魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

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第一部

検証

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 ザクロ達をチョーシに残し、俺は、ひとり、魔王城へとワープした。

 玉座の間に戻ると、ブランがいた。

「フルグラ様! ちょうどよいところに。つい先ほど、新しい玉座の間が完成したのです。完成といっても、本当に機能するかは分かりませんが」

「おお、早速、ゆこうではないか」
「では、まいりましょう」

 ブランとともに超空間に入り、魔王城のすみに試験的に作った、新しい玉座の間へと向かう。

 先導するブランの後ろについていく。バタ足で泳ぐブランを、平泳ぎの俺が追う形だ。

 うーむ。この角度で見ると、ブランのローブの中――下半身が丸見えなんだなあ。

 股間には何もない。ブランはおすなんだろうか、めすなんだろうか。それとも、雌雄同体しゆうどうたいか。いや、そもそも、他に大魔道という個体がいないのであれば、性別に意味などない。

 そこまで考えて気づいた。
 俺も同じだ。当然のように、自分はおすだと思っていたが、この身体からだに、雌雄しゆうはないのかもしれない。

 緑色の下半身を眺めながら、性別に思いを馳せていると、唐突に、目の前に壁が迫ってきた。

「おぼっ」

 俺は、顔面を強打した。
 それほどのダメージはないが、びっくりした。一体、何が起きたんだ。

 そこで思い当たった。
 ああ、すり抜けか。ブランは言っていた。念じれば、物質をすり抜けられる、と。
ブランは、壁をすり抜けて、最短距離で、新たな玉座の間に向かっているのだ。

 俺は、まだすり抜けをやったことがなかった。
 壁際に立ち、試しに、壁に頭を押し付けながら念じてみた。不思議なことに、壁の抵抗がなくなり、頭が壁の中へ吸い込まれていく。
 目が、壁の中に入ると、視界は真っ暗になった。

 少し、身体からだを前に進めると、頭が、壁の向こう側へと出て、視界に光が戻る。

 なるほど。すり抜けとは、こんな感じなのか。この要領で、ブランのあとを追えばよいというわけだ。

 俺は、体勢を立て直し、ブランが向かった方角へと泳ぎだした。

 壁が目の前に迫り、一瞬、躊躇ちゅうちょするが、そのまま突っ込むと、視界が暗転し、すぐに、壁の向こうへと抜ける。
 それの繰り返しだ。

 しかし、すり抜けられると分かっていても、顔面から壁に突っ込むのは、少々、勇気が要る。俺も、もっと魔王に慣れなければいけない。

 再び、壁が目の前に迫る。俺は、顔を前へと向け、しっかりと壁をにらみ付けながら、壁へと突っ込む。
 次の瞬間、目の前の壁からブランの顔が現れた。

「おぶっ」

 顔に衝撃しょうげきが走り、視界が暗転と明転を繰り返す。

 気がつくと俺は、ブランにおおいかぶさる形で、床に横たわっていた。すぐ目の前に、ブランの顔がある。

「フルグラ……様」

 ブランが、下から俺を見つめている。心なしか、緑色の顔に、赤みがさしているように見える。

「す、すまぬ」

 俺は、慌てて身を起こした。

「いえ」

 ブランも立ち上がる。

「どうして、急に、壁から顔を出したのだ」
「フルグラ様が、ついていらっしゃらないので、何かあったのかと思い、引き返しているところでした」

「すまぬ。壁のすり抜けが初めてだったので、少々、手間取っていたのだ」
「配慮が足りず、申し訳ございません」

「よい。ゆこうではないか」

 俺は、あごをしゃくって移動を促した。

「かしこまりました」

 ブランは背を向けて言い、移動を開始するのかと思いきや、驚きの一言を放つ。

「フルグラ様のくちびる、柔らかかったです」

 やめて。そういう展開、本当に望んでないから。

 壁の中へと吸い込まれていくブランを追って、移動を開始する。
 それから、10枚ほどの壁をすり抜けた頃だろうか。ふいに、巨大な空間の中に出た。

「こちらです」

 俺はうなずき、超空間を抜けた。

 そこは、現在の玉座の間に劣らない広さで、壁には、青い炎の灯るろうそくが並び、部屋の奥に、立派な玉座がしつらえられていた。

 また、ずいぶんと頑張ってくれたものだ。

「部屋を作るだけであれば容易なのですが、玉座の制作と、ろうそくを並べるのに、なかなか手間取りました」

「玉座はともかく、ろうそくは必要なのか」
「分かりません。しかし、玉座の間の新設など、前代未聞ですので、極力、同じ環境を再現したほうがよいかと考えました」

「なるほど。ご苦労であった」
「とんでもない。カッカ達の尽力があったからこそです」

 俺は、玉座に歩み寄った。
 なんだろう。何かが足りない感じがする。

 試しに、玉座に腰掛けてみた。座り心地は悪くない。しかし、何か違和感がある。感覚で分かるのだ。ここは、本物の玉座の間ではない、と。
 やはり、新しく作った玉座の間は、本物にはなり得ないということだろうか。

 あれを試してみよう。

 ここを、玉座の間とする!

 心の中で強く念じた。
 困ったときの、念だのみだ。

 はっとして、俺は、周りを見回した。

「フルグラ様。どうされましたか」

「ブランよ。おそらく、成功だ」
「おお!」

 外見上、何が変わったわけではないのだが、たしかに、変化があった。先ほどまでの違和感がなくなり、ここが玉座の間であることが、感覚で分かった。

 ここで、確かめなければいけないことがある。

「ブランよ。ここで、少し待っていてくれ」

 俺は、旧・玉座の間へとワープした。
 相変わらず、ドラキャットやらなんやらが、走り回っていて騒々しい。

 玉座に腰掛けてみると、違和感がある。こちらはもう、玉座の間ではなくなっている感覚がある。

 よし。大丈夫そうだ。玉座の間が、2箇所に増えただけだったら、リスク倍増でどうしようかと思ったが、ちゃんと移動に成功したらしい。
 玉座の間は、1箇所にしか存在できないようだ。

 となると、もうひとつ、確認したいことがあるのだが、やるべきか悩む。ここで、再び念じれば、こちらを玉座の間に戻すことが、できるのかどうか。
 移動に回数制限がある可能性も考えると、下手に確認しづらい。今は、他の作業を優先することにする。

 俺は、新・玉座の間へと戻った。

 移動はおそらく成功だ。しかし、それはまだ自分の感覚でしかない。検証が必要だ。
 ブランに状況を説明し、指示を出した。

「かしこまりました」

 ブランは姿を消す。

 俺は、そのときに備えて、再び、旧・玉座の間へとワープした。
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