物理重視の魔法使い

東赤月

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2. 依頼

村の方とお話しです

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 そのあと、最後の魔導士さんが到着すると、ボルドさんが参加者の皆さんを集めました。ボルドさんは木の箱の上に立つと、皆さんを見渡してから口を開きます。

「改めて、今回の依頼でリーダーを務めるボルドだ。正直、十分過ぎるほどのメンバーが集まってくれてとても心強い。だが、依頼中は想定外のことが起きることもある。聞き飽きた言葉かもしれないが、各自緊張感を持って臨んでくれ」

 おう! とボルドさんの言葉に、何人かの人が返事をしました。私はそれに上手く合わせられず、小さく声を出しかけることしかできませんでした。

「挨拶は以上だ。それじゃあ早速、各々の動きについて話し合おう。個人で依頼を受けた奴と、チームの代表者は集まってくれ。それ以外の奴は、笛の音が鳴ったらここに戻ってくるように」

 短い挨拶が終わると、参加者の皆さんがまばらに動き出します。中心に向かっているのはボルドさんに呼ばれた人でしょう。

「それじゃ、また後で」
「ばいにゃー」

 私たちのチームの代表者であるシルファさんと、一人で依頼を受けたヌヌさんも、ボルドさんの元に歩いていきました。

「俺たちは何してればいいんだ?」
「また呼ばれるまで自由行動、かな。勿論、笛の音が届く範囲でだけど」
「なら俺は、この村の人たちに挨拶しに行ってくる。二人はどうする?」
「わ、私は、ユートさんについていきます」
「それじゃ僕もそうしよっかな」

 こうして私たちは、広場から離れて、村の中を歩くことになりました。その途中で会う村の方々に挨拶すると、皆さん嬉しそうに声を返してくれて、私も嬉しくなります。
 少し歩いたところで、畑仕事に行く途中でしょうか、鍬を持ったおばあさんに会いました。

「こんにちは!」
「こ、こんにちは……」
「おや、こんにちは。あんたたち、随分若いね」
「僕たちはまだ学生なんです。今回は現役の魔導士さんたちのお手伝いをしに来ました」
「そうかい。でもその魔導士やらと一緒に、魔物が棲む森に向かうんだろ? 心配だね……」
「ありがとうございます。けれど俺たちも魔法使いですから、大丈夫ですよ」
「魔法使いってったって、こんな小さな子もいるわけだろ? 私たちが頼んだこととはいえ、何だか申し訳ないねぇ」
「だ、大丈夫です! 私も、自分の身は自分で守りますから!」

 私は自分にも言い聞かせるように、声を張り上げます。

「自分の身は自分で守る、か。耳が痛いねぇ。こんな年寄りばっかの村じゃ、何かに頼らないとどうしようもないのは仕方ないんだけど」
「あ、す、すみません! 偉そうなことを言ってしまって……」
「おや、すまないねぇ。年寄りの言うことだ、あまり気にしなさんな」

 おばあさんは、どこか寂しさを感じる笑みを浮かべました。私はどんな言葉をかければいいか分からず困ってしまいます。するとシイキさんが思い出したように言いました。

「そう言えば、この村は竜神様を信仰していると聞きましたが」
「ああ、そうさね。向こうに一際大きな山が見えるだろう? あの山に竜神様が棲んでいるのさ」

 おばあさんが指差した方を見ると、二つの小さな山に挟まれた大きな山がありました。きっとあそこに、竜神様がいらっしゃるんでしょう。

「魔物どもは竜神様を恐れて、その近くにあるこの村にも近づいてこない。私たちはそのことに感謝して、毎月あの山の麓にまで、お供えものを運んでいたのさ」
「運んで、いた? 今は違うんですか?」

 ユートさんが聞き返すと、おばあさんは表情を曇らせました。

「魔物が出たのさ。本来なら出るはずのない、あの山へと向かう道の途中でね」
「そんな、どうして……?」

 シイキさんの言葉に、おばあさんは首を横に振ります。

「どうしてかは私たちにも分からないさね。ただこのままじゃ、竜神様にお供え物もできないし、魔物がこの村にまでやってくるかもしれない。けれど私たちにゃどうにもできないってんで、あんたたちに来てもらったんだ」
「……そう、だったんですか……」
「けれど僕たちも含めて、よくこれだけの人数を集められましたね?」
「ああ、それはアイちゃんのおかげさ」
「アイ、さんですか?」

 私は頭を傾けます。おばあさんは嬉しそうに頷きました。

「もう一ヶ月以上も前になるかね。アイちゃんはこの村の近くで倒れていたんだ。食べ物も飲み物も持たずにね。流石に放っておけないから村で休ませてあげたら、この村に恩返しがしたいってんで、それからずっと住まわせているのさ。若い奴らは全員都会に出てったから、空き家もあったしね」
「その恩返しとして、僕たちを呼んだってことですか?」
「そうさ。今までも畑仕事を手伝ってもらったりして、とても助かっていたのに、魔物の問題まで解決しようとしてくれるんだから、本当に良くできた子だよ。あの子はこの村と何の関係もないのにねぇ。ここを出てった若い奴らに見習わせたいくらいさ」

