私が悪役令嬢になるまでの物語

千代乃

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それはおとぎ話のような⑨

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久々に帰ってきた父親は嫌になるくらい威圧感があった。
氷のように冷たい美貌に、男のくせに絹のように光沢のある長い黒髪がなびく。きっちり着こなした礼服がりりしく、娘の私ですら見とれそうになった。

「お父様!お帰りなさい!」
かけよる弟に、父は少し表情を緩めて抱き上げた。美しい父に愛らしい弟、絵になる光景ね。と思いながら眺めていると、後ろでバターンという音がした。振り向くと、メイドが一人倒れていた。これは例のオトメゴコロ効果ね、と思いながら彼女が運ばれていくのを目の端で確認する。
「息災にしていたか?ルース?」
弟を見る父の目は優しい。当然だ。私の弟の愛らしさは氷山も溶かす。
「はい!父上もご無事に戻られて何よりです!」
(ああ、ルースったら語彙がどんどん増えているわ……賢いのね)
私はうっとりと弟を見つめる。しかし、父親の注意がこちらに向くのを感じて顔を引き締めた。
「エラノーラ、いい子にしてたか?」
私は自分の顔が引きつるのを感じ、無理やり口角を上げた。
「もちろんですわ、お父様。でも、わたくしはもう六歳ですのよ。そんな小さな子供にいうようなことばは失礼ですわ」
わざとすねたようにつんと言って見せながら、内心心臓がバクバクしていた。すべてを見透かすような父の菫色の瞳が恐ろしく、先に目を逸らせてしまった。
(気づかれるわけがないわ……だって、証拠は残してないんだもの……。先週から倒れそうになるくらい、魔力を駆使して徹底的にクリーニングしたんだから。今だってほとんどすっからからんで、ふらふらするのに…………あっ!)
はっとして父の顔を見ると、菫色の瞳と視線がぶつかった。
「確かに、エラノーラはもう六歳だったな。すまなかった」
拍子抜けするような言葉をかけられるが、私にはもう【すべてお見通しだぞ】と言われているようにしか思えない。
私でも、家庭教師の魔力量が把握できるのに、父が私の魔力量の変化に気づかないはずがない。こんなにすっからからんになるまで魔術を駆使することなんて普通ない。これは私が魔術式が苦手なため、自分なりの方法で魔力の量にモノを言わせて非効率なやり方でやったせいもある。わたしが魔術を使うのは、家庭教師の下でと言い聞かせられているのでこんなになくなっているはずがないのだ。普通なら。

(どうして、そんな肝心なことに気づかなかったのかしら……!)
顔が赤くなるのを感じてうつむいた。必要もないのにドレスを手で撫でてしわをのばすふりをする。
(どうしよう、【何に魔力を使ったんだ】って聞かれたら?……ルースの探検に付き合ってっていう?ルースのせいにしちゃうのは嫌だわ)
そんなことを考えていたが、それ以上その場で父に何かを言われることはなかった。

ストン、と父はルースを下した。そして、
「フリーデリーケ」
と母の名を呼ぶ。父の視線の先には弟と同じ白金の髪に、透き通った青い瞳の母がいる。人形のように美しい顔に、細い首、華奢な体つき、細部に至るまで完璧でまさしく物語のお姫様のようだった。
呼ばれた母は、微笑む。
「おかえりなさい、あなた」
歩み寄る父の抱擁を受け止め、軽いキスから……
私は弟の体をくるりと自分の方へ向けた。
(あれ、本人は軽いキスのつもりなんでしょうけど……。やめてよね、私の天使の前で……)
すこしうんざりとしながら、わたしは両親が離れるのを待った。

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