姫系アイドルアイドル男子と砂糖系男子が恋する話し

なよ。

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第一章

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 「アリス。今のテンポ少しずれていたから気を付けてね」
 リーダーの奏からそう言われてアリスは気を引き締めた。アリスはこのグループの主役級だが実力では奏の方が圧倒的に上だ。奏は王子様のようなルックスで黄色い髪をしていて、実質的なリーダーをしている。でも、このグループにはまだリーダー的なポジションはない。事務所の方針なのか他がどうなのか分からないけど、リーダー不在だが問題なくこなせているのは奏の存在が大きい。
 「わかった奏」
 アリスは鏡を見て確認する。
 「じゃあ、もう一度いくね」


 三カ月前―――。
 「じゃあ、48番さん」
 オーディションで名前は呼ばれない。番号で呼ばれてはじめて名前を名乗って特技と自己紹介をする。アリスは歌が好きだと答えると「じゃあ、何か歌ってもらえますか?」と言われて”内緒のキス”の『ラブレター』を歌った。手応えは正直感じなかった。でも最終選考の通知が来たとき、涙が出るほど嬉しかった。それと同時にここに受かったらユウトの後輩になるのかと、その事実の方が受かるよりも緊張した。


 「お母さん、この承諾書にサイン欲しいんだけど」
 「なにこれ?」
 お母さんに見せたのは未成年者が芸能事務所に所属することへの保護者の承諾書だ。そこには午後10時以降の未成年者の労働をしない旨と個人情報の保護を事務所が責任を持ち保管する旨と退所時にはその情報を速やかに破棄する旨、そして性的消費に未成年者を使役しない旨が書かれている。
 「なにこれ、お母さん何も知らないんだけど」
 「えっと、事務所に応募してて、それで受かって……」
 「いつ受けたの?」
 「先月の初めくらい……」
 「東京に行くって言った日ね。そうだったの……」
 お母さんはしばらく悩んで「いいわ、頑張りなさい」とサインとハンコを押してくれた。


 汗まみれのレッスンのあと午後三時には終わって帰ろうとしたら同じ埼京線に奏が乗ってきた。
 「お疲れ」
 そう言って奏はアリスの背中を叩く。
 「うん、お疲れ様」
 「アリスもこの電車なんだ。うちどこ?」
 「大宮」
 「僕も」
 「まじで!?」
 「でも実家は千葉の房総なんだけどね。東京に通うなら房総より大宮の方が近いし」
 「僕は福島」
 「え、広島の隣だっけ?」
 「それ山口。東北だよ」
 よく関東の仲間だとか間違われたり、いろいろ位置が混同されている県だけど原子力事故以降ようやく東北という認識になったけど、たまに関東とかと混同される。今日みたいに広島の位置と間違われるのは珍しいけど。あの辺は中国地方だったかな。だいぶ南に行くと地域的になじみが無くなるし、たぶん行かないと思うからほとんど興味がなかった。
 「埼京線って痴漢多いから気を付けてね」
 「うん、奏もね」
 普段は衣装を着ていないから男子の格好だけど女顔の奏は痴漢の危険がアリスよりありそうだと思った。
 「声出してると男の声だから大丈夫かな」
 「アリスはハスキーだから危険だよ」
 「奏もだよ」
 「僕、声低いよ」
 「そんなことないよ」

 “まもなく北与野、北与野。お出口は左側です”

 もうすぐ着く頃になった。
 大宮に着くと地下ホームに降りた。
 「家どの辺?」
 「東口」
 「じゃあ、途中まで行ってもいい」
 「うん」
 途中、スタバでお茶しながら奏と話していた。でも、同じアパートだとは思わなかった。しかも205と206で隣同士。なんかアニメみたいだねって笑っちゃった。
 八畳ワンルームの狭い部屋。売り出したばかりのアイドルなんてこのレベルで給料なんて一万円以下でほとんどバイトだ。うちの事務所は衣装代とレッスン代はタダだから待遇は良い方だけど、ほかの事務所は衣装代とレッスン代は給料から天引きの方が多いから、手取りなんて居酒屋バイトより少ない。ていうか時給では圧倒的に居酒屋バイトの方が絶対良い。
 「バイト何個掛け持ちしてる?」
 「うち3つ。コンカフェキャスしてたから、それと居酒屋とパチンコ。アリスは?」
 「コンビニ2つだけ」
 「夜勤できないからきついよねー」
 「うん」
 「うちのカフェ、歌舞伎町にあるんだけど、今キャストひとり休んでて、アリスやってみない?」
 「え、どういうコンセプト?」
 「女装なんだけど、アリスも姫系だしやってみない?」
 「うーん、やってみようかな……」
 「やった! 店長に電話するね」
 ニートしていた頃だったらこんなことすぐには決めないけどアイドルしてから度胸が着いたのか、コンカフェキャストする事になった。
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