全能で楽しく公爵家!!

山椒

文字の大きさ
12 / 120
全能の爆誕

012:授業開始。

しおりを挟む
 俺の莫大な魔力とバカげた魔法適性が知られて、ある一つの問題が浮上した。

「どうしたものかな……」
「どうしましょうかぁ?」
「別に私はすべてを教えても問題ありませんよ?」

 執務室にていつもの位置に座っているお父上様、俺の隣に座って悩んでいる素振りを見せず紅茶を飲んでいるお母上様、机を挟んだ俺の対面に座っているルフェイの三人で議論していた。

 いやお母上様を除けば実質二人だけどね。

「すべてを教える時間はあるのかい? 僕もそうだけど、どれか絞って鍛錬をした方がいいはずだ。その方が時間も有効に使える。特に固有魔法があるのだから、属性魔法や無属性魔法に時間はさけないよ」
「凡人とは違って才能があれば時間なんて必要ありませんから、すべての魔法適性を伸ばした方向がいいかと」

 俺が才能に溢れているせいで、どの魔法に重点を置くかを大人たちは頭を悩ませていた。

 まだ一つか二つの適性だったらそれに重点を置いて、臨機応変に他の魔法を習うとかできたはずだが、すべてに魔法適性があるとそういう問題が出てくる。

 別に鍛錬をしなくてもすべて完璧にできるのだが、それを今の段階で誰も知る由はない。

 これがすべての適性があるとかなら鍛錬できるが、俺の場合は全能だから鍛錬の必要なくすべてができてしまう。

「アーサーには魔法の鍛錬だけではなく、剣などの鍛錬もある。すべての才能を伸ばすのに時間は足りないよ」
「魔法を鍛えればそれらの鍛錬は要りませんよ。それに必要であれば私がお教えします。ですから私にアーサーさまを預けてみませんか?」
「結局それがやりたいだけだよね、どれだけアーサーのことを気に入っているんだい。アーサーをグリーテンに預けるのは論外で、ランスロット家として武器の鍛錬は外せない」
「私もかなり使えますよ? それこそ魔法剣士としてアルノさまより上かと」
「ババアみたいな年齢でそれを言っても説得力などないと思うよ」
「ふふっ、女性に年齢の話をしてはいけないと習いませんでしたか?」
「いたっ! 僕が悪かったから呪いを解いてくれ!」

 お父上様とルフェイが仲良く議論を重ねているが、俺とお母上様は蚊帳の外だった。

「アーサー?」
「なに?」
「あなたは何がしたいのぉ?」
「うーん……?」

 お母上様にそう聞かれて、どう答えるのが正解なのか悩んだ。

 どれをやってもすべてやれてしまうから、どれでもいいが……いや、すべてをやって俺の全能ぶりを見せつければいいのか。

「どれも、してみたいかな。どういうのが僕に合っているのか知りたいかも」
「そぉ? それならそうしましょうかぁ」

 今絶賛議論を重ねているお父上様とルフェイのことはいいのか?

「そういうことだからぁ、一先ずアーサーには色々なことを体験させてみましょうかぁ」
「……相変わらず、キミはマイペースだな」
「本当に、スザンヌさまには敵いませんね」

 お母上様の言葉ですべてが収まった。これはもしかしなくてもこの家を牛耳っているのがお母上様なのか!?

 いや確かにそんな感じはするよ? いつもはほんわかとしているのに、腹の奥でしっかりと考えている感じがひしひしと感じる。

「まずはぁ、魔法の鍛錬を始めましょうかぁ」

 その言葉だけで今後の方針が決まるのだから、ほわほわとしているのは相手を油断させるための罠なのは間違いない。

 ☆

 日は改まり、ルフェイがいる魔導室まで一人で来ていた。

 時間が重なればルーシー姉さんが一緒に来ようとしたが、ルーシー姉さんはお父上様と固有魔法の鍛練をしている。

 ランスロット家の固有魔法の鍛錬は同じ固有魔法を持っている者同士が一番いいのだろう。

 パスカルとの実戦では得られない経験値があるのだろう。

 ルーシー姉さんがあのルフェイの顔を見て少し、いやかなり心配していたがさすがに大丈夫だろ。二人きりだとは言え。

 もしルフェイがショタに興奮して手を出す変態なら、それはそれで興奮してしまう状況だとは心の中で思ってしまいました。

 ノックをして中からルフェイの声が聞こえてきたことで俺は中に入る。

「いらっしゃいませ、アーサーさま。さぁ、こちらへどうぞ」

 ルフェイに案内されて教壇の前にある机に座り、教壇に立つのかと思ったら俺の隣に座るルフェイ。

「今日から魔法の授業を始めます」
「うん、お願いします」
「とは言っても魔法の原理、魔法の使い方の説明が主になります」
「魔法は次から?」
「時間があれば今日教えたいところですが、今日はあまり時間が確保されていないようなので」

