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2. 依頼
俺たちの選択
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その場にいる八人と、遠巻きにこちらを窺っていた魔導士の視線が俺に集まる。
「ゆ、ユートさん?」
「お前らそれでも魔導士かよ!」
逃げていく魔導士たちに向かって叫んだ。何人かの足が止まる。
「ユート君……」
「……魔導士ですらない学生が。弱いくせに大きな口を叩くな」
竜人族の男が、怒りの表情を浮かべて振り返った。俺はそれを思いっきり睨み返す。
「お前こそ、尻尾を巻いて逃げるくせに、偉そうなことを言うな」
「ゆ、ユートさん……その……」
「落ち着きなよ、ユート君」
「逆に訊くけどさ、二人はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ? あいつら、アイを見殺しにするって言ってるようなもんだぞ」
今この場から離れた全員がアイの命を見限ったんだ。魔導士と呼ばれている奴らが!
「そ、それは……」
「……確かにそれは嫌だけど、相手が竜じゃ……」
「魔物一匹に怯えて、それで魔導士が務まるのか? 何のための魔導士なんだ!?」
「黙れ! 竜の恐ろしさも知らない半人前が。竜は最早天災だ。大勢の魔導士と、綿密な作戦があって初めて討伐できる化け物だ。そんな人数で立ち向かったところで、無駄死にするだけだ!」
「いや、よく言ったぜ、ユート」
血が昇った頭を、ゲイルさんがぽんぽんと叩いてくれた。おかげで多少冷静さを取り戻す。
「ゲイルさん……」
「お前の言う通りだ。てめぇら戦ってもいないのに、竜ってだけで怖がりすぎだろ」
「……若造が。貴様は竜と相対したことがあるのか?」
竜人族の男の視線が、ゲイルさんに移る。鋭い眼光を受けても、ゲイルさんは飄々としていた。
「ねぇな。けどそれがなんだってんだ? 最初は誰にでもある。それで一々怖がってちゃ、こいつの言う通り、魔導士なんかやってけねぇよ」
「己の実力を過信するな。退くことを覚えねば早死にするぞ」
「今回の目的は討伐じゃない。あくまで、そのアイちゃんの救出が最優先。なら、可能性はあると思う」
リズさんも前に出た。その横顔には、強い決意が込められているようだった。
「……その少女が、まだ生きている保証もあるまい」
「お前……!」
詰め寄ろうとする俺を、リズさんが手で制した。
「その時は、その時。たとえそうだったとしても、せめてそれを確認したい。私たちは魔導士だから、やれることはやりたい」
「その結果、死ぬことになってもか?」
「……うん」
「馬鹿げている! 犠牲者が増えるだけだと、何故理解できない!?」
「アイを助けられるかもしれないと、どうして思わない!」
俺の反論に、竜人族の男が一瞬たじろぐ。
「……っ! だから言っているだろう! 十人もいないのに、竜を相手にできるわけがない!」
「ニャギユキ一家は、五人で竜を倒したらしいにゃ。人数で可能性を切り捨てるのは頂けにゃいにゃあ」
ヌヌさんが、変わらない調子で言葉を返す。
「では貴様は、自分がかのナギユキ一家のメンバーと同じ実力を持っているとでも言うのか?」
「さてどうかにゃあ? 今手合わせできるわけでもにゃいし、多分同じくらいってことでいいと思うにゃ」
「ふざけるな! 仮にそうだとしても、昨日集まったばかりの者たちが、そう上手く連携できるものか!」
「落ち着け、お前ら。ここで言い争っても、何も解決しないだろ」
俺たちと竜人族の男の間に、ボルドさんが割って入った。
「これ以上続けても、話は平行線を辿るだけだ。さっきも言ったが、各々の判断を尊重しよう」
「……ボルドさんは、それでいいんですか?」
ボルドさんは強く頷いた。
「もう違うが、一時はリーダーとして皆の命を預かる立場だったんだ。仲間を無理に死地には連れてけねぇ」
「確かに、無理矢理連れていくのは違います。けれど問題はそこじゃないでしょう? 相手が強いかもしれないから、自分が死ぬかもしれないから、だからアイを、一般人を見捨てるなんて選択をするのが問題なんだ」
俺はボルドさんの目を真っ直ぐ見据える。ボルドさんもまた、俺から視線を逸らさずに口を開く。
「お前は強い覚悟を持っているんだな、ユート。だが、全員が全員、同じ覚悟を持っているわけじゃない。お前の理想はお前だけのものだ。周りに押しつけるものじゃない」
「……っ」
……それは、その通りだった。俺は今更になって、そんな当たり前のことに気づかされる。
けど、それでいいのか? そんな簡単に割りきれるものなのか?
自分が助けられるかもしれない命を、切り捨てられるものなのか?
俺の心情を察してか、ボルドさんが続ける。
「あいつらだって少女を、アイちゃんを見捨てたくて見捨てたわけじゃない。助けたいという気持ちだって、当然持っている。ただその感情よりも、自分では竜に立ち向かえないという現実に向き合ったんだ。……あいつらの選択を責めないでやってくれ」
「…………はい」
パン、と自分の両頬を叩くと、俺は竜人族の男と、こっちを見ている魔導士たちに頭を下げた。
「ゴラも退いてくれ。死傷者を増やしたくないのは分かるが、こいつらはこいつらなりの覚悟を持って、竜と立ち向かうことを選択したんだ」
「……ふん、警告はしたからな。行くぞ、ボルド」
「いや、それはできねぇ。俺もアイちゃんを助けに行くからな」
「なっ!?」
背を向けて歩き出そうとした竜人族の男、ゴラが振り返った。俺も驚いてボルドさんを見る。
「アイちゃんは命を懸けてこの村を、防衛隊の仲間を守ってくれたからな。リーダーだった俺は、それに報いなきゃならん」
そう言ってボルドさんは、小さく笑った。
「ボルドさん……」
「~っ! 勝手にしろ!」
今度こそ、ゴラは歩き去っていく。その背中に、ボルドさんが話しかけた。
「ゴラ、できたらでいいんだが、残っている魔導士を集めて、この村の人たちの避難を手伝ってやってくれ」
「………………」
ゴラはそれに答えることなく行ってしまった。その背中を見送ってから、ボルドさんが振り返る。
「さて、これで五人だな。ユート以外の学院生はどうする?」
「行くのは俺一人です。シルファたちは――」
「勝手に決めないで欲しいわね。私も行くわ」
「えっ!?」
俺は驚いてシルファを見る。腕を組むシルファの表情に、迷いはなかった。
「ユート、あなたと私は同じチームのメンバーなのよ? どうして私があなただけを行かせると思ったの?」
「いや、けどさっき無謀だって……」
「ええ、無謀よ。けれどあなたは行くんでしょう? だったら私もついていくわ」
「……それは、シルファが俺と同じチームだからか?」
無理にシルファがついていくかたちになるのは本意じゃなかった。自分の勝手な行動を責められているような気がして、尋ねる声が沈む。
けれど、シルファはため息をついて、首を横に振った。
「私も随分と侮られたものね。同じチームだから行動を共にするんじゃないわ。あなたとなら行動を共にできる。そう思えたから同じチームになったの。……まあ、限度はあるけどね」
そう言って、シルファは片手で髪を払った。その手が僅かに震えていることに気がつく。
「シルファ……」
「安心しなさい。人命を守るためやむを得ない場合なら、多少の規則違反は許されるの。だからあなたが心配するようなことは何もないわ。そうでしょう?」
「……ああ。ありがとう」
「礼には及ばないわ」
「……なら、僕も行こうかな」
シイキが不敵な笑みを浮かべて手を挙げた。シルファは眉をひそめる。
「正気なの? いつもの失敗が許されるような相手じゃないのよ?」
「もう昔とは違うって言ったでしょ? それに、確かめたいこともあるんだ」
「それは命を懸けてまで確かめる価値があるものなの?」
「……まあね。今回の件には、いまいち納得できないことがあるんだ」
「ほう?」
ボルドさんを皮切りに、全員の視線がシイキに集まった。シイキは自信があるようで、強く頷いてみせる。
「納得できないこと? それは何かしら?」
「僕の同行を許してくれたら教えるよ」
「っ! 今はそんなこと言っている場合じゃ――!」
「いいじゃないか。シイキも連れていこう。今は少しでも戦力が欲しいんだ」
「……好きにしなさいっ」
俺の説得に、シルファはどうにか納得したようだ。シイキが俺の肩を叩く。
「ありがとね、ユート」
「親友だからな。これくらい当然さ。それより、本当にいいのか?」
「当たり前だよ。僕だって、アイさんを助けたいんだ。魔法使いだしね」
「ありがとう、シイキ」
「わ、私も行きます!」
不意に、フルルが声を上げた。俺は驚いてフルルを見る。
いくつもの視線に射ぬかれたフルルは、けれど、体を震わしながらも繰り返した。
「私も、アイさんを助けに、行きます」
「ダメよ」
強い口調で、シルファが言い放つ。
「……何を考えているの? あなたは自分の身も満足に守れないのよ? また足を引っ張るつもり?」
「シルファ、それは――」
「待った」
俺はシイキを止める。
さっきまでの俺だったら、多分シイキと一緒にシルファの言葉を責めていただろう。けれど、俺に譲れないものがあるように、シルファにも譲れないものがあることに気がついた。今の辛辣な言葉も、意地悪で言っているわけじゃなくて、きっとフルルを心配してのものだ。
俺やシイキが行くことは妥協しても、実力のないフルルを置いていくことは、譲れないんだろう。
そしてそれに対して反論をするのは、俺たちじゃない。フルルに向けられた言葉には、フルルが応えないといけない。他ならぬフルルが教えてくれたことだった。
「……足を引っ張るつもりはありません」
「じゃあ死にに行くの?」
「……アイさんを助けに行くんです」
「どうやって? あなたに何ができるの?」
「……生贄役にならなれます。そうすれば、他の皆さんは魔法の準備ができますよね?」
「ふざけないで。そんな危険な役目、あなたに任せられるはずないでしょう? ここに残って、村の人たちの避難を手伝いなさい」
「嫌です!」
フルルが叫んだ。シルファが驚いたように目を大きくする。
「……アイさんは、魔法使いでもないのに、たった一人で竜の元に行ったんです。それなのに魔法使いの私が逃げ出したら、私は一生、私を許せなくなります。お願いです。どうか連れていってください!」
フルルは深く頭を下げる。
「……助けられないわよ」
「分かっています」
「死ぬかもしれないわ」
「分かっています!」
フルルの力強い言葉を受けたシルファは、やがて小さくため息をついた。
「……好きにするといいわ」
「っ! ありがとうございます!」
「やったね、フルル!」
「はいっ!」
「ちょっと、まだ何も解決してないのよ? 喜ぶのは無事帰ってからにしなさい」
「す、すみません……」
「まあまあ、意気込むくらい大目に見てよ」
「全く。……フルル、これだけは約束して。絶対に死なないこと。いいわね?」
「……っ! はいっ!」
固い意思を表してみせたフルルの姿に、俺は目を細める。
よく言ったな、フルル。すごいぞ。
あの引っ込み思案なフルルが、正面からシルファに意見をぶつけるなんて。フルルの成長に自然と頬が持ち上がった。
もしかしてじいさんも、俺が成長したときはこんな気持ちになっていたのかな? ……あんまり想像できないけど。
「はは、いいチームじゃねぇか」
「……大丈夫。私たちもフォローする」
「にゃはは、やっぱりシルファちゃんたちはすごいにゃ」
「これで八人か。やれることが増えてきたな」
ボルドさんたちも、俺たちの同行を喜んでくれているようだった。魔導士の人に期待されていることが嬉しくて、ますますやる気が湧いてくる。
「よし、あまり時間もないし、早速行動を始めよう。キャンプを設営した場所、竜が指定した山の麓に移動しながら、作戦を立てるぞ」
「おう!」
七人の声が、見事に重なった。
「ゆ、ユートさん?」
「お前らそれでも魔導士かよ!」
逃げていく魔導士たちに向かって叫んだ。何人かの足が止まる。
「ユート君……」
「……魔導士ですらない学生が。弱いくせに大きな口を叩くな」
竜人族の男が、怒りの表情を浮かべて振り返った。俺はそれを思いっきり睨み返す。
「お前こそ、尻尾を巻いて逃げるくせに、偉そうなことを言うな」
「ゆ、ユートさん……その……」
「落ち着きなよ、ユート君」
「逆に訊くけどさ、二人はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ? あいつら、アイを見殺しにするって言ってるようなもんだぞ」
今この場から離れた全員がアイの命を見限ったんだ。魔導士と呼ばれている奴らが!
「そ、それは……」
「……確かにそれは嫌だけど、相手が竜じゃ……」
「魔物一匹に怯えて、それで魔導士が務まるのか? 何のための魔導士なんだ!?」
「黙れ! 竜の恐ろしさも知らない半人前が。竜は最早天災だ。大勢の魔導士と、綿密な作戦があって初めて討伐できる化け物だ。そんな人数で立ち向かったところで、無駄死にするだけだ!」
「いや、よく言ったぜ、ユート」
血が昇った頭を、ゲイルさんがぽんぽんと叩いてくれた。おかげで多少冷静さを取り戻す。
「ゲイルさん……」
「お前の言う通りだ。てめぇら戦ってもいないのに、竜ってだけで怖がりすぎだろ」
「……若造が。貴様は竜と相対したことがあるのか?」
竜人族の男の視線が、ゲイルさんに移る。鋭い眼光を受けても、ゲイルさんは飄々としていた。
「ねぇな。けどそれがなんだってんだ? 最初は誰にでもある。それで一々怖がってちゃ、こいつの言う通り、魔導士なんかやってけねぇよ」
「己の実力を過信するな。退くことを覚えねば早死にするぞ」
「今回の目的は討伐じゃない。あくまで、そのアイちゃんの救出が最優先。なら、可能性はあると思う」
リズさんも前に出た。その横顔には、強い決意が込められているようだった。
「……その少女が、まだ生きている保証もあるまい」
「お前……!」
詰め寄ろうとする俺を、リズさんが手で制した。
「その時は、その時。たとえそうだったとしても、せめてそれを確認したい。私たちは魔導士だから、やれることはやりたい」
「その結果、死ぬことになってもか?」
「……うん」
「馬鹿げている! 犠牲者が増えるだけだと、何故理解できない!?」
「アイを助けられるかもしれないと、どうして思わない!」
俺の反論に、竜人族の男が一瞬たじろぐ。
「……っ! だから言っているだろう! 十人もいないのに、竜を相手にできるわけがない!」
「ニャギユキ一家は、五人で竜を倒したらしいにゃ。人数で可能性を切り捨てるのは頂けにゃいにゃあ」
ヌヌさんが、変わらない調子で言葉を返す。
「では貴様は、自分がかのナギユキ一家のメンバーと同じ実力を持っているとでも言うのか?」
「さてどうかにゃあ? 今手合わせできるわけでもにゃいし、多分同じくらいってことでいいと思うにゃ」
「ふざけるな! 仮にそうだとしても、昨日集まったばかりの者たちが、そう上手く連携できるものか!」
「落ち着け、お前ら。ここで言い争っても、何も解決しないだろ」
俺たちと竜人族の男の間に、ボルドさんが割って入った。
「これ以上続けても、話は平行線を辿るだけだ。さっきも言ったが、各々の判断を尊重しよう」
「……ボルドさんは、それでいいんですか?」
ボルドさんは強く頷いた。
「もう違うが、一時はリーダーとして皆の命を預かる立場だったんだ。仲間を無理に死地には連れてけねぇ」
「確かに、無理矢理連れていくのは違います。けれど問題はそこじゃないでしょう? 相手が強いかもしれないから、自分が死ぬかもしれないから、だからアイを、一般人を見捨てるなんて選択をするのが問題なんだ」
俺はボルドさんの目を真っ直ぐ見据える。ボルドさんもまた、俺から視線を逸らさずに口を開く。
「お前は強い覚悟を持っているんだな、ユート。だが、全員が全員、同じ覚悟を持っているわけじゃない。お前の理想はお前だけのものだ。周りに押しつけるものじゃない」
「……っ」
……それは、その通りだった。俺は今更になって、そんな当たり前のことに気づかされる。
けど、それでいいのか? そんな簡単に割りきれるものなのか?
自分が助けられるかもしれない命を、切り捨てられるものなのか?
俺の心情を察してか、ボルドさんが続ける。
「あいつらだって少女を、アイちゃんを見捨てたくて見捨てたわけじゃない。助けたいという気持ちだって、当然持っている。ただその感情よりも、自分では竜に立ち向かえないという現実に向き合ったんだ。……あいつらの選択を責めないでやってくれ」
「…………はい」
パン、と自分の両頬を叩くと、俺は竜人族の男と、こっちを見ている魔導士たちに頭を下げた。
「ゴラも退いてくれ。死傷者を増やしたくないのは分かるが、こいつらはこいつらなりの覚悟を持って、竜と立ち向かうことを選択したんだ」
「……ふん、警告はしたからな。行くぞ、ボルド」
「いや、それはできねぇ。俺もアイちゃんを助けに行くからな」
「なっ!?」
背を向けて歩き出そうとした竜人族の男、ゴラが振り返った。俺も驚いてボルドさんを見る。
「アイちゃんは命を懸けてこの村を、防衛隊の仲間を守ってくれたからな。リーダーだった俺は、それに報いなきゃならん」
そう言ってボルドさんは、小さく笑った。
「ボルドさん……」
「~っ! 勝手にしろ!」
今度こそ、ゴラは歩き去っていく。その背中に、ボルドさんが話しかけた。
「ゴラ、できたらでいいんだが、残っている魔導士を集めて、この村の人たちの避難を手伝ってやってくれ」
「………………」
ゴラはそれに答えることなく行ってしまった。その背中を見送ってから、ボルドさんが振り返る。
「さて、これで五人だな。ユート以外の学院生はどうする?」
「行くのは俺一人です。シルファたちは――」
「勝手に決めないで欲しいわね。私も行くわ」
「えっ!?」
俺は驚いてシルファを見る。腕を組むシルファの表情に、迷いはなかった。
「ユート、あなたと私は同じチームのメンバーなのよ? どうして私があなただけを行かせると思ったの?」
「いや、けどさっき無謀だって……」
「ええ、無謀よ。けれどあなたは行くんでしょう? だったら私もついていくわ」
「……それは、シルファが俺と同じチームだからか?」
無理にシルファがついていくかたちになるのは本意じゃなかった。自分の勝手な行動を責められているような気がして、尋ねる声が沈む。
けれど、シルファはため息をついて、首を横に振った。
「私も随分と侮られたものね。同じチームだから行動を共にするんじゃないわ。あなたとなら行動を共にできる。そう思えたから同じチームになったの。……まあ、限度はあるけどね」
そう言って、シルファは片手で髪を払った。その手が僅かに震えていることに気がつく。
「シルファ……」
「安心しなさい。人命を守るためやむを得ない場合なら、多少の規則違反は許されるの。だからあなたが心配するようなことは何もないわ。そうでしょう?」
「……ああ。ありがとう」
「礼には及ばないわ」
「……なら、僕も行こうかな」
シイキが不敵な笑みを浮かべて手を挙げた。シルファは眉をひそめる。
「正気なの? いつもの失敗が許されるような相手じゃないのよ?」
「もう昔とは違うって言ったでしょ? それに、確かめたいこともあるんだ」
「それは命を懸けてまで確かめる価値があるものなの?」
「……まあね。今回の件には、いまいち納得できないことがあるんだ」
「ほう?」
ボルドさんを皮切りに、全員の視線がシイキに集まった。シイキは自信があるようで、強く頷いてみせる。
「納得できないこと? それは何かしら?」
「僕の同行を許してくれたら教えるよ」
「っ! 今はそんなこと言っている場合じゃ――!」
「いいじゃないか。シイキも連れていこう。今は少しでも戦力が欲しいんだ」
「……好きにしなさいっ」
俺の説得に、シルファはどうにか納得したようだ。シイキが俺の肩を叩く。
「ありがとね、ユート」
「親友だからな。これくらい当然さ。それより、本当にいいのか?」
「当たり前だよ。僕だって、アイさんを助けたいんだ。魔法使いだしね」
「ありがとう、シイキ」
「わ、私も行きます!」
不意に、フルルが声を上げた。俺は驚いてフルルを見る。
いくつもの視線に射ぬかれたフルルは、けれど、体を震わしながらも繰り返した。
「私も、アイさんを助けに、行きます」
「ダメよ」
強い口調で、シルファが言い放つ。
「……何を考えているの? あなたは自分の身も満足に守れないのよ? また足を引っ張るつもり?」
「シルファ、それは――」
「待った」
俺はシイキを止める。
さっきまでの俺だったら、多分シイキと一緒にシルファの言葉を責めていただろう。けれど、俺に譲れないものがあるように、シルファにも譲れないものがあることに気がついた。今の辛辣な言葉も、意地悪で言っているわけじゃなくて、きっとフルルを心配してのものだ。
俺やシイキが行くことは妥協しても、実力のないフルルを置いていくことは、譲れないんだろう。
そしてそれに対して反論をするのは、俺たちじゃない。フルルに向けられた言葉には、フルルが応えないといけない。他ならぬフルルが教えてくれたことだった。
「……足を引っ張るつもりはありません」
「じゃあ死にに行くの?」
「……アイさんを助けに行くんです」
「どうやって? あなたに何ができるの?」
「……生贄役にならなれます。そうすれば、他の皆さんは魔法の準備ができますよね?」
「ふざけないで。そんな危険な役目、あなたに任せられるはずないでしょう? ここに残って、村の人たちの避難を手伝いなさい」
「嫌です!」
フルルが叫んだ。シルファが驚いたように目を大きくする。
「……アイさんは、魔法使いでもないのに、たった一人で竜の元に行ったんです。それなのに魔法使いの私が逃げ出したら、私は一生、私を許せなくなります。お願いです。どうか連れていってください!」
フルルは深く頭を下げる。
「……助けられないわよ」
「分かっています」
「死ぬかもしれないわ」
「分かっています!」
フルルの力強い言葉を受けたシルファは、やがて小さくため息をついた。
「……好きにするといいわ」
「っ! ありがとうございます!」
「やったね、フルル!」
「はいっ!」
「ちょっと、まだ何も解決してないのよ? 喜ぶのは無事帰ってからにしなさい」
「す、すみません……」
「まあまあ、意気込むくらい大目に見てよ」
「全く。……フルル、これだけは約束して。絶対に死なないこと。いいわね?」
「……っ! はいっ!」
固い意思を表してみせたフルルの姿に、俺は目を細める。
よく言ったな、フルル。すごいぞ。
あの引っ込み思案なフルルが、正面からシルファに意見をぶつけるなんて。フルルの成長に自然と頬が持ち上がった。
もしかしてじいさんも、俺が成長したときはこんな気持ちになっていたのかな? ……あんまり想像できないけど。
「はは、いいチームじゃねぇか」
「……大丈夫。私たちもフォローする」
「にゃはは、やっぱりシルファちゃんたちはすごいにゃ」
「これで八人か。やれることが増えてきたな」
ボルドさんたちも、俺たちの同行を喜んでくれているようだった。魔導士の人に期待されていることが嬉しくて、ますますやる気が湧いてくる。
「よし、あまり時間もないし、早速行動を始めよう。キャンプを設営した場所、竜が指定した山の麓に移動しながら、作戦を立てるぞ」
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