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「いらっしゃい領主様」
ノースアイランドを治めている領主様、ガルド・アーノルド様は毎週このカフェに通う。格好いい見た目でまだ25歳の若い黒髪の領主様は国内随一の魔術師だ。欲しいものすべてを手に入れる身分でありながら、まだ誰も彼の伴侶にならずにいるのはまだ彼のハートを射止められてないからだ。今のところはね。そんな彼が街に出来た新しいカフェに通うようになったのは日本という異界の国のカフェがここにオープンしたのが始まりだった。日本の歌舞伎町という街にあったそのカフェは本来は複数の店が入居するビルという建物の中にあった。それがほんの一年前に城下町のすぐ近くで魔法炭鉱が崩落したのがきっかけだった。炭鉱一帯が崩落して多くの領民が行方不明になった。魔法炭鉱とは魔法鉱石を発掘する施設の事で、石炭炭鉱のようなものと思ってくれればいい。魔法が結晶になって岩の中に眠るから、それを採掘して燃やしたり魔力を流して活性化させたりして、この世界の動力にする。種類によって車の動力になったり、汽車を動かしたり、発電所を稼働させたり、戦争に使ったりする。その結果、この町は国のはずれにありながら栄えている。炭鉱は24時間稼働するから、パブも飲食店も娼館もずっと営業している。だからこの町で仕事に困ることはない。月給34万シリング。日本円で40万近く。家賃も安くて、ほぼただ。元の新宿がなくなったから都に収めることもないからここの生活は楽だ。
領主様に愛されるからね。
「がルド様はこうもこの席で良いの?」
「ああ、構わない」
早乙女アキナが領主様を接待する。
青い給仕服でこの世界のような地味なものではない。元の世界ではニア様と言うホストがプロデュースするアイドルグループだった。ホストとは主に女性客を接待する職業の事で、性サービスをせず、共に酒を飲み、接待する職業の事で月の売り上げが300万シリング行く者もいる。
「領主様はいつものロゼで良いの」
「ああ」
「はーい、お願いしまーす」
アキナは顔の小さい内勤に頼む。ほどなくして酒が来た。
「昼間から飲んで何かあったの?」
アキナがグラスに氷を入れながら聞く。注がれたロゼからブドウの香りがする。
「また縁談の話しが来てな。逃げてきた」
「領主様イケメンだもんね。僕も飲んでいい?」
「ああ」
領主様は口数が少ない人だがその美貌に集る女の人は多い。
「顔が良くとも女は好きではない」
「ゲイって事?」
「この国にそんな言葉はない。単純に同性愛者と呼ばれている」
「じゃあ、僕は領主様の好みになれないかな」
「そんなことはない。が、今度男の格好をしてくれたら嬉しい」
「やっぱり女の子は好きじゃないか」
アキナは寂しそうな顔をした。そうしたら領主様はアキナの手を握った。
「俺の妻にならないか」
ガシャーン!!
ボーイがグラスを落とす音がした。
「ちょっと! 領主様! そう言うのはダメです! 言ったでしょ恋愛禁止だって」
「それはそちらの世界の法律の話しだろ? 俺の領土でそのような法律はない」
「そうですけど、そうお言う問題じゃなくって、店のルールなんです。守ってもらえないと出来んですよ!」
「ん、それは困るな」
領主様はしばらく悩んだ。
「ではアキナ、俺が運営するホストクラブに移籍しないか?」
「ダメです! 言ったでしょ! 引き抜きもダメ!」
「ここは新宿じゃないだろ!」
「だから店のルールなんですって!」
そうボーイ兼店長と領主様が言い合っているのをアキナはおかしくなって笑ってしまった。笑い方はまだ男の子みたいで可愛かった。
△
「今日は大変だったなぁ」
給仕服を着替えて男の子の格好に戻ったアキナは本名の結城アキラに戻る。
町は夜になっている。20時、新宿なら出勤しているころだけど、ここに転移してからはキャストの数も20人から50人に一気に増えて、常に満席なんて新宿に居た頃じゃありえなかった。オープン1時間してもお客さんゼロ人だった日もあるし、なんならずっと10人以下の日だってある。それがこの世界に来てから行列までできる日もある。特に昼時間がピークで、夕方から深夜にかけて混み始める。朝方は近くのスープ屋さんの方が人気で、忙しいから簡単に済ませるためだと思う。ミートボールとスープにパン屋さんで買った朝食を仕事先で食べる。男性比率が多いこの街では自炊文化はない。その癖にホストクラブが娼館よりも多いのは、世の中10人にひとりは同性愛者のように単純に男性比率が多いとそう言う傾向の人が現れやすくなる。江戸時代の男の街でも男性と浮気する人も居たし、教科書には乗らないけど男食文化が現代よりも発展していた。
大奥でも女性同士の恋愛があったように環境要因で同性愛者になる人も居る。
似たように女人禁制の昔のお寺でも、可愛い男の子なら恋愛してもいいという暗黙の了解があって、先輩僧侶から後輩僧侶に男の子を紹介する文化もあった。
新宿での男の娘文化はそれとは違うかもしれないけど、ヒントではあるかもしれない。
アキトも別に女の子になりたいわけじゃない。ただ可愛くなりたいからって結果、男の娘カフェしているだけだ。そういう願望がい世界でもあるらしく、半数はこの世界のキャストの子だけど、みんな可愛くって男の娘文化を謳歌している。
アキトはこの世界が好きだ。魔法があって北欧的な文化で、可愛いもカッコいいもたくさんあふれる世界が大好きだ。ジェンダーレス的な性格のアキトにとって住みやすい世界だ。
「ただいま」
この世界はアパートがあった。木造2階建て、合掌造りで可愛い。モラル的に2階の部屋にしているから領主様の館がよく見える。館というよりもお城だけど、ひんやりとした空気が気持ちいい。気温は3℃。でも温かい。発電所からの電気と温水で部屋は快適。暖房はその温水から取っていて、お風呂も使い放題……ってわけじゃもちろんないけど9000シリングで月々の電気代込みで使えるから経済的、家賃も6万代で全然給料の範囲内。その代わり3年に1度のタイミングで30万の税金が取られている。トータル的には日本より若干安いくらい。ただ一気に取られるのが少しきついけど全然快適に暮らせる範囲。
もちろん制約はある。
男子は満18歳以上の人は4年に1度は徴兵に参加しないといけない。頭の良い人は警察官になって、勉強よりも体力勝負の人は軍に行く。それ以上の人は国の機関に入る。任期は3年で、その後の徴兵義務は免除。徴兵もその4年以内のいずれかで行かなくちゃいけない。
『アキナも性別が男子であるなら徴兵義務があるから、参加するように』
以前領主様が言っていた。
「徴兵かぁ、なんか韓国みたいだな」
手には封蝋が破られた徴兵案内の手紙がある。何とか呼んだこの世界の言葉は読むのに苦労したけど、文法が英語に似ていたし、単語の自由度も高いから覚えちゃえば苦労しなかった。
「ええ、全然行きたくないなぁ」
徴兵以前に働きたくない。コンカフェは働くというよりもなんかサークルというか楽しいってジャンルだから、遊びってわけじゃもちろんないけど、頑張って部活している感じに近くって、それで給料もらえているから大好き。なんか労働って感じしないのがいい。
「軍って何するのかな? この中だと警察の方が良いのかな。大家さんに聞いてみよ!」
アパートの大家さんはちょうど洗濯物を干していた。
他のお手伝いさんと一緒に干している。庭の広い場所で干している。病院の屋上みたいな広さ。って入院したことのない人には伝わりづらいかな。
「徴兵がどんなんのかって? あんた男の子だったの?」
「入居する時言ったんだけど、って今も男の格好なんだけど」
「新宿の人は性別分からないんだよ。みんな化粧しているからね」
ホストが多い新宿はこの世界に来ても美形が多かった。だからこの世界でも職にありつけた。炭鉱の町だけど、炭鉱夫になる人は少なかった。ほとんどはそのまま水商売をしている。
「あんたは軍には向いていないよ。そうね、試験に受かったら警察か国の役所かな。あんた大学は?」
「高卒だから行ってない」
「じゃあ、試験に受かったら警察だろうね」
「なれるの?」
「警察ってのは広く人材募集しているんだよ。今3月に中途募集しているから勉強してみな」
「試験って何出るの?」
「うっとね、数学と歴史だったかな。あと学生時代何をしたかっていう作文とそれに合格して面接って流れ」
「数学は良いけど、歴史が………」
「難しそうかい? 別に今年じゃなくっても良いんだよ。手紙来た4年以内に入ればいいし。試験堕ちたら問答無用で軍だけどね」
「うっ……嫌すぎる」
△
「うう、めっちゃヤダ働きたくない」
「コンカフェ嬢が何言ってんの。ばりばり稼いでるくせに」
同じキャストの有栖川悠ことアリスが言う。
此処はアパートの食堂。本当に至れり尽くせりの世界だ。
「だってコンカフェは楽しいけど、懲役はなんか違うじゃん。強制されて働くのってなんか違う気がする」
「まぁね。僕も働きたい仕事が一番だとは思うよ」
「アリスは懲役どうするの?」
「どうって、拒否することできないんでしょ?」
「そうじゃなくて! 警察に行くか、軍に行くかってこと!」
「もちろん警察」
「やっぱりね、僕も警察にしようかな」
「でも歴史だよね。この世界の歴史って全然知らないし、1年くらい本気で勉強しないとこの世界の人と張り合えないかも」
「やだなぁ、勉強したくない。勉強しなくていいようにコンカフェやってるのに」
「いや、コンカフェ舐めすぎ。でも警察やれるなんて、結構いい経験じゃない?」
「そうかな」
「一緒に本気で受けてみない?」
「うーん、まぁ、やるしかないなら、そうだね」
気乗りはしないけど、軍に行くよりはずっとましだと思った。
その日は夜の街に繰り出した。
ランプが通りに飾られて賑やかな雰囲気の中多くの店が24時間営業をしている。個人店は夫婦交代で、それでも昼過ぎは一度休憩して16時からまた営業再開する。ずっと動き続けるこの街で仕事に困ることは絶対にない。年収400万シリング。炭鉱夫は600万シリング。国家公務員は500万シリング。庶民が就ける仕事で炭鉱夫が一番儲かる。コンカフェでこの額はなかなか出せない。ちなみに11万の給料保障と手当で18万プラス指名料1000円プラスお酒でアキナは30万の給料だ。まぁまぁというのか、もう少しというのか、意外と儲けてない方だった。ちなみにアリスは50万。
この分でめっちゃ稼げてるって思うかもしれないが、その分努力している。毎日、店に立ってお客さんも呼んで、限られた時間の中で精一杯楽しませて満足してもらっている。
良いお客さんだけじゃない。急に不機嫌になる人も居るし、理由のない罵倒されることもある。メンタル病んで当欠する子も多い中で毎日店に立つことのどれ程メンタルが病むか分かってない人が多い。
キャバクラもコンカフェもホストもずっとみんな辛い思いしながら働いている。
じゃあ、なんで辞めないのって? 夢がみんなあるから、役者になりたい、アイドルになりたい、他にもいろいろ、接客が好きで自分を商品にしたらどこまで売れるか試したい。過去から決別して新しい自分になりたい。水商売を始める理由は色々だけど、みんなそれぞれ目標がある。
アキナもアイドルになるために入った。けど本気で目指していたかはもうわからない。元々やりたいことのないままニートからコンカフェしている。18から20歳までニートしていてSNSで社不でもニートでもコミ症でも働きたいってキャッチフレーズで応募して「可愛いから採用」ってなった。もちろん色々ちゃんと聞かれたんだけどね。
高校じゃこれでも部活していたし、中学までは合奏していた。高校じゃやらなかったのかって聞かれたけど、ずっと同じ部活でもいいけどダンス部も入ってみたかったし、自分の中でジャンルがそれほど変わらないって印象だった。音楽がPOPになっただけで音楽には変わりないし、ダンスも好きだし全然自分の中でぶれていなかった。他の人にはそう見えないこともあるけど、それって視野が狭いだけだと思う。別にいいけど、僕にそれを押し付けないで欲しい。
店長は真面目な人だけど、そう言う価値観の尊重をしてくれる人だった。
「うん、いいね。自分の中で筋が通ているのは大事だ。採用」
こんな感じだった。もちろん最初は試験期間を兼ねた体験入店で1週間。そのあとは同意確認で入店って流れになった。入店の時は一度だけオーナーホストのニアさんが来てくれたけど、その一度だけだった。人事権は店長に一任されていてニアさんはグループの運営に専念していた。
この世界にニアさんが来ているのか知らないけど憧れていたし、一度でもニアさんの店に行きたかった。
それが心残りだった。
ノースアイランドを治めている領主様、ガルド・アーノルド様は毎週このカフェに通う。格好いい見た目でまだ25歳の若い黒髪の領主様は国内随一の魔術師だ。欲しいものすべてを手に入れる身分でありながら、まだ誰も彼の伴侶にならずにいるのはまだ彼のハートを射止められてないからだ。今のところはね。そんな彼が街に出来た新しいカフェに通うようになったのは日本という異界の国のカフェがここにオープンしたのが始まりだった。日本の歌舞伎町という街にあったそのカフェは本来は複数の店が入居するビルという建物の中にあった。それがほんの一年前に城下町のすぐ近くで魔法炭鉱が崩落したのがきっかけだった。炭鉱一帯が崩落して多くの領民が行方不明になった。魔法炭鉱とは魔法鉱石を発掘する施設の事で、石炭炭鉱のようなものと思ってくれればいい。魔法が結晶になって岩の中に眠るから、それを採掘して燃やしたり魔力を流して活性化させたりして、この世界の動力にする。種類によって車の動力になったり、汽車を動かしたり、発電所を稼働させたり、戦争に使ったりする。その結果、この町は国のはずれにありながら栄えている。炭鉱は24時間稼働するから、パブも飲食店も娼館もずっと営業している。だからこの町で仕事に困ることはない。月給34万シリング。日本円で40万近く。家賃も安くて、ほぼただ。元の新宿がなくなったから都に収めることもないからここの生活は楽だ。
領主様に愛されるからね。
「がルド様はこうもこの席で良いの?」
「ああ、構わない」
早乙女アキナが領主様を接待する。
青い給仕服でこの世界のような地味なものではない。元の世界ではニア様と言うホストがプロデュースするアイドルグループだった。ホストとは主に女性客を接待する職業の事で、性サービスをせず、共に酒を飲み、接待する職業の事で月の売り上げが300万シリング行く者もいる。
「領主様はいつものロゼで良いの」
「ああ」
「はーい、お願いしまーす」
アキナは顔の小さい内勤に頼む。ほどなくして酒が来た。
「昼間から飲んで何かあったの?」
アキナがグラスに氷を入れながら聞く。注がれたロゼからブドウの香りがする。
「また縁談の話しが来てな。逃げてきた」
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「ああ」
領主様は口数が少ない人だがその美貌に集る女の人は多い。
「顔が良くとも女は好きではない」
「ゲイって事?」
「この国にそんな言葉はない。単純に同性愛者と呼ばれている」
「じゃあ、僕は領主様の好みになれないかな」
「そんなことはない。が、今度男の格好をしてくれたら嬉しい」
「やっぱり女の子は好きじゃないか」
アキナは寂しそうな顔をした。そうしたら領主様はアキナの手を握った。
「俺の妻にならないか」
ガシャーン!!
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「ちょっと! 領主様! そう言うのはダメです! 言ったでしょ恋愛禁止だって」
「それはそちらの世界の法律の話しだろ? 俺の領土でそのような法律はない」
「そうですけど、そうお言う問題じゃなくって、店のルールなんです。守ってもらえないと出来んですよ!」
「ん、それは困るな」
領主様はしばらく悩んだ。
「ではアキナ、俺が運営するホストクラブに移籍しないか?」
「ダメです! 言ったでしょ! 引き抜きもダメ!」
「ここは新宿じゃないだろ!」
「だから店のルールなんですって!」
そうボーイ兼店長と領主様が言い合っているのをアキナはおかしくなって笑ってしまった。笑い方はまだ男の子みたいで可愛かった。
△
「今日は大変だったなぁ」
給仕服を着替えて男の子の格好に戻ったアキナは本名の結城アキラに戻る。
町は夜になっている。20時、新宿なら出勤しているころだけど、ここに転移してからはキャストの数も20人から50人に一気に増えて、常に満席なんて新宿に居た頃じゃありえなかった。オープン1時間してもお客さんゼロ人だった日もあるし、なんならずっと10人以下の日だってある。それがこの世界に来てから行列までできる日もある。特に昼時間がピークで、夕方から深夜にかけて混み始める。朝方は近くのスープ屋さんの方が人気で、忙しいから簡単に済ませるためだと思う。ミートボールとスープにパン屋さんで買った朝食を仕事先で食べる。男性比率が多いこの街では自炊文化はない。その癖にホストクラブが娼館よりも多いのは、世の中10人にひとりは同性愛者のように単純に男性比率が多いとそう言う傾向の人が現れやすくなる。江戸時代の男の街でも男性と浮気する人も居たし、教科書には乗らないけど男食文化が現代よりも発展していた。
大奥でも女性同士の恋愛があったように環境要因で同性愛者になる人も居る。
似たように女人禁制の昔のお寺でも、可愛い男の子なら恋愛してもいいという暗黙の了解があって、先輩僧侶から後輩僧侶に男の子を紹介する文化もあった。
新宿での男の娘文化はそれとは違うかもしれないけど、ヒントではあるかもしれない。
アキトも別に女の子になりたいわけじゃない。ただ可愛くなりたいからって結果、男の娘カフェしているだけだ。そういう願望がい世界でもあるらしく、半数はこの世界のキャストの子だけど、みんな可愛くって男の娘文化を謳歌している。
アキトはこの世界が好きだ。魔法があって北欧的な文化で、可愛いもカッコいいもたくさんあふれる世界が大好きだ。ジェンダーレス的な性格のアキトにとって住みやすい世界だ。
「ただいま」
この世界はアパートがあった。木造2階建て、合掌造りで可愛い。モラル的に2階の部屋にしているから領主様の館がよく見える。館というよりもお城だけど、ひんやりとした空気が気持ちいい。気温は3℃。でも温かい。発電所からの電気と温水で部屋は快適。暖房はその温水から取っていて、お風呂も使い放題……ってわけじゃもちろんないけど9000シリングで月々の電気代込みで使えるから経済的、家賃も6万代で全然給料の範囲内。その代わり3年に1度のタイミングで30万の税金が取られている。トータル的には日本より若干安いくらい。ただ一気に取られるのが少しきついけど全然快適に暮らせる範囲。
もちろん制約はある。
男子は満18歳以上の人は4年に1度は徴兵に参加しないといけない。頭の良い人は警察官になって、勉強よりも体力勝負の人は軍に行く。それ以上の人は国の機関に入る。任期は3年で、その後の徴兵義務は免除。徴兵もその4年以内のいずれかで行かなくちゃいけない。
『アキナも性別が男子であるなら徴兵義務があるから、参加するように』
以前領主様が言っていた。
「徴兵かぁ、なんか韓国みたいだな」
手には封蝋が破られた徴兵案内の手紙がある。何とか呼んだこの世界の言葉は読むのに苦労したけど、文法が英語に似ていたし、単語の自由度も高いから覚えちゃえば苦労しなかった。
「ええ、全然行きたくないなぁ」
徴兵以前に働きたくない。コンカフェは働くというよりもなんかサークルというか楽しいってジャンルだから、遊びってわけじゃもちろんないけど、頑張って部活している感じに近くって、それで給料もらえているから大好き。なんか労働って感じしないのがいい。
「軍って何するのかな? この中だと警察の方が良いのかな。大家さんに聞いてみよ!」
アパートの大家さんはちょうど洗濯物を干していた。
他のお手伝いさんと一緒に干している。庭の広い場所で干している。病院の屋上みたいな広さ。って入院したことのない人には伝わりづらいかな。
「徴兵がどんなんのかって? あんた男の子だったの?」
「入居する時言ったんだけど、って今も男の格好なんだけど」
「新宿の人は性別分からないんだよ。みんな化粧しているからね」
ホストが多い新宿はこの世界に来ても美形が多かった。だからこの世界でも職にありつけた。炭鉱の町だけど、炭鉱夫になる人は少なかった。ほとんどはそのまま水商売をしている。
「あんたは軍には向いていないよ。そうね、試験に受かったら警察か国の役所かな。あんた大学は?」
「高卒だから行ってない」
「じゃあ、試験に受かったら警察だろうね」
「なれるの?」
「警察ってのは広く人材募集しているんだよ。今3月に中途募集しているから勉強してみな」
「試験って何出るの?」
「うっとね、数学と歴史だったかな。あと学生時代何をしたかっていう作文とそれに合格して面接って流れ」
「数学は良いけど、歴史が………」
「難しそうかい? 別に今年じゃなくっても良いんだよ。手紙来た4年以内に入ればいいし。試験堕ちたら問答無用で軍だけどね」
「うっ……嫌すぎる」
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「うう、めっちゃヤダ働きたくない」
「コンカフェ嬢が何言ってんの。ばりばり稼いでるくせに」
同じキャストの有栖川悠ことアリスが言う。
此処はアパートの食堂。本当に至れり尽くせりの世界だ。
「だってコンカフェは楽しいけど、懲役はなんか違うじゃん。強制されて働くのってなんか違う気がする」
「まぁね。僕も働きたい仕事が一番だとは思うよ」
「アリスは懲役どうするの?」
「どうって、拒否することできないんでしょ?」
「そうじゃなくて! 警察に行くか、軍に行くかってこと!」
「もちろん警察」
「やっぱりね、僕も警察にしようかな」
「でも歴史だよね。この世界の歴史って全然知らないし、1年くらい本気で勉強しないとこの世界の人と張り合えないかも」
「やだなぁ、勉強したくない。勉強しなくていいようにコンカフェやってるのに」
「いや、コンカフェ舐めすぎ。でも警察やれるなんて、結構いい経験じゃない?」
「そうかな」
「一緒に本気で受けてみない?」
「うーん、まぁ、やるしかないなら、そうだね」
気乗りはしないけど、軍に行くよりはずっとましだと思った。
その日は夜の街に繰り出した。
ランプが通りに飾られて賑やかな雰囲気の中多くの店が24時間営業をしている。個人店は夫婦交代で、それでも昼過ぎは一度休憩して16時からまた営業再開する。ずっと動き続けるこの街で仕事に困ることは絶対にない。年収400万シリング。炭鉱夫は600万シリング。国家公務員は500万シリング。庶民が就ける仕事で炭鉱夫が一番儲かる。コンカフェでこの額はなかなか出せない。ちなみに11万の給料保障と手当で18万プラス指名料1000円プラスお酒でアキナは30万の給料だ。まぁまぁというのか、もう少しというのか、意外と儲けてない方だった。ちなみにアリスは50万。
この分でめっちゃ稼げてるって思うかもしれないが、その分努力している。毎日、店に立ってお客さんも呼んで、限られた時間の中で精一杯楽しませて満足してもらっている。
良いお客さんだけじゃない。急に不機嫌になる人も居るし、理由のない罵倒されることもある。メンタル病んで当欠する子も多い中で毎日店に立つことのどれ程メンタルが病むか分かってない人が多い。
キャバクラもコンカフェもホストもずっとみんな辛い思いしながら働いている。
じゃあ、なんで辞めないのって? 夢がみんなあるから、役者になりたい、アイドルになりたい、他にもいろいろ、接客が好きで自分を商品にしたらどこまで売れるか試したい。過去から決別して新しい自分になりたい。水商売を始める理由は色々だけど、みんなそれぞれ目標がある。
アキナもアイドルになるために入った。けど本気で目指していたかはもうわからない。元々やりたいことのないままニートからコンカフェしている。18から20歳までニートしていてSNSで社不でもニートでもコミ症でも働きたいってキャッチフレーズで応募して「可愛いから採用」ってなった。もちろん色々ちゃんと聞かれたんだけどね。
高校じゃこれでも部活していたし、中学までは合奏していた。高校じゃやらなかったのかって聞かれたけど、ずっと同じ部活でもいいけどダンス部も入ってみたかったし、自分の中でジャンルがそれほど変わらないって印象だった。音楽がPOPになっただけで音楽には変わりないし、ダンスも好きだし全然自分の中でぶれていなかった。他の人にはそう見えないこともあるけど、それって視野が狭いだけだと思う。別にいいけど、僕にそれを押し付けないで欲しい。
店長は真面目な人だけど、そう言う価値観の尊重をしてくれる人だった。
「うん、いいね。自分の中で筋が通ているのは大事だ。採用」
こんな感じだった。もちろん最初は試験期間を兼ねた体験入店で1週間。そのあとは同意確認で入店って流れになった。入店の時は一度だけオーナーホストのニアさんが来てくれたけど、その一度だけだった。人事権は店長に一任されていてニアさんはグループの運営に専念していた。
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