 もう本当にそうだよ。俺の今日の予定、というかたぶんこれからずっとこうなんだろうなぁって予定がかなりびっしりと詰まっている。

 ルフェイの魔法授業から始まり、マナー授業、一般教養授業、体を鍛える鍛錬、武器の授業が予定されている。

 今までのお父上様の甘やかしはどこへやら、シルヴィー姉さんとルーシー姉さんよりも自由な時間がなくなっている。

 これもお父上様が俺のためを思ってやってくれているんだろうが、正直言ってこれを毎日するつもりならルーシー姉さんから抗議が入るんじゃないのか? 弟と遊ぶ時間がないって。

 シルヴィー姉さんはどうだろうか。まあシルヴィー姉さんの弟で楽しむのは独特だからなぁ。

「時間は有限です。魔法の原理をご説明しますね」
「うん!」

 ルフェイは手のひらに魔法陣を出現させ、収納魔法のようで魔法陣から分厚い本を出した。

「魔法に必要な物は二つ。魔法の動力となる魔力と、魔法の式となる魔法陣の二つです。二つが合わさることで、初めて魔法は発動します」

 分厚い本を開き、魔法陣の絵を見せてくるルフェイ。この魔法陣は発火の魔法陣だ。

「魔力は昨日測定した、というよりは予測しましたね。その結果が最低値で三千。これほどの魔力があれば生きていく中で魔力が不足して困るということはないでしょう。魔力は大気中に存在している魔素から呼吸することで回復することができます」

 その魔素の吸収が多すぎて、俺の魔力がゼロになることはまずない。だが……魔素って尽きることはあるのか?

「質問があります!」
「はい、どうしましたか?」
「魔素ってなくなるの?」
「四歳でその質問とは、さすがです。魔素は無限ではありません。ですが魔素がなくなることはほぼありません。魔素は世界各地に存在している世界樹によって生成されていて、消費よりも生成の方が多いんです。むしろ年々増加しているくらいなので、魔素の心配は必要ないかと」
「へぇ……そんなものがあるんだ……」

 植物が酸素を吐き出すみたいな感じか。正確には光合成だが。

「ちなみに世界樹はアヴァロンにもありますから、興味があればぜひアヴァロンにご招待しますね!」
「すっっっごく興味ある!」

 千里眼とか瞬間移動で簡単に遠くから見たり直接見たりできるが、招待されて行った方が楽しいに決まっている。

「それならアルノさまの許可をもらい行きましょう! 約束ですよ!」
「はい、約束です!」
「あっ、世界樹の近くは魔素濃度が高いので魔素を吐き出す術を持っていないと魔素中毒になってしまいますから注意ですけど」

 でも結局俺が魔素を多く吸収していれば、ここら辺の魔素濃度が低くなるのではないのか? だけどルフェイが何も言わないということは特に何ともないのか。

「話を戻しますね。魔法に必要な物の一つが魔力。そしてどんな魔法を使うか、どう魔法を操作するかを定める式が魔法陣が二つ目になっています。魔法陣は頭の中で魔法陣を構築し、それをこういう風に展開して使います」

 そう言いながらルフェイは魔法陣を俺の前でまた作って見せた。

「これができなければどんなに魔力を持っていても魔法を使うことができません。ただ魔法陣の展開はそれほど難しくないので、アーサーさまは心配しなくても大丈夫です」
「なんで?」
「魔法陣の展開が苦手で魔法陣の展開の鍛錬に時間を回したとしても、お釣りが出るほどの魔法適性をアーサーさまは持っていますから」

 まあ、全然余裕でできるから無駄な思考ですけどね。とりあえず適当に質問していくか。

「魔法陣の展開ができないこともあるの?」
「あります。できない場合の問題がある能力は二つ、魔法陣展開力と魔法陣構築力です。魔法陣展開力が乏しい場合は構築した魔法陣を引っ張り出すことができません。魔法陣構築能力が乏しい場合はそもそも脳内で魔法陣が構築できないことになります」
「なるほど……魔法陣って、自分で展開するしかないんだよね?」
「他者の魔法陣を使えるようにするのが、魔道具になります。ただ道具に魔法陣を組み込むということは、それだけ人が行うことを道具にも要求していますから、魔道具を作り出すだけで難易度は高くなります。それに組み込めたとしても、単純な魔法陣しか組み込めません」
「へぇ……」

 確かに魔道具は作るのが難しいし、単純な魔法陣しか組み込めないのだろう。

 だが俺は違う。俺がやればどんなに複雑な魔法陣であろうと組み込めるというチートっぷりだ。

「さて、魔法陣について説明してもいいのですが、またそれは次の授業にすることにして、属性魔法や無属性魔法について一通り勉強しておきましょう」
「はい、お願いします!」

 そこからどんな魔法があるのか、どういう使い方ができるのかをルフェイから教えてもらったことで魔法の授業は終わった。

 ☆

 魔法の授業が終わり、自身の部屋に戻っていた。次はマナー授業と一般教養授業が俺の部屋で行われるから、何も用意せずに座って待っていた。

 そして時間通りに扉がノックされたことで「どうぞ」と返事をする。

「失礼します」

 入ってきたのはメイド服を着ていたいつも通りのベラだった。

「ベラが先生なの?」
「はい。僭越ながらアーサーさまにお教えする任をスザンヌさまより承りました」
「ベラはそんなこともできるんだ……」

 完璧メイドはこんなことまでできるとは、さすがベラだ。それにしてもお父上様じゃなくてお母上様なんだな。

「メイドに教えられ、ご不満はありませんか?」
「えっ、何で?」
「……いえ、今の言葉は忘れてください」

 ご不満、というよりはどうしてベラが選ばれたのかという疑問はある。だってベラはメイドなんだから他に仕事があるはずだ。それこそ教えてくれる先生を他に探してもいいだろうに。

「ご不満ではなく疑問でしたか」
「えっ、何で分かったの?」
「それはもちろんアーサーさまのメイドだからです」
「……メイドは全員分かるのか」

 なにこの、たまに見せるベラの異常な勘は。そのおかげで俺のマンガもバレた……そういうわけじゃないか。あれはただ俺がへましただけだ。

「ランスロット家のメイドになる前、平民である私はいい学園でいい成績で卒業したことで、このランスロット家の次期当主であるアーサーさまの専属メイドに就くことができました。ですからアーサーさまにお教えすることができます」
「いい学園?」
「有名な学園ですが、あまり気にしないでください」
「ふーん……」

 すっげぇ気になる。ただ有名な学園と言われて思い浮かぶのは王都にある王立聖騎士学園だな。そこで一番だったと言われても、俺は納得する。

「私についてのご質問の受付はもうしません」
「はーい」

 ベラは自分のことをあまり話さないが、俺のことをよく知っていることがどこか不公平な気がしてならない。

 でもそれは話したくないという感じがするから、深くは聞かないようにしている。いつか話してくれたら聞く、という感じだな。

「私がアーサーさまにお教えするのは、貴族としてのマナー、そして最低限の知識です。ただ、おそらくアーサーさまはすぐに終えられると思います」

 ……いや、この感じは別にバレたとかそういうのじゃない気がする。

「そうかな?」
「いつものアーサーさまを見られている人ならば、そう思うはずです。普段のアーサーさまがつい先日四歳になられたばかりだとは思えませんので」

 これも欠陥全能のせいだな……。まあそれは割り切るしかないから置いておこう。

「マナーの授業と一般教養の授業、その配分は私にゆだねられています。なのでまず一般教養から始めたいと思います。よろしいですか?」
「よろしくお願いします!」

 俺は全能であって全知ではない。だが全知を全能によって再現することは可能だ。

 世界のすべてを知らないが、世界のすべてを見ることはできるし知ることもできる。それに俺の全能は一度覚えたことを忘れないし、忘れることもできる。そこはさすが全能だ。

 ベラによって行われる授業は非常に分かりやすく、ブリテン王国の建国時から話してくれた。

 マナー授業と一般教養授業の二つ分の授業を行ったが、全く飽きることなくぶっ通しで授業を進めた。

 そのことをお母上様にバレ、ベラがほわほわと注意されていたことが印象に残った。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...