S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
130 / 369
第12章   Goodbye, and

しおりを挟む
 「あ、そうだ……」

 短い握手の後、ゆっくりと手を解いた潤一は、俺の頭からキャップを取り上げると、それを自分の頭に被せた。

 「いつか智樹がビッグになった時、プレミア付くかも知んないから、記念に貰っとくね?」


 ついでにサインでも貰っとくか……、なんておどけながら……


 「ば、ばかか……、ンなもんに価値なんて出ねぇよ……」

 大体からして、N’sカンパニーに行ったからって、俺がビッグになれるって決まったわけじゃないし、そもそもダンサーとしてデビュー出来る保証だってどこにもありはしない。
 ダンサーを夢見る奴なんて、星の数ほどいるし、なんなら俺よりもうんと見栄えも良くて、凄いテクニックを持った奴だって、五万といるんだから。

 「じゃあ……、俺行くね?」

 キャップを目深に被った潤一が俺に背を向ける。その背中が小刻みに震えてるのが分かって、俺はそこに手を伸ばすけど、結局指の先すらも触れられず……

 遠ざかって行く背中に、虚しく宙をさまよった右手は、パタリと力なく膝の上に落ちた。


 ちゃんと言わなきゃいけないのに……
 俺の気持ち、ちゃんと伝えなきゃいけないのに……

 このままじゃダメだ……


 「潤一! 俺さ……、俺……」

 滅多に上げることのない大きな声に、ペダルを漕いでいた潤一の足が数メートル先でピタリと止まる。

 「俺、待ってるから……。いつか同じステージに立てるのを……、ずっと待ってるから……」


 それがずっとずっと先の未来だって構わない、潤一とまた踊れるなら……


 「だからダンス辞めんなよな……」

 どんなに素晴らしいテクニックを持ったダンサーよりも、どんなに有名なダンサーよりも、俺が一緒に踊りたいって思えるのは、潤一……、お前だけだから……


 潤一、お前は俺が認めた唯一のダンサーなんだから……

 だから、夢……、諦めんな。


 伝えたい言葉が涙になって溢れ出し、俺は拭っても拭っても溢れて来る涙をどうすることも出来ず、静かに振り返った潤一に背中を向けた。


 傷付けたのは俺なのに……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...