326 / 369
第26章 Missing heart
4
しおりを挟む
松下に会ったら、聞きたいことが山ほどあった。なのにいざとなると、どうしてこうも言葉が出てこないのか……
それどころか、本人目の前にした途端、頭ん中が真っ白になっちまうなんて、マジで情けねぇ……
自分の不甲斐なさに溜息を落としたその時、「一つ聞いてもいいか?」と松下の方から切り出した。
「あ、ああ、どう……ぞ」
「どうして智樹を捨てた」
「は、はあ?」
俺が?
この俺が智樹を……捨てたって?
「ちょっと待て、俺がいつ智樹を捨てたって?」
未だに諦めきれずに藻掻いってるってのに?
もし仮に俺達の間に捨てたって事実があるのなら、それは俺じゃねぇ、智樹の方だ。
智樹が俺を捨てたんだ。
尤も、俺はそんな風に思ったこともねぇけど……
「どっちにしても同じことだ。アンタが智樹を追い詰めて、それで……」
「だからちょっと待てって。俺は智樹を捨てたつもりもねぇし、追い詰めたつもりもねぇ。ただ……」
「ただ、何だ」
ただ、あまりにも残酷な現実を受け入れ切れず、苦しみ、葛藤する智樹を、俺は支えるどころか、一番酷いやり方で傷付けた。
もしそれが松下の言う追い詰めたってことなら、多分そうなのかもしれない。
でも俺は智樹を、あの真っ暗な闇の中から救い出してやりたかった。
以前のように、例え口数が少なくたっていい、ただ踊ることだけにひたすら情熱を注ぐ、そんな智樹に戻って欲しかった。
なのに俺は……
「と、兎に角、俺は智樹を捨てちゃいないし、諦めてもいない。それに、こう言っちゃなんだが、最初に智樹を捨てたのは、寧ろお前の方なんじゃねぇの?」
「それは……」
一瞬、松下の顔が引き攣り、動揺を隠せなくなった視線が宙をさまよった。
ずっと疑問だった。
わざわざ男娼にまでして手元に置く程智樹を想っていた松下が、どうして死んだと偽ってまで智樹の前から姿を消したのか……
それがずっと胸の奥に引っかかっていた。
「智樹はお前の死は自分のせいだと思い込んで、一時は自殺まで考えていたんだ」
「嘘だ、智樹はそんなこと一言も……」
「傍にいた俺が言うんだ、嘘じゃねぇ」
事実、出会った頃の智樹は、常に死と隣り合わせの状態にあった。
夜な夜な松下の名を呼びながら、詫びて涙を流す姿を、俺は何度も見て来たんだ。
それどころか、本人目の前にした途端、頭ん中が真っ白になっちまうなんて、マジで情けねぇ……
自分の不甲斐なさに溜息を落としたその時、「一つ聞いてもいいか?」と松下の方から切り出した。
「あ、ああ、どう……ぞ」
「どうして智樹を捨てた」
「は、はあ?」
俺が?
この俺が智樹を……捨てたって?
「ちょっと待て、俺がいつ智樹を捨てたって?」
未だに諦めきれずに藻掻いってるってのに?
もし仮に俺達の間に捨てたって事実があるのなら、それは俺じゃねぇ、智樹の方だ。
智樹が俺を捨てたんだ。
尤も、俺はそんな風に思ったこともねぇけど……
「どっちにしても同じことだ。アンタが智樹を追い詰めて、それで……」
「だからちょっと待てって。俺は智樹を捨てたつもりもねぇし、追い詰めたつもりもねぇ。ただ……」
「ただ、何だ」
ただ、あまりにも残酷な現実を受け入れ切れず、苦しみ、葛藤する智樹を、俺は支えるどころか、一番酷いやり方で傷付けた。
もしそれが松下の言う追い詰めたってことなら、多分そうなのかもしれない。
でも俺は智樹を、あの真っ暗な闇の中から救い出してやりたかった。
以前のように、例え口数が少なくたっていい、ただ踊ることだけにひたすら情熱を注ぐ、そんな智樹に戻って欲しかった。
なのに俺は……
「と、兎に角、俺は智樹を捨てちゃいないし、諦めてもいない。それに、こう言っちゃなんだが、最初に智樹を捨てたのは、寧ろお前の方なんじゃねぇの?」
「それは……」
一瞬、松下の顔が引き攣り、動揺を隠せなくなった視線が宙をさまよった。
ずっと疑問だった。
わざわざ男娼にまでして手元に置く程智樹を想っていた松下が、どうして死んだと偽ってまで智樹の前から姿を消したのか……
それがずっと胸の奥に引っかかっていた。
「智樹はお前の死は自分のせいだと思い込んで、一時は自殺まで考えていたんだ」
「嘘だ、智樹はそんなこと一言も……」
「傍にいた俺が言うんだ、嘘じゃねぇ」
事実、出会った頃の智樹は、常に死と隣り合わせの状態にあった。
夜な夜な松下の名を呼びながら、詫びて涙を流す姿を、俺は何度も見て来たんだ。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる