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外伝・過去(語り)

『全能の魔法使い』 第一章、第三節。

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 五人の英雄には、もちろん名がある。

『剣の英雄』ジャック・リジェル。
『弓の英雄』ドリアーヌ・カロー。
『槍の英雄』リュファス・カリエール。
『杖の英雄』マリエッタ・ロザンタール。
『衣の英雄』マドレーヌ・ジノラ。

 魔神王を倒すために生まれた五人と言われたこともあるが、それは間違いである。『全能の魔法使い』の彼がいなければ、この五人を含めて人類は何もできずに死を待つだけであった。さらに言えば、彼という圧倒的な存在がなければ人類が立ち上がることは不可能であった。

 自分たち人類は勝てると思わせなければ、五人の支援は不可能である。だから、この物語の題名は敬意を込めて『全能の魔法使い』にしたのである。これは誰の物語でもない、彼の物語。

 そんな『全能の魔法使い』と呼ぶ彼であるが、名前はおろか一切の情報を教えてくれなかった。どれだけ聞いても、彼は誤魔化すだけで教えてはくれない。粘って粘って、かろうじて教えてくれた名前は、イクリプスという名だけであった。

 彼は、非常に強く、非常に優しく、非常に厳しく、私たちを正しい方向へと導いてくれる人であった。彼の素性がどんなものかは関係ない。例え彼が過去にどれだけ極悪な人であったとしても、私たちを大切にしてくれて人類を助けてくれたのだから、帳消しにできると誰もが言うだろう。

 彼は誰一人として見捨てない、それが老兵であろうと子供であろうと女であろうと犯罪者であろうとだ。その行動に批判する者もいたが、彼のこの一言は今でも忘れられない。

『人の生は人が決めて良いものではない、己自身が決めるものだ。もちろん他者の権利を侵害することは許されないことだ。そんな者たちには罰を受けさせないといけない。だけど、人は生きているからこそ、罰を受けられる。死を持っての罰は罰ではない。ただその者から罰を受ける権利を奪っているのに過ぎない。だから、僕は全員助けて全員平等な天秤にかける。それが僕の信念だ。君たちにはこの信念があるかな?』

 この言葉を聞いて剣の英雄である私は、この剣に正義と悪の天秤を掲げた。
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