お嬢様、えい、えす、えむ、あーるってなんですか?

山椒

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01:未知の文明

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「あぁ……ASMRが聞きたい……!」
「えいえすえむあーる? それは何ですか?」

 いつも通りベッドでゴロゴロとしているお嬢様がまた変なことを言い出した。

 せっかく綺麗な長い金髪をボサボサにして、貴族のご令嬢とは思えない体たらくを使用人である俺にさらしているグレイス様。

「あー、どう説明したらいいだろー」

 グレイス様の部屋の掃除をしながらグレイス様の回答を待つ。

「実際に耳かきとかシャンプーとかをしてもらっているかのように聞こえる音かな?」
「実際にされるのではないのですか?」
「違う違う全然違う!」

 今でこそ落ち着いたがグレイス様は意味の分からないことをよく言っている。

 やれ漫画が読みたいだの、やれアニメが見たいだの、スマホがほしいだの分からないことばかりを言っていた。

 漫画は簡単だったからグレイス様が原作、俺が作画担当をして売り出せばアルバ家の収益へとなった。

 ちなみに作品は悪役令嬢やら婚約破棄をされる令嬢とかこの家にとって縁遠くないことだからそういう作品を描かされる俺を慮ってほしいものだ。

「一から説明してください」
「音を録る!」
「とる? どういうことですか?」
「あー、うーんと……例えばあたしのこの『アルバ家万歳!』って声が記録されるってこと」
「紙は文字を記録しますが、音を記録するなにかがあるということですか?」
「そう! それがパソコンとかスマホとか!」

 うーむ、これは俺にとっては難解だな。グレイス様は当たり前のように言っているが俺にはよく分からない。

「あー、でも音を記録するだけならレコード。蓄音機とも言うのか」
「蓄音機」
「でもあたしがほしいのは立体音響だからなー。結局パソコンとかスマホになるんだよねー」
「立体音響」

 グレイス様が何気なく発している言葉を完成するかどうかも分からないパズルのピースとして蓄積する。

「……とりあえず、そのスマホやパソコンがない限りは何もできないということですか」
「結局はそうなるね。作れるのならスマホがほしいなー」
「確か、色々なことができて色々な情報が入っているという小型の物でしたね」
「そう! まあどのスマホでもカメラが一番大事だね! あっ、カメラってこの四角に入った光景を切り取ってそのまま情報として入れることができる機能!」

 グレイス様は両手の親指と人差し指をピンっと立ててそれらで四角を作る。

「写真は静止画。動画は動いている光景を記録する機能。あっ、その動画には蓄音機みたいに音声も入れることができるね!」
「ふむふむ」
「あとはスマホを持っている人同士で遠くでもやり取りできて、いろんな人が見れるサイトにアクセスできたりできるよ!」
「サイト?」
「えっと、情報がつまっているスマホを持っている人しか見れない場所のこと」

 あー、なんかどのピースがどのピースと連結するのかあまり分からない。

 でも何となく輪郭だけは掴んでいる気はする。

「グレイス様、今お嬢様が思っていることや単語をこの紙に書き記してください」
「り!」

 いつも持っている紙とペンをグレイス様に渡して書いてもらう。

 今までの情報を可視化してもらうわけではなく、色々なピースがほしいからこうして書き出してもらっている。

「こんな感じかなー」
「拝見します」

 アニメ、サブスク、通信、キーボード、ゲーム、音楽、エナジードリンクなどなど。

 それらを説明してもらえばほとんどはお嬢様がほしいものという私欲がにじみ出ていた。俺は今思っていることと言ったのに、このポンコツ令嬢はそれ以外のことを書きやがった。

 まあこんなことでは怒りませんよ。こんなことで怒っていたらもうキレて死んでいるからな。

「大体のピースは揃いました」
「えっ!? 作ってくれるの!?」

 すごく期待の眼差しを向けてきたグレイス様。

「そんな時間、あるとお思いですか?」
「……ありません」
「そうですよね。まあでもお嬢様がゴロゴロせずにこの屋敷のことを何かしていただけるのなら、時間は作れるかもしれません」
「イヤだ! せっかく伯爵家に生まれたんだからなにもしたくない!」

 これだから屋敷の使用人がほとんど出ていったんだろうと思うが、言っても仕方がない。

「そうですか。では失礼します」
「どうにか時間を作ってやってくださいー!」

 俺が時間を作るのを前提にするお嬢様に応えずに部屋から出た。

 ただグレイス様が考える知識はかなり面白いものだ。これが出来上がれば漫画に次ぐ資金源になる。

 まあでも漫画一本で行けるわけがないからな。この技術を作れれば儲けれるかもしれない。

 このアルバ家のために死ぬのは本望だが、彼女たちを残して死ねないからな。このままでは過労死する。

 ……どうにか時間を作るかー。

 ☆

「グレイス様」
「んー?」

 扉を開ければ部屋にいる時はいつもゴロゴロしながら漫画を読んでいる姿しか見ないグレイス様。

「スマホ、試作で完成しました」

 グレイス様は俺の言葉にバッと体を起こして俺の方を見た。

「えっホント!? 本当に完成したの!?」
「自分なりのスマホは完成しました。これが正しいのかは分かりませんからチェックをお願いします」

 俺はお嬢様に見せたのは懐中時計のような丸いものだった。

「えっ、なにこれ? なんで長方形じゃないの?」
「あっ、長方形だったんですね。それも聞きたかったところです」
「あー、当たり前のことだと思ってたから言わなかったんだったー。それでこれどうするの?」
「手を出してください」
「こう?」

 素直に手を出してきたグレイス様の手に触れ、その手首にスマホを装着する。

 するとスマホは腕時計のように変形した。

「えっ!? なにこれ!? スマホを頼んだのに別の物ができてる!?」
「いえスマホです。丸いところに触れてください」

 グレイス様が丸いところに触ればその上にディスプレイが出てきた。

「えっ、どういうこと? なんでスマホを頼んだらその先の技術が出てきてるわけ?」
「お嬢様の説明だとこういうことだと思ったのでこうしました」
「ちゃんと初期のアプリがある! えっ、カメラもあるの!?」
「はい。ちゃんとできますよ。正しいかどうかは分かりませんがお試しください」

 グレイス様はディスプレイのカメラのアプリをタッチすればカメラが起動した。

「すごぉ……!」

 ボタンをタッチすれば写真をとることができフォルダで写真を確認できる。

「うーん、ちょっとデザインが違うなー」
「そこはグレイス様のご要望で変更します」
「ホント!? やったー!」

 心底お喜びになっているグレイス様を見てこちらも嬉しくなる。

「えっ! これネットができるの!?」
「通信をできるようにはしています。俺の部屋に高度情報術式を設置しているのでそこに届く距離であれば誰でもアクセスできるようにしました」
「こうど? まあいいや。それならメールとか電話もできるってことだよね!? すごくない!?」
「いえ、できません」
「……どういうこと?」
「それは一台しかありませんから」

 俺の言葉に固まるグレイス様。

「……いけないいけない。存在してはいけない記憶が出てくるところだった。一台しかないのなら作ればいいんだよ! これができたってことはできるんだよね!?」
「無理です」
「なんで!?」
「スマホを作る鉱石が高価だからです。それは一台しか作ることができません」

 ホント、材料を色々と探していたらこんな高いものを使うとは思っていなかった。これじゃあ売り出すこともできない。

「ち、ちなみにどれくらい……?」
「お嬢様の一生分のご飯代ですね」
「えっ、じゃあこれはどう作ったの!?」
「それはジェシカさん経由でタダ同然でもらったんですよ。少量だから済んだんですけどね」
「えー、あいつと会ったの? あの泥棒猫と」
「失礼な言い方ですよ。そもそもジェシカさんが引き抜いてくれていなければ給料未払いになっていましたから」
「現代の闇をこの世界で聞くことになるとは思わなかった……」

 これを作るとなれば手は限られてくる。

「グレイス様がアルバ家当主としてしっかりとして、いいお家と結婚なさればスマホをまた作ることができるかもしれませんね」
「うぐっ……! そ、そんなことを言っても働きたくないから仕方がないじゃんかぁ!」

 せっかく公爵家以上の人たちと結婚できたかもしれないのに、このお嬢様はお茶会とかそういう関係もしたくないとか言い放ったから誰もいなくなった。

「じゃあ無理ですね。それは差し上げますのでそれで我慢してください」
「待って! これじゃあ意味ないんだよぉー!」

 グレイス様の悲痛な叫びを聞きながら俺は仕事に戻る。
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