英雄は恥を晒す

yulann

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第一章 第七節

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 代表が決まり闘技大会が開催される。千クラス三万人の中から、代表の約二千人がトーナメント方式で試合を行っていく。闘技大会の敗北条件は魔法具の発動だ。それは保安制度使用時に配布される魔法具の技術を応用したもの。本来の機能はそのままに、教師の判断で発動が行えるように改良が施されていた。全力での試合を行ってもらうため。命を気にしなくて済むこの方式が取り入れられているのだ。

 マオとアーバは初戦を勝利で終える。二人は待機時間が重なったのでメルの試合を見にいくことにした。会場に着くと同時に試合が始まる。その試合は圧巻の一言だった。

「始め」

 開始の合図と共にメルは一気に魔法を展開する。

「ヘルフレイム。サンドアーム。トライデント」

 属性の違う三種の魔法が一気に襲いかかる。相手はそれを躱し、二回目の詠唱の隙を着くために攻撃に転じる。

「シールド」

 剣を弾くと同時に相手の頭上に黒い火球が現れる。その光景に相手は理解が追いついていない。メルは二回しか詠唱していない。なのに、なぜこのタイミングで魔法が発動するのか。

「遅延詠唱か」

 相手はタネを見破り咄嗟に避けようとするが足が動かない。砂でできた腕が足を掴んでいた。さらに背後で青色の雷が発生する。体が動かせない状況で二種の高位魔法が直撃する。魔法具の発動は明らかだった。

「勝者メル」

 会場が一気に歓声に包まれる。だが、メルは喜んではいなかった。少し悲しげな、そんな表情だった。

「何が起こったんだ?」

 その光景にアーバも理解が追いついてない。

「多重詠唱と遅延詠唱の掛け合わせだな。三つの魔法に遅延詠唱を重ねて詠唱したんだ。本来の魔法はすぐに発動して、重なった遅延詠唱は時間差で発動する。遅延詠唱は発動場所も事前に決めていなければいけないからとても難しいんだがな。それを普通の魔法に重ねるとは本当に驚きだ。才能の塊だ」

 背後にいた教師が説明してくれる。だが、アーバはあまり理解している様子ではなかった。

「つまり、メルは相手がどう動くのかを理解して先に魔法を詠唱してたんだよ」

「さすがメルだな。天才すぎる」

 マオの補足でやっと理解できたようだ。それも仕方がないことだ。アーバは魔法のことには一切触れず、武術のみの訓練に明け暮れてきたのだ。

「もう時間だ。僕らも試合に行かないと」

「そうだな」

 二人は次の試合に走って向かう。

 マオは二回戦に挑む。相手はルイスという剣の使い手だった。今回も余裕で勝てると思っていた。実際、あの事件後のマオに対して善戦した人はほぼいない。剣技も身体能力も群を抜いていて相手にならないのだ。だが、それは思わぬ形で覆されることになる。

「始め」

 マオはいつも通り距離を詰めて技を放つ。

「一番 シュラ」

 これで決着だ。魔法具が発動すると思っていたが、そうはならない。一瞬のうちに放たれる六連撃は全てが剣で防がれていた。

「やっぱり。僕と同じだ」

 マオは話の意図が理解できずに首を傾げる。

「僕はずっと見てきたんだ。その技を。時代と共に洗練され受け継がれてきたその技を。僕の一族にしか伝わらないその技をどうして君が知ってるのかな?」

 マオはその問いに答えられない。自分の持つアビスが予想と違っている。その事実に混乱しているのだ。

「本当に不愉快だよ。先代が極めてきたその技を君が我が物顔で使うというのは」

 ルイスはマオと同じように正面に剣を構える。

「一番 シュラ」

 マオは瞬時に距離をとって回避する。今起きた光景に驚きを隠せない。確かに自分と同じ技を使ったのだ。ますますルイスの言っていることが信憑性をましていく。

「避けてないでかかってきてよ。今までは確証が持てなかったから泳がせてたけど、今日で確証が持てたんだ。その技を二度と使いたいと思わないように指導してあげるよ」
 
 マオはひとまず考えるのをやめ、目の前のルイスに集中する。

「二番 ジゴク」

 常人なら捉えられないほどの速度で連続の突きを行う技だ。だが、それも同じ技で受け止められる。

「僕は正当なその技の後継者。君が勝つなんてことは万に一つもありえない」

「五番 ジンカン」

 マオの身体能力を最大限にいかせる高速の切り上げを放つ技だ。

「同じことだよ」

 再び技は受け止められる。だが、マオは見逃さなかった。間に合ってはいるが少しだけ反応が遅い。そこからは技の撃ち合いになった。お互いに出された技と同じ技を使い捌いていく。

「どうしてだ。僕の技の方が優れている筈なのに」

 お互いの力が均衡していることにすらルイスは怒りを感じていた。

「もう終わりだ。これで決める。六番 テン」

 瞬間的に身体能力を向上させて十六連撃をほぼ同時に放つ技だ。マオもそれを見たことがある。そして、磨いたことがある。

「六番 テンドウ」

 十六連撃を返した後に流れるように三連撃を放つ。一連の流れにルイスは体が追いつかない。マオの一撃を魔法具によって出現したシールドが弾き返した。

「そこまで」

「勝者マオ」

 見たことのない高度な戦いに生徒達は感激していた。

「なんだあの技は? あの流れるような身のこなし。誰に教わった?」

 ルイスがマオに詰めよる。

「こんな技がありながら僕に継承されていないなんて。君に教えた奴は誰だ。一族の恥さらしだ」

「だから弱いのだ。相手がしてきた努力も理解しようとせず、受け継いだ力のみに満足する。さらに先へ。さらに上へ。その意志がない人が技を受け継いだ時点でその技は死んだようなもの。先代は本当に気の毒だ」

 その言葉はマオが発したが、マオではなかった。

「なんだと」

 マオの言葉にルイスは激昂する。

「五番 ジンカン」

 その高速の一撃に教師達は間に合わない。だが、それは必要なかった。マオは技を使わずルイスの技を受け流し首に剣を突き立てる。

「戦場で敗者に命はない。これが戦場でなくてよかった」

 ルイスは駆けつけた教師に拘束される。

「少しだけ期待しているのは伝えておく。血を継ぐものだ。僕の意志が途絶えていないのを願っている」

 ルイスは連れて行かれた。


 貴方は誰なんですか?

 マオは聞いてみることにした。自分の中にいるもう一人の自分に。それが自信のアビスを解明するのに一番の近道だと思ったからだ。

(僕は何者でもない)

 それはマオの欲しい回答ではなかった。

(ただ、少しだけ見たかったのかもしれない。僕の技がどこまでいくのか)

 どういうことですか?

 その質問に返事はない。だが、マオはある程度理解できた。自分のもつアビスにどんな力があるのか。それがどれだけ異質な力かということを。
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