的リアリティに比べたら、俺の変身など、子どもだましに過ぎないことを痛感させられる。

「お前は、シロポンなのか?」
「いや。俺は、はぐれ戦士のマシュー。数年前に、パーティメンバーとはぐれちまってね。それ以来、ずっと、あいつらを探して、旅をしてる」

 そう言って、マシューは遠い目をした。

「あのとき、俺らは、お宝を探しに、砂の宮殿に入ったんだ。地下2階を探索してる途中、目当てのお宝まで、あと少しかってところで、突然、パーティメンバーが目の前から消えちまった。落とし穴だよ。あいつらとは、それっきりだ。生きてるのかどうかも分からねえ。それ以来、俺は、ずっと1人で戦ってきた」

 マシューは、目を細め、左腕の傷痕きずあとを右手で撫でた。

「その傷は?」

 俺は、つい聞いてしまった。

「サンドソルジャーに斬られたのさ。知ってんだろ? あの、骨のばけもんだ」

 言われて、俺は、ついうなずいてしまう。

 次の瞬間、マシューの顔にヒビが入ったかと思うと、そのヒビは、胸、腹にまで伸びていき、マシューの身体からだが真っ二つに割れた。
 中から現れたのは、卵の形をしたノッペランだった。抜け殻となったマシューの身体からだは、ちゅるんと、ノッペランの足先に吸い込まれた。

「とまあ、1人キャラでいくなら、これくらいはやってもらわないと困るでちゅ」

「お前は、シロポンなのか」
「そうでちゅ。言うまでもなく、さっきのマシューもシロポンでちゅ」

「でも、さっきたずねたときは、否定したじゃないか」
「変身してるときは、そのものに、なり切ること。これ、基本でちゅ。間違っても、本当の名前を呼ばれて、振り向くようなバカは、やっちゃいけないでちゅ」

 ぐぅ。俺、やりそうだ。
 悲しいことに、本名を思い出せない上に、フルグラという名前も、自分の中で定着しつつある。

 黙っている俺をよそに、シロポンは続ける。

「変身するときは、そのものの、年齢、背景、生い立ち、くせ、なんかを全て、自分のものにしておかないといけないでちゅ。形だけ似せればいいってもんじゃないでちゅよ」

 ぐうの音も出ないとはこのことだ。

 すると、次の瞬間、シロポンの身体からだが、瞬時にマシューへと変化した。

「それと、サンドソルジャーなんて魔物は居ねえよ。安易にうなずくのは、関心しねえな」

 それだけ言うと、マシューは、すぐさまシロポンへと戻った。

「切り替えは瞬時にできるのが理想でちゅ」
 
「お前、そんな、瞬時に変身できたのか」
「できるでちゅ」

「さっき、お前の身体からだが割れたのはなんだったんだ」
「演出でちゅよ。フルグラ様は、純粋過ぎて心配になるでちゅ」

 くそ。こいつには翻弄ほんろうされっぱなしだ。

「お前、マシューに変身したときは、普通に喋ってたのに、なんで普段は、でちゅでちゅ言ってんだ」
「赤ん坊だからでちゅ。赤ん坊は、どんなものにもなれるでちゅ。無限の可能性があるでちゅ。なので、普段は、自分の可能性を広げるために、赤ん坊になってるんでちゅ」

「それを自覚しちゃってる時点で、赤ん坊としては失格じゃないか?」
「難しいことは分からないでちゅー」

 シロポンは、小刻みに身体からだを揺らしながら言った。

 こいつ、急に、バカの振りしだしやがった。

 しかし、収穫はあった。シロポンは、むかつくやつだが、変身の技術は本物だ。ノッペラン達が、みんな、同等の技術を有しているなら、これらを上手く使わない手はない。
 問題は、俺が、上手く使えるのかどうか、だが。

「お前達は、戦ったら、どれくらい強いんだ?」
「戦いのほうは、それほど得意じゃないでちゅ。さすがに、ドラキャットとかよりは、戦えるでちゅが」

「変身しても、戦闘の能力は変わらないのか?」
「変わらないでちゅ」

「弱い魔物は、全て引き上げさせたのではなかったのか?」

 俺はブランに問うた。

「ノッペランは少々特殊でして、その変身能力のおかげで、そうそう、勇者達と戦闘になることもないので、引き上げさせませんでした」

 なるほど。あの作戦は、勇者達に経験値を稼がせない、というのが意図だったからな。

「フルグラ様は、口調が定まってないでちゅね。魔王なのか、人間なのか、キャラ設定をはっきりしてほしいでちゅ」

「今は、魔王だ。注意しよう」

 俺は、ため息混じりに応えた。

「ブランよ。ノッペラン以外にも、変身ができる魔物は居るのか」
「居ります。潜入技術という点では、ノッペランには及ばないかも知れませんが、変身を得意とする魔物は、いくつか心当たりがあります」

「その中に、そこそこ戦闘能力が高いものは?」
「2~3 居ります」

 よし。

 その後、俺は、ノッペラン達と、ある作戦について打ち合わせをした。

 超空間に入った俺は、ブランに言う。

「変身能力を持ち、かつ戦闘能力が高い魔物が3体欲しい」
「どのような目的で?」

「決まっているであろう。4人パーティを組んで、再び、人間の町に潜入してくる」
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