 おばあさんは、そのアイという人にとても感謝しているみたいでした。そんなおばあさんにユートさんが尋ねます。

「おばあさん、アイさんは今どこにいますか?」
「今はあんたたちのために、ご飯を作っているところかね。あんたたちが集まっていた広場のすぐ近くに、大きな家があっただろう? きっとそこさね」
「そうですか。色々と教えてくれてありがとうございます。お仕事頑張ってください」
「あんたたちも気を付けな。ちゃんと無事に帰ってくるんだよ」
「はい」

 ユートさんは元気よく返事をすると、広場の方へと歩き出しました。私は慌てて、シイキさんに合わせて頭を下げると、ユートさんの後を追います。

「ユート君、ちょっと待ってよ」
「あ、悪い。いつ招集されるか分からないから、少し焦ってた」
「その、アイさんに挨拶しに行くんですか?」
「ああ。その人が今回の依頼主なんだろ? だったら絶対に挨拶しないとな」
「それはまあ、そうかもしれないけど……」

 ユートさんはアイさんに会うことにこだわっているようでした。確かに私も興味はありますけれど、どうしてそこまで会おうとするのでしょう?

「それにちょっと興味もあるんだ。もしかしたら旅をしている人かもしれないし」
「旅をしている人、ですか?」

 私はその言葉を聞いて、帽子を目深にかぶり、大きなリュックを背負って荒野を歩いていく人を想像しました。馬車の中で見せてもらったこの辺りの地図には、荒野なんてありませんでしたが……。

「ああ。俺も何度か旅、というか旅行をしたことがあってさ。他の人がどんな旅をしているのか、話を聞いてみたいんだ」
「旅行、ですか」

 その言葉に、想像がとても優しいものに変わります。馬車に乗って遠い土地まで行き、そこでしか見られない景色や見たり、独特な文化を楽しんだりする光景が頭に浮かびました。
 ユートさんはそんな旅行を何度も経験しているようです。私はなんだか羨ましくなりました。

「けどさ、あの人の話じゃ、食べ物や飲み物を持ってなかったんでしょ? 旅をするっていうのに、普通そんなことあるかな?」
「あるぞ。俺も旅行中、何度も経験した」
「え……?」

 ユートさんは普通のことのようにとんでもないことを言いました。

「食糧は基本、現地調達だしな。分かっていても、水源が見つからなかったらどうしようもなかったりするし」
「……えっと、ユート君、もしよかったら、君のしてきた旅行について教えてくれない?」
「いいぞ。じゃあまず、初めての旅行の話から――」

 アイさんがいるという大きな家に着くまでの間、私とシイキさんはユートさんの旅行話、というより冒険話を聞きました。

「――っと、ここまでが初めての旅行の話だ」
「………………」
「………………」

 話が終わる頃には、シイキさんも私も、驚き過ぎて何も言えなくなってました。

「どうした? そんなにつまらなかったか?」
「い、いや、とても興味深かったよ。うん」
「そ、そうですね……。すごく、刺激的というか……」
「そうか? 確かに当時は大変だったけど、旅行の中じゃ一番易しかったやつだぞ?」
「へ、へえ……」
「易しい、ですか……」
「ああ。その次の旅行は無人島で――」
「ゆ、ユート君、ほら、もう着いたよ」
「ん、みたいだな。少し夢中になってた。続きはまた今度だな」
「あ、あははは……」

 今の話以上の何があったというのでしょう……? 私は興味よりも恐怖が勝ってしまい、言及できませんでした。多分、シイキさんも同じ気持ちだと思います。

「あ、いい匂いがする。ここで間違いなさそうだね」
「だな」

 ユートさんは表情に期待を浮かべながら、木の扉をノックしました。けれどユートさん以上の冒険譚は聞けないと思います。シイキさんも苦笑いをしていました。

「はい」

 中から柔らかな声が聞こえました。そして扉を開けて出てきたのは、深い青色の髪を持つ、若い女の人でした。村の人たちと同じ白いシャツと、足首まである長い薄茶色のスカートを着ています。年齢はユートさんたちと同じくらいに見えました。この人がアイさんでしょうか?

「こんにちは。今回の依頼に参加するユートです」
「同じく、シイキと言います。この村の人に挨拶して回っているところなんです」
「ふ、フルルです! えっと、あなたが、アイさんですか?」
「あら、わたくしのことをご存知なの?」
「はい。向こうで鍬を持ったおばあさんに会って、その人から話を聞きました」

 ユートさんが答えると、アイさんは納得したように頷きました。その動きがとても落ち着いたものだったので、少し驚きます。

「そう。きっとノエルさんね。あの人、お話しが好きだから」
「あ、すみません。僕たちに構っていたら、ご飯作りを進められませんよね……」
「ふふふ、そのこともノエルさんに聞いたのかしら? 後は待つだけですから、少しくらい平気よ」

 アイさんは口許に手を当てて笑います。その動きの一つ一つがとても丁寧で、すごく優雅に感じました。

「遅くなりましたけど、改めて名乗らせてもらうわね。わたくしはアイと申します。どうぞよろしくお願いしますわ」

 アイさんはスカートを軽く摘まむと、静かに頭を下げました。私はその動きにどう返すのが正しいか分からず、慌ててしまいます。けれどシイキさんはそんな素振りも見せず、片手を胸に当てて深くお辞儀をしました。

「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。とても上品な方なのですね」
「ふふ、これでも普通にしようとしているのですけれど、どうしてもこんな振舞いしかできないの。初対面の方に非礼があってはいけないものね。気に障ったのならごめんなさい」
「とんでもない。あなたのような高貴な方に出会えたこと、とても嬉しく思います。依頼主がこんなに素晴らしい方で良かったです」
「もう、ノエルさんったら……。依頼主はわたくしじゃないわ。この村の方々全員よ。特別扱いは必要ないわ。できれば口調も、砕けたものにしてくれるかしら? うまくできないわたくしに合わせなくても構わないから」
「そうですか。じゃなかった、そっか。じゃあ改めてよろしくね、アイさん」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ、シイキさん」
「………………」

 流れるようなシイキさんの丁寧な口調に、私は驚きを隠せませんでした。ユートさんも驚いたのか、小さく口を開けています。その視線に気づいたのか、シイキさんは私たちを見ると、少し恥ずかしそうに頭を掻きました。

「あはは、驚かせちゃったかな? 昔、こういう丁寧な口調はよく聞いてたから、自然と覚えちゃったんだ」
「……それでも、驚きました。まるで別人みたいで……」
「ああ。俺もびっくりした」

 ユートさんも同意してくれました。そう言えばグリマール魔法学院には、貴族の方が多く集まると聞いたことがありますが、もしかしてシイキさんもそうなのでしょうか?

「えっと、アイ、でいいのか?」
「はい、ユートさん」
「なら、アイ、良かったら、アイのしてきた旅について教えてくれないか?」
「ちょ、ちょっとユート君、急にそんな……」
「平気よ、シイキさん。私は構わないわ。寧ろそのことに興味を持ってもらえて嬉しいくらい。と言っても、あまり大したものじゃないのですけれど」
「いや、旅は当人からしたら大変なものだってことは分かってるつもりだ。大したものじゃないなんてことないさ」

 ユートさんのした冒険を聞いた私にとっては、とても説得力のある言葉でした。それを知らないアイさんも、ユートさんの言葉に少し目を大きくして、それから優しく微笑みました。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると話しやすいわ。あなたも旅をしたことがあるのかしら?」
「ああ、何度か旅行をしたことがある。今じゃどれもいい思い出だけど、旅行中は何度もひどい目に遭ってさ」
「ふふふ、あなたとは気が合いそうですわ。よろしければ、ユートさんのしてきた旅行についてもお話ししてもらえるかしら」
「勿論」
「まあ楽しみ」

 アイさんは両手を合わせて目を細めます。けれど実際にユートさんの話を聞いたらどんな反応をするんでしょう? 私は少し心配になりました。

「わたくしの旅は、お父様から命じられたものなの」
「お父さんに?」
「ええ。もう気づいているかもしれないけれど、わたくしはとある貴族の娘なの。家名は伏せさせてもらうわね。あまり知られちゃいけないって言われているから」

 アイさんの言葉に、シイキさんがうんうんと頷きました。どうやらアイさんが貴族の出であることに気がついていたみたいです。

「お父様が言うには、世界には色々な人が居るから、旅をしてそのことを実感してほしいとのことだったわ。その時、わたくしの身分を相手が知っていると、本当の人となりが分からないとも言っていたわね」
「その話分かるな。俺も旅行はいつもじいさんに言われて行ったんだけど、そこでお互いに知らない相手とどう向き合うかが大切だって気づかされたんだ」

 ユートさんは別のことを言ったのかも知れませんが、私はさっきユートさんから聞いた、実力が分からない魔物との戦いは避けることも大事、という話を思い出しました。その際自分を強く見せることで相手が退いてくれることもある、という話も。

「そうね。家にいるとどうしても、貴族の娘として見られてしまうから……」
「俺もずっとじいさんと一緒だったから、たまに息が詰まったな。じいさん容赦ないし。ただ旅行中は生きるためのことを全部一人でやらなくちゃいけないから、その時になってようやくじいさんの存在をありがたく思ったりしたな」
「そうなの! 最初はお買い物も上手くできなくて」
「俺も初めは、簡単なおつかいで音を上げかけてさ」
「………………」

 私とシイキさんは、楽しそうに話す二人にかける言葉が見つからず、なんとも言えない表情を見合わせます。二人が想像するおつかいの光景がかけ離れていることは知らせるべきでしょうか? そう悩んでいた時でした。

「魔物だー!」
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