夢の中の雪

東赤月

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脱出

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 死を覚悟した時だった。不意に、僕の脳裏にある光景が浮かんだ。
 いつの頃かは思い出せないが、夢の中の記憶だ。
 夢の中でも僕は、似たような境遇に陥っていた。動かない体、歪む世界、近づいてくる恐怖、そして――
 そうだ、その時僕は――
「や、」
 こう、言ったんだ。
「や、めて」
 語尾が掠れるようになった。
 僕に喰らいつこうとする彼女は一瞬だけ動きを止め、
「やだ」
 からかうように言い、動きを再開する。
 僕の言葉で変わったのは、それだけだった。
 事態は何も解決していない。
 夢の中の話が現実に通じる道理も無い。
 けれど何故か、自分は助かるんじゃないかと、根拠もなく、漠然とそう思った。
 喉に歯が当たる。
「きゃっ!」
 途端、彼女は短い悲鳴を上げた。その瞬間、先ほどの記憶はどこかへ消え去り、世界に色が戻った。
 彼女は椅子に座った僕の傍で尻餅をついていた。
「どうして」
 彼女は驚いたように言った。僕にも何が起きたのか分からない。しかしどこかで、やはりこうなったかと現実を受け入れていた。
 立ち上がる。難なく椅子から立ち上がることができた。両手で握って開いてを繰り返す。問題はない。
 日常に戻ってこれたことを、実感した。
「あなたは、一体」
 彼女がこちらを見上げて疑問を口にする。
「それは、こっちの台詞、だよ」
 僕は彼女を見下ろしながら言う。今の彼女は、得体の知れない何かでなく、ただの人間の深谷彩花さんのように思えた。
 今なら彼女にこの事態を説明させることも可能かもしれない。けれど、リスクが大きいように思えた。いつまたあの謎の現象が僕を襲うかも分からない。
 ここでとるべき行動は――
「帰るね」
「えっ」
 僕はいつでも帰ることができるよう近くに置いておいた手提げ鞄を持つと、足早に部室の出口へと向かう。
「それじゃ」
「あ、ちょっと……」
 何かを言いかけた彼女の言葉を待たず、僕は扉を閉めた。
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