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第一部
亀裂
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「そなたらは、一体、何ものなのじゃ」
王は、目を細めながら言った。その、すぐ背後には、見張りの兵士が2人、こちらを向いて立っている。
先ほど話したほうの兵士は、祈るような表情で、俺を見つめている。
「何ものと言われましても、勇者フレークと、その家族としか」
俺は、立ち上がって答えた。
王は表情を変えない。
「そなたら……人間ではないのではないか?」
いやー、ばれてるー。
なんと答えるべきか。
そうなんです。実は魔王なんです、などと言えるわけがない。
「なぜ、そう、お思いになるのですか」
これが、限られた時間の中で思いついた、精一杯の回答だった。王の質問に対し、質問で返すのは失礼にあたるかもしれないが、やむを得まい。
「王には、王の世界があっての」
曖昧な返答だ。
やはり、王が管理している、戸籍のようなデータがあって、そこに俺らの名前がないということだろうか。
考えを巡らせている間に、王が、その顔に笑みを浮かべて、再び口を開く。
「じきに、結論は出る。知っておるか。この世界には、真実の姿を写す、トゥルーの鏡と呼ばれる鏡があることを」
「名前だけは、耳にしたことがあります」
平静を装って言ったものの、内心は軽いパニックだ。
トゥルーの鏡を持ってくるつもりか。
これはまずい。
そんなものを持ってこられたら一発アウトだ。言い逃れようもない。
それどころか、鏡に写された途端に、変身が解けて圧死などという最悪のケースもあるのではないか。
いや、それはないか。よく考えたら、そんなことが原因で、ボスが死ぬ RPG など見たことがない。
しかし、俺はすでに、普通の RPG から、かなり逸脱したことをしており、そのせいで、この世界も歪んでしまっている可能性がある。不安は払拭できない。
王は、しばらく俺の顔を見ていたかと思うと、突然、大きな声で笑いだした。そして、背後の兵士に何やら指示を出す。
兵士は、腰に着けていた鍵束を手に取り、その中の1つの鍵を、俺らの鉄格子の鍵穴に差し込み、回した。
ぎい、という音を立てて、鉄格子が開く。
この状況で、なぜ、鉄格子が開くんだ。
状況が飲み込めない俺に向かって、王が言う。
「出るがよい」
一体、何がどうなっている。
「トゥルーの鏡を持ってくるのではなかったのですか?」
「そうしてほしいのか?」
「いえ」
この王は、何を考えているんだ。
「俺達が、怪しいものではないと証明されたのでしょうか」
王は、厳しい表情でこちらを睨む。
「まだ分からぬのか」
何も分からない。どういうことなんだ。
王が、ため息をつきながら歩み出て、牢の中まで入ってくる。
動けないでいる俺の、すぐ目の前までやって来たかと思うと、俺の耳元に顔を近づけて、たしかにこう言った。
「わしも、人間ではないのじゃ」
王の発した言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。
なんだって。
王が、自分は人間ではないと言ったのか。
王の発した声は、小さかったものの、2人の兵士にも聞こえていたはずだ。しかし、兵士達は平然としている。兵士も、その事実を、当然のこととして知っているのか。
俺の耳元で、王が、ふたたびささやく。
「まったく、世話の焼ける魔王様でちゅね」
「……!」
こいつ、まさか……。
「シロポン、なのか」
王は、一歩下がって、にやりと笑った。
ということは、後ろの兵士もノッペランなのか。
ということは、どういうことだ。いつ入れ替わったんだ。いや、兵士達に関しては、入れ替わる時間などなかったはずだ。
そう。たしかに俺は、以前、ノッペラン達に指示を出していた。全員、世界中の町や村に散って、潜入するように。
最初は、情報収集がメインだった。俺がフレークとして、魔物退治の芝居を始めてからは、フレークの噂を広める役割もこなしていたらしい。
ノッペラン達への指示は、ブランに任せていたため、正直、こいつらの存在を忘れかけていた。
こいつらは、とっくに兵士に化けて潜入していたということだろうか。
「一応、確認するけど、ストラリアの王が、元々お前ってわけじゃないよな」
王は悲しそうな顔で口を開く。
「そんなわけないじゃないでちゅか。魔王様は相変わらず思慮が浅いでちゅね」
この口の悪さ。もはや懐かしい。
王は真剣な面持ちを作って言う。
「早く行ったほうがよいぞ。そんなところに突っ立っている暇はない」
お前のせいで、混乱してるんだよ。
それに、本当に時間がないなら、さっさと正体を明かして、鍵を開ければよかったのに、無駄な小芝居しやがって。
こいつ、絶対、俺の反応を見て楽しんでたんだ。
「行こう」
後ろを振り返り、ザクロ達に言った。
「くそ。助かったよ。ありがとう」
腹立たしいが、助かったのは事実だ。
「気をつけるのじゃぞ」
「お前もな」
「要らぬ心配じゃ。そなたとは、ここの出来が違うのでな」
王は、緩やかに曲げた人差し指で、自分の頭を2回叩いた。
急いで階段を駆け上がりたいところだが、その前に。
「変身したほうがいいんじゃない?」
後ろからパインが言った。
「ああ。兵士になろう」
俺らはこれから逃亡するのだ。フレークパーティの姿のままでいるのは、リスクが高い。
4人全員、兵士に変身し、何食わぬ顔で地上へ出た。
どうやら、現在は昼らしく、頭上から太陽光が降り注いでいた。
城の外壁に沿って進み、町へと向かう間、誰ともすれ違わなかった。これも、シロポンの想定通りなのだろうか。
堀にかけられた橋を渡る際に、城門脇の番兵に見られたが、特に気にはされなかった。
無事、町の中に入った俺らは、人目につかないよう、裏通りへ行き、建物の隙間に身を隠した。
「町の中では、兵士姿が逆に目立つな。町民にでも化けるか」
どんな姿に変身するかを話していると、ふと、あたりが暗くなった気がした。建物の陰に入ったとはいえ、この暗さは普通ではない。
はっとして、頭上を見上げると、町の上空に何かが浮かび、太陽光を遮っている。
それは、黒いローブのような服を纏った、巨大な人型の影だった。逆光のため、その大部分は、輪郭しか判別できない。
「私は、大魔王シリアルキラー」
たしかに、そう聞こえた。
俺は、上空の影を見上げながら、考えていた。
あれは、なんだ。
あんなものの登場は予定にない。ブランやブラックデーモンが化けているわけではないはずだ。となると、本物の大魔王なのか?
でも、大魔王が居るなら、もっと前に、なんか情報共有があるものじゃないのか。
魔王が倒されたと判断されて、急遽、大魔王が現れたということなのだろうか。
たしかなことは分からない。しかし、どうやら、俺の、一世一代の大博打は、失敗したらしい。
第一部 完
王は、目を細めながら言った。その、すぐ背後には、見張りの兵士が2人、こちらを向いて立っている。
先ほど話したほうの兵士は、祈るような表情で、俺を見つめている。
「何ものと言われましても、勇者フレークと、その家族としか」
俺は、立ち上がって答えた。
王は表情を変えない。
「そなたら……人間ではないのではないか?」
いやー、ばれてるー。
なんと答えるべきか。
そうなんです。実は魔王なんです、などと言えるわけがない。
「なぜ、そう、お思いになるのですか」
これが、限られた時間の中で思いついた、精一杯の回答だった。王の質問に対し、質問で返すのは失礼にあたるかもしれないが、やむを得まい。
「王には、王の世界があっての」
曖昧な返答だ。
やはり、王が管理している、戸籍のようなデータがあって、そこに俺らの名前がないということだろうか。
考えを巡らせている間に、王が、その顔に笑みを浮かべて、再び口を開く。
「じきに、結論は出る。知っておるか。この世界には、真実の姿を写す、トゥルーの鏡と呼ばれる鏡があることを」
「名前だけは、耳にしたことがあります」
平静を装って言ったものの、内心は軽いパニックだ。
トゥルーの鏡を持ってくるつもりか。
これはまずい。
そんなものを持ってこられたら一発アウトだ。言い逃れようもない。
それどころか、鏡に写された途端に、変身が解けて圧死などという最悪のケースもあるのではないか。
いや、それはないか。よく考えたら、そんなことが原因で、ボスが死ぬ RPG など見たことがない。
しかし、俺はすでに、普通の RPG から、かなり逸脱したことをしており、そのせいで、この世界も歪んでしまっている可能性がある。不安は払拭できない。
王は、しばらく俺の顔を見ていたかと思うと、突然、大きな声で笑いだした。そして、背後の兵士に何やら指示を出す。
兵士は、腰に着けていた鍵束を手に取り、その中の1つの鍵を、俺らの鉄格子の鍵穴に差し込み、回した。
ぎい、という音を立てて、鉄格子が開く。
この状況で、なぜ、鉄格子が開くんだ。
状況が飲み込めない俺に向かって、王が言う。
「出るがよい」
一体、何がどうなっている。
「トゥルーの鏡を持ってくるのではなかったのですか?」
「そうしてほしいのか?」
「いえ」
この王は、何を考えているんだ。
「俺達が、怪しいものではないと証明されたのでしょうか」
王は、厳しい表情でこちらを睨む。
「まだ分からぬのか」
何も分からない。どういうことなんだ。
王が、ため息をつきながら歩み出て、牢の中まで入ってくる。
動けないでいる俺の、すぐ目の前までやって来たかと思うと、俺の耳元に顔を近づけて、たしかにこう言った。
「わしも、人間ではないのじゃ」
王の発した言葉を理解するのに、しばらく時間がかかった。
なんだって。
王が、自分は人間ではないと言ったのか。
王の発した声は、小さかったものの、2人の兵士にも聞こえていたはずだ。しかし、兵士達は平然としている。兵士も、その事実を、当然のこととして知っているのか。
俺の耳元で、王が、ふたたびささやく。
「まったく、世話の焼ける魔王様でちゅね」
「……!」
こいつ、まさか……。
「シロポン、なのか」
王は、一歩下がって、にやりと笑った。
ということは、後ろの兵士もノッペランなのか。
ということは、どういうことだ。いつ入れ替わったんだ。いや、兵士達に関しては、入れ替わる時間などなかったはずだ。
そう。たしかに俺は、以前、ノッペラン達に指示を出していた。全員、世界中の町や村に散って、潜入するように。
最初は、情報収集がメインだった。俺がフレークとして、魔物退治の芝居を始めてからは、フレークの噂を広める役割もこなしていたらしい。
ノッペラン達への指示は、ブランに任せていたため、正直、こいつらの存在を忘れかけていた。
こいつらは、とっくに兵士に化けて潜入していたということだろうか。
「一応、確認するけど、ストラリアの王が、元々お前ってわけじゃないよな」
王は悲しそうな顔で口を開く。
「そんなわけないじゃないでちゅか。魔王様は相変わらず思慮が浅いでちゅね」
この口の悪さ。もはや懐かしい。
王は真剣な面持ちを作って言う。
「早く行ったほうがよいぞ。そんなところに突っ立っている暇はない」
お前のせいで、混乱してるんだよ。
それに、本当に時間がないなら、さっさと正体を明かして、鍵を開ければよかったのに、無駄な小芝居しやがって。
こいつ、絶対、俺の反応を見て楽しんでたんだ。
「行こう」
後ろを振り返り、ザクロ達に言った。
「くそ。助かったよ。ありがとう」
腹立たしいが、助かったのは事実だ。
「気をつけるのじゃぞ」
「お前もな」
「要らぬ心配じゃ。そなたとは、ここの出来が違うのでな」
王は、緩やかに曲げた人差し指で、自分の頭を2回叩いた。
急いで階段を駆け上がりたいところだが、その前に。
「変身したほうがいいんじゃない?」
後ろからパインが言った。
「ああ。兵士になろう」
俺らはこれから逃亡するのだ。フレークパーティの姿のままでいるのは、リスクが高い。
4人全員、兵士に変身し、何食わぬ顔で地上へ出た。
どうやら、現在は昼らしく、頭上から太陽光が降り注いでいた。
城の外壁に沿って進み、町へと向かう間、誰ともすれ違わなかった。これも、シロポンの想定通りなのだろうか。
堀にかけられた橋を渡る際に、城門脇の番兵に見られたが、特に気にはされなかった。
無事、町の中に入った俺らは、人目につかないよう、裏通りへ行き、建物の隙間に身を隠した。
「町の中では、兵士姿が逆に目立つな。町民にでも化けるか」
どんな姿に変身するかを話していると、ふと、あたりが暗くなった気がした。建物の陰に入ったとはいえ、この暗さは普通ではない。
はっとして、頭上を見上げると、町の上空に何かが浮かび、太陽光を遮っている。
それは、黒いローブのような服を纏った、巨大な人型の影だった。逆光のため、その大部分は、輪郭しか判別できない。
「私は、大魔王シリアルキラー」
たしかに、そう聞こえた。
俺は、上空の影を見上げながら、考えていた。
あれは、なんだ。
あんなものの登場は予定にない。ブランやブラックデーモンが化けているわけではないはずだ。となると、本物の大魔王なのか?
でも、大魔王が居るなら、もっと前に、なんか情報共有があるものじゃないのか。